「組織経営」の領域におけるCSR
私のCSR研究分野とする対象
企業体のみならず大学などの教育機関や福祉分野など対象は幅広く、かつ、リスクおよびリスクマネジメントの観点から、社会的責任(SR)を自らの研究分野の一つとして取り組んできている。
組織の社会的責任の領域には、組織の経営活動のあり方であり、社会的責任の基本領域とされる「組織経営」の領域と社会的事業活動や社会貢献活動からなる「社会的課題」の領域の二つがあるが、私が主として取り組んでいるのは「組織経営」の領域である。
私の研究の一端の紹介
企業などあらゆる組織体は、社会に有用であると認知されてこそ永続していける社会的存在である。社会に有用であると認知され続けていくためには、組織を取り巻く多様な利害関係者の期待に応え続けていかなければならないし、また社会の一員としての責任を果たしていかなければならない。期待に応え、責任を全うするベースになければならないものが「理念」である。
組織の持つ価値観の表明でもある「理念」こそ、多様な利害関係者と組織を結び付ける絆であり、組織価値の新たな創造や向上のベースとなるものでもある。「理念」の存在と「理念」の多様な利害関係者への浸透なくして社会的責任を履行していくことは到底出来得ない。
企業を含む組織体が悪質化したわけでもないのに、近時の内部告発の増加もあり「事件・不祥事」の類が2000年以降増加してきている現状にある。「事件・不祥事」は、人為的・意図的に発生させた出来事であり、一方「事故」は偶然・偶発的に発生した出来事であるとの認識がマスメディアをはじめとする多様な利害関係者に定着化してきている。法令違反行為のみを「事件・不祥事」ととらえる時代でもない。「事件・不祥事」に対する市場の評価や行政・司法の「事件・不祥事」対応も厳格化されてきている。
「事件・不祥事」を発生させないためにも、また各種リスクを発現させないためにも、「気配り・目配り」と組織内を含む多様な利害関係者との双方向の「コミュニケーション」がなければならない。これらが出来る組織風土が社会的責任履行活動の根底になければ、すべて絵に書いた餅になりかねない。「事件・不祥事」の発生のみならず「事故」発生時にも「危機管理」対応をしなければならない。多様な利害関係者への説明責任の履行や地域社会・住民などへのアフターケアも忘れてはならない。対応がまずければ、レピュテーション(評判)の低下や、ブランド価値の失墜も招致することになる。「報告」と「ケア」も重要である。
2006年5月に会社法が施行され、その後、金融商品取引法も施行され、大企業を中心に「内部統制」の構築・整備が進められてきている状況下にあるが、「内部統制」の構築・整備は、多様な利害関係者との良好な関係づくりや事件・不祥事が発生しないように予防・点検・自浄する体制(仕組み)と態勢づくりなどでもあることから、構築・整備しなければならないのは大企業のみではない。あらゆる組織体が構築・整備すべきことであるとの理解、認識がなければならない。また、「通報制度」の設置・運営も重要な内部統制の一つであることも忘れてはならない。
「ガバナンス(統治)」は、内部統制システムを監視する組織の最高意思決定機関を含む組織の運営を規律するための仕組みである。内部監査を含む監査のあり方も関係する。「ガバナンス」なくして「内部統制」は存し得ない。あらゆる組織体が「ガバナンス」のあり方にも目配り・気配りすることが、社会的責任の履行に必然である。
「内部統制」の構成要素に「コンプライアンス」と「リスクマネジメント」がある。「コンプライアンス」について、法令順守のみではないこと、行動憲章などを含む体制整備などが企業のみならずあらゆる組織体に浸透してきている現状にある。「コンプライアンス」は、組織価値の減少防止や、現状維持のみを目的としたものではない。リスク管理の一つの手段・ツールでもある。組織には常にリスク(不確実性)が存在していることを踏まえたうえで、組織内外の利害関係者とのコミュニケーションの充実と、リスク(不確実性)を極小化状態で発見していける態勢づくりをしていくことにより、より積極的に利害関係者の信頼を獲得し、組織価値を高めていくようにしなければならない。
「リスクマネジメント」について、予防的コントロールと事後的コントロールの二つからなる。事後的コントロールの手段が「クライシスマネジメント(危機管理)」であり、「クライシスマネジメント」は「リスクマネジメント」のOne Partであるとの認識と実践が求められる。組織を取り巻くリスク(不確実性)は、社会基盤にかかわる大きな問題・課題等、環境変化によっても変化していく。環境変化も組織にとってのリスクと捉え、迅速かつ適切な対応をしていかなければならない。日常の組織活動に伴って発生する可能性があるリスクでかつ重大な影響を及ぼすことになるリスクを「リスクマネジメント」の対象として捉え、実践していた時代から「組織の経営戦略にかかわるリスク」もマネジメントするトータルリスクマネジメントの実践に大きくシフトしている現状にある。社会的責任の観点からしても当然の流れである。
「苦情対応」もマネジメント対応しなければならないものである。リスクマネジメントの側面や顧客満足(CS)のみならず、今や利害関係者満足(SS)の側面も有している。苦情のない組織は存在しない。「苦情対応」のリスクマネジメントへの取り込み対応が遅れているように思う。ディフェンスではなくオフェンス機能を有することを忘れてはならない。最後に、私なりに考える社会的責任を果たしていくための組織の経営活動で実践していかなければならない対応の関係図を掲載する。参考にしていただきたい。
- 福田 隆 (ふくだ たかし)
- 1949年11月:兵庫県姫路市生まれ。
1972年3月:慶應義塾大学法学部政治学科卒業。
1972年4月:日産火災海上保険株式会社入社。
企業営業、国際部、ロスアンゼルス駐在を経て、1990年4月よりPL・PL予防対策を端緒に環境マネジメントシステムISO14001構築支援、セクハラを含む雇用問題、賠償責任リスク全般に関するコンサルティング業務並びにリスクマネジメント、苦情対応、危機管理、コンプライアンスリスク、CSRなどの研究、コンサルティング業務に従事。
2001年8月~:株式会社 損保ジャパン・リスクマネジメントに出向。
現在 株式会社 損保ジャパン・リスクマネジメント ERM研究開発部主席研究員
2007年6月~2008年6月:福井県立大学地域経済研究所客員研究員を兼任
[著作物]:
「コンプライアンスに関するコラム」 執筆(全国福祉協議会発行雑誌「経営協」2003年9月号)
「国際ビジネス法務室」創刊から終刊まで(2004年~2005年5回PLに関する記事の連載;第一法規)
「お客様の信頼獲得のための読本」編者兼著者、全国担い手育成総合支援協議会・(社)日本農業法人協会発行(2008年4月)
「組合員卸のためのコンプライアンス実践ガイドブック」編者兼著者、全国米穀販売事業共済協同組合発行(2008年4月)
「CSRイニシアチブ」水尾順一・田中宏司・清水正道・蟻生俊夫編、日本経営倫理学会CSRイニシアチブ委員会の委員として参画、執筆(日本規格協会2005年5月刊)
「経営倫理用語辞典」日本経営倫理学会編、学会員として執筆に参加(白桃書房2008年2月26日刊)
「やわらかい内部統制」水尾順一・田中宏司・池田耕一編、日本経営倫理学会CSRイニシアチブ委員会著の分担執筆(日本規格協会2007年3月刊)
「リスクマネジメント お客様取引と企業対応」編者及び共同執筆(第一法規、2007年11月、無料冊子として刊行)
「早分かりPLのすべて」 共著(日刊工業新聞社)
「PL予防対策入門講座(全1~4分冊)」 (工学研究社)
「製造物責任予防のための警告ラベル作成ハンドブック」 松本俊次監修・日産火災海上保険PLタスクフォースチーム編集代表(日刊工業新聞社)
「製造物責任予防のための実務マニュアル」 共著(アーバンプロデュース)
「食品の警告表示実例資料集」 共著(サイエンスフォーラム)
「PL対策マニュアル」 共同執筆(平成8年9月茨城県発行)
「無過失責任に基づくPL法理概観」 (慶応義塾大学保険研究2002年第54集)
「公民館における安全対策ハンドブック」執筆(2006年全国公民館連合会他)
「危機管理体制の構築について」(ミートジャーナル2005年8月号)
「少子化時代の私学経営(直面するリスクを乗り越えるために)」分担執筆(2006年3月、日本私立学校振興・共済事業団)
「食の安全・安心に応えるJAのリスクコミュニケーション」編集/執筆(2006年全国農業協同組合中央会)
他多数
[社外講師ほか]:
日本リスク研究学会正メンバーとして登録。
日本経営倫理学会正メンバーとして登録。
社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)正会員として登録、消費者関連法の自主研究会リーダー。
社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)研究所「製品誤使用防止プロジェクト」委員
公立大学法人大阪府立大学「国際的な産学官連携活動の体制整備に関わる検討委員会」委員(2006年12月~2008年3月)
経済産業省「適合性評価制度のあり方を検討する会」委員(2007年11月~2008年3月)
他多数






