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キャリア教育と企業CSR

「キャリア教育」は、初等教育の早期の段階から教育現場だけではなく、地域、産業界が一体となって「児童生徒一人ひとりのキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度を育てる教育」としてスタートしている。近年、政府の取り組みも加速し、昨年には経済産業省、文部科学省、厚生労働省、内閣府の4閣僚によるキャリア教育等推進会議が設置され、経済産業省では平成17年度よりキャリア教育プロジェクトをスタート、28の民間企業・団体が「民間コーディネーター」として養成され、全国約300校、3万5000人の子どもたちのプロジェクトが実施されている。

経産省のキャリア教育プロジェクトの評価委員長でもあるアフラック創業者・最高顧問の大竹美喜氏は、今日の日本の指針を示した樋口レポートを紹介しながら、キャリア教育の推進を強調されている。これは1999年に樋口廣太郎氏(アサヒビール)が提出した経済戦略会議のレポートで、(1)結果の平等ではなく機会の平等を、(2)努力した人が報われる社会へ、(3)リスクへの挑戦、という3本柱からなっている。大竹氏はキャリア教育の推進もこれにのっとったものとし、今や国際競争力でも大きく後退している日本では、未来型企業は優れた人材の活用にしか活路はない、そのためにも早期の段階から種々の能力を啓発するキャリア教育を進めるべき、と提言している。

このキャリア教育プロジェクトを推進することで企業のCSRを果たすという概念が、今、注目されている。企業の競争力を高めるため、また、新たな企業ブランドを構築するために、企業における個人や集団同士が信頼関係を築き、学校や教育現場と協調的な活動を活発にすることで、組織を支える社員一人ひとりがモチベーションを高め、企業の信頼を築いていこうという取り組みでもある。

長野県諏訪市に本社のあるセイコーエプソン(株)では、これまでも地域の学校に協力して工場見学などを行ってきたが、経産省のキャリア教育プロジェクトに「民間コーディネーター」として参画し、主体的にキャリア教育の授業をサポートする仕組みづくりを行っている。産業界だけでなく教育委員会、行政、保護者などにも働きかけ、キャリア教育推進支援者ネットワークを構築し、より実践的なキャリア教育を開発、実施している。

また、教育界側からも産業界の積極的な支援を要求している。東京都三鷹市教育長の貝ノ瀬滋氏は、地域住民、地元企業の学校運営への参加を初めて実践した、日本におけるコミュニティスクール(キャリア教育推進事例)の草分け的存在である。貝ノ瀬氏が三鷹第四小学校の校長時代から、地域ぐるみで学校を支え、子どもたちを支え、よりよく育てていこうという考えのもと、地域の人たちが教師と一緒に子どもたちの指導に当たっている。最初は保護者だけだったが、次第に保護者以外の地元企業の人たちも参加するようになり、家庭科、生活科、社会科など、中には一度に10人を超すサポーター(支援者)が参加する授業もあるという。今ではその活動は三鷹市周辺の産業界を巻き込み、市内全体の公立小中高校に広がっている。

これまでの教育では、なぜ勉強しなければならないのか、なぜ働かねばならないのか、といった根本的な問いに正面から向き合ってこなかった。自分自身の人生設計を自力でやっていくことの大切さをきちんと伝えてこなかった。そのつけがまわってきて、自立の遅れや、あるいは自尊感情の阻害などを生み出してきた。将来の目標にしても、サッカーや野球の選手とか画一的な仕事、職業観しか出てこない。こうした現状から見ても、キャリア教育の推進が求められている。

今のところは職場訪問や職業人、企業人などの体験談を聞くといったところで大方のプロジェクトは止まっているが、モノをつくりモノを売る、あるいは会社をつくるといったような授業が組み立てられている。その中で地域の企業や事業体の方々の知識や体験を子どもたちに伝えることができれば、子どもたちはすぐに目を輝かせ、結果として、その企業のイメージが向上する。極論すれば日本には人材(人財)という資源しかない。これからはそれぞれの自治体、地域、企業が主体的にキャリア教育を通して人材の育成に取り組む必要がある。

昨今、若い世代の働く意識も確実に変化しており、会社の規模や成長性のある企業にだけ注目するのではなく、自分がやりたい仕事が実現できるかという個人の価値観と企業のビジョンを判断基準においている傾向も見られる。会社内だけで通用するスキルや経験だけを持っている人は魅力的ではなくなり、労働市場の中でも高く評価されることがないため、企業の中で「出世のために働く」というようなことはなくなり、いかに自己のキャリアを築くことかできるかが大きなポイントになっている。

キャリア教育を推進するということは、社会変化に組織行動を適応させる企業としては、10年後、20年後の持続可能な成長をビジョンとして描くことになり、また、若い世代を対象にメッセージを直接発信する機会に恵まれる。その結果、企業ブランドが築かれ、競争力が高まり、真のコミュニティーを形成していくことになると考えている。

写真 宮崎英寿
宮崎 英寿 (みやざき ひでとし)
NPO法人キャリアキッズコンソーシアム(申請中)代表
マナビスタ株式会社 代表取締役
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 非常勤講師
企業のマネジメント研修を中心に人材育成システム構築のスペシャリスト。
Jリーグなどスポーツ界では人材育成の第一人者。
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