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米国視察レポート(2)

写真 訪問風景
訪問風景

前回は、米国企業がビジネスサイクルの中でいかに貧困地域とかかわっているかについて訪問先企業の実例を紹介した。今回は人材の流動が激しい米国において、CSRにかかわる人材育成の仕組みについリポートする。

なお、今年の日経CSRプロジェクト米国視察の訪問先は、ウェアーハウザー、スターバックス、マイクロソフト、ナイキ、ギャップ、カリフォルニア州立大学バークレー校、ソーシャル・ベンチャー・ネットワーク、モリソン&フォレスター、ビジネス・フォー・ソーシャル・レスポンシビリティ、サンフランシスコ州立大学の企業・団体・大学。

まず、CSR活動がもたらす従業員への影響について紹介しよう。

自分の仕事が社会に貢献していると実感することができれば、働きがいは向上する。従業員だけでなく、就職希望者が就職先を選ぶポイントにも、CSRへの取り組み方が大きなウェートを占めるようになっている。従業員や取引先が、仕事そのものの社会的意義を理解することによって、よりよい職場環境が生まれる、という仮説が成り立つのではないだろうか。

スターバックスでは、「すばらしい職場の提供」をCSRの柱のひとつとしている。よい企業にするためには、よい人材を確保しなければならない。そのために、CSRは有効だ。また、職場がすごしやすければ、従業員は長期間働いてくれる。さらに、彼らの忠誠心を高めることもできる。職場文化は、従業員同士の協力を促進し、かつ、個人の能力開発を支援する場でなければならない。1週間に20時間以上勤務した場合には、ストックオプションと医療ベネフィットが得られる。小売企業としては先端的であろう。パートタイマーで医療保険を受けられるのは非常に珍しい。同業の平均よりも非常に離職率が低いことが示している。

スターバックスは、世界に15万人の従業員を有しており、各事業部門の協力が不可欠である。それゆえ、従業員満足はスターバックスの成長に欠かせない要素だと認識している。現在、定期的に職場アンケートを実施しているが、満足度がかなり高いと感じている。

従業員満足を高める要素が「地域社会への責任」だ。たとえば、従業員が、地域の顧客と一緒になってグアテマラ・エデュケーション・プログラムを作成した。これは、調達地域の教育水準向上を目的としたプログラムだ。従業員の地域社会活動を奨励しているだけでなく、店舗の掲示板により来店者の参加も受け入れている。こうした店舗で働くことが従業員の働きがいを高めている。会社が地域社会に何かしているという態度を従業員に示すことは非常に重要だ。

木材大手のウェアーハウザーも、従業員の創造性がCSRに大きく影響すると考えている。同社では、温室効果ガスを2020年までに40%減らすと宣言した。会社が積極的に環境保全活動にかかわる姿勢を示すことによって、従業員の自発的な関与を引き出している。

木を育てるのは同社の事業活動の根幹だが、単に植林するだけではなく、環境保全に役立つような木材の活用法を考えるよう従業員に奨励している。たとえば、ワックスフリー・カートンだ。食品用カートンは100%リサイクルするのが当然だが、ワックスを使わない塗料を開発し、食品梱包ダンボールへの使用を実現した。こうしたアイデアは現場の従業員が取引先との会話の中から思いつき、製品化へと推進した。日常業務をこなすだけでなく、その業務の先に自然環境への影響を想像できる従業員の力がCSRにつながる。

これまで、CSR活動がもたらす職場文化や従業員への影響を紹介したが、次に、CSRにかかわる人々のネットワークについて述べたい。CSRが問われる分野は多岐にわたる。企業が単独で解決できない課題も多い。そのため、社外の人々との連携が役立つ。企業が外部の機関と連携する際に、CSR推進団体、法律事務所、大学が重要な役割を担っている。

まず、CSR推進団体の存在だ。サンフランシスコには、大企業を中心としたBSR(ビジネス・フォー・ソーシャルレスポンシビリティ)と起業家や中小・零細企業を中心としたSVN(ソーシャル・ベンチャー・ネットワーク)がある。

BSRは、特に大企業がCSRを経営に取り込んでいく際のサポートをしている。会員企業250社のうちの7割が米国企業。2割が欧州企業、1割がアジア企業である。アジアは現在非常にCSRへの取り組みが進んでおり、特に中国での活動が大きくなっている。

SVNは、中小企業経営者、起業家、投資家から構成される会員組織で、ビジネスによって持続可能な社会をつくることを目的とする。SVNの会員に非公開企業が多いのに対し、BSRの会員には上場企業が多い。BSR加盟企業は、株主に対する配慮も欠かせないので、SVNと議論するテーマが異なる。

BSRやSVNの存在が課題解決に向けた人々の連携を促進している。その連携を通じて、企業活動によって生じたネガティブな面をなくすことだけでなく、それぞれの企業の立場から何ができるかを考える。こうした場の設定が、アイデア共有やブレーンストーミングを促し、CSRに厚みを与えている。

次に、大学の役割について述べる。ビジネス教育が盛んな米国では、ビジネススクールが競ってCSRをテーマにした講座を設置している。ビジネススクールが短期的な利潤追求型の人材を輩出してきたという反省から、企業倫理や環境保全などCSRをプログラムに取り組んだり、専門の研究機関を発足させたりしている。

全米トップクラスのカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールでは、2003年にセンター・フォー・レスポンシブル・ビジネス(Center for Responsible Business)を開設した。本センターの狙いは、寄付活動やフィランソロピーではなく、企業が戦略的に経営を考えるうえで、CSR課題についての判断基準に対する枠組みを与えることだ。

学生の課外活動には特に注力している。ある特定の企業と1学期間一緒にプロジェクトを実施。最近では、グループ・ノエバとのプロジェクトを開始した。労働階級に対し、マイクロファイナンスを提供するビジネス・スキームに学生が参加した。また、高級食器を商うウィリアムス・ソノマ(Williams-Sonoma)とは、店舗のエネルギー削減に対してビジネススクールの学生が効果を測定。実現可能性を分析しリポートにまとめ提出した。ウィリアムス・ソノマはそのチームの1人を雇用し、リポート内容を実践させている。現在、60社と110のプロジェクトを実施している。

最後に、法律事務所のような専門家の役割について触れたい。情報公開やサプライチェーンにおけるトラブルなど法的案件はCSRに大きくかかわってくるので、法的法律事務所がCSRに注力する意義は大きい。モリソン&フォースターのパートナーであるスーザン・マコーミック氏によると、「ボードメンバーは株主利益を保護する義務を負っているので、従業員満足への偏重はこの義務が侵されると判断されかねない。また、CSRに関する情報公開は任意となっている。CSRリポートと法的なリポートとの内容に不一致があると危険である。重要事項の情報が、CSRリポートに掲載され、法的なリポートに掲載されていない場合、株主から訴訟される可能性がある」などと実務の面からCSRを推進するうえでのリスクを喚起している。CSRへの自発的な取り組みは非常に望ましいことだが、米国では、法制度の特徴に対して十分に配慮する必要がある。こうした専門的なアドバイスがCSRを推進していくうえでは不可欠だ。そして、専門家がBSRなどの団体や大学の場を活用して、企業人と交流しているのが意義深い。

まとめ

企業不祥事が頻発し、日本型経営の負の側面ばかりが目に付く。しかし、米国でのこうした成功事例を見ると日本的なものが米国流に実施されていることに気づく。今回の視察で訪問した多くの企業では、長期雇用を促進し、現場からのアイデアを尊重している。また、産業団体や大学など企業を支援する立場にある機関も、企業人の目線でさまざまな連携を推進している。こうした姿は、かつての日本にあった光景ではないだろうか。それが、成熟した国内経済の中で閉塞(へいそく)感がまん延し、企業内の論理、団体内の論理、大学内の論理が優先される土壌を生み出してしまった。CSRの機運が高まることによって、かつての日本が持っていた美徳が再び見直され、かつ、その価値観が一段高い次元に昇華されることを期待している。

田邉 雄 (たなべ ゆう)
1967年東京生まれ。上智大学文学部卒、名古屋大学大学院経済学研究科修了。2003年から日本経済新聞社にて日経CSRプロジェクトを主宰。現在、日経アメリカ社ロサンゼルス支社勤務。共著に『やわらかい内部統制』(日本規格協会)。
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