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CSR研究の最前線

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行動基準にもとづくステークホルダー・エンゲージメント

1. ステークホルダー・エンゲージメントの必要性

企業の社会的責任(CSR)というと、日本では、これまで1970年代の公害問題や、1990年代のメセナ、フィランスロピーなどをテーマとし、日本経団連、経済同友会などを通して活発な議論がなされてきた。しかし、ここ数年で取り上げられているCSRは、欧州を中心に提唱されてきた概念であり、企業をとりまく消費者や従業員、地球環境など多様なステークホルダーを意識し、コンプライアンス(法令順守)、企業倫理、環境保全対策、コーポレートガバナンスなど、さまざまな対応まで含んでいることに、違い、特徴がある。

今日のCSRの推進においては、ステークホルダーとの対話、コミュニケーションを常に意識することが求められている。ここでは、ステークホルダーからの要請、期待、意見、評価などを確認するとともに、それらを企業経営に反映させることがきわめて重要となる。このように多様なステークホルダーを経営に参画させることをステークホルダー・エンゲージメントという。

世界的なCSRへの関心の高まりを受け、ISO(国際標準化機構)によるSR(社会的責任)規格化や、国連によるCSRガイドライン制定などの動きも進んでいる。特に、ISOによるSR規格では、人権、消費者課題、環境などを中心課題と位置づけ、ステークホルダー・エンゲージメントが中核を占めている。

今後のCSRでは、2010年9月にISOによるSR規格の発行を控え、多くの企業でその内容を認識、構築する段階から、ステークホルダー・エンゲージメントとして実践、定着する段階になってこよう。

2. ピラミッドのように長生きする企業に必要な行動基準

ステークホルダー・エンゲージメントの実践、定着では、CSR活動を担うすべての従業員の理解、行動が基本となる。ただし、トップ層から一般従業員に至るまで、CSRの意義をしっかりと、かつ広く共有するには至っていない企業が多いのが実情のようだ。これに対し、オムロンや資生堂のように、いくつかの企業では、コンプライアンスを超えてCSRを意識し、全従業員、グループ企業までをも対象に、具体的な行動基準、ガイドラインを制定している。

こうした実情を踏まえ、CSRイニシアチブ委員会では、多くの企業にとって指針となる行動基準のモデルを目指し、CSRの経営理念、行動憲章、行動基準からなる「CSRイニシアチブ」を制定した。ここでは、日本経団連の企業行動憲章、ILO(国際労働機関)の宣言、人権と労働に関する規格SA8000、コー円卓会議の企業行動指針、さらには上記のような他企業の行動基準など、既にある基準や指針も参考に作成した。

CSRイニシアチブによる行動基準は、コアステークホルダーとして①消費者、②取引先、③従業員、④株主・投資家、⑤地域社会・地球環境、マルチステークホルダーとして⑥競争会社、⑦マスメディア、⑧行政、⑨NPO/NGO、⑩国際社会を合わせた10のステークホルダーを対象とする。また、①法律を守るという「順法的責任」、②本来の機能をまっとうする「経済的責任」、③他者に迷惑をかけない「倫理的責任」、④社会にはたらきかける「社会貢献的責任」という4つの責任レベルを考慮している。

10のステークホルダーおよび4つの責任レベルに対応する40のマトリックスごとに想定される内容を整理した結果、全部で250のCSR行動基準を制定した。例えば、従業員の倫理的責任であれば、「個人の尊重、人権配慮」や「職場内のコミュニケーション、人間関係」など11の項目からなる。「職場内のコミュニケーション、人間関係」の場合、「経営者から率先して従業員にメッセージを流したり、対話を行ったりし、会社全体としてのコミュニケーションの活性化に努める。また、お互いの立場を尊重して相手を思いやる心を持てるような職場風土を形成する」と、その具体的な内容を紹介している。

社会の中で長生きし、存続していく企業にとって、理想とする経営理念を掲げているだけでは十分でない。企業行動レベルまで具体的かつ詳細に記述することで、経営トップから従業員までの価値観の共有化、ひいてはステークホルダー・エンゲージメント、CSRの実践につながる。エジプトにあるピラミッドのように、企業は、しっかりとベースとなる行動基準を積み上げ、その上に行動憲章や理念というものがあって、長い年月にわたって存在しつづける。CSRイニシアチブも、250の行動基準をベースとし、その頂点に経営理念を置いており、ピラミッドを意識した構成となっている。

なお、これらの詳細については、『CSRイニシアチブ』(水尾順一・田中宏司・清水正道・蟻生俊夫編、日本規格協会刊)を参照されたい。

3. 自社に合わせたCSRイニシアチブの活用

CSRイニシアチブは、250の行動基準をそのまま活用してもよいし、企業の扱う商品やサービスの形態、業種や現在の企業環境により、自社に合わせてカスタマイズを施してもよい。また、ここで取り上げたステークホルダーおよび責任レベルに該当するすべての行動基準を網羅的に対応しなければならないわけではない。例えば、ステークホルダーとして消費者、取引先、従業員の3つ、責任レベルとして順法的責任、経済的責任、倫理的責任の3つに限定した対応でもよいし、年ごとに新たな行動基準の目標を設定したり、段階的に拡大したりしてもよい。

さらに、中小企業になると、「人材が足りない」「内容がわからない」「必要性を感じない」「費用がない」「時間がない」といった「ない」ものばかりで、CSRの実践に尻込みしている企業も少なくないのが実情かもしれない。この場合、CSRイニシアチブに対応する企業事例からヒントを見つけることでも一歩前進となる。『やさしいCSRイニシアチブ』(水尾順一・清水正道・蟻生俊夫編、日本規格協会刊)には、53の企業の実践事例が掲載されている。必要に応じて、ステークホルダー・エンゲージメントへの取り組みの参考にすることで、このシリーズの前回に水尾順一氏(駿河台大学教授)が指摘したような、企業ごとに「身の丈にあったCSR」を実践する近道となろう。

写真 蟻生俊夫
蟻生 俊夫 (ありう としお)
(財)電力中央研究所社会経済研究所 上席研究員
白鴎大学経営学部 兼任講師
CSRイニシアチブ委員会 事務局長
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