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ステークホルダーの信頼につながるCSRコミュニケーション・マネジメント

1.はじめに

近年の国内外における企業不祥事の続出は、社会的責任(CSR)を果たす「信頼できる企業」がステークホルダーから強く求められていることを改めて印象づけた。CSR活動に対する期待や評価は、企業を取り巻く環境(社会やステークホルダー)の状況や問題意識に応じて時代とともに変化する。しかし、自社に求められるCSRは何かを敏感に感じ取り、ステークホルダーとの信頼関係を築くことが、企業にとって重要な経営課題であることに変わりはない。

では、いかにしてステークホルダーと信頼関係を構築したらよいのだろうか。そのためには、「CSRコミュニケーション」を通じたステークホルダーからの信頼の向上が、肝要と考えられる。

CSRコミュニケーションにおいて、企業には、CSRに関するステークホルダーの関心や要請をいかに把握し、企業の重要課題の決定に際しどのように反映したのかを明らかにすることが求められる。また、取り組むべき課題を解決するために設定された具体的な目標とそれを達成するための活動と成果、さらに今後の見通しについても示すことが必要とされる。

そのような課題に応えるために、これまでにも企業は、CSR報告書の記載内容の充実、自社のホームページにおけるCSR活動情報サイトの設置など、個別的な取り組みを行ってきてはいる。しかしながら、現状では、それらがステークホルダーからの、企業全体に対する一貫した信頼の醸成につながっているとは必ずしもいえない。

そこで、CSRコミュニケーション全体を通してマネジメントし、その内容を個別取り組み間の関係も含めてステークホルダーに明示することが、信頼関係の構築には求められるのではないかと考えられる。このような考えに基づき、CSRコミュニケーションを包括的にとらえ、そのプロセスをマネジメントし、ステークホルダーからの信頼の向上に寄与することができる仕組みの構築を提案する。

2.CSRコミュニケーション・マネジメントの基本的な考え方

コミュニケーションは商品と違い、その実践と成果を当事者以外に明示し、理解してもらうことは難しい。そこで、ステークホルダーの理解を促進させる取り組みとして、CSRコミュニケーション全体を意味のある単位に分け、それらの間の関係を明示する。すなわち、まず、CSRコミュニケーションをいくつかのステップで成り立つプロセスと見なす。次に、ステップ間の相互関係を踏まえて、それぞれの目的・内容(役割や要件)などを明確にする。

このようにとらえ、取り組むことで、企業がCSRコミュニケーションを適切にマネジメントすることが容易になり、またステークホルダーによるCSRコミュニケーションにおける各プロセスの役割や全体の流れの理解を促進し、正当な評価を得ることが可能になる。

さらに、ステークホルダーからの信頼につながるCSRコミュニケーションには、次のような仕組みが必要となる。第1に、企業が、CSR活動における重点課題を、企業とステークホルダーの双方の視点に基づく公正・妥当な体系的プロセスによって抽出し優先順位づけしていることを、明示できる仕組みであること。この仕組みにより、企業がCSR活動に関する意思決定や活動の選定プロセス、取り組みなどが公正・妥当であることの説明責任を果たし、活動の透明性を高めることとなり、ステークホルダーからの信頼の評価につながると考えられる。第2に、CSRコミュニケーションを通して収集されたステークホルダーの要請を、必要に応じてCSR活動にフィード・フォワード(目標に対して外部要因を評価しつつ、達成に向けて修正を加えること)することができる仕組みであること。この仕組みにより、ステークホルダーの要請に迅速に対応できるようになり、ステークホルダーからの信頼を向上させるだけではなく、CSR活動自体の質が向上する可能性がある。

3.CSRコミュニケーション・マネジメント・フレームワーク

以上を踏まえて、4つのステップを設定したCSRコミュニケーションのマネジメント・フレームワークを提案する。

図:CSRコミュニケーション・マネジメント・フレーム

第1ステップの「『場』の設定」では、ステークホルダーの意見を尊重する姿勢を示すとともに、CSR活動に対するステークホルダーの意見や期待を把握する「場」を設定する。設定手法には、直接的手法(例:ステークホルダー・ミーティング)と間接的手法(例:アンケート調査)とがある。それぞれの特徴を踏まえて活用し、自社が取り組むべき課題を確認する。

第2ステップの「プロセスの説明」では、CSR活動にかかわる意思決定のプロセス、ステークホルダーの要請を、どのように反映したのかを示す。

第3ステップの「目標の明確化」では、CSR活動の目標とその達成手法や期待される成果について示す。目標は成果を確認できる具体性が必要であり、目標値の根拠、達成の期限などを明確にする。

第4ステップの「結果のフィードバック(場のクロージング)」では、CSR活動の結果と評価、さらに今後の活動の見通しを示す。このステップでは、ステークホルダーからの要請への対応と結果について説明をする。特に、要請に対し十分な成果が出せなかった場合は、その理由と今後の対応についても示すことが必要である。

これらの4つのステップは、企業の特性や取り巻く環境により重み付けが異なる。

企業は、このようなフレームワークに基づきCSRコミュニケーションを包括的にマネジメントすることにより、ステークホルダーによる理解と信頼の向上に寄与することができる。ステークホルダーは、CSRコミュニケーションの各ステップの役割や目的を理解し、またプロセス全体をとらえることが可能となり、信頼できる企業であるかを評価する際に役立てることができる。よって、企業が、CSRコミュニケーションをマネジメントする仕組みを構築することは、企業とステークホルダーの双方にとってメリットがあると考えられる。

企業が、CSRコミュニケーションを包括的にマネジメントする意識を持ち、企業とステークホルダーにとってより良い仕組みを構築することは、相互の理解と信頼関係の向上に役立つといえるだろう。

写真 井上昌美
井上 昌美 (いのうえ まさみ)
筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 博士後期課程在学中
日本経営倫理学会CSR研究部会所属
研究領域:CSR、CSRコミュニケーション、環境コミュニケーション
論文:「ステークホルダーからの信頼の向上に繋がるCSRコミュニケーションに関する考察」(2007年、日本広報学会研究奨励賞受賞)
「環境報告書における環境情報の有用性に関する実証研究」(2005年、環境経営学会優秀研究賞受賞)他
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