身の丈にあったCSR
"CSRイニシアチブ"から
1. CSRの潮流
企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)への取り組みが進んでいるといわれるが、現実は巨大企業といわれる著名な会社がその中心であり、他の公開企業や中小企業も含めて多くの企業が、実際にCSRに取り組む上での羅針盤を求めて模索しているのが実情である。
すでにわれわれCSRイニシアチブ委員会は2005年に、CSRの実践に取り組むためのCSR経営理念・行動憲章・行動基準をCSRイニシアチブとして、日本も含めて広く海外まで発信してきた。CSRイニシアチブの発表から2年が経過したが、その間、CSRイニシアチブを実践すべく、具体的な取り組み事例を教えてほしいと言う声が多く寄せられている。このような背景からCSR委員会では、2007年秋に『やさしいCSRイニシアチブ』を日本規格協会から発刊した。
さらに、今回このサイトを通じてそのような社会からの要請に対応し、産業界に多少なりとも貢献することも、われわれ委員会の社会的責任として考え、委員会のメンバーが順次交替で執筆する予定である。
2. CSRイニシアチブの新しい定義
ここで、本サイトでの執筆に当たって述べておくべき重要な事項がある。それは、設立当初のCSRイニシアチブにおけるCSRの定義に対し、現在検討中のISOの動きや時代の要請にあわせて2007年秋に若干加筆修正したことである。
その改訂のポイントは①持続可能性、②トリプルボトムライン、③マルチ・ステークホルダー(多様な利害関係者)のエンゲージメント(参画)を組みこんだことであり、その結果、CSRを下記のように定義した。
「CSRとは、企業と社会の持続可能な発展を促進することを目的として、不祥事の発生を未然に防ぐとともに、トリプルボトムラインと称される経済・環境・社会に対して積極的に貢献していくために、マルチ・ステークホルダーのエンゲージメントを通じて、共に進める制度的義務と主体的取り組みの責任」
CSRの定義はグローバルコンパクトやGRI、日本経団連など国内外のさまざまな団体や組織から出されておりその内容もさまざまである。それは、組織のコンセプトや目指すところの相違であることから一律に規定されるものではない。その意味からCSRイニシアチブ委員会では、多様な組織や団体での活用を意図して世界の標準的な概念を中心に規定したものであることから、取り組み企業の財やサービスの形態、また業種や現在の企業環境により、自社にあわせた加筆・修正が必要かもしれない。その点は考慮願いたい。
3. 身の丈にあったCSR
CSRは、その定義にもあるとおり「持続可能性」は重要な概念である。この点から考えれば、法的責任にかかわるコンプライアンスは、組織の持続可能性の大前提であり、しかもトリプルボトムラインの根底を流れる重要な要素でもある。
もちろん売り上げや利益が企業の経済的責任として重要であるのは言うまでもない。しかし、そのために何をしてもいいというのではない。たとえば社員に対しては、セクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなどは論外のことであり、消費者には安全・安心の消費者重視の経営、株主には有価証券報告書の偽装の問題など、多くの領域でコンプライアンスはきわめて重要な領域である。
そこに、コンプライアンスがCSRのプラットホームといわれるゆえんがある。その上で経済的責任や倫理的責任、社会貢献的責任がある(当CSRサイトhttp://www.nikkei.co.jp/csr/pdf/enquiry/enquiry_n_csr_report01.pdfを参照)。
しかし、次のようなCSRに対する誤解とも受け取れる発言があるのも事実だ。「うちの会社はCSRなんてとても。まだまだそんなレベルの会社じゃないよ」とか、「CSRはそのうちブームで終わるよ」いう発言である。
これはCSRを社会貢献活動だと考えているために出てくる発言で、重大な誤解である。つまり、CSRとは、企業の社会的責任として下から積み上げた活動全体、つまり法的責任と経済的責任からの積み重ねを指すのであって、最上位の社会貢献的責任だけを指すのではない。
くどいようだが、法的責任をおろそかにして社会貢献活動に取り組んでも、まったく無意味である。なぜなら、企業が不祥事を起こせばすべてが水泡に帰すことになり、法的責任がきちんと実施されてこそ、他の責任が生きてくるからだ。
ただし、企業の置かれた環境や状態に合ったCSRはあってもいいのであって、身の丈にあったCSRが重要なのである。不祥事を起こした企業は、まずはコンプライアンスであり、法的責任を果たすことが取り組むべきCSRと言える。
また、創業間もない企業であれば、その発展過程においては、コンプライアンスと経済的責任だけでも良い。そして、自社は環境問題に貢献したいという企業であれば、両者に加えてチーム・マイナス6%への取り組みだけでもかまわないのである。
また、CSR活動は企業規模の大小に関係ない。中小企業の場合には、「まずはコンプライアンスがわが社のCSRである」といってもおかしくはない。あるいは(コンプライアンスは当然のこととして)、地域の清掃活動に率先して取り組むなど、地元密着経営で地域に貢献することがわが社のCSRであるという企業もあって良い。要は企業の置かれた環境を踏まえて、身の丈にあったCSRが重要なのである。
(参考)
- 水尾順一・清水正道・田中宏司・池田耕一編著『やさしいCSRイニシアチブ』日本規格協会刊、2007年9月
- 水尾 順一 (みずお じゅんいち)
- 駿河台大学経済学部教授・博士(経営学)
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