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金融機関に求められるCSR

オランダABN アムロの事例から

近年、金融機関によるCSR活動の取り組みがますます注目を浴びている。本稿では私が所属するエービーエヌ・アムロ(以下、ABNアムロ)のCSR活動のうち、特に社会的投資責任、持続可能な開発へ向けた取り組みを紹介する。

欧米の金融機関の置かれた状況と歴史的背景

まず述べておかなければならないことは、金融機関はそのビジネスが社会に大きな影響を与えるため、その影響に対して多大な責任を負うべきであることを常に認識しておく必要がある——ということである。事実、こうした金融機関の果たすべき社会的責任については、多くの組織、団体によっても長い間指摘されてきた。例えば、ABNアムロにおいても過去にはその投資判断がNGO(非政府団体)などの批判にさらされた経緯がある。1990年代後半にインドネシアの鉱山開発会社に行っていた投資に対しては、公害問題と鉱山労働者の人権問題を配慮するべきであるという非難の声がABNアムロに向けられたし、クラスター爆弾の品質管理試験にかかわる企業に行っていた間接的投資によってもABNアムロに社会的な批判が向けられた。ABNアムロの社会的投資責任への取り組みも、こうした声の高まりとともに債権リスク管理の一環として始められたものであった。

「持続可能な開発(Sustainable Development)」をビジネスの基幹戦略に

しかし、ABNアムロでは、こうした社会的責任への取り組みを「リスク管理の手段」という観点からさらに進化させ、現在では持続可能な開発を「ビジネスの全体戦略の根幹」として考えるようになっている。例えば、ABNアムロでは企業価値や企業理念の中に社会的投資責任への取り組み姿勢を明記しているだけでなく、投資判断のうえで案件となる事業が持続可能な開発を妨げないかどうかの審査をその一部として手順化している。特に環境(Environmental)・社会(Social)・倫理(Ethical)の3分野については厳格な基準を定めたフィルタリング・ツールを開発し、その審査を強化している。また、社内にはこの審査を専門に行う部門が設置されているが、営業担当者自身も投資責任についての審査基準を理解し、顧客に的確なアドバイスを行えるようにするために、ABNアムロの世界中の拠点で受講可能な、持続可能な開発と投資責任についての教育ツールを提供している。ABN アムロではビジネス戦略にもとづいた具体的な行動計画として、短期的な利益のみに固執するのではなく、社会的責任の遂行から長期的な価値を生み出すことによって、地球(Planet)、人々(People)、利益(Profit)の共存を目指している。こうしたABNアムロのCSR活動は、「ダウ・ジョーンズ サステナビリティインデックス」(2006年度)において銀行部門のリーダーに表彰されるなど、世界の関係団体より高い評価を受けるに至っている。

「持続可能な開発」への取り組みとビジネスのバランス

しかし「こうした環境・社会・倫理に対しての厳しい審査基準の設定により、ビジネス機会の損失があるのではないか?」という問いかけもある。実際、ABN アムロにおいても、先に述べた厳しいポリシーとフィルタリングによって、2006年度にはプロジェクト投資案件のうち数件、融資を断念せざるを得ないケースが存在している。しかしながら同時に、クライアントの中にはこうした環境問題・社会問題・人権問題への取り組みを評価し、「CSR活動に積極的に取り組んでいる金融機関であるから」という、まさにその理由によってABNアムロとのビジネスを選択するケースが多く存在しているのも事実である。

この背景としては、特に欧米での近年の目立った動きとして、多くの融資先企業がCSR活動にますます積極的になっていることに注目すべきであろう。多くの企業が社会的責任に敏感となっている現在、持続可能な開発への取り組みに一日の長のある金融機関は、取引先からの信頼を獲得しやすいだけでなく、持続可能な開発に向けた取り組みに関するノウハウを提供できるという点において、他の金融機関に比べて高い競合優位性を獲得できるようになってきているのである。 ABNアムロにおいても、天候変動にかかわる環境商品への投資案件を受けるようになるなど、持続可能な開発への取り組みは金融機関にとって大きなビジネスチャンスになっているといえそうである。

トップ経営陣の関与が成功へのカギ

もちろん、このABNアムロの持続可能な開発への取り組みは今後も発展・修正が加えられていくべきものであり、発展途上のものではある。しかし、現在のような高い評価を受けるに至るまでに、いかにしてABNアムロは効率的なCSR活動を行えるようになってきたのか、そのカギとなる成功要因をここで紹介しておきたい。

まず不可欠なのが、トップをはじめとした経営陣の積極的な取り組みである。社会的責任へ向けた活動は常に経営の一部として取り入れられていなければならない。2つ目の成功への条件として、その結果としてCSR活動、持続可能な開発への取り組みが組織の文化の中に埋め込まれていること。これはABNアムロでは先述した教育制度などによって具体的に実施されている。3つ目の成功へのカギとして、CSRに対するインセンティブや数値的な成果目標を設定し、目標を達成した部署には表彰を行うこと。常に、何がどのように目指されており、どこまで達成されてきたのかを明確にしておく必要がある。そして最後に、社内でのコンセンサスと共感を得るために、担当者が各拠点、各部署をCSR活動の重要性を語って回り、語られた内容が目に見える形で各社員の目の前に示されること。言動にブレのない、この一貫性こそが、CSRを組織に根付かせるカギといえるだろう。

今後の課題と日本の金融機関へ向けて

以上、ビジネス戦略の核としての持続可能な開発に向けた活動を紹介した。こうしたCSRの取り組みが、もともとはリスク回避の防御策として展開され、その後の経過としてビジネスの根源部分を担うようになってきたとはいえ、持続可能な開発に向けた取り組みのノウハウはABNアムロというひとつの企業によってのみ行われるべきものではない。また、CSRは銀行間の差別化競争に利用されるべきものでもないだろう。環境問題や社会問題、人権問題に対する金融機関の取り組みをより進歩させるため、金融機関が共同で目標設定を行うなど業界横断的な取り組みが求められているのである。

こうしたCSRの国際的な協働の好例としては、プロジェクト融資においての環境・社会問題を評価、管理するための金融機関の自主的な枠組みである赤道原則が挙げられるだろう。赤道原則は世界銀行グループの環境・社会配慮ガイドラインを基礎としているが、現在までに世界の51金融機関が採択し、採択した民間金融機関によるプロジェクト融資は今や世界のプロジェクト融資全体の約80%を占めるといわれている。

先日、ABNアムロは三菱東京UFJ銀行、野村総合研究所と共催で金融機関向けにCSRに関するマネジメントフォーラムを東京で開催したが、大変な盛況のうちに終わったことからも日本の金融機関のCSRへの関心の高さをうかがい知ることができた。日本の金融機関が展開するCSR活動、社会的投資責任の取り組みに大いに興味を抱いているだけでなく、持続可能な開発の実現に向けてお互いに切磋琢磨(せっさたくま)していけることを大変楽しみにしている。

写真 ジョエル・ポスターズ
ジョエル・ポスターズ
エービーエヌ・アムロ銀行香港支店
サステナブルディベロップメント
サステナブルビジネス アドバイサリーグループ アジア地域責任者
米国マカレスター大学経済学学士課程卒業、米国コロンビア大学修士課程修了、INSEAD MBA修了。A.T.カーニー、プライスウォーターハウスクーパースを経て、2003年エービーエヌ・アムロ銀行本店(オランダ・アムステルダム)にアドバイザリーグループ・バイスプレジデントとして入行。2006年8月より現職。主にサステナブルディベロップメントに関する同行の政策的活動、支援および取り組みにおけるリスク分析、社内外での啓発活動、情報発信に携わっている。なお、エービーエヌ・アムロは総資産9,870億ユーロ(2006年12月現在)を有し、60を超える国・地域に散らばる4,600以上の支店に10万7,000名の社員を擁する一大国際金融グループである。
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