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シリコンバレーとCSR

写真 ベンチャー企業訪問風景
写真 ベンチャー企業訪問風景
ベンチャー企業訪問風景

日経CSRプロジェクトでは、CSRのゴールを「社会的に意義のあるイノベーション」ととらえて進めてきた、と本サイトでも説明させていただいた。しかし、閉塞(へいそく)感の漂う成熟した社会にイノベーションを起こすことはたやすくない。そこで、ベンチャーのメッカである米国シリコンバレーにそのヒントを求めてみたい。

筆者は、同志社大学ITEC(技術・企業・国際競争力研究センター)と京都高度技術研究所が開催したシリコンバレーのベンチャー企業訪問に同行した。技術立国として日本企業には豊富な技術資産がある。また、起業家精神のある技術者も少なからずいる。そうした技術者の方々がシリコンバレーの息吹を吸収する意義深いプログラムだ。以下、本プログラムで訪問した起業家やベンチャーキャピタリストとの対話からCSRのヒントをまとめた。

ダイバーシティ

シリコンバレーで働くということは、10数カ国の人々と付き合うということだ。仕事を進めようとするならば、まず、相手を理解することが欠かせない。お互いに理解し合って、尊重して助け合う、という3つのステップが不可欠である。相互理解を前提にした相互扶助の精神があるからこそ、様々なネットワークが有機的に反応し、イノベーションを巻き起こす。

これがシリコンバレーの強さだろう。国籍・性別・宗教に関係なく、個々人の能力・趣向・思想が尊重される。また、個人も自分の属性よりも、自分のアイデンティティーを重視する。それゆえ、既成概念にとらわれることなく、信頼関係が構築できるのだろう。

企業内においても、こうした相互理解がダイバーシティを実現させる鍵だろう。日本のダイバーシティは形式にこだわりすぎている感が否めない。性別、国籍といった形を整える前にするべきことは、異なる意見を尊重することにほかならない。女性の管理職を増やそうという風潮だが、数の問題ではない。性別の割合ではなく、自由闊達(かったつ)な職場の雰囲気こそがダイバーシティを実現させる。

人権

それでは、なぜお互いを尊重できないのだろうか。1つには個人の専門性の欠如ではないだろうか。大きな組織になればなるほど、そこで働く個人は専門性を磨く機会に乏しい。一定期間のローテション人事のもとで、にわか専門家となって業務を遂行し、また、次の職場へ移っていく。中途半端な意見をたたかわせているために、お互いの意見を尊重できない。

PhD保有者が企業で勤められるようにするのも1つの解決方法だ。日本では国策によりポストドクターが増えたが、就職先に困るというのが現状である。一方、今回の訪問先であるナノグラムでは、60人の社員中20人がPhD保有者である。学歴にこだわることは意味がないが、各人が高度な専門性を持つということが、お互いを認め合うことの必要条件であろう。

人権に関する課題というと、すぐにスウェットショップなどに代表される生産現場の労働環境に終始しがちだ。しかし、営業や研究開発などの部門における人権こそ、もっとも日本企業が取り組まなければならない問題ではないだろうか。それには、個人の専門性をはぐくみ、個々の意見を尊重することが欠かせない。いくら、パワーハラスメント防止講座を社内で開催しても意味がないのだ。

イノベーションを起こす風土

ダイバーシティと個人の専門性を支えているのが、大学とベンチャーキャピタルである。

スタンフォード大学のターマン教授の支援を受けて、ヒューレット・パッカードが成功したように、シリコンバレーには教育機関として優れた大学が多い。学術的に優れているだけでなく、インキュベーターとしての役割まで担っている。また、行政もそうした企業と大学との関係を後押ししている。1970年以降、サンノゼ市は、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、サンタクララ大学、サンノゼ州立大学との関係を深め、積極的に地元経済の発展を下支えしている。

ベンチャーキャピタルは、単なる資金の提供者ではなく、コーチであり、メンターでもある。資金を提供するだけであれば、誰にでもできるが、メンターとして起業家に適切なアドバイスを与えることは難しい。それゆえ、ベンチャーキャピタリストはファイナンスの専門家が多いが、かつての起業家も少なからずいる。

こうした有形、無形の支援のもとで、いかにアイデアをインキュベートしていくか、いかに利益をもたらすビジネスモデルを構築していくか、を真剣に考えている人々の集積がシリコンバレーの強さだろう。

それでは、日本企業にとっての示唆は何か。それは、出入り自由な組織を実現するための柔軟な人事制度であろう。入社年次にこだわり、所属部門にこだわり、無形のルールに縛られている限りは、ダイバーシティや個の尊重はありえない。そうした旧弊を打破するためには、外国人を日本の本社で積極的に採用し、日本人従業員を外国に異動させることだ。これは、経済合理性にもかなっている。なぜなら、縮小する日本市場に固執していては、持続可能な成長は得られないからだ。

マクロで見ると、アジアの人々は、日本を通り過ぎて米国に行く。そして、米国の人々は、日本を通り過ぎて中国へ行く。すでにそうした傾向は顕著である。CSRをキーワードに日本企業の強さを海外に打ち出していくことが、日本の企業社会をよりよくする唯一の手段かもしれない。なお、今回の同志社大学と京都高度技術研究所が開催した本プログラムは通訳をつけていない。海外畑ではない日本のビジネスピープルが普通に英語を使ってコミュニケーションを取ることこそが第一歩ではないだろうか。

同志社大学ITEC(技術・企業・国際競争力研究センター)は、2004年から米欧の大学・ビジネススクールと連携しながら、技術起業家養成プログラムを実施している。初回の2004年はUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、USC(南カリフォルニア大学)、UCI(カリフォルニア大学アーバイン校)の各ビジネススクールにて実施。以来、2005年はフランスのビジネス・グランゼコールEDHEC (ecole superieure de commerce et de management)、2006年はイギリスのケンブリッジ大学IfM (Institute for Manufacturing) とそれぞれ行っている。また、大学での講義後に、その周辺で生まれたベンチャー企業を訪問し、起業家の体験談を吸収している。プログラムには、経営者、企業勤務、学生など技術起業に関心を持つ人々が参加。今年度(第4回)は、2007年7月29日(日)より8月4日(土)までUC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)Haas School of Businessとシリコンバレーで開催された。

写真 シリコンバレー生誕の地として史跡指定されているガレージ
田邉 雄 (たなべ ゆう)
1967年東京生まれ。上智大学文学部卒、名古屋大学大学院経済学研究科修了。2003年から日本経済新聞社にて日経CSRプロジェクトを主宰。現在、日経アメリカ社ロサンゼルス支社勤務。共著に『やわらかい内部統制』(日本規格協会)。
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