HOME > CSRを考える > 新春特別対談 2008年のCSR新展開を占う

CSRを考える

Contents 一覧ページへ移動

新春特別対談 2008年のCSR新展開を占う

2007年は、オーナー企業の不祥事が内部関係者の告発によって次々と明らかになるなど、企業のあり方や考え方を改めて考えさせられた1年だった。CSRを実現するために、今後、企業は何を考え、どのような方向に進むべきなのか――。新春特別対談として、髙巖氏に(株)クレイグ・コンサルティング代表、小河光生氏がお話を伺った。

企業の不祥事が表面化するのは「いい社会」に変わる兆候

小河

昨年1年間を振り返って、いくつかのトピックをあげていきたいと思います。オーナー企業系での不祥事が目立った年だったと思うのですけれども、先生からご覧になられて昨年を総括すると、どのような1年だったと思われますか。

昨年の世相を表す漢字が「偽」という言葉でしたが、食品関連の偽装や住宅建材の耐火性能偽装、高速道路に使われている金属枠の強度データ改ざんなど、確かに“偽”にまつわる問題がいくつも表面化しました。一見、「大変なことが起きている」ようにも見えますが、それだけではない。これは、社会自体が不正を正して、いい社会に変わろうとしている兆候でないかとも思えます。

小河

なるほど。

以前であれば、事件や事故の不祥事は大企業のレベルで問題になっていましたが、昨年の例では中堅・中小のオーナー系企業で表面化してきました。そうした意味で、かなりオープンな社会になりつつあるのではないでしょうか。「公益通報者保護法」が施行された影響もあるとは思いますが、働く方々の意識が大きく変わってきたというのが実情だと考えています。

小河

その背景には、非正規社員の雇用が増加し、さまざまな立場の人が会社にかかわることで“会社の常識、世間の非常識”が外部にでやすくなった点や、若い人の働く価値観が変化して、自らのキャリアや働きがいに焦点があたってきている点などがあるのでしょうか。

そうですね。ある大手商社の人事担当者が「10年前と今では、若い人たちの考え方が180度違う。根本的に変わってきましたね」と話していました。意識の高い会社であれば、「いつどこで誰が見ていようと、問題のない経営をやっていこう」と、軸足がぶれなくなってきています。そうした理念を持っていない企業には、意識の高い若い社員は残ってくれないと思います。新卒の学生を大量に採用して会社になじむ人だけ残ってくれればいい、という姿勢の企業はこれから厳しく見られるでしょう。また、大企業を中心に起こっていた変化が、これから、中小のレベルでも起こってくるのではないでしょうか。

金商法の施行で重くなる「経営者の説明責任」

小河

もう1つの背景として日本のグローバル化があるかと思います。外国人株主が増え、日本企業で働く外国人も増加しています。企業の“説明責任”は重くなっているのではないでしょうか。IRなどにおいて、従来は「これまでやってきたことだから」と慣行で許されていたことも、明確に説明できなければ信頼を得られなくなってきました。

そのとおりです。企業の説明責任は、今まで以上に重たくなっている。「金融商品取引法」が施行され、状況は大きく変わってきたと思います。ディスクロージャー関連で言えば、会社は、抱えるリスクを可能な限り早期に開示しなければならない、というのが基本的な考え方となっています。例えば、決算を良く見せるために、色々と勝手な理屈を考え、売り上げや利益を膨らませるようなことは絶対に許されません。取引実態を、また隠れたリスクをできるだけ正確かつ早めに開示することが、今、求められています。

小河

なるほど。

重大な問題情報が内部で指摘され、経営者もその指摘を認知したとしましょう。にもかかわらずその対応を放置したまま決算発表し、その後に問題が表面化した場合、この会社は、関係法令上の責任にとどまらず、金商法上の責任も問われることになるかもしれません。例えば、有価証券報告書虚偽記載罪にさえ問われる可能性があります。さらには、民事で、「その事実を公表していたら買わなかった」と、株主が考え、損害賠償請求訴訟を起こすかもしれません。投資家に対し、不祥事関係の情報をありのまま正しく迅速に開示・説明することは、理念としての責任だけでなく、金商法上の要請にもなっているわけです。

現場から問題指摘や通報があった場合、できるだけ迅速に事実を確認し、それが事実であれば公表し、再発防止策を取って対応しなければならない。それが投資家や株主に対する責任なのです。

小河

トップが記者会見で頭を下げて終わる問題ではなくなり、その企業が再発防止にどのように取り組むのかきちっと説明する必要がある。

まさにそうです。これからは、企業倫理が、会社の風土として、自律的に機能するようにしなければ、経営者失格でしょうね。

小河

すると社員側も、自社が公開している情報の信憑性や、自分たちに対する保証が守られているのか、チェックしなければなりませんね。

そうですね。意図的な粉飾ではなくても、多くの職場は予算達成のために、決算期の3月までに予算達成できない場合、つい売り上げの先取りや経費の関連会社移転などを行ってきたのではないでしょうか。逆に、税金を減らしたいと考える企業では、経費の早期計上などをやってきたのではないでしょうか。「決算は作るもの」と言われてきた理由は、まさにここにあると思います。こうした企業姿勢も金商法の流れからすると、改めていかなければなりません。そもそも、経営者は、実態を正しく反映していない決算を見て、合理的な経営など行うことはできません。その意味で、ありのままを適正に報告するよう、各職場の風土を変えていく必要があるのです。

消費者の意識も問われる時代に

小河

消費者側の変化も大きな1年だったという気がします。これまでの消費者は、自分の購入する商品やサービスは「質が良ければそれでいい」という感覚でしたが、今は、その商品やサービスをどのような人が、どんなプロセスで作っているかまで消費者が興味を持ち始めています。

いくつかの偽装問題をきっかけに、消費者自身も自分たちのあり方を考え直すべき時期にきています。商品のトレーサビリティに強い関心を持つ方々がいらっしゃる一方で、メーカーや小売業では「消費期限」や「賞味期限」に縛られすぎて、大量の食品廃棄などを引き起こしている。

例えば消費・賞味期限は、科学的な根拠に基づいて事業者が自由に設定してよいものです。ところがあまり長い消費・賞味期限を設定すると、消費者が「そんなに長く持つのは防腐剤などの添加物が多く含まれているからだろう」と勝手に考え、売れなくなってしまいます。

偽装は正当化できませんが、こうした消費の仕組みはやっぱりおかしい、と指摘する人々も出てきています。今後は、成長から持続を意識した経済社会になっていくでしょう。大量廃棄して、環境に負荷をかけて、世界の食糧を消費して――という現状に対し、消費者の意識も変えていかなければならないと思います。

「サブプライムローン」「地球温暖化」がもたらした課題

小河

世界的には昨年、「地球温暖化」や「サブプライムローン」問題がクローズアップされたと思います。今年は洞爺湖サミットが開催されるということで、特に環境面や地球温暖化へのチャレンジがクローズアップされる年かなと思いますが、いかがでしょうか。

今、内閣府では、事業者団体、消費者団体、労働組合、投資家、環境団体、NPOなどで構成する「ステークホルダー円卓会議」の設置に向けて、その下準備を進めています。この会議で取り上げたらよいテーマとして、色々な意見が出ていますが、私個人としては、少なくとも、2つは取り上げたい、と思っています。第1は、地球温暖化防止のため、国民運動につながるような議論。第2は、公的年金の運用に関して、「SRI評価」の視点をどう取り込むかといった議論。もちろん、議論だけにとどめず、実行に移していくことが円卓会議の最大の狙いです。

温暖化に関しては、日本は「排出権取引」などに関して及び腰だという指摘があります。これは、言うまでもなく、積極的に取り入れるべきでしょうね。ただ、産業界は、日本の場合、これまでに2度のオイルショックを経て、二酸化炭素の排出をかなり抑えてきたと考えている。「乾いた雑巾をさらにしぼるような努力」をしてきたわけですが、その努力の直後を基準(1990年)にとって「排出権取引」を導入すると、日本企業は、競争上、かなり不利になる。そうした説明も理解できますが、産業界も、実行をいつまでも先延ばししているわけにはいかないはずです。

その1つとして、産業界が主張し始めたのが、産業別アプローチです。従来は、国別のアプローチが議論されていたわけですが、それに加え、産業別に排出量を削減していこうというのです。二酸化炭素が排出されている経緯を考えると、国単位ではとらえにくいものもあり、産業別に見る必要があると、関係者が気付き始めたわけですね。例えば、中国の鉄鋼関係の工場が非効率であれば、先進国の鉄鋼関連企業が技術協力をして、その二酸化炭素の排出量を減らすことだってできる。電機でも、自動車でも、素材でも、化学でも、ビジネスは既にグローバル化しているわけですから、産業ごとに協力し合い、世界全体の排出量を減らしていく、という発想です。

投資家、消費者のための正しい情報開示を

小河

なるほど。一方、「サブプライムローン」の問題ですが、その原因となった証券化の是非を含めてどのようなご意見をお持ちですか。

アメリカのサブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅融資)は、債権の証券化が繰り返され、原債権が見えなくなった証券が世界中にバラまかれたという問題だと思います。最初に「モーゲージバンク」が個人に貸し付けたローンを小口債券に変え、住宅ローンを担保にした証券化商品を作る。それを別の証券化商品などと組み合せ、債務担保証券(CDO)を作った。CDOを買った機関投資家も多数いるが、さらに、CDOを特定目的会社などが買い取り、この会社がコマーシャルペーパーなどの形で別の投資家に販売した。このように、次々と証券化が繰り返され、その結果、債券を購入した投資家たちは、元の債権がいったい何であったのか、まったく分からなくなったわけですね。

この問題の根底には、構造的な無責任、責任の空洞化があると思っています。貸付にあたっては、ローンの債務者に返済能力があるかどうかが重要なはずです。ただ「モーゲッジ・バンク」は、審査を甘くして融資を続けたといわれています。そもそも、証券化して他に売却していくわけですから、ある種のモラルハザードに陥った可能性もあるでしょう。また、同じ住宅ローンを担保にとっていても、元利払いに優先劣後の構造などを組み込むことで、証券の格付けを変えることができます。こうして組成された金融商品に対し、不動産証券化ビジネスにかかわるプロフェショナルたちは、初歩的な疑問さえ持たなかったと思います。厳しく言えば、「格付け会社が格付けしているのだから」という理由だけで、仕事をしてきたのではないでしょうか。もしそうだとすれば、いったいプロのプロたるゆえんはどこにあるのでしょうか。

小河

確かに、構造的な無責任という問題がありますね。

私は、若干ですが、不動産証券化業界にかかわる仕事をしていますが、日本でも、プロの仕事の質を疑いたくなるような問題が既に発生しています。不動産証券化に関しては、私募型と公募型のファンドがありますが、大手の場合、その両方の運用にかかわっているのが一般的です。業界では、これまで、私募型不動産ファンド間で物件が売買され、そのたびに値段が上昇してきました。誰でも想像がつくように、こんなことを繰り返していれば、やがて、物件を買い取ってくれる相手がいなくなります。そこで、私募型ファンドの多くは、同じグループ内の公募型ファンドに、つまり、J-REITに物件を売却することになります。適正な価格でJ-REITに売却している場合には、まったく問題ありませんが、昨年、私募型ファンド側に有利となる鑑定を行わせた会社があり、これが金融庁の処分を受けました。プロのプロたるゆえんは「信頼されること」にあるわけですが、彼らは、素人の投資家に分からないことを逆手にとり、信頼を裏切る行為を続けていたわけです。

小河

先生の著書(『誠実さ(インテグリティ)を貫く経営』日本経済新聞社刊)を拝読して驚いたのが、国民生活センターに寄せられた苦情件数が1994年と2004年を比べると8倍に増えていると。2004年には実に177万件という膨大な数になっている。これは今後も増えていくトレンドなのでしょうか。

この数値はね、実は「オレオレ詐欺」関連も含まれているので、若干膨らんで見えています。ただ、私は苦情の件数が多い理由として、苦情にあたるような行為が行われている実態があるし、消費者が権利意識を持ち始めたこともあると思っています。

小河

そうした場合、訴訟を起こそうとしても、被害額よりも裁判費用の方が高くついてしまうので、これまでは泣き寝入りするケースが多かった。

今後は変わるかもしれません。昨年、「改正消費者契約法」に基づいて、関西と関東の、2つの消費者団体が適格消費者団体として認定されましたが、こうした消費者団体は、消費者の利益を代表する形で、悪質な業者などを相手取って差止請求権を行使できるようになりました。特に少額多数被害の問題に関しては、一定の成果をあげるようになるのではないでしょうか。福田首相が年頭記者会見で「本年を生活者、消費者が主役へと転換するスタートの年にしたい」と発言したように、2008年は、生活者・消費者が主役になるかもしれません。

公益通報者保護法
内部告発などの通報をした労働者が組織内で不当な取り扱いを受けることのないよう保護する法律。2006年4月施行
金融商品取引法
金融商品を横断的に規制する法律。証券取引法の内容を大幅に見直したもの。金融商品に対する投資家保護、開示制度の拡充などがうたわれている。
ステークホルダー円卓会議
国民生活の安心・安全を確保し、企業の「社会的責任」を中心にさまざまな課題を議論するために設置が計画されている会議体
SRI評価
SRIとは企業の取り組むCSR経営をもとに投資を行うこと。SRI評価には投資基準に見合わない企業をリストから排除するネガティブスクリーニングと、企業のCSR経営を評価して投資に組み込むポジティブスクリーニングなどがある。
排出権取引
地球温暖化の原因となるガス削減を目的として、国や企業の排出する権利を決めて割り振り、その権利を超えて排出する主体が、それを下回る主体との間で取引を行い、ガスの排出量総量をコントロールする経済的施策
モーゲージバンク
住宅ローン専門のノンバンクのこと。銀行などからの借入金で住宅ローンを設定し、それを債券化して第2市場で売却、資金回収を行う。
コマーシャルペーパー
企業が短期の資金調達のために発行する無担保の手形。CPとも呼ばれる。
J-REIT(ジェイ・リート)
日本版不動産投資信託
改正消費者契約法
消費者契約に基づいて被害を受けた消費者を保護するために、事業者の不正行為を防止する法律。消費者全体の利益のために、一定の要件を備えた消費者団体が、事業者に対して差止請求をすることを認めた。2007年6月施行。
写真 髙巌
髙 巌 (たか いわお)
麗澤大学大学院 国際経済学部研究科教授
京都大学京セラ経営哲学講座担当客員教授
1985年、早稲田大学商学研究科博士課程修了。91~94年、ペンシルベニア大学ウォートンスクール客員研究員。00年に企業倫理世界会議(ISBEE)理事。02年にISO企業社会責任高等諮問会議委員、内閣府国民生活審議会委員、経済産業省日本工業標準調査会専門委員。03年に経済産業省産業構造審議会委員、CSR標準委員会委員(日本規格協会・経済産業省)、国土交通省地域づくり戦略研究会主査など、多くの公的機関・企業・大学でCSR関連の研究と実践を行う。著書に、『コンプライアンスの知識』(日経文庫2003年)、『企業の社会的責任』(日本規格協会2003年=共著)などがある。
写真 小河光生
小河 光生 (おがわ みつお)
クレイグ・コンサルティング 代表取締役
1964年東京生まれ。早稲田大学卒業後、大手自動車メーカーを経て、91年にピッツバーグ大学経営学修士(MBA)取得。同年、三和総合研究所に入社。00年にPwCコンサルティングに移籍。現在はIBMビジネスコンサルティングサービスパートナーおよびクレイグ・コンサルティング代表取締役。組織論・人材活性化論が専門分野。
おもな著書に『分社経営』(ダイヤモンド社)、『戦略コンサルタントビジネス・スキル・ブック』(東洋経済新報社)、『図解持株会社とグループ経営』(同)、『CSR 企業価値をどう高めるか』(日本経済新聞社=共著)など。
クレイグコンサルティング http://www.craig.co.jp
ページの先頭へ

NIKKEI NET