セミナー 鳥栖青年会議所 CSR講座
地域CSRをいかに推進するか
中小、零細企業にこそ必要なCSR

- 講演風景
多くの中小企業の経営者がCSRについて感じる疑問は、はたしてCSRは地方の一企業が取り組むべき問題なのだろうか? ということである。企業の社会貢献は必要なことであると頭では理解していながらも「忙しい」「費用がかかる」「既に、環境にやさしい製品をつくったり使ったりすることによってできる限りのことは行っている」等々、今さら改めてやるほどのものではないという意識が強いのではないか。CSRに本腰を入れ取り組めるのはしっかりした組織と予算を持てる大企業に限られると思われているようだ。経営者によっては、環境保全活動や障害者雇用は利益を圧迫するばかりで短期的には損が出ると考えている。そうした現場の疑問にできるだけ答えつつ、CSRの本質と、CSRが企業にもたらすメリットについて話をしていきたい。
【2つの柱によるCSR講座内容】
- 地域社会の活性化
地域ブランドを上げることは住民にとってどんな意味があるか、誇りを持てる地域というのは何か。自分の住む地域を活性化する方策をみつけるポイントについて。 - 企業組織の活性化
本業を通じて社会に貢献することがCSRの本質であるということ。さらに一歩進み、CSRによる従業員の活性化とその波及効果について。
(1)地域社会の活性化
地域ブランドを上げ、「日本一住みよい街」をめざして
地域ブランドが生まれる背景
地域ブランド力を上げるための方法を話す前に、人がよりよく生きるための背景に触れておきたい。当然ながら、人は一個人では生きられない。自分が所属している組織、組織が所属している社会、仕事上または生活上かかわりのある人たち(ステークホルダー)とどのようにつき合っていくかを考えることが大切なのである。
愛知県・碧南市は、CSRによる地域ブランド化のモデルケースだ。ゴミを25種類に分類して収集するなど、クリーンな街づくりが実現できている。地域ブランドの確立という点で注目すべきは、ゴミの集積所に立つボランティアの人々の姿だ。輪番制でゴミの出し方を指導しながら番をする自主的な取り組みが、実は地域住民の意識改革と風土づくりにつながっている。環境問題への感度の高い人たちが住みやすい半面、面倒だと思う人にとっては住みづらいムードができるため、意識の高い人たちが新たに入ってくる。すると地域の中での信頼感も高まり、外で子供を安心して遊ばせられるなどの防犯上の効果も出る……その結果、地価は上がり、あの町に住みたいという気運がますます高まる。
個人も地域も幸せになれる、ウィン―ウィンの法則
少なくともCSRによって企業ブランド向上への良循環が生まれることは、マーケットでは認知されはじめている。日経新聞社が行ったアンケート調査でも、地球環境に配慮した企業活動を行っている企業の製品を買う人が多数を占め、日本の消費者に変化が生じていることをうかがわせる。企業の姿勢が問われ、多少高かったり不便を感じたりしても環境保護に取り組む企業を支持する人が多数派になりはじめている。とはいえ、やはり碧南市のようにCSRを支持する自治体あるいは中小企業は表立って出てきていないというのが現状だ。
なぜCSRがなかなか浸透しないかといえば、それはCSRが個人や企業の利益を圧迫するのではないかという誤解による。自身の利益が得られない中で社会の幸せだけを考えるというのでは、義務感が先に立つ。人間、義務として行うことはなかなか長続きしない。また一方、個人の幸せだけを追求すればエゴになってしまう。そこで、二つの軸で考えてみる。どちらかをとるのではなく、個人の幸せと社会への貢献が両立するところを目指すのである。地域や社会のために行動すれば住みやすくなり、結果的には個人の幸せにつながる。いわゆる損をするものがいないウィン-ウィンの法則である。これが、持続可能性(サステナビリティー)のポイントだ。CSRは一時的にお金を寄付したり、とりあえず環境にやさしいことをやってみたりという「点」の活動では成り立たない。「線」としての継続性が大事であることからも、義務感、やらされ感だけでは動機づけとして弱いのである。
地域ブランド向上は、町おこしではない
「地域ブランドの向上」と「町おこし」を比べたとき、CSRの本質が見える。「町おこし」の受益者は基本的に観光客だ。成果とは他地域から客をどれぐらい呼べるかであり、新しい施設などによって話題づくりを先行させつつ、彼らになるべくお金を使わせることを目的とする。それは一過性であり、お金は温泉施設など、物質的なものにかけるコストとなる。一方「地域ブランドの向上」では受益者は住民自身。ハードにお金をかける発想ではなく、時間や労力、人件費に投資し、そのリターンとして無形資産の蓄積がされていく。ゴミを通じての地域ブランドは音楽ホールや温泉施設などのモノではなく、無形の資産やノウハウだ。意識の改革によって、地域住民が誇りを持つことができ、住民同士の信頼感が高まる。その効果は超長期的である。
鳥栖は「住みよさ九州ナンバーワン」と言われているすばらしい都市だ。その理由は、豊かな自然環境、とくに河やダムなどの良質の水資源にある。また、九州一の工業都市でもあり、企業誘致にも成功して雇用も促進された。さらに、最先端研究都市である。誇れることは多いものの、自然、施設、機械、建物など、ややハード価値に偏っている。鳥栖ブランドを確立するには、これに加えてソフト資産を創出することが課題だ。たとえば安心、安全な街を目指す。子育て地域レベル日本一を目標に、子育て支援、青少年育成で誇るべき街にする。このようなソフト価値を加えることで、単なる町おこしではない、住民にその利益が還元されるような地域ブランドが自然に確立されていく。住みよさランキング日本一は決して夢ではない。
(2)企業組織の活性化
本業を通した、自分たちにもメリットのある社会貢献
本業を追求することが、CSRの基本
企業としてのCSRを考えてみよう。その基本は、企業をきちんと経営することである。事業を行って税金を支払う、人を雇い、サービスを提供する。それ自体をCSRと呼ぶことができる。一見CSRに見えるようで、そうとは呼べないものもある。利益を株主に即配当するようなファンドはCSRとは言えないし、本業に関係のない音楽ホールをつくったり、芸術作品を集めて美術展を開いたりすることは、消費者が本来その企業に求めていることではないだろう。
かつて日本の企業は法を順守し、お客様のために、従業員のために、社会のために本業に励むことをよしとしてきた。しかし80年代以降のバブルの時代を経て、利益が上がりさえすればよいという価値観が強まった。さらに2000年以降、アメリカのエンロン事件を発端に、今度は社会の幸せを考えなければという流れに変化しつつある。とはいえ、環境保護にせよ障害者の雇用にせよ、義務感でやっているうちはどれも長続きするものではない。CSRもISOのような認証制にという話もあるが、CSRはそういった制度とは本来的にかけ離れた概念だ。社会の幸せと企業の利益が同時に追求でき、無理なく持続できる活動を、企業が義務感からではなく自主的に選ぶ時代が来ている。
顔が見える企業になれ
何より重要なのは、企業の顔が見える活動である。 企業がCSRを取り入れるとき、最初の段階で考えるべきことは「わが社の、企業としての競争力の源泉は何か」ということだ。技術力、開発力か。サービスか。フランチャイズなど多店舗展開している飲食店や不動産は店舗網がその源泉になるかもしれない。CSRはシンプルに企業の競争力を利用するというのがベスト。自社の得意分野を最大限に生かすことでCSRも輝きを増す。
さらに、今求められているものをキャッチする、時流に対するアンテナも重要だ。鳥栖のように子供の数が増えている街であれば、子育て、育成、教育。教育には今、多くの会社が積極的に取り組んでいる。その企業が持っているものを社会の時流と合わせて生まれるものがよい。
CSRを行うメリットは本業のノウハウが高まること以外にも、社会からのフィードバックが受けられる、あるいは新しいビジネスモデルの実験になるなど、長期のマーケットづくりにつながっていくので、鳥栖という街における企業CSRは何かということを、それぞれに考えてほしい。
社員の働きがいを考えるのは、CSRの根幹
ここでさらに一歩踏み込みたい。それは、本業を通したCSRを行うことで社員が元気になるということだ。一般的にCSRは環境や人権が前面に出ることが多いが、さまざまな企業のステークホルダー(お客様、取引先、従業員、株主などの利害関係者)の中で、最も重要なのは従業員だ。彼らが活性化していなければ、企業として物足りなさを感じる。CSRを通じて従業員を活性化できないか? ということは、私たちクレイグ・コンサルティングの目指すテーマでもある。
そのためには社会的サイクルとして一種の好循環構造を構築する必要がある。まずは企業活動を起点として、従業員がやりがい、働きがいを感じられるようにすることだ。自分がしていることで他人に褒められ、やりがいを感じ、社員の意識が高まる。そうすることでブランドイメージが高まり、優秀な人を吸引できる。その結果、企業業績を押し上げる――このような「好循環」を企業につくることが理想だ。社員が生き生き働いている会社というのは外部から見たとき、あの会社は元気だな、最近いつ行っても社員がニコニコ笑って楽しそう、何をやっているんだろうと話題になるはずだ。
社員が働きがいを感じることで、さまざまな効果が生まれる。人材獲得もそのひとつ。今は学生が会社案内ではなく、企業のCSRレポートを読んで企業の社会的貢献を判断する時代になっている。雇用創出にCSRは欠かせなくなりつつある。そのほかにも社員が生き生きと働くことにより、多くのキャリアモデルを提起することになるし、良質な商品やサービスなどを通じて熱意や創造性を発揮できる。何より自分を高めたい、成長したいという社員の自己成長にもつながる。そして地域とも友好関係が結べる……その結果、従業員に自分の仕事が社会に役立ったという参画意識が生まれるのである。
誇りの文化が人材流出やモラルの低下を解決
人材の悩みは上場企業にもあるが、おそらく中小企業はもっと厳しいのではないかと思う。圧倒的な景気でまず人が採れない。人材の育成に悩んでいる。また離職率も高いなど、経営者の悩みはつきない。従業員政策は差し迫った要求である。
人材確保にCSRをうまく使うことを提案したい。従業員に実際に社会貢献を体験してもらう、するとスキルや経験が社会の役に立てるとわかる。自分がしたことでありがとうと言われて感動しない人はいない。仕事に対する誇りがこの会社で働きたいという誇りに変わり、従業員のモチベーションにつながる。
さらに、会社の風土をこのようにつくることで、不祥事が防げる。以前の“個人利得を狙う”目的の不祥事に対し、シンドラー、不二家、ミートホープなど近年における“会社利益を上げる”目的の不祥事は、対処が難しい。悪事を隠ぺいする風土をつくる、もしくは不祥事を起こしているのだが、本人はそう思っていない例がある。あるいはグレーゾーンを狙ってやってくる。こうした不祥事を防ぐには、「社会に貢献できない仕事は格好悪い」ことだという自浄作用的な企業風土をつくり、仕事や企業に対する誇りといった、ある種のプロフェッショナリズムをつくっていかない限り難しい。CSRを通じた“誇りの文化”の創出が大切なのである。
CSRとは、誇りである。
CSRを一言で表現するなら、“誇り”である。自分が住む都市に対する誇り、自分が人生をかけて培ってきたスキルに対する誇り、そして会社に対する誇り。それがCSRのあるべき姿だ。社会のためになる活動と企業の利益になる活動は、決して矛盾せず必ず両立できる。社員にとってよいこととは、単に給料を上げることではない。働きがい、やりがいをどうやって上げていくか。それにはやはり感動だ。自分のスキルや経験を使って社会にいいことをしたという感動が必要なのである。会社の顔が見え、感動を生み出せる活動とは何か。それぞれの企業に持ち帰り、考えてみてほしい。
- 期日:2007年7月12日(木)
- 会場:サンメッセ鳥栖
- 参加人数:約60名
- 主催:鳥栖青年会議所・経営資質向上委員会
- 講演:(株)クレイグ・コンサルティング代表取締役 小河光生氏
- 小河 光生 (おがわ みつお)
- クレイグ・コンサルティング 代表取締役
1964年東京生まれ。早稲田大学卒業後、大手自動車メーカーを経て、91年にピッツバーグ大学経営学修士(MBA)取得。同年、三和総合研究所に入社。00年にPwCコンサルティングに移籍。現在はIBMビジネスコンサルティングサービスパートナーおよびクレイグ・コンサルティング代表取締役。組織論・人材活性化論が専門分野。
おもな著書に『分社経営』(ダイヤモンド社)、『戦略コンサルタントビジネス・スキル・ブック』(東洋経済新報社)、『図解持株会社とグループ経営』(同)、『CSR 企業価値をどう高めるか』(日本経済新聞社=共著)など。
クレイグコンサルティング http://www.craig.co.jp






