2003年ごろから急速に普及したCSRの概念

- 日本経済新聞社
東京本社広告局 業務推進部次長
日経広告研究所兼務研究員
横田 浩一
本日は、いま新聞紙上でも話題になることの多い「CSR」をテーマに、就職を控えた学生のみなさんがどのような視点で企業を観察すべきかという内容でお話しします。
CSRとはCorporate Social Responsibilityの頭文字をとった表現です。2003年頃からこの言葉が広まりました。「企業の社会的責任」と言われています。古くは「経済」「環境」「社会的パフォーマンス」の3つの分野を「トリプルボトムライン」と呼び、イギリスの経済学者が90年代に提唱しました。日本では環境については多くの企業が取り組んできましたが、CSRという概念は、ここ数年、経営のテーマとして大きく取り上げられるようになりした。CSRすなわち社会的責任を果たしている企業は「持続的可能性」が大きいという見方をします。つまり、長く存続できるということです。
当然のことですが、企業は利益を出していかなければ業務を継続できません。しかし、ただ利益を出すだけではなく、地球環境や従業員、地域社会に対してしっかり配慮をしていなければ、評判が悪くなってしまいます。評判の芳しくない企業は取引が広がらず、良い人材が入ってこないなど、業務の継続が難しくなってしまうのです。また、社会から必要とされない企業も、いつかは排除されてしまいます。
このCSRの概念について、経済同友会の定義は、
「CSRは企業と社会の持続的な創造発展に資する」
「CSRは事業の中核に位置付けるべき『投資』である」
「CSRは自主的な取り組みである」
になっています。
CSRについての考え方は画一的なものではなく、実に様々です。富士ゼロックス元会長の小林陽太郎氏は「CSRの考え方に立脚すれば、企業の事業目的は社会の役に立つことである」という意見を紙面で主張されています。人生の目的が人それぞれであるように、個々の企業の社会への役立ち方は異なります。たとえば、鉄道会社は安全に人を運ぶことで、携帯電話会社はいつでも通話ができる事業をすることで、社会の役に立つわけです。いままで多くの経営者が利潤を追求して多額の税金を払い、社員に高給を与えることが良い企業だという考えが一般的でした。この考え方は間違いではありません。しかし、「健康第一」と言って健康を追い求めることが人生の目的ではないように、企業も利益を追求する先に、社会の中で果たす目的が必ずあるはずです。
一般的に、企業価値は「時価総額」とされています。しかし、いままでの企業価値は経済的側面だけでありましたが、現在では社会的価値としての広義の企業価値が求められています。企業は、CSRという考え方に基づいて企業価値を創造していかなければならない状況にあるのです。
報告書に登場する用語からCSRの考え方を知る
多くの企業は、CSRに関連する、環境面、雇用面などさまざまな取り組みをCSR報告書に記載しています。特に高い環境については、かなり前から多くの企業が積極的な取り組みをしていることが分かるはずです。たとえば、佐川急便は排ガスを低く抑えた車を使用して荷物を運び、東京海上、住友林業は森林保護をしています。
CSR報告書には「ダイバーシティー」「コーポレート・ガバナンス」「ディスクロージャー」「グリーン調達」といった、みなさんが聞きなれない言葉が出てきます。
ダイバーシティーは、男女、国籍、障害・健常者関係なく、さまざまな人々と異なった文化や価値観を企業活動のなかに取り込んでいこうという考え方です。海外の企業に比べると日本企業は女性の数が少ないのが現状です。しかし、これからは女性が少ないことや、あるいは女性の管理職がいないことで評判を落とすことになりかねません。男性ばかりの組織には優秀な社員が集まらない可能性も出てきます。女性社員の割合などをCSR報告書に記載している会社もありますので、チェックしてみてもいいでしょう。
グリーン調達は、取引先にも環境配慮を要請するものです。こういった取り組みは、社会での評判や株価にも影響を及ぼしてくるのです。これからは、取引先も含めたトータル的な企業活動のなかで環境や社会に対して貢献していかなければ、長く存続できる企業になり得ないということです。
また、フィランソロピー・社会貢献活動、寄付などもCSR報告書には紹介されています。地方の企業であれば、地域経済や地域社会に対するボランティア活動も重要な社会貢献と言えるでしょう。
近年のCSRの流れのなかには、「従業員の働きがいや働く環境」といった新たなテーマが浮かび上がってきました。CSR報告書のなかには、従業員に対する教育やキャリアパス制度、女性の出産に対するサポート体制などが紹介されるようになりました。会社内に保育所を設け、出産や育児へのサポート体制を強化している会社もあります。
CSR報告書から将来の働きがいを想像する
いまご紹介したようにCSR報告書には、企業が社会に対してさまざまな貢献活動をしているということが書かれています。みなさんはどのようにCSR報告書を読み解けばいいのでしょうか。
この講演をお聞きになった人は、従業員に対する処遇や働く環境については必ず目を通すことでしょう。そして、地球環境への取り組みにも関心を寄せるかもしれません。そのような部分から企業の幹や志を感じ取ってほしい。骨太のCSRは、本業を通じたものだからです。そのために、将来像を語る経営者の言葉をしっかり読んでいただきたいと思います。企業活動を通して社会にどう貢献するか、その約束ができるのは経営者です。約束の相手である「顧客」「株主」「従業員」という3つのステークホルダーの観点から、CSR報告書を眺めることで、その企業がどのような企業活動を目指しているのかが分かりやすくなると思います。特に従業員に対しては、給与だけでなく、あらゆる価値提供をしているか、あるいは価値提供をしようと志しているかを読み取っていただきたいと思います。従業員の満足度調査の結果を発表している企業もありますので、そういった情報をよく吟味してください。
これから社会に出るみなさんには、働きがいを感じながら仕事をしてほしいと思います。仕事をしながら自らの能力を発揮し、どんどん引き上がっていく、あるいは仕事によって人間として成長している、そういった実感を持つことが、働くことの喜びだと思います。もちろん、生活を豊かにするための賃金も重要です。しかし、それ以上に大切なことが、働く喜びだと思います。大切に感じられる仲間や上司と巡り合い、環境にも配慮しながら社会に貢献していく。そして、そのことにやりがいを感じられる組織が必ず見つかるはずです。会社に入れば、利益や売上げなどの数字に追われることになるでしょう。ただ数字だけを追いかけているだけでは疲れてしまって長続きはしません。その数字を達成したとき、その先に何が見えるのかを想像することができれば、その数字の意味が変わってくるはずです。その先の姿を語るのは経営者です。ですから、経営者が明確なビジョンを語り、3つのステークホルダーと約束をしている、つまり「志」のある企業を発見することが大切なのです。そのベクトルが自らの考えと同じ方向であれば、時間がかかっても、その組織できっとあなたの能力は存分に発揮されることでしょう。
本日の話が、皆様の就職活動の一助となれば望外の喜びです。

- 2006年10月31日 明治大学リバティホールにて






