市民、企業、国の社会責任
ISO26000の第4次文書より
社会的責任(以下、SR)のISO規格であるISO26000の第4次文書が、2008年6月2日に公表された。2010年には発効となる見通しである。SRの定義については、次のようになっている。
組織の決定と活動の社会と環境に与える影響に関する責任であり、次のような透明で倫理的な行動を通じたもの
- 持続可能な発展、健康および社会の福利に貢献し、
- ステークホルダーの期待を考慮し、
- 適用される法令を順守し、国際的な規範と一致し、
- 組織全体を通じて統合され、組織の関係の中で実践される
ISO26000は企業だけでなく、さまざまな組織に適用される点がポイントであるが、SRは目的ではなく、自然環境と社会のサステナビリティのための活動であり、また、ステークホルダーからの要請や期待に誠実に応えるものということができる。
市民(個人)、企業、国のSR
サブプライム問題以降、米国の不況、原油の高騰などにより日本企業のかじ取りは難しくなり、また、食料問題、環境問題など、人類の生存も予断を許さない。ISOが企業だけでなく、さまざまな組織を対象にSRのガイダンスを提示するのは、地球全体のサステナビリティを考える上で、当然のことであろう。さらに言えば、私たち一人ひとりの市民(個人)のSR(Citizens’ Social Responsibility)も問われている。
“個人としていかに活きるかが、やがて国家としていかに活きるかを決めることになる”……企業もまた、個人個人のふるまいが組織の力を作る鍵となります……
『アメリカの心―GRAY MATTER―全米を動かした75のメッセージ』(学生社、1988年1月9刷)の巻頭のメッセージは、このように語りかけている。米国の総合電機コングロマリットであるユナイテッド・テクノロジーズによるウォールストリート・ジャーナルでの人生を語った連載は、すぐれた企業コミュニケーション/アドボカシー広告として知られているものであるが、上記の2行は、基本に個人を置き、企業/組織、そして国家までのまさにSRを論じたものである。市民(個人)の倫理とは思いやりやLOHASといった生き方や考え方、社会人としてのマナーなどがあげられよう。
非加熱製剤によるHIV感染やアスベストが大きな社会問題となっているが、企業の責任以前に国/官(行政)の責任が問われるべきであろう。改正建築基準法や改正貸金業法などによる官製(行政)不況が指摘されている。環境政策はもとより、規制であれ規制緩和であれ国/官(行政)のSRは重い。
市民(個人)、企業をはじめとする組織、国/官(行政)、それぞれの主体的/自主的なSRと、これらステークホルダー間の対話と協働がなければ、サステナビリティは実現され得ない。このようなマルチステークホルダーが、社会と環境のあり方を真摯に熟慮し行動するにあたって、ISO26000の発効は実に時宜を得たものと思われる。
CSRの三つの柱
SR論を牽引(けんいん)してきたCSRには、なお一層、その充実と進化が迫られている。ISO26000のSRの中心課題は、組織の統治、人権、労働慣行、環境、公正取引、消費者問題、コミュニティ参画と開発の7項目となっているが、特にCSRには、CSRを確かなものにして推進していく三つの大きな柱があげられる。
最も重要なのは、経営トップの意思である。経営トップの意思が本物であれば、その企業のCSRは本物である。
第2は、マネジメント・システムであり、コンプライアンスや環境経営、ワークライフバランスの人事施策などが求められる。内部相談/通報制度を活用したら不利益を被った、あるいは育児休暇を申請したら上司や周囲に批難されたという事例もある。形式を整えるだけでなく、実体が伴い、魂がこもっていなければならない。
第3が、組織末端までの、社員一人ひとりへのサステナビリティへの良識と実践の浸透/定着である。誠実な経営風土/組織体質を醸成し、CSRのDNAを培い次世代に伝えていくには、創意工夫された教育研修とコミュニケーション活動が欠かせない。企業社会責任フォーラムでは、サステナビリティCSR検定(http://www.csr-forum.gr.jp/)を主宰し、企業には団体受験を提案している。
公(Public)を担うCSRへ
地球温暖化対策/CO2削減では、原単位ではなく総量削減を打ち出している企業や超長期の目標を設定している企業、ダイバーシティ/ワークライフバランスの施策として女性管理職/役員登用の数値目標を掲げ、男性の育児休暇を奨励している企業などは、いずれも上記三つの柱がしっかりとしていて、経営トップのリーダーシップ/コミットメントに基づき、CSRに誠実に先進的に取り組んでいると高く評価できる。
企業の影響力が巨大になり、グローバルな金融資本主義が株価、為替、エネルギー、資源、食料を翻弄(ほんろう)している。資本主義経済のあり方、企業の存在意義も問われている。サステナビリティという公益のための資本主義経済、広くステークホルダーのための企業でなければならないであろう。松下幸之助氏はかつて「営利と社会正義の調和」を唱えた。企業には内向きの発想ではなく、さらに積極的に公(Public)の領域を市民(個人)、NPO/NGO、国/官(行政)と協働して担っていくというSRの自覚と役割が期待される。
- 阿部 博人 (あべ ひろと)
- 1982年北海道大学法学部を卒業し、同年(財)松下政経塾に第4期生として入塾し松下幸之助翁に経営を学ぶ。1985年同修塾後、経営コンサルティング会社等を経て2002年にコンプライアンス、環境問題、消費者問題、フィランソロピー等のCSRの研究者/実務家とNPO法人企業社会責任フォーラムを設立。CSRに関するシンポジウムのほかHSR(病院の社会責任)研究会等を開催し2008年3月よりサステナビリティCSR検定を実施。また2007年10月より公共ファイナンス研究会の共同代表として自治体の公会計整備、資産活用等の啓発にもあたっている。著書に『松下幸之助の実学』(廣済堂出版)、『君子財を愛すこれを取るに道あり』(致知出版)、『南方熊楠を知っていますか?』(サンマーク出版)、『教師のためのコンプライアンス読本』(栄光)等がある。






