第111回 山形実食編(上) 「すだまり氷」に青くなる

特別編集委員 野瀬泰申


 B−1グランプリin北九州も、八戸せんべい汁研究所が悲願のゴールドグランプリを手にして幕を閉じました。食べB本編は夏を前にした6月に取り上げた山形県の実食編です。取材したのは暑い暑い夏を過ぎた9月。にもかかわらず、猛暑の中での取材となりました。村山地方から庄内地方へ…。山形ならではの食を身を持って体験してきました。

 番外編では、大盛況のB−1グランプリの模様をデスクがリポートします。あわせてご覧ください。

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暑い暑い日であった
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暑い暑い日であった

 9月15日。それは暑い暑い日であった。

 秋は自分の出番を間違えて、まだ楽屋でお茶でも飲んでいるのであろうか。

 時間が来たのに舞台狭しと動き回っている夏には、人さし指をグルグル回して巻きを入れているディレクターの必死な姿が目に入っていないのであろうか。

 というようなたとえをしたくなるような暑い暑い日であった。

 私とデスクは東京駅のホームで落ち合い山形新幹線に乗った。道中、ずっと隣の席にデスクがいるから余計に暑苦しい。もうちょっと遠慮して座ってくれ。えっ、それでも遠慮してるのか。

山形新幹線には将棋の駒が…
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山形新幹線には将棋の駒が…

 3時間後。山形駅に到着。

 改札に行くと「食べBさま」と書いた紙を手にしたおじさんが笑っている。山形県中央部在住のカラハシさんであった。今回、スケジュールの組み立てから一部予約、一部アポ入れまでしてくださった。私たちがおんぶに抱っこしてもらう方である。

 カラハシさんの車で最初に向かったのはお城のそばのそば屋さん「初舟」であった。山形での最初の食事がそば。当然であろう。城の石垣と濠に臨む店はゆったりとした構えで、大きなテーブルが並んでいる。

初舟のメニュー
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初舟のメニュー

 メニューを見ると「月見ざる」「かしわざる」「刺し身ざる」「天ざる」「焼き肉ざる」「にしんざる」と書いてある。この中でわかるのは「天ざる」だけ。

 山形の内陸部ではにしんをよく食べる。では「にしんざる」を食べてみようではないか。

 デスクは板そばを注文することにした。

 カラハシさんは「ざるそばのそば半分」を頼みつつ、私たち、特にデスクに対して言った。

野瀬が注文したにしんざる
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野瀬が注文したにしんざる

「板そばはやめた方がいいと思いますよ」

「量が多いんですか?」

「多いです」

 しかしながらデスクは板そば注文を決行。私も普通盛りなので大した危険を感じないまま注文した。

 物件登場。

 きゃあー、きゃあー。

デスクの注文した板そば
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デスクの注文した板そば

 喜びの叫びではない。驚愕の叫びである。

 でか。でかすぎ。

 東京感覚では2人前の玄そばに自家製にしん2枚、卵焼きにサラダ、ウリの浅漬けがのった皿がつく。それ以外に当然のごとくナスの煮物と豆腐の小皿が添えられている。

 カラハシさんの言うことを聞いていたらよかった。

 私は頑張ったものの、そば半分、にしん1枚、ナスと豆腐をどうにか片付けてリタイア。

圧倒的なそばの量
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圧倒的なそばの量

 デスクは意地を張って板そばをやっつけたものの、この後ずっとダメージを引きずることになる。

デスク いやぁ、ナメてました。いままで板そばって板の上にそばを広げてあるものだと思ってました。ここの板そばは、板の上にそばが盛ってあったのです。寝るまでお腹一杯が続きました。

 パンパンになったお腹を抱えて向かったのは隣の山辺町。日帰り温泉「山辺温泉保養センター」の食堂に行く。食堂の窓には「やまのべ名物 すだまり氷」の貼り紙があった。

イチゴ氷(左)とブルーハワイ
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イチゴ氷(左)とブルーハワイ

 本編に登場したとき「なぜこのような食べ方が生まれたのであろう」といぶかっていたのだが、生まれたものは仕方がないのである。

 食券販売機には「すだまり氷にはイチゴ味がおすすめ」みたいなことが書いてある。素直にイチゴ氷の券を買う。デスク用にはブルーハワイね。

 氷を受けとるとき瓶を渡された。これが問題のすだまりである。要するにところてんのつゆ。夏場にところてんとかき氷を出す店で、客が何かの拍子で余ったところてんのつゆをかき氷にかけてみた。

氷と一緒に瓶を渡された
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氷と一緒に瓶を渡された

「うめえ」

 と思ったのがほかの客に伝播したのか。

 あるいはかき氷のシロップがなくなって困った店主が「えいや」とかき氷にかけて出したのか。

 どういう事情か知らないが、このようなものが誕生して山辺町で愛されているのである。

 瓶の口にはだだもれ防止と広域拡散のために杉の葉が差し込まれている。

うーん、たまりません
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うーん、たまりません

 まっ赤なイチゴ氷にすだまりをかけてスプーンですくう。

 うーん、たまりません。何と言っていいかわかりません。

 カラハシさんが少し離れたところで笑っている。

 食べ進むと、すだまりの味がなくなってイチゴ味だけになった。これで一安心である。と思ったのは油断であった。すだまりは液体なので、氷の下にたまっていた。再度のすだまり味。うーん、たまりませんねえ。

 デスクはブルーハワイとすだまりの混合味との格闘を終えた。見れば唇が青い口紅を差したように青い。

日経のジーン・シモンズ
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日経のジーン・シモンズ

「べろ出してごらん」

 デスクが出したべろも真っ青であった。

「べろ出して」なんて言うんじゃなかった。

 カラハシさん、笑う。

 山形市の中心街、七日町に戻りビルの中の総菜店で「麩の煮物」「青菜(せいさい)漬けの煮た物」「細タケの煮物」を買う。そばにテーブルが並んでいるのでそこでいただいた。

 現在の気温は33度くらい? 汗だくである。

タダの玉コンニャク
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タダの玉コンニャク

 席を外していたデスクが戻ってきた。手にはノンアルコールビールが……。

 飲んでみる。最近のノンアルコールビールにはアルコールが0.5%ほど含まれているのを初めて知った。何とかドライという銘柄であった。

 山形駅ビルに入ってお土産物を見る。コンニャク専門店で玉コンニャクをタダでもらう。

 ここで夕方の5時になった。

炭火をおこして焼き台に並べていく
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炭火をおこして焼き台に並べていく

 市内の人気焼き鳥店「そね田」に行くことになっているが、開店は5時半である。店の前を通って散歩することにした。

 ところが開店前というのに店にはもう客が入っている。私たちも慌ててカウンターに席を占めた。

 店はまだ開店準備中である。炭火をおこして焼き台に並べていく様子が眼前で繰り広げられる。それをぼーっと見ているうちに「お待たせしましたー」という声がご主人の口から発せられた。

ただものではない
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ただものではない

 この時点で店内は身動きもままならないほどの超満員である。

 メニューはあるが私たちはお任せコースにした。当店の焼き鳥は鶏ではなく豚であった。

 様々な部位が塩コショウで出てくる。記録していないので何がどんな順番で出てきたか忘れたが「ナンコツ」というのは大動脈で「フォアグラ」はレバーであった。

 隣の客は新潟から観光に来たという若夫婦。「美味い美味い」を連呼している。

お腹に負担がかからないような1品
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お腹に負担がかからないような1品

 確かに下ごしらえの確かさ、火の通り方はただものではない。人気の理由もわかろうというもの。

 この店を出て、大通りに面した「スズラン」に入る。およそ思いつく食べ物なら何でも置いているというような品ぞろえである。

 カラハシさんは私たちのために定食を予約してくれていたのであるが、私は元々小食で、デスクは昼間の板そばで胃袋が故障状態。そこに焼き鳥が入ったのでダウン寸前であった。

タダで出て来た漬物の盛り合わせ 左がぺそら漬け
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タダで出て来た漬物の盛り合わせ 左がぺそら漬け

 そこで定食をキャンセルしてお腹に負担がかからないような1品を注文することにした。

 そうこうするうちに私たちが座っていたカウンター席も混んできて、少し譲るよう求められた。その通りにしたら店からごほうびに漬物の盛り合わせが出てきた。

 ナスとキュウリの漬物に「ぺそら漬け」。ぺそら漬けというのはナスをみょうばんを使わずに塩漬けし、その後に辛みをつけたもの。みょうばんを使っていないのでナスの紫は抜けている。

「だし」をかけた豆腐
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「だし」をかけた豆腐

 カラハシさんは最後にもう1軒用意していてくださった。漬物バーである。300円を支払うと各種漬物が食べ放題。

 山形県人と漬物との切実かつ親密な関係を物語るような店であった。カラハシさんのお薦めで「だし」をかけた豆腐をいただく。だしは発酵していないので漬物ではないが、山形の暑い夏になくてはならないものである。

 遅くなったので急いで宿に向かう。宿は東根市にある東根温泉の「松の湯旅館」である。明日はカラハシさんが住む地区の芋煮会。12年に1回巡ってくる当番に当たっているカラハシさんは車のトランクに芋煮会会場に持ち込むポリタンクや大鍋を積み込んでいた。

松の湯旅館
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松の湯旅館

 私とデスクは相部屋であった。予想した通り、デスクのいびきはもの凄かった。眠れなかった。途中、何度か鼻でもつまんでやろうかと思ったが、大人げない。その代わり呪い続けることにした。

 やがて私の呪いがきいたのか「ウガ」とか「ホゲ」とか「ブハー」とか、七色のいびきを響かせていたデスクの口から「アアー」とか「ウー」とか「ナハハ」とかのうめき声がもれ始めた。そのまま一晩中デスクはうなされていたらしい。参ったか。

撮っておきました(デスク)
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撮っておきました(デスク)

 明けて16日。朝からかんかん照り。予想最高気温は34度である。

 まだうなされているデスクを尻目に、私は朝風呂である。源泉掛け流し。少し黒い熱めのお湯がこんこんと湧いている。貸し切り状態でゆっくりとつかる。

 上がれば朝食。このような手づくりの……あれ、写真撮ってなかったわ。

 タクシーを呼んで、芋煮会の会場に向かう。「東根市三ツ矢地区レクレーション大会」というのが行事の名称である。

炎暑の下で玉入れ
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炎暑の下で玉入れ

 会場は河原ではなく地区所有の多目的運動公園。要するにグラウンドであった。外縁部に「陣地」と呼ぶ集落ごとのテントが並ぶ。私たちがお邪魔したのは「8班」の陣地である。

 炎天下で朝から運動会。お昼からの第2部が芋煮会である。私たちは運動会の途中から行ったのだが、30ウン度の炎暑の下で玉入れとかしているのを見ているだけで汗が噴き出す。井戸水が出る蛇口でタオルを濡らして頭にかぶる。すぐに乾くから何度も濡らす。

サトイモから大量の灰汁が
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サトイモから大量の灰汁(あく)が

 頃合いを見計らってJAのトラックからサトイモ、ネギ、コンニャク、豆腐、シメジが配給された。

 当番のカラハシさんが地面に置いたガス台に大鍋を据える。奥さんたちが鍋に水を注ぎサトイモを入れて醤油と酒を加えて点火。最初に醤油を入れると、それだけ味がしみるのだそうである。

 煮えてくるとサトイモから大量に灰汁が浮いてくる。しかしこれを煮こぼしたら、栄養分を捨てることになるので、丹念にお玉ですくう。

肉を手でちぎって投入
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肉を手でちぎって投入

 それでなくても暑い中、火のそばでの作業である。最初の奥さんが「たまらん」と言って撤退すると、後続の奥さんがお玉を持つ。

 サトイモが柔らかくなったところでざっくりと切ったネギを投入。シメジも投入、手でちぎったコンニャクも投入。豆腐の材料は豆乳ではなくて、豆腐も投入。肉も手でちぎる。

 その間、自宅で漬けたという各種漬物がみんなに振る舞われる。ぺそら漬けもあった。ブドウや梨も回ってくる。サラミも大量に回ってきた。

 私は冷たいお茶だったが、あっちこっちに缶ビールの空き缶も転がって、お天道様の下でプチ宴会である。

何だかわからないがやたらに美味い
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何だかわからないがやたらに美味い

 気がつけば芋煮ができたようで、発砲スチロールのお椀に入った熱々の芋煮が手渡しで回され始めた。

 山形であるから醤油仕立てで牛肉である。何だかわからないがやたらに美味い。

「美味いですねえ」と言うと、奥さんの一人が「でしょう?」と言った。そこで私は「あんなにいい加減につくっていたのにね」と応じると、ある奥さんは笑い、ある奥さんはにらんだ。

 鍋が少なくなったところでカレールーが投入された。ブルーシートをかぶせたテントにカレーのにおいが流れてくる。ルーが溶けたころを見計らって、今度はうどんである

芋煮カレーうどん
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芋煮カレーうどん

 そう、最近はやっている芋煮カレーうどんである。これが食べたかった。

 いろいろな味が渾然一体となった汁にカレー味が加わって、そんじょそこらにはない一品に仕上がった。汗を垂らしながら、ずるずるとうどんを啜る。たまらん。

 さきほど「山形だから醤油仕立てで牛肉」と書いたが、山形から帰って庄内地方の鶴岡市出身の同僚にそのことを話すと、眉をつり上げて「庄内では味噌仕立てで豚肉です。豚汁です」と言った。決然と言い放つといった趣があった。

 同じ山形県でも違うのである。またそのことをうかつに話題にすると、他県人には想像もできない反応が返ってくることがあるので、十分な注意が必要である。

来週に続く



*映像はflashビデオです。一部機種では再生できないことがあります。ご容赦ください。


(特別編集委員 野瀬泰申)

★番外編はあすからがまた新しいまちおこし〜B−1in北九州です。ぜひお読みください。

実食編(下) 何はなくとも皿にはサラミ

山形県編(その1) 「冷やし中華」「冷たい中華」の違いを述べよ

山形県編(その2) 麦茶に砂糖、トマトに砂糖

山形県編(その3) じんだん? 仁丹とちゃうの?

山形県編(その4) 酒田のワンタンに「くりびってんぎょう」


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2012年10月26日

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