CSR研究の最前線

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CSR経営

まずどこから取り組むか?

企業主導で自発的に、CSR経営のスタンス

ここ数年、私たちは記者会見の場で深々と頭を下げるトップの光景をたくさん見てきた。それこそギョーザから軍需品まで種類を問わず、である。なぜこのような事態が続くようになったのだろうか。社員のモラルやトップの人格の問題なのだろうか。

グローバル化の進展、組織や製品・サービス構造の複雑化、環境や安全・安心の水準向上、行政規制の緩和など多様な原因がその背景にあることを考えると、すべて人の問題に帰するわけにもいかない。罪を憎んで人を憎まず、と考えたい。とすれば、まじめに経営されている組織でも視界不良のため、思わぬ「失敗の可能性」がある時代なのだ。では、失敗しない経営の仕組みをどう作るべきか。

それが3年前、CSRイニシアチブ委員会を発足させた私たちの願いであった。そして、行政指導や外圧によるのではなく、また義務感、やらされ感でもなく、自ら主導し、自発的に(すなわちイニシアチブを発揮して)信頼される経営を確立しようとする努力によってこそ、企業経営を安定させ、企業価値を向上させていく道も開かれる、と確信できた。

そのための方策を、53事例と併せて『やさしいCSRイニシアチブ』(日本規格協会刊)で紹介したつもりだが、まだ戸惑いの声も聞かれるし、法律さえ守ればよいと言うトップもいる。CSRを小手先の対策にしてしまうと、思わぬ落とし穴がある。

CSRを経営活動としてとらえ、CSR経営に不可欠のコミュニケーション活動の効果的な進め方について触れてみたい。

CSR経営に取り組む際の4つの障害

CSR経営の難しさとは何だろうか。ISOなどでの議論を参考にして整理してみると、第一に、具体的な製品やサービスと異なり、組織統治や人権、公正な事業慣行、社会開発など理解しづらい領域が経営対象であること、第二に、それらの考え方や基準は地域や国あるいは人によっても違いがあり何が正しいかを決めにくいこと、第三に、CSR経営に取り組む手間やコストは明確になっても「その成果はこれです」と目の前で見せるのが難しいこと、第四に、抽象的でその是非や効果が不確実である上に、教育や啓発、直接対話など多様なコミュニケーション活動を通じて伝えていかなければならないことである。

さらに困ったことに、コミュニケーションについて誰もが「話せばよい」くらいにしか理解していないことである。一方的に言うだけだったら簡単でも、相手の納得や協力までを望むのはなかなか難しいことである。筆者自身、ある日企業と連携するNPO幹部が、別の大企業の「製品不買運動をしたい」と吐き捨てるように言った言葉にウーンと腕を組んだくらいである。

経営学者ドラッカーは、『すでに起こった未来』という本の中で「コミュニケーションは、受け手の願望・価値観・目的に合致すれば強力になるが、もし合致しなければ、まったく受け入れられないか、せいぜい抵抗されるだけである」と喝破している。この見解の前提は企業内コミュニケーションなのだから、そもそも価値観の違うNPOやNGOであれば、なおさら難しいと考えておいた方がよい。

これらのことが、ある程度CSRについて理解しても、CSR経営として本格的に取り組むことをちゅうちょする原因となる。トップの迷いも宜(むべ)なるかな、である。

CSR経営のスタートラインはコミュニケーションから

では、どこから手を着ければよいのか。まず言葉の概念を広げてみたい。CSRを「社会的な信頼向上」と翻訳すれば、社会的責任という言葉の受け身的な感覚が、企業イメージの向上や取引の拡大を図るベクトルに転換される。CSR経営では、経営の軸を時間的にも空間的にも拡大して考えてみることが、効果的な取り組みにつながる。

次にトップ自身が経営に関係する大事な人たちを具体的に想定してみたい。たとえば単に従業員とするのではなく、20代後半の総合職女性社員などと具体的に設定してみよう。対象者(受け手)を絞り込めば、対象者の願望・価値観・目的も明確にすることができる。

コミュニケーションはそこからようやく始まるのであり、双方向コミュニケーションの成立による頻繁な意見交換こそが、そこにひとつの社会が誕生したことを意味し、社会の信頼を高めていくCSR経営もスタートするのである。

日本のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は十数年かけて女性社員の割合を部長相当職26%、役員相当職16%にまで上げてきた(2007年6月現在)が、さらに昨年、仕事や子育てのカウンセリングセンターを立ち上げ地域住民にも開放した。「自社のためが世間のため」という施策である。社会的にも有用な活動は、もちろんマスコミでも大きく取り上げられた。

世間価値の向上はいずれ企業価値向上となるだろう。信頼が時間的にも空間的にも広がったのである。

写真 清水正道
清水 正道 (しみず まさみち)
淑徳大学 国際コミュニケーション学部 教授
富国生命保険相互会社、社団法人日本能率協会を経て、
2002年4月淑徳大学 国際コミュニケーション学部 助教授。
2005年4月より現職。
日本広報学会理事、日本経営倫理学会 CSRイニシアチブ委員会副代表を務める傍ら地域活動も主宰。
主な著書に『やさしいCSRイニシアチブ』(日本規格協会=共編著)、『CSRイニシアチブ』(日本規格協会=共著)、『CSRマネジメント』(生産性出版=共著)、『コーポレート・コミュニケーション戦略』(同友館=共著)など。
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