欧州レポート(22)
去る5月6-7日に、筆者は社会的責任投資(SRI)の初期段階にタイムワープしたような経験をした。「自らのミッション(使命)に投資する:教会とSRI」(Investing in Your Mission:Churches and Socially Responsible Investment)という会議に出席したときのことである。Investing in Your Missionを直訳すると日本語的には違和感があるのだが、「自らの使命感を投資に反映させる」では読者に対しその会場に漂う威厳を伝えきれなくて、あえて直訳した。
欧州教会会議の教会と社会委員会(Church and Society Commission of the Conference of European Churches)、フィンランド・エヴァンジェリカ・ルッター教会(Evangelical-Lutheran Church of Finland)、オイコ・クレジット(Oikocredit)の共催でブリュッセルで開催された同会議の主旨は、2つある。1つは、平常ではあり得ない欧州の教会が一堂に集まる機会をつくったこと、2つは、SRI方針を実行に移している先進的な教会およびSRI調査機関などの専門家と初期段階の教会とのネットワークをつくり、在欧州の教会にSRIを普及させるために悩み・課題の共有プラットフォームを図ることである。
「正義」「使命」「教訓」「道徳的クライテリア」と通常のSRI会議では久しく聞かない語彙が飛び交った同会議で、筆者は1つの重要な事実を学んだ。それは、どんなに使命感に燃える人々・組織であっても銘柄選択においてはSRI調査機関の情報収集能力や査定ロジックに依存していることである。これは、除外スクリーニングにおいても、欧州の教会のSRIが従来のタバコ・酒・ギャンブルに関与する銘柄の除外から、昨今は人権侵害や環境破壊に加担する企業の除外へと進化していることや、銘柄選出の重点が除外から、企業行動のベストプラクティスを奨励するポジティブスクリーニングに移行しつつある事実に現れている。しかし、会議での発表者の質問には、SRI査定における企業情報の欠如を指摘する声もあり、フランスの教会系協会の代表者が、SRI調査機関の格付情報の信頼性の欠如を補うために複数のSRI調査機関の情報を利用することをアドバイスする場面もあった。
さて、この会議中に筆者の頭をよぎったのは、教会というモラル・オーソリティーを持つ投資家グループが、ポジティブスクリーニングに重点を移していく中で、どこまで企業が与える社会的インパクトについて考慮する準備があるのかという点である。自分の使命感とお金の流れの透明度を深く追及すればするほど、異なる文化圏や個々の企業が置かれているコンテクスト=背景・事情を無視できなくなる。筆者が言わんとするコンテクストとは、例えば企業Aが途上国Bにおける主要原料・部品調達基準にサプライヤーへの環境面・社会面・人権擁護の方針を明示していない理由、また明示してなくても持続可能な取引関係を継続し安定調達を担保している背景である。こういったコンテクストは、機関投資家にはCSR経営に遅れをとる企業を主観的にひいきしていると見られ敬遠されがちである。
児童労働への関与や不祥事といった「悪いこと」を基準により除外する場合は、「良いこと」を奨励する場合に比べ、さほどコンテクストの必要はない。それは非人情・不法といった説明不必要な一般論理があるからである。しかし「良いこと」を判断する基準は千差万別である。上述の原料・部品調達を例にとれば、部品調達先を人権侵害が問題視される国からそうでない他の途上国に移した企業は、同国で操業を継続する同業他社と比べて果たしてベターなのか。ポジティブスクリーニングの進化のその先にあらわれるのは、It depends.=ケースバイケースという答えである。
SRI投資におけるIt depends.の部分を、今後教会によるSRIはどのように操縦するのか。3iG(*1)の例にあるように異なる宗教の枠を超えて世界的なネットワークができつつある今日、その秘められたポテンシャルや行動力に大きな期待を抱くと同時に、It depends. のコンテクストが十分に考慮された投資プロセスが生まれていくことを期待して会場を後にした。
(参考)
- *1
- The International Interfaith Investment Group のこと。現在世界の15の宗教グループより構成される。http://www.3ignet.org
- 佐久間 京子 (さくま きょうこ)
- ブリュッセル自由大学ソルベ・ビジネス・スクール
エミール・バーンハイム研究所研究員
米国ジョージタウン大学にて公共政策修士を取得後、8年間をEU委員会、欧州政策研究所(CEPS)、OECD、在オーストリア日本大使館(外務省専門調査員) でEU・日本企業の資金調達と競争力調査に従事。その後、ヒル・アンド・ノールトン・インターナショナル(ブリュッセル)にて、EU金融市場統一および企業法のコンサルタントとして活躍。 2001年1月より欧州SRI調査機関ヴィジオにてSRIアナリストを経験後、2007年7月よりブリュッセル自由大学ソルベ・ビジネス・スクールの戦略と企業統治研究部門(www.solvay.edu/EN/Research/Bernheim/RsUnits_General.php)の研究員としてSRI研究に従事する。ヴィジオ(www.vigeogroup.com)ではシニア・コンサルタントとしてSRI調査を継続する一方、2003年秋に創設したサスティナビリティー・アナリシス・アンド・コンサルティングでは調査やセミナー企画を手がけている。






