第112回 山形実食編(下) 何はなくとも皿にはサラミ

特別編集委員 野瀬泰申


 真夏の暑さの中で芋煮に挑んだ前回に続き、今回は山形実食編の後半戦です。東根から橋を渡り河北町谷地へ、ご当地グルメの冷たい肉そばなどを堪能するうち、山形県とサラミののっぴきならない関係が判明してきたのです…。
 今週のおかわりは、今週末の11月2日(土)3日(日)に青森県十和田市で開催される「ご当地グルメ博in十和田〜けっして争わないバラ戦争〜」についてデスクがご紹介します。あわせてご覧ください。
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冷やしシャンプーの自動販売機を発見
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冷やしシャンプーの自動販売機を発見

 お昼を過ぎたところで一旦カラハシさんと別れ、西に向かった。東根市を出て最上川を渡れば河北町。町はちょうど「谷地(やち)どんがまつり」の中日である。

 町役場で「かほく冷たい肉そば研究会」事務局長の逸見さんと合流することになっている。その辺を歩いていたら、動物園があった。役場の隣が動物園。きっと昔の町長さんが、地域の子どもたちのことを思って作ったのだろう。

 でも、檻の中のキツネは暑そうであった。寝ているというより、寝込んでいるように見えた。

冷たい肉そば
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冷たい肉そば

 逸見さんがやって来た。合流した私たちは逸見さんの車で「一寸亭(ちょっとてい)本店」に行った。私は再訪であるがデスクは初めて。外に並んで待っている間も、これから始まる実食に鼻の孔を膨らませている。期待はもっと膨らんでいることであろう。

 名前を呼ばれて広い店内に入り「冷たい肉そば」と「肉中華」を注文した。私は芋煮カレーうどんで満腹だったので、冷たい肉そばの味を確認した程度。でもデスクは相当な勢いで食べていた。

 デスク、美味しかった?

どんどん焼き
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どんどん焼き

デスク ちょー美味しかった! 冷たい肉そば、肉中華は僕の大好物なんです。普段から会社近くの河北町ゆかりのお店でよく食べます。でも、やっぱり本場に来ると美味しさもひとしおで、一気に飲み干してしまいました。

 店を出て街中に戻り、お祭り見物である。雅楽の奉納をちら見し、露店が並ぶ通りを行く。山形の祭りに欠かせない「どんどん焼き」の店があった。

 鉄板に小麦粉をクレープ状に広げ、ソースで軽く味付けする。焼けたら極薄魚肉ソーセージと海苔が表面に出るようにクルクルと箸で巻き取る。手品のような素早さで焼いていた。弘前の祭りでも似たものを見たが、あちらは「箸巻き」と呼んでいた。

山車の日本舞踊
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山車の日本舞踊

 街中一帯が賑やかである。ウキウキした気分が満ちている。

 トラックの荷台を舞台に仕立てた「山車」が次々にやって来る。どの山車も日本舞踊である。お師匠さんクラスから初心者らしい小学生まで、美しい着物姿で舞い踊る。

「晴れの舞台で踊る我が子が見たくて、女の子に踊りを習わせる親が多いんです」と地元の人が言っていた。そうなんだ。

 昼下がり。炎天。汗。となれば温泉。

トラックの荷台が舞台になる
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トラックの荷台が舞台になる

 逸見さんが言う。

「温泉に行くんですよね」

「もち」

「では送りましょう。後で迎えに来ます」

「わーい、わーい」

 ということで「ひなの湯」に行く。入場料200円の日帰り温泉である。ここも私にとっては再訪となる。

朝食のイナゴ
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朝食のイナゴ

 山形県にはいたるところにこのような温泉がある。県民のほとんどが車にお風呂セットを積んでいるというが、嘘ではなかろう。

 湯上りに温泉の売店をのぞく。「にしんの昆布巻」「鯉の甘煮」を売っている。これもまた山形の食卓に欠かせないものである。あと「イナゴ」もね。イナゴと言えば東根温泉の旅館の朝食に出た。奥さんが自分で捕って調理したものである。外側がパリッとしていて、外で売っているものとは大いに違った。

肉のアケビの皮巻き
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肉のアケビの皮巻き

 思い切って食べたら針金のようになった「足」が歯茎に刺さった。出血した。

 そうこうするうちに逸見さんが迎えに来てくれた。「そば研」の皆さんと飲むのである。1年ぶりの再会になる。

 会場は立派な日本料理の店であった。いろいろな料理が出たが、特筆すべきは「アケビ」である。普通、アケビは中の甘いところを食べて皮は捨てるのに、山形では反対。皮だけを料理に使う。その夜出たのはアケビの皮で豚肉を巻いたものだった。これは美味かった。

やはり漬物が美味しい
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やはり漬物が美味しい

 座は猛烈に盛り上がった。爆笑に次ぐ爆笑であった。

 なんで盛り上がったかと言うと、いろんな話で盛り上がったのである。要するに秘密。

 夜も更けてさくらんぼ東根駅そばのホテルに倒れ込む。シングルなのでデスクを呪わずに眠れるのがありがたかった。

 翌朝、朝食を急いで済ませ、カラハシさんの車に乗り込む。本日は庄内地方に行き、庄内空港から東京に戻る。途中、いろいろ見て回ることになっている。

週末びっくり市
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週末びっくり市

 最初に向かったのは寒河江市の「週末びっくり市」である。イベント会場ではない。これが食品スーパーの名前である。正式には野川食肉食品センターで本社は天童市にある。

 名前の通り店が開くのは金土日の週末だけ。平日はお休み。

 寒河江店では本社商品部の林俊康さんが待っていてくれた。

 ちょうど芋煮会のシーズンだったので、お肉売り場には芋煮会好適商品が並ぶ。芋煮セットを売っており、鍋の貸し出しもする。

「いもじい」と「いもにい」
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「いもじい」と「いもにい」

 芋煮コンセルジュは「いもじい」と「いもにい」である。笑えるなあ。

 本編でカラハシさんのメールにあったようにうどん、冷麦、中華麺が山になっていた。そばはない。山形県民のうどん好きは真実である。

 サバの水煮缶も山になっている。ナショナルブランドのメーカーの商品ながら、東京のスーパーでは見かけないものがある。山形向けの特別商品かと思われる。

 山形でも水煮缶を煮物に使うし「ひっぱりうどん」は納豆や水煮缶が入ったつゆで食べる。山形における水煮缶の存在感は他県の比ではない。

ぐるぐる巻きのサラミ
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ぐるぐる巻きのサラミ

 林さんが「ちょっと来てください」と言って、ある売り場に誘った。そこには「サラミ」が積まれていた。

「山形県民は多分、日本で一番サラミを食べると思います。こんなのも売れるんですよ」

 そこには伸ばせば1メートルにはなろうかというぐるぐる巻きのサラミがあった。

 そうか。前日の芋煮会のテントの下で回ってきた小皿には確かにサラミがあった。ビールのおつまみの一つとしか思っていなかったが、実はそんな背景があったのか。

引き摺りうどんが入った「やまがたグル麺セット」
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引き摺りうどんが入った「やまがたグル麺セット」

 勉強になるなあ。

 さらに車を走らせる。西川町に入った。国道沿いの玉谷製麺所に寄る。玉谷信義社長と話をする中で知ったことがある。「ひっぱりうどん」は山形県村山地方の食べ物だが、他県の業者が「ひっぱりうどん」の商標を取得しているのだという。

 玉谷製麺所では仕方なく「引摺うどん」の名前で売っている。

「県内にはロイヤリティーを払って、ひっぱりうどんと言って売っている方もいます」

麦切
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麦切

 山形の食べ物の名前を山形の業者が自由に使えないとは、どうなっているのか。苦い思いでその話を聞いていた。

 ついでながら庄内地方には「麦切り」といううどんがある。文字通り小麦を伸ばして切ったものである。これは必ず冷たくし、ざるうどんとして食べる。夏の山形の風物詩である。

 うどんは古く「切麦」と呼んだが、「麦切り」も同じ意味である。

 車は月山を越えて庄内に入った。庄内は芋煮ですら中央部と異なっている。海が近いので鯉の旨煮とかカスベ(干したガンギエイ)とか身欠きニシンなどは姿を消す。

 酒田にやって来た。この町のワンタンメンを食べたかったのである。老舗として知られる「満月」に行くと、お昼過ぎなのに行列である。炎天下に並ぶ。

野瀬が食べた普通のワンタンメン
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野瀬が食べた普通のワンタンメン

 といっても行列のはけは意外に速くて、それほど待たされることもなく店内へ。私は普通のワンタンメン。カラハシさんはワンタンメン(麺半分)。デスクはこってりだかピリ辛だか、一ひねりしたワンタンメンを注文した。

 ワンタンは透けて見えるような薄さである。ツルツルのツルツルと入っていく。『麺の甲子園』で椎名誠さんが絶賛したのもうなずける。

 さてスープである。カツオに昆布に各種節(ふし)であろう。魚介のうま味が押してくる。といっても無理押しではなく、程がちょうど良い。

超薄皮のワンタン
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超薄皮のワンタン

 完食した。スープも半分は飲んだ。

 デスクの感想も聞いておこう。

デスク 板そばから始まり「山形は普通盛りでも量が多い」ということが身に染みていたので、麺とワンタンのダブルコナモンパンチを予想していたのですが、ペロっといけちゃいましたね。スープもあっさり、量もあっさりという感じでした。

 食べ終わると飛行機の時間まで観光である。老舗の喫茶店でコーヒーを飲んで「山居(さんきょ)倉庫」を訪ねた。江戸時代から戦前まで最上川の水運で上流の米が酒田に集まった。その米を検査し保管するための巨大な倉庫群である。

山居倉庫のけやき並木
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山居倉庫のけやき並木

 米を運んだ川舟が陳列されている。相当に大きなものである。

 倉庫のそばには日差しを遮るためのケヤキ並木がある。その陰の下を歩けば涼風が渡る。

 この倉庫は観光施設である同時に、いまもJA山形が運営する現役の倉庫なのである。

 資料館なども含めて一通り見て回った後、売店で山形の米「つや姫」の3合入りを買う。カラハシさんが絶対の自信を持って進める米である。

つや姫
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つや姫

「もうその美味さは○○の比ではありません。冷めても美味いんです」

「そうなんですか。東京では簡単には手に入りません。それは楽しみですね」

 おっと、そろそろ空港に行かねば。

 庄内空港でカラハシさんと握手を交わして、帰途に就いた。

 東京に戻った翌朝、さっそくつや姫を炊いてみた。

 カラハシさん、あなたが仰った通りでした。実に実にいいご飯が炊けました。

 本当に何から何までありがとうございました。またお目にかかりましょう。

(特別編集委員 野瀬泰申)

★番外編はご当地グルメで十和田の秋満喫〜けっして争わないバラ戦争です。ぜひお読みください。

実食編(上) 「すだまり氷」に青くなる

山形県編(その1) 「冷やし中華」「冷たい中華」の違いを述べよ

山形県編(その2) 麦茶に砂糖、トマトに砂糖

山形県編(その3) じんだん? 仁丹とちゃうの?

山形県編(その4) 酒田のワンタンに「くりびってんぎょう」


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2012年11月2日

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