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ダイバーシティ評価基準の実態と課題

アメリカでのダイバーシティの歴史を振り返ると、アファーマティブ・アクション、ダイバーシティの価値認識・受容、そして“多様な人材を生かす戦略”ダイバーシティ・マネジメントの3段階を経て発展してきている。大企業では、ダイバーシティ評価基準を企業利益に直結させて経営戦略として取り組んでいる半面、新公民権法が成立されてから40年以上たつ現在でもダイバーシティ評価基準については課題が残る。

Time誌(5月7日付)に“The Diversity Delusion” (ダイバーシティ妄想)という表題で、「経営者レベルのマイノリティ(女性、黒人)を増やすという観点からはダイバーシティ訓練の効果はゼロである」という記事が掲載された。これは2006年8月、社会学者、Alexandra Kalev(カリフォルニア大学バークレー)、Frank Dobbin(ハーバード大学)、Erin Kelly(ミネソタ大学)の3氏が発表した研究結果を引用したのもので、「ダイバーシティ訓練は、白人男性にとっては逆差別と映り逆効果になる」とも書かれている。この研究は、ダイバーシティ・プログラムを実践している708社を対象にEEO-1レポート(*1)、企業調査、人事インタビューから集めた 1970年〜2002年のデータを分析したものである。Dobbin氏は「ダイバーシティ専任スタッフ、委員会に対しアファーマティブ・アクションに基づいた数値目標と管理責任を明確にした会社は、前年に比べてマイノリティの人数が10%上昇したという結果が出ているが、コストをかけて訓練してもその成果はないに等しい」と述べている。

アメリカでは、1987年に発表された“労働力2000年白書”(Hudson Institute)による人口統計学の予測結果が、ダイバーシティを本来のコンプライアンスに応えるリスク回避から企業にとってプラス要因としての取り組みに変えるきっかけになったといわれている。1990年代に入り企業戦略の定義が一般的になったことを考慮すると、1970年からのデータを概括した分析からダイバーシティ訓練は評価ゼロという結論は出し難い。

DiversityInc誌は、このリサーチに関して“すべてを信じてはいけない研究結果”と題して2006年11月号で取り上げている。 DiversityInc誌は、毎年「Diversity Top 50」(*2)を選定しているダイバーシティ専門雑誌である。主な理由として、①経営者レベルの数値をジェンダーと人種のみから分析した結果でアファーマティブ・アクションとダイバーシティ・マネジメントの違いを考慮に入れていない ②訓練の80%がコンプライアンスを目的とした受け身態勢のもので、企業戦略・人材育成としての内容ではない ③708社の多くが中小企業である——ことをあげている。

ちなみに、DiversityInc誌のトップ50社(2006年)の60%はダイバーシティ訓練を従業員全員に義務付けている。80%は測定できるゴールを設定し成果をモニター、76%はフォローアップ訓練を行っている。プログラムの内容は企業戦略事例、リーダーシップも含む。

Dobbin氏は「人事部が訓練をしても、多くの従業員はアファーマティブ・アクションとダイバーシティ・マネジメントの違いを理解してない」とも述べている。この点についてはDiversityInc誌も反論しているが、訓練の問題ではなく、経営者から“ダイバーシティ経営の目的”の伝達が従業員に対して不十分だからである。

ダイバーシティ・マネジメントは、経営トップが何のためにダイバーシティに取り組むのかを明示し、コミュニケーションを通して従業員一人ひとりをダイバーシティへの取り組みに巻き込んでいくことが重要である。訓練の効果を上げるには、経営者、人事、従業員の間でのコミュニケーションを強化することが先決である。

このリサーチで注目したい点は、708社の多くが中小企業ということだ。訓練にかける時間とコストからみて、コンプライアンスを目的とした内容ということも理解できる。規模にもよるが、大企業と違って経営トップのコミットがあればダイバーシティ・マネジメントを実践できるが、評価基準をいかに経営的リターンに結び付けるかについては課題が残る。今後、日本でもダイバーシティを促進していく上で、中小企業を対象とする評価基準を視野に入れて考えていくことも必要ではないかと思う。

(参考)

*1
従業員100人以上を有する雇用主と50人以上を有する連邦政府請負業者が、従業員の人種やジェンダーを含む従業員記録に関し毎年、雇用機会均等委員会に提出が義務付けられているレポート。
*2
従業員1,000人以上で、DiversityInc誌の企業調査を申請した会社から上位50社が選考される。4カテゴリー(①CEO Commitment ②Human Capital ③Corporate Communications ④Supplier Diversity)から評価される。
写真 建部博子
建部 博子 (たてべ ひろこ)
NPO GOLD 代表理事
東京生まれ。ロサンゼルス在住。カリフォルニア第一銀行取締役兼副頭取、カリフォルニア銀行協会理事などを経て、2006年ロサンゼルスにNPO GOLDを創設、代表理事に就任。
NPO GOLD(Global Organization for Leadership & Diversity)
「経歴にかかわらず個人の才能を尊重、活用する企業と市民のコミュニティーを創造すること」をビジョンに、「日米の架け橋」として21世紀にふさわしい女性リーダーを育成するための活動を行っている。
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