第237回 大阪・京都府まとめて実食編 「飯炊き仙人」こんにちは

特別編集委員 野瀬泰申


和歌山県

 今週は大阪&京都府実食編。隣同士の2府をいっぺんに巡ります。
 名阪高速をはじめとするいくつもの道路、鉄道ならJRの在来線から新幹線さらには私鉄まで、複数のルートで結ばれている大阪と京都。通算7年半の大阪勤務経験を持つ野瀬にとっては「第二のふるさと」と呼べる地域です。当時の思い出をたどりながら旅します。
 今週のおかわりは、デスクが、その「大動脈」以外の大阪・京都を中心に幅広く食べてきました。
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ここから商店街が始まる
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ここから商店街が始まる

 2015年9月4日から2泊3日で大阪と京都に行った。

 本来なら大阪府実食の旅、京都府実食の旅とするべきだろうが、隣り合っている上に共通する食文化が多い。それに別々に行く時間も惜しい。ということで「まとめて」となった。

 デスクは大阪の豊下さんのナビゲートで大阪南部から京都北部まで車で駆け回ることになっている。予定を見たら「私はどこに行けばいいのだ」と悩むほどポイントを網羅している。本当にどこに行けばいいのであろうか。

地味なたこ焼き屋
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地味なたこ焼き屋

 そうだ天神橋筋商店街を歩こう。1丁目から6丁目まで約2.6キロもあって、日本一長いアーケード商店街である。ここを歩けば大阪の一面が間違いなくわかる。そして単身赴任時代、私は1丁目に住んでいて、休みの度にウオーキング代わりに商店街を往復していたのである。その意味ではちょっぴりセンチメンタルジャーニーでもある。

 商店街の最も南にある1丁目(天一)の入り口に立つ。以前、住んでいたビルは当時のままである。近所の有名なお好み焼きの店も健在。すぐの角に、最近できたらしい地味なたこ焼き持ち帰り店があった。

ヘレステーキあります
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ヘレステーキあります

 通りのレストランに「ヘレステーキ」のメニュー。

 そう、大阪では「ヒレ」ではなく「ヘレ」でなくてはいけない。

 ほどなく大阪天満宮への入り口になる。

 日本3大祭のひとつ「天神祭」はこの天神さんのお祭りである。大川にたくさんの見物船が出て花火もみごとな「船渡御」で知られる。新人として大阪本社社会部に赴任したその夏、天神祭の取材をした。汗だくになって原稿を書いたことを覚えている。

天満天神繁昌亭
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天満天神繁昌亭

 その裏に大阪で唯一の常設寄席「天満天神 繁昌亭」がある。上方落語協会と市民の力でできた寄席で、文字通り繁昌している。行ったときは昼席と夜席の間のため、閉まっていた。

 そこを出て、信号の向こうから2丁目

 風情があるアーケードのディスプレーが迎えてくれる。大阪らしい昆布店がある。食堂には「他人丼」がある。寿司屋にはうなぎの握りがある。だし巻き卵が立派なおかずであるから「玉子定食」がある。ビーフカツも普通。

パチンコ屋ではありません
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パチンコ屋ではありません

 4丁目がJR環状線の天満駅。駅前の自動販売機を見てびっくりした。なんだこの値段は。東京にも置いてほしい。

 そばにどう見てもパチンコ屋としか思えない電飾の店がある。名前が「玉出」だからなおさらパチンコ屋に見えるが、実は多店舗展開する食品スーパーである。ハンバーグ、韓国のり、ノート(小)が1円だって。東京にも進出してほしい。

 駅の裏は立ち飲み屋がずらーっと並ぶ迷宮になっていて、歩いて行くといつのまにか市場になる。この迷宮もよくさまよった所である。

卵焼き定食あります
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卵焼き定食あります

 商店街に戻って北上を続ける。各種卵焼き定食。ポカリが80円の自販機。頭が付いて腹開きにしたうなぎの蒲焼き。ああ、大阪だなあ。

 5丁目から道幅が狭くなるが、相変わらず店がびっしりと並び、人通りが絶えない。ずんずん歩いて終点の6丁目(天六)に着いた

 晩ご飯は天六の「上川屋」と決めていた。大阪風の湯豆腐が有名な店で、大阪在勤中に何度か行った。湯豆腐を食べながら一杯やろう。

お頭付きの上方風うなぎ蒲焼き
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お頭付きの上方風うなぎ蒲焼き

 と思って店を探すのだが見つからない。事前にネットで調べたが、ぐるなびにも載っていたから営業しているはずなのだが。

「すみません。この辺に上川屋さんてありませんか」

 花屋の女性に尋ねた。

「ああ、もう何年も前に閉まってますよ」

 わーお。そんなこと言われても、ぐるなびにぐるなびに……。

駅の裏は立ち飲み天国
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駅の裏は立ち飲み天国

 困った。どうしよう。そうだ「天満酒場」に行こう。単身赴任時代、相当お世話になった居酒屋が商店街の中にあって、そこでも純粋大阪風湯豆腐を食べさせる。アーケードを天満駅まで戻って天満酒場ののれんをくぐった。くぐっただけだった。満員御礼である。カウンターも含めて1席も空いていないという。がっくし。

 そうだ、迷宮に行ってみよう。駅裏の迷宮に珍しく立ち飲みではない店がある。すいていたのでカウンターの真ん中辺りに座って、湯豆腐を注文した。

3分間待ってでてきた湯豆腐
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3分間待ってでてきた湯豆腐

 ほどなく出て来たのがこれ。うどんのつゆのようなお出しに豆腐が沈んでいる。その上にとろろ昆布とネギである。スプーンで食べる。お出しを飲み干す。これが大阪の湯豆腐である。

 食べ終わったところで、疑問がわいてきた。この店の熱源は鉄板とフライヤーだけである。豆腐を温める鍋をかけようにもガス台がない。この湯豆腐、どうやってこしらえたのであろうか。

 折から別の客が湯豆腐を注文した。すると厨房の女性は冷蔵庫から取り出した豆腐を器に落とし、お出しを注ぐ。それを電子レンジに入れて「3分間待つのだぞ」をやった。「チン」で取り出し、とろろとネギを置いてできあがりである。

迷宮、にぎわってます
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迷宮、にぎわってます

 焼き鳥の注文が入った。ガスがないのに一体どのように対処するのであろうか。女性は焼き鳥の串をフライヤーに投入した。中まで熱が通ったころを見計らって引き上げ、鉄板に移した。鉄板の熱で表面に焦げ目が付く。

「アジのなめろう」はどうしたか。冷蔵庫からアジを出して、ではなく最初から衣が付いたコロッケ状のものをフライヤーで揚げ、ソースをかけて完成である。千葉県民がひっくり返りそうな揚げ物である。

 揚げ物だからと言ってあげつらっているわけではない。私は感心したのである。

オムレツ形とんぺい焼き
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オムレツ形とんぺい焼き

 限られた熱源をフルに動員し、作業の手順を最低限に抑え、客を待たせず、低価格で提供する知恵が詰まっている。

「とんぺい焼き」の標準形は豚肉の薄切りを卵で包んだポークピカタなのだが、この店は豚肉の細切れを鉄板で炒め、薄焼き卵をのせたオムレツ風である。

 手間がかからない。できあがりはそう違わない。これも知恵であろう。

 というようなことを考えながら、本日の晩ご飯はおしまい。

堺東駅前 朝から立ち飲み営業中
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堺東駅前 朝から立ち飲み営業中

 翌朝、堺に向かった。堺に行こうと思ったのは、事件取材で何回か行ったことがあるものの、事件現場と所轄警察署にいたばかりで、街をじっくり回ったことがなかったからである。時代小説や歴史小説で読む中世の自由都市のイメージが強く、その名残を追いたくもあった。

 難波から南海電車に乗って堺東駅へ。大和川を越えればもう堺である。準急でわずか12分であった。駅の近くに市役所があり、その21階が展望台として解放されている。登ってみると、観光ボランティアの女性が近づいてきた。

堺市役所展望台から仁反正天皇陵を望む
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堺市役所展望台から仁反正天皇陵を望む

「よかったらご説明しましょうか?」
「はい、お願いします」

 眼下の仁徳天皇陵などの古墳群が見える。

「上空300メートルからでないと陵墓の鍵穴模様は見えないんです。陵墓の周囲を歩く道はあるんですが、ただの森にしか見えません」

 ならば陵墓のそばに行っても写真にならないか。

 さらに堺は空襲を受けたため、往時をしのばせる町並みは残っていないとのこと。

げこ亭
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げこ亭

「自由都市だったころの堺は環濠都市だったんです」
「ふんふん」
「でもその環濠を大阪万博のときに埋め立てて高速道路にしてしまったんですよ」
「ええ!」
「昔の人は乱暴なことしたもんですね」
「ほんとほんと」

 このように、町歩きという点では大変残念なことになってしまったのだった。

平台からおかずを選ぶ
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平台からおかずを選ぶ

 そうこうするうちにお昼どきになった。昼ご飯は「銀シャリ屋 げこ亭」である。

「飯炊き仙人」が釜で炊くご飯が全国的に有名で、我が社もかつて取材している。仙人は引退して大衆食堂を全国展開する大阪の会社の社長が跡を継いだというニュースを読んでいたが、ともかく行ってみようというのである。

 市役所から地図を頼りに30分ほど歩くと、店はあった。午後1時着である。というのも昼時は行列ができると聞いていたので、すこしずらしたのが良かったのか、客は少ない。少ないのは客だけではなかった。

「おかずがこれだけになりました。味噌汁も終わってしじみ汁だけです」

釜炊きのご飯が自慢
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釜炊きのご飯が自慢

 店に棚と平台があって両方におかずがならんでいたのだが、お造り(刺し身)などがあったはずの棚は空っぽ。平台も隙間が目立つ。その中からイワシ煮、ヒジキ、漬物を取ってご飯をよそってもらう。

 そのとき私は見た。奥でじっと店内に目を配る仙人の姿を。しかも上半身裸。いいのか?

 ご飯が美味しいのは当たり前として、最も感動したのは漬物である。自家製でしっかり漬かっている。量も多い。値段表によれば100円である。

 イワシ煮も骨まで柔らかく炊けていて、ご飯がどんどん進む。すばらしいお昼ご飯であった。

 店は阪堺電車の寺地町駅に近い。そこから天王寺に向かう。

阪堺電車
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阪堺電車

 阪堺電車は1両編成で、地元では「チン電」と呼ばれることもある。チンチン電車である。堺市内では広い道路の真ん中を走るが、場所によっては専用軌道になり、また道路に戻りと、窓外の景色も面白い

 住吉鳥居前で途中下車。住吉大社に詣でる。太鼓橋の急傾斜に足を取られそうになりながら境内に入る。4つの本殿は国宝である。「住吉造」というおそろしく古い建築様式をいまに伝える。

 伝えるのはいいのだが、ここもやや中国語圏になりつつある。自撮り棒も活躍している。ただこの間行った太宰府に比べればずっと少ない。

天王寺動物園
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天王寺動物園

 線路を挟んだ向こうが住吉公園。緑あふれる空間で、ベンチではおじさんたちが集まって将棋に興じていた。

 再び阪堺電車に乗って、天王寺に着いた。地上60階、高さ300メートルという日本一の超高層ビル「あべのハルカス」を初めて見た。

 こんなものが建ったせいでもあろうが、私の知っている天王寺の風景が見当たらない。面影を求めて天王寺動物園に入る。新人のころ、私は天王寺動物園担当だった。ネタが何もないときに備えて、動物園ネタを仕込むのが仕事で、夕刊時間帯が終わって朝刊の仕事が始まるまで、よく動物園の記者室にいた。

新世界、というか異世界
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新世界、というか異世界

 その記者室があった建物が見当たらない。というよりすっかり変わって、私が知らない動物園になっていた。

 ならばと、新世界へ行ってみる。あらー、この地味なこと。原色があふれ、奇抜な看板が並び、ここもまた私の記憶にある新世界とは別世界でる。いや異世界と言った方がいいかもしれない。頭がくらくらする。

 ならばと、地下鉄の恵美須町駅に向かうと、やっと見慣れた風景に出合えた。アーケードの商店街である。観光客はいない。地元の人相手の店が並んでいる。

ほっ
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ほっ

 喫茶店に「レスカあります」の貼り紙。レスカはレモンスカッシュのこと。この貼り紙、40年前もあったような気がする。ほっとした。

 そろそろ豊下さん、デスクと合流する時間である。約束した天王寺駅前に向かった。時間ぴったりに2人が乗った車が到着した。

 この後、3人で有名な串カツの店に行ったのだが、そこは撮影禁止であった。開店と同時に満員になるような人気店なので、メディアを通じてこれ以上、知られると、どうもならんということか。納得。

伏見稲荷大社
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伏見稲荷大社

 私はここでタラコの串カツを初めて食べた。値段にも味にも納得。

 翌朝、目が覚めてホテルの露天風呂に入る。朝ご飯もグッド。大阪駅から新快速で京都へ。JR奈良線に乗り換えて2つ目の駅が稲荷前。伏見稲荷大社である。

「トリップアドバイザー」で2年連続「外国人が行きたい日本の観光地ナンバー1」に選ばれたというので覚悟していたが、日本語をしゃべっているのは修学旅行の高校生くらいである。欧米系、ラテン系もいるにはいるが、圧倒的に多いのが中国人観光客。ここもほぼ中国語圏になっていた。

千本鳥居の行列
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千本鳥居の行列

 しかも雨が降っていたので全員が傘を差しているから、写真を撮ると写るのは傘ばかり。やっとお参りを済ませて「千本鳥居」に向かったところで足が止まった。行列である。しかもほとんど進まない行列である。

 参道には名物の「うずら焼き」やお稲荷さんを売る店が何軒かあったものの、日本語以外の言葉をしゃべる人々が店頭をふさいでいる。

 諦めて社務所などが入っている「参集殿」の食堂で雨宿りした。こちらは恐ろしくレトロで、食券も全手動である。

コーヒーはコールで
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コーヒーはコールで

 座っているおじさんにアイスコーヒーと告げると、目の前に何十種類か並べた食券の中から、当該食券を選んでくれる。同時にマイクに向かう。

「お一人さまー」

 食券を手に食堂のテーブルに座ると同時におばさんが来て半券を持って行く。残った半券には「コーヒー コール」と書いてある。関西なのでアイスコーヒーは「コールコーヒー」なのである。

 外に出ると、雨が激しくなっていた。ここにいてもしょうがないぞ。

普通のサンドでした
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普通のサンドでした

 そうだ、宇治に行こう。奈良線で宇治に向かった

 昼は卵サンドに決めていた。分厚い卵焼きを挟んだ卵サンドを食べたい。大阪に住んでいたころは、何気なく口にしていたが、考えてみれば東京ではお目にかかれない物件である。

 参道が始まる橋のたもとにカフェがあった。卵と野菜のサンドイッチとメニューにあったので注文する。しかし出て来たのは普通の上品なサンドであった。失敗。でもそれはそれで美味しかったからまあいいか。

小雨にけぶる宇治川
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小雨にけぶる宇治川

 雨にけぶる宇治はいい。橋から眺める宇治川の流れが美しい。両岸の緑もしっとりとして心を洗う。しかしながら平等院に行ってみたら……。人ばっか。

 中州の島にかかる橋を渡って対岸に行く。さすがに人は少ない。落ち着くなあ。ふと目についたカフェに「ふわふわたまごサンド」のメニュー。こっちだったか

 何も食べずに帰るのもなんだ、とおもってお茶団子の店に入った。店の若い女性に聞くと、団子のセットは3串であるという。ついさっきサンドイッチを食べた胃袋には重い。

抹茶の外郎を煎茶でいただく
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抹茶の外郎を煎茶でいただく

 そこで抹茶外郎と煎茶のセットにした。観光地にしては良心的かつ、納得いく味、値段であった。

 こうして旅は終わった。実食の旅とは言いながら、あまり実食しなかった。自分が住んでいた街なので、珍しいものがなかったということもある。食べるより、記憶に残る風景を探すことに気を取られたということもある。

 でもいいのだ。食べる方はデスクたちが「これでもか」というほど実行してくれているはずである。胃袋方面は彼らに任せて、東京へと戻ったのだった。

デスク 来週25日はシルバーウイークのため休載します。

(特別編集委員 野瀬泰申)

*映像はflashビデオです。一部機種では再生できないことがあります。ご容赦ください。



★今週のおかわりは「カップめん発海の幸経由激辛行〜デスク版大阪・京都府実食編」です。ぜひお読みください。

大阪府編(その1) 復活してくれ! スナックパーク

大阪府編(その2) 「心の中にはあんた 口の中にはあんこ」(中山菓舗)

大阪府編(その3) イカ焼きそんなにおいしイカ

大阪府編(その4) 大阪の夏、あんペいの夏

京都府編(その1) 京都人、生八ツ橋は食べまへん

京都府編(その2) 京都人は濃厚民族である

京都府編(その3) 喫茶店、3度の食事にサンド出す

京都府編(その4) 「てっぱい」をいっぱい食べたい


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2015年9月18日

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