これまでのビジネスモデルでいいのか?
地球の存続とCSR
加速するバスは後戻りできない
「みなさん想像してみてください。このバスには私たちを含めて、63億の人が乗っています。このバスは加速して、だんだんスピードを上げています。その道には急ブレーキをかけても止まれない、後戻りできない地点があります。バスがその地点をすでに通過しているか、あるいはそれはもっと先なのか、考えてみてください。そして、それがいつごろなのか、数字を書いてみてください。すでに通過している場合は、マイナス何年、これから先であれば、プラス何年と書いてください。」
先日行われたある経営関連の学会で、ニューヨーク州にあるフォーダム大学のジム・ストナー教授は講演の開口一番、このように語りかけた。この問いに対して、会場からはマイナス200年からプラス無限大まで、さまざまな回答が寄せられた。マイナス200年は、産業革命によりかなり前にこの地点を通過したという悲観的な考えであり、プラス無限大は、人類の英知を集めて技術革新を行えば、この地点の通過を無限に遅らせることができる、という楽観的な考えである。そこで私が出した答えは「ゼロ」である。つまり、今、この時点でここを通過している、通過しつつある、という気持ちが沸き起こったからである。今なら何かできる、今こそ何かするべきときである・・・・・・という直感である。
持続可能な「開発」や「成長」でいいのか?
かなり前になるが、かつて同時通訳をしていたときに、多くの環境関連の会議に携わった。そこでは、「持続可能な開発(sustainable development)」(1987年、ブラントランド委員会)や「持続可能な成長(sustainable growth)」という基本的理念を繰り返し耳にしてきた。当時の自分にとっては、このsustainability(持続可能性)という言葉は新鮮であったが、今、考えるに、そのような環境会議においても、「開発」や「成長」は当然のこととして受け入れられ、それを持続可能なものにするべきであるという論点であった、ということである。しかし、今回、友人であるストナー教授と夕食を共にして語り合ったとき、このgrowthやdevelopmentということさえも再考するときが来たのでは、とピンと来るものがあった。つまり、我々人類は常に開発を続け、成長を続けるべきである、という考えそのものを問い直す必要性である。
旧来のビジネスモデルの見直し
我々は成長を前提とする旧来のビジネスモデルを当然のこととして受け入れ、企業も社会もその基盤の上に成り立っているのである。また私を含め、経営学者は、このような旧来のビジネスモデルを学生たちに教え、そのビジネスモデルのもとにいかに効率よく仕事をするか、いかに生産性を上げるかを模索し、研究している。グローバル経営において、多様な文化的背景を持つ人々と協働することを意味する異文化経営や、多様な属性の人々を活用するダイバーシティ・マネジメントといった比較的新しいマネジメントのあり方も、このビジネスモデルの枠組みを超えるものではない。また最近、日本でも盛んに謳(うた)われているワークライフバランスでさえ、旧来のビジネスモデルを踏襲していると言っても過言ではない。これでは、先ほど述べたバスが、いずれ後戻りできない地点を通過することは間違いない。そこで、これまでのビジネスモデル、すなわち、経済は拡大し続け、主たるプレイヤーは変わってくるとしても、地球全体としては市場が大きくなっていくという消費拡大型のパラダイムをここで見直し、大きくシフトさせる必要性があるのではないだろうか。
少子高齢化はチャンス
このように考えた場合、日本で最大の問題の一つと言われている「少子高齢化」でさえ、問題というよりはチャンスということもできるだろう。チャンスというよりもむしろ、歓迎するべきこと、とまで言い切ることもできるかもしれない。つまり、旧来のパラダイムでは少子高齢化は憂える事態であるが、地球の持続可能性という意味においては、喜ぶべきことなのかもしれない。ということは、少子高齢化の最先端を走っている日本ができることは、人口が減少し高齢化しても輝きを失わない国としての仕組みや制度を整備していくことではないだろうか。その努力を通じて、地球の存続に寄与する新たなビジネスモデルを構築し、世界の範となることができるのではないだろうか。“ゼロ地点”を通過中の我々にとってCSRの真骨頂はここにあると思う。
- 馬越 恵美子 (まごし えみこ)
- 桜美林大学経済経営学系教授、筑波大学客員教授、異文化経営学会会長
上智大学を卒業し、慶応大学大学院で経済学修士課程終了後、異文化経営論の博士号を取得。NHKラジオの講師として、“えみりん先生”のニックネームで全国のリスナーに親しまれている。
現職のほか、桜美林大学アビエーションマネジメント学類長、東京都労働委員会公益委員、国際ビジネス研究学会理事、日本経営倫理学会理事、エイ・エフ・エス日本協会理事、日米協会評議員、戦略経営協会評議員、国際教育振興会評議員、経営関連学会協議会評議員を務め、講演や執筆活動を幅広く行っている。最近では「笑凛(えみりん)亭えみりん」として英語落語にもチャレンジ。
主な著書に、『異文化経営論の展開』(学文社、2000)、『心根(マインドウェア)の経営学』(新評論、2000)、(DHC、2003)、『NHKラジオ・ビジネス英会話・土曜サロン・ベストセレクション基礎編』(DHC、2004)『NHKラジオ・ものしり英語塾・はじめての英字新聞』(DHC、2007)などがある。
http://www.emagoshi.com






