番外編 「おきゃく」精神が隠し味 高知「土佐の豊穣祭」現地リポート(一芸)


 

ご当地グルメの夜明けは近いぜよ
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ご当地グルメの夜明けは近いぜよ

 先月、番外編でお知らせした高知の「土佐の豊穣祭」。9月末から11月はじめにかけて、県内各地で食に関するイベントが実施されています。最大規模となる高知市会場の催しは10月1日から3日までと聞き、昨年の高知実食編を骨折のためキャンセルした野瀬特別編集委員に、ここでリベンジをしてはどうか、と提案しておりました。

 大乗り気で旅行計画を立て始め、これを食べよう、あれを飲もうと盛り上がってきたそのとき、背後から「ダース・ベーダーのマーチ」とともにデスクの足音が近づいてきました。

デスク 愛媛県実食編の原稿はできたんですよね?

 この一言に、野瀬特編の骨ではなく心が折れる「ボキッ」という音が自分にも聞こえたような気がしました。そして今回もまた、自分の高知単独行となった次第であります。


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ツガニの身が存在感を発揮
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ツガニの身が存在感を発揮

 とにもかくにも、1年ぶりの高知にやってきました。空港からバスで高知市街へ。まずは高知駅前の「こうち旅広場」で開かれているご当地グルメ屋台村をのぞいてみます。ここで少し遅めの朝ご飯を食べようという計画。

 ダシのいい香りに引き寄せられたのは四万十市の「ツガニうどん」。上海ガニに似たツガニ(モクズガニ)を殻ごとくだいてうどんにのせた一品です。もともと大きなカニではなく、それを細かくしているにもかかわらず、見た目でも香りでも、そして味でも強烈な存在感を発揮しています。スープがわりにするりと平らげました。

究極のミスマッチ、カツオたたきバーガー
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究極のミスマッチ、カツオたたきバーガー

 スープをいただいたらパンだろう、ということで次はカツオたたきバーガー。カツオのたたきをパンではさむというアバンギャルドなメニューを2009年に考案したのが、黒潮町にある県立大方高校の生徒たちでした。

 さすがの自分も「パンにカツオのたたきはないだろう、これだからゆとり世代は……」などと思いつつ一口かじると、これが驚きのうまさ。タタキにしてあることで生魚とパンとが抵抗感なく結びつけられ、そこにマヨネーズ風味のソースがからみつきます。意外性の塊ではありますが、生の魚とパン、という組み合わせはベーグルにサーモンをはさむように、全くないわけではありません。そういえば「カツオにマヨネーズ」もマンガ「美味しんぼ」第3巻に登場しています。

 この日も平成生まれの高校生たちが元気に地元の味をPRしていました。高知の高校生、というと「侍ジャイアンツ」の番場蛮や「ドカベン」の土佐丸高校を想像しがちな昭和生まれの自分のほうが、よほど「ゆとり」だと反省した次第であります。

大人気のペラ焼き。じゃこてんはあらかじめ細かく切っておく
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大人気のペラ焼き。じゃこてんはあらかじめ細かく切っておく

 ふと気がつくと、長い行列のできている屋台がありました。土佐清水市の「ペラ焼き」です。ネギ、卵、細かく切ったじゃこてんを混ぜたシンプルなお好み焼きで、薄く作ることからこの呼称が定着。辛口ソースで味をつけるのが特徴なのだとか。食べてみると、じゃこてんの食べ応えと辛口ソースのアクセントが小麦のうまさを引き立てています。

 最近はふっくら厚みのあるお好み焼きが主流ですが、自分が子供のころ、おやつに食べていたお好み焼きはこういうものだったな、と思い出しながら懐かしくいただきました。そうする間にも列はどんどん伸びていく。イベント会場において「コナモン」の吸引力はやはり強いのです。 

歯ごたえのあるシャモ肉がスープに合う
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歯ごたえのあるシャモ肉がスープに合う

 さてそろそろメインディッシュに取りかかりましょう。

 朝から豪勢なフルコースになりました。そのメインディッシュは「シャモ鍋」。これは南国市のご当地グルメで、坂本龍馬が京都でシャモ鍋を待つ間に暗殺されたエピソードにひっかけ「龍馬さんが食べ損ねたシャモ鍋」とアピールしています。

 鶏の脂がキラキラ輝く、きれいな色のスープ。歯ごたえのあるシャモ肉は、鶏を食べているという充実感を与えてくれます。野菜との相性も抜群でした。


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土佐はし拳全日本選手権大会の会場
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土佐はし拳全日本選手権大会の会場

 すっかり満足して、腹ごなしに市内を歩きます。はりまや橋を越えしばらく歩くと、高知県立県民体育館が見えてきました。そこに大きな「土佐はし拳全日本選手権大会」という看板が。入ってみると、中央に土俵のようなものがあり、その周りで大勢の老若男女が何事かに興じています。

 「土佐はし拳」とは、相手に見えないように何本かの箸を握って腕を差し出し、出された側がそれが何本か言い当てるゲーム。宴会の席で楽しむ、いわゆる「お座敷遊び」のひとつで、負けたらお酒を飲むのがルールです。体育館でお座敷遊び、というのも妙な話ですが、日本武道館でじゃんけん大会を開くアイドルグループもいるこのご時勢。驚くことではありません。

老若男女入り乱れての熱戦が繰り広げられた
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老若男女入り乱れての熱戦が繰り広げられた

 「全日本選手権」というからには、他の地域でも大会が行われているのでしょうか。主催者である高知県酒造組合の竹村昭彦理事長に聞くと「うーん、ここだけでしょうね。そういう意味では世界選手権と言っても、銀河系選手権と言っても間違いではない」とのこと。はし拳は相手の思考を瞬時に読み取る究極の心理戦ですが、上級者になると腕の腱(けん)の動きでおおよその予測がつくとも言われます。

 なぜ負けたほうが酒を飲むのか。「宴会の前半では、みんなお酒を飲みたいからはし拳をする必要はない。そろそろ飲みたくなくなってきたところで『もう一押し』するのがはし拳。だから負けたほうが飲むのです」と竹村さん。ですが見ていると、負けた人だけではなく勝った人も飲んでいるし、そもそも飲みながら試合を待っている人もいます。 

 はし拳だけでなく、こまを回して誰が飲むかを決め、穴が開いていたり、形が不安定なために酒を飲み干すまで決して手放せない杯を渡して飲ませる「べく杯遊び」など、高知には酒にちなんだ独自のB級エンターテインメントが存在します。竹村さんは「まるでマダガスカル島の動植物のように、文化が独自の進化を遂げている面があるのが高知の魅力。そこを県外の人にも楽しんでもらえたら」と観光資源化にも期待していました。


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ミョウガのシュークリーム。その味は忘却の彼方に……
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ミョウガのシュークリーム。その味は忘却の彼方に……

 路面電車に乗ってはりまや橋まで戻り、そこからほど近い高知市中央公園を目指します。すると公園の手前で「スイーツフェスタ」が開かれていました。県内各地から自慢の菓子が集まっています。昨年、野瀬へのお土産に須崎でいただいた梅原晴雲堂の「かりんとう饅頭」もありました。

 そこで目に飛び込んできたのが「ミョウガのシュークリーム」。これはカツオタタキバーガーより想像ができません。食べてみるしかあるまい、と買い求めます。

 見た目にはふつうのシュークリームです。いったいどこにミョウガが含まれているのか。ちょっと行儀が悪いですが、フタを開けて中をのぞきこみます。すると、ミョウガが無防備な姿をさらしていました。

高知市中央公園会場には大勢の人が訪れた
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高知市中央公園会場には大勢の人が訪れた

 見なかったことにしてフタを閉じ、かぶりついてみると、確かにミョウガの風味そのままではありますが、甘いジュレで味付けされており、クリームとあいまって不思議なおいしさをかもし出していました。ですが、どうも詳しい味が思い出せない。きっとミョウガだからです。

デスク 嘘だッ!きっと年のせいだ!

一芸 どうして嬉しそうに言うんですか?

 中央公園に足を踏み入れると、そこは「祭」の文字にふさわしい大賑わい。「大漁祭」「大謝肉祭」として、海の幸、山の幸が会場にひしめきあっておりました。

 熱気に圧倒され、ふらふらとカツオのたたきを買い求めます。塩たたきがあったのでこれをチョイス。塩だけを加えた大ぶりの切り身で、カツオ本来の味を堪能します。

魚をがつがつ食べる
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魚をがつがつ食べる

 しかし魚を食べたら肉も食べたくなるのが人情というもの。

「大謝肉祭」エリアで土佐あかうし、土佐ジロー、はちきん地鶏を買い回り、次々と食していきます。さらに窪川ポークの鉄板焼きも。

 肉を食べたらまた魚が食べたくなり、四万十鮎の塩焼きもいただきます。ご飯も欲しいな、と思ったらごまサバ寿司もありました。まだ夕方ですが、もはや立派なディナーです。

 この会場で、「土佐の豊穣祭」を含む「龍馬のふるさと食まつり」事務局代表の木村祐二さんにお会いすることができました。

 高知県は、リクルートのじゃらんリサーチセンターが毎年実施している宿泊旅行調査で、「地元ならではのおいしい食べ物が多かった県」の上位に連続して入るほど、観光客から「食」についての高い評価を受けています。

肉ももりもり食べる
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肉ももりもり食べる

 この点について木村さんは「おいしい食べ物はどの県にもある。しかし、高知にはそれを一層おいしく感じさせるものがあるのでは」と分析します。それは高知の「おきゃく(宴会)文化」です。

 「おきゃくとはすなわちおもてなし。やって来た人にたくさん食べてもらおう、たくさん飲んでもらおう、というものです。DNAレベルに刻み込まれたその精神、そして高知特有の自由でおおらかな雰囲気が、おいしいものをもっとおいしく感じさせるのではないでしょうか」(木村さん)。

「土佐おもてなし勤王党」のステージを楽しみながらの大おきゃく
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「土佐おもてなし勤王党」のステージを楽しみながらの大おきゃく

 食の魅力だけでは地域活性化につながらない。人の魅力を磨いていくことで初めて地域を支え、飛躍させるパワーになるのではないか、という木村さんの話には説得力があります。

 今回のイベントも「おきゃく文化」を意識した作りになっています。

 それを象徴しているのがこの中央公園会場に設けられた巨大な座敷スペース。毎年春に高知で行われる「日本一の大おきゃく」は有名ですが、この日は「秋の大おきゃく」が開かれるのです。

「土佐おもてなし勤王党」のイケメンたちも応援に駆けつけて大盛り上がりの中、高知の長い夜は更けていきました。



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日曜市には観光客も地元の人も訪れる
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日曜市には観光客も地元の人も訪れる

 下戸の私は、深酒もせず早寝早起き。5時に起床し、6時から始まる高知名物の日曜市へと向かいました(4月〜9月は5時から)。

 大雨に見舞われた1年前のことを思い出しながら、並べられた野菜や果物、菓子を見て回ります。うまそうな田舎寿司も売っていましたが、ここはじっと我慢。朝食は少しお預けです。

 イベント会場を結ぶシャトルバスに乗って高知市中央卸売市場へ。

ちちこ(心臓)、はらんぼ(マグロのトロにあたる部分)など、カツオの希少部位も販売
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ちちこ(心臓)、はらんぼ(マグロのトロにあたる部分)など、カツオの希少部位も販売

 この会場ではカツオやマグロといった海の幸はもちろん、旬のフルーツも販売するとのことでした。広い市場の中に入ると、いくつもの出店が並び、威勢のいい呼び声が飛び交っています。

 さっそくカツオと鯛汁、そしてマグロ丼で朝食にします。

 カツオはタタキではなく刺身を買いました。皮付きです。「カツオの刺身は皮付きに限る」というのは祖父の遺言。自分はその教えを忠実に守っているのです。昨年須崎で食べたメジカの新子もちゃんと皮付きでした。

 この朝食、私のつたない表現力では形容できないほどのうまさであったことは言うまでもありません。鯛汁には軽くスダチを絞っていただきましたが、これがまた絶妙でした。

カツオの刺身、マグロ丼、鯛汁で朝食
  
干物を七輪であぶる
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カツオの刺身、マグロ丼、鯛汁で朝食

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干物を七輪であぶる

子供たちに混じって旬のフルーツをぱくぱく
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子供たちに混じって旬のフルーツをぱくぱく

 七輪で海鮮バーベキューを楽しめるコーナーもあります。これは焼かずにはいられない。

 七輪の火力は圧倒的で、煙の出る様子をのんびり写真に撮っていたらあっという間に炭化してしまいました。しかし焼きたての干物をばりばり食べていると、日本に生まれた喜びをひしひしと感じます。

 干物で少し塩辛くなった口の中を、さっぱりと洗い流してくれたのが水晶文旦や新高梨といった高知名産の果実。試食コーナーでその甘さに感激し、野瀬特編へのお土産に買い求めたのでありました。


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水もしたたる水晶文旦(と野瀬)

水もしたたる水晶文旦(と野瀬)

 東京に戻り、翌日出社すると、野瀬特編が珍しくネクタイを締め、まるで社会人のような格好をしていました。「食べB」だけでなく、仕事が立て込んでいる様子です。極上の水晶文旦をプレゼントし、英気を養ってもらいましょう。

野瀬 そうなんだよ、最近まるで社会人みたいに……ってれっきとした社会人だよ! もうすぐ定年だけどね。

アミー隊員 野瀬さんが定年になったら、この連載どうなるんですか?

野瀬 そうだなあ。誰か後を継ぎたい人いる?

デスク ……。じゃんけんでもしますか。

一芸 ルール覚えたんで「はし拳」で決めましょう。

デスク いいねえ。じゃ、まずは「おきゃく」を開かなきゃ。

野瀬 今決めた。定年後も自分で書く!

2011年10月14日

 


※これまでに掲載した高知県関連情報もぜひご覧ください
高知県(その1) ウツボもかぶるぼうし(帽子)パン  高知県(その2) 高知なのにリュウキュウの謎  高知県(その3) 会いたかったぜ、マダムロゼ  高知県(最終回) シンガポールで鍋焼きラーメン  高知県実食編 いきなりマヨネーズラーメン  行ってきました! 「まるごと高知」  番外編 秋の味覚満喫 「土佐の豊穣祭」1日−3日に高知市で(一芸)

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