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CSRとソーシャル・キャピタルの好循環

ソーシャル・キャピタルの意義

ソーシャル・キャピタル(以下SC)は、人と人や組織、地域との間の信頼や規範、ネットワークといった、協力関係を促進する「関係性」に注目した概念である。この概念が注目されているのは、自己実現や健康、幸福感の向上などの個人的成果から、生産性向上やイノベーションなどの組織的成果、さらには経済成長、地域ガバナンス、民主主義や市民社会の発展などの経済・社会的成果にまで、さまざまな意義があると考えられているからだ。今年の国民生活白書は、家族や地域、職場における「つながり」の希薄化や格差を指摘しているが(*1)、 企業には、ワーク・ライフ・バランスへの配慮や本業を通したCSRへの取り組みにより、こうしたつながり、すなわちSCを創出・再構築する役割がある。と同時に企業にとってもSCは有用性がある。

企業にとってのSCの成果

豊かなSCの存在は、企業にとってさまざまな便益につながる。相互理解や共通の価値観に基づく規範や信頼が社内に醸成されていれば、コミュニケーションや協力が生まれやすく、従業員の仕事に対する意欲や満足度も高い。SCを通して社内外におけるさまざまな資源にアクセスし活用することにより、知識や技術、イノベーションが促進され、それが生産性や競争力、企業価値の向上にも寄与する。戦略的連携や契約交渉においても、相手に関する情報収集などの取引費用が少なくてすみ、ビジネスチャンスも広げやすい。さらに、社会との関係づくりや本業を通したCSRにも取り組みやすくなる。

SCへの投資

では、企業は実際にどのようにSCを構築し活用していけばよいのか。CSRの取り組みやPDCサイクルにSCの視点を取り入れることが第一歩である。そのためにも、まずは社内外のSCの質や量、形態を計測し、その形成プロセスをたどって「みえる化」してはどうか。例えば、社内における従業員同士の絆を深める結束型SC、オープンで水平的な、異質なものをつなげる橋渡型SC、資源や権力へのアクセスといった連結型SCの配分はどうなっているかを計測することで、この三形態のバランスを最適化する戦略をとることが可能となる。また、SCを重視することを明言するとともに、つながりをはぐくむための場や時間を提供し、しくみをつくることも重要である。

さまざまなステークホルダーと対話し、信頼関係を築きながら連携して課題解決に取り組むことも望まれる。NPOは、市民の自発的参加や連帯に基づくという点で、SCを創出する重要な主体である。企業とNPOは、お互いの強みを生かして協働事業に取り組むことで、自らの利益だけではなく、地域における課題解決やSCの創出という役割も果たしていける。実際、戦略的なCSRとして、ニートの就労支援など、本業でNPOと協働する事例も多くなってきている(*2)

このようにSCの構築に積極的に投資するだけではなく、既に社内外で構築されたSCを損なわないようにする守りの戦略も欠かせない。例えば、社員の机を固定化しないこと、人間関係を犠牲にプロセスの効率化を追求するリエンジニアリング、スーパーリーダー、偽善行為などの経営手法は、SCを損なわせる可能性がある(*3)。さらに、SCは、粉飾決算や食品偽装など反社会的目的に悪用されたり、結束型が強すぎると異質なものを排除する可能性もあったりと、負の側面を併せ持つことにも留意すべきである。また、SCの構築には時間がかかると同時に使わなければ減耗するので、長期的な展望に立ち持続的に取り組むことが望まれる。

SCとCSRの好循環に向けて

企業が社会的責任を果たしていくことは、従業員や顧客、地域など多様なステークホルダーとの信頼関係やネットワークの構築につながり、社内や地域、社会で構築された信頼やネットワークは、さらにCSRの取り組みを促進する。すなわち、SCはCSRの重要な成果であると同時に、CSRを推進するエンジンともいえる。こうした好循環の関係を生み出す取り組みがさらに活発化することを期待したい。

図 CSRとソーシャル・キャピタル(SC)の好循環

(参考)

*1
内閣府『国民生活白書<平成19年版>つながりが築く豊かな国民生活』時事画報社
*2
原田勝広「シグナル発見:企業の社会貢献多彩-―NPOと協働、より高度に」日本経済新聞2007年10月1日付
*3
Prusak, Laurence and Cohen, Don (2001) How to invest in social capital, Harvard Business Review, June 2001 (プルサック、ローレンス/コーエン、ドン著・小林大克訳「ソーシャル・キャピタル:組織力の本質」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』2001年8月号
写真 西出優子
西出 優子 (にしで ゆうこ)
東北大学大学院経済学研究科
沖縄県生まれ、仙台市在住。公共経営学修士(公共・NPO経営:米・シラキュース大学)、博士(国際公共政策:大阪大学)。博士論文題目は、「日本におけるソーシャル・キャピタルと市民社会-政策的・実践的含意に向けて」。専門分野は、非営利組織論、ソーシャル・キャピタル論。著書に、『日本のソーシャル・キャピタル』、『NPO白書2007』、『ボランティア白書2007』など(すべて共著)。
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