第73回 山口県ご当地グルメ(その2) 県庁食堂に「けんちょう」はあるか?

特別編集委員 野瀬泰申


 みかん県であることが発覚した山口県。さらにメールで寄せられた情報を分析していくと、山口県発祥の食べ物はたくさんあるのに実は知られていない、ということが分かりました。

 今週も海から山から、そして鉄板から、山口県ならではの食文化が浮かび上がってきました。山口県その2、スタートです。

 番外編では今週末に山梨県甲府市で開催される、B−1グランプリ出展団体が多数集まるイベント「B級ご当地グルメよっちゃばれ市inこうふ」の情報をデスクが紹介します。合わせてご覧ください。

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(「食べB」へ初めて訪れた方は「食べB入門編」をご覧下さい食についてのメール投稿先はこちら

東京の津軽料理(クリックしてください)
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東京の津軽料理(クリックしてください)

 先週の金曜日は食べBチームの一足早い忘年会であった。というかチームのみんなが忘年会という形で私の還暦を祝ってくれたのである。

 場所は都内の津軽料理の店。広めの小上がりがひとつあるだけの店で、その夜の客は私たちだけであった。弘前出身の夫婦がにぎやかにもてなしてくれたのだが、出てくる料理はほとんどが地元から取り寄せた食材を使っている。

「地もやし」は大鰐の温泉もやし、「津軽そば」も本格的なものであった。東京でこんなちゃんとした津軽料理が食べられるとは思っていなかったので、実のところ感動した。

木の日本地図
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木の日本地図

 デスクが写真を撮っているのを見て私はカメラを出さず、珍しく箸を動かすことに専念した。晩ご飯をほとんど食べない私にしては頑張ったのである。刺し身を隣の人に任せたほかは最後のそば、リンゴのデザートに至るまでついて行けたのだった。

 ただ最後の方に出た「海峡サーモン」は筆箱くらいの巨大サイズ。見ただけで撃退されてしまった。包んでもらってお持ち帰り。

 そのときにみんなからもらったお祝いの品が、なんと都道府県別に切り分けられた木の日本地図であった。いわばジグソーパズルである。日本地図を頭に入れろということではなく、この食べBを最後の県まで続けろという過酷な意味が込められていた。

ちしゃなます?
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ちしゃなます?

 いや、いいですよ。やりますよ。

 でも残された時間は短い。嘱託契約は延長できても3年。それまでに無事、47都道府県を踏破できるかどうか。

 ところで右の写真は長門市の居酒屋で撮影したもの。いろいろな食べ物が並んでいるが、下段左から5番目に「ちしゃなます」とある。

 食べたことがある人、手をあげて。シーン。

 そう、山口県の居酒屋では定番ながら、よそでは「なんじゃそれ」という食べ物である。これに関するメールを待っている。

瓶詰めうに
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瓶詰めうに

MNo.7

 山口県発祥の食材が、いくつかあります。
 焼き抜きかまぼこ、アルコール漬けうに(下関市)、辛子明太子(下関市)、くるま海老養殖(山口市秋穂)、夏みかん(萩市)、自然薯栽培(柳井市)、赤貝養殖(下松市)(蔵本さん)

 先日、下関に行った折、「うちが瓶詰めウニの元祖」という店のおかみさんと話をした。

 そうなのである。山口県発祥の食べ物はたくさんあるのに、知られていない。もったいない。

自然(じねん)焼き(西田さん提供)
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自然(じねん)焼き(西田さん提供)

MNo.8

 山口県は、松茸とならんで栽培が困難と言われた「自然薯」の栽培発祥の地として知られています。
 日本人とは古くから深い付き合いのある原産種の山芋は「自然生」(じねんじょう)と呼ばれ、漢方の薬材や健康食として人々に親しまれ、生活文化の中で根を下ろしていました。この自然生山芋が近年の健康ブーム、自然志向の中、おおいに注目を浴び需要が急増しています。
 山口県内においても周南市湯野地区では、県や市の後押しを受けて、自然生の特産事業が進行しており、新規就農者の呼び込みや地域の遊休農地の活用、直売所の目玉産物になるとか、そばとコラボしたとろろそばが人気を呼ぶとか、最近では加工品づくりを含めた6次産業化まで進展しており、地域の活性化に一役買っているようです。
 昔は裏山に登ってオヤジたちが掘ってきた山芋を、一家や近所で「とろろ飯」や「山子めし」にしていただいていましたが、このような風景を見かけることも少なくなりました。
 希少品ということもあって、最近は高級食材というイメージが強いですが、本来は山の恵みとして身近なものでした。
 食べ方の極め付きは、お出しでとことんまで伸ばしていく「とろろ汁」ですが、B級グルメ風には「生とろろ」を揚げたり、炒めたりする「揚げとろ」「自然だんご」などのレシピも普及しています。
 私はお好みの具を練り込み団子状にあげた「自然(じねん)焼き」がお気に入りです。(西田さん)

 ヤマイモ、ヤマノイモ、ナガイモ。いろいろな名前で市販されていて、区別が難しい面があるが、自然薯は日本原産。古事記や日本書紀にも出ている古い食べ物である。というか当時は薬用として珍重されていたらしい。

 最近は、畑で筒栽培されたものが多く出回っている。ただ山口の「自然生」はそれとも違うようであるが、どこが違うのか。栽培方法?

岩国のレンコン(久留米の豆津橋さん提供)
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岩国のレンコン(久留米の豆津橋さん提供)

MNo.9

 本社が山口県にあるのと、東京でも山口県つながりでいろいろと仕事をしていますので県の物産関係について調べていましたら、何かと売り出し下手な県民だということがわかりました。
 下関のフグはまだ有名どころだけど愛媛のミカンだって、元をただせば原木は山口のもの。辛子明太子も日本での第1号店は山口なのに、お隣の福岡に持っていかれ、ハモはたくさん取れているのに、なぜか京都が有名。
 日本酒や焼き物だってあるのに全く知名度がなし。レンコンなどは普通のものよりも穴が1個多いとか、どうでもよいアピール。

一番美味い
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一番美味い

 外郎(ういろう)に至っては、何の根拠か山口のが一番美味いと言っている始末。
 日本海や玄界灘、瀬戸内海と3つの異なる海域に囲まれて海産物はとても豊富だと聞きました。
 日本海のサザエは荒波に揉まれて鍛えられているせいかトゲが長くてごついそうですが、対して瀬戸内海のサザエはトゲも少なくまるんとしているな。海によって形の違う魚介類をいっぺんに楽しむことができるのも山口の魅力のうちのひとつ。
 かまぼこだって、お正月にそこら辺のスーパーで買ってくるよりもずっと歯ごたえがあって味が濃いし、本当に美味しい(臼井さん)

 私は県民性によるPRべたといったものをあまり信じない。が確かに山口県の食べ物についてはもう少しその魅力が知られていい。

 もっとも外郎に限らず、地元のものが「一番美味い」と思うのは自然な心情。それが「なぜか」を説明すると説得力が出てくる。

違うんです!
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違うんです!

MNo.10

 山口の外郎は違うんです! 外郎といえば名古屋や小田原が有名ですが、山口県でもよく食べられています。
 しかし山口の外郎は独特の食感で、モチモチしており軽い後味です。違いは原材料にあり、他では米粉を使うのに対し、山口のはワラビ粉になっています。ういろうが苦手な方もぜひお試しあれ!(霞慶次郎さん)

 このように書くとよその外郎と違って見えてくる。

豆子郎
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豆子郎

MNo.11

 30年以上前、同じ寮にいた宇部出身の先輩が帰省土産として「とうしろう(確か豆子郎だったと)」という外郎を食べさせてくれました。
 山口つながりということで萩焼の茶器で煎茶をいれて皆で美味しく「あっ」という間に完食しました。確かに名古屋の外郎とは舌触りというか歯茎触りが違っていたことを覚えています。
 山口では外郎のことを「とうしろう」と言うのかと思っていたんですが、アミー隊員のレポートを読むと商品名だったみたいですね(煮豆ライスさん)

「歯茎触り」という一語で、特徴が浮き立つ。

 要するに山口の外郎はよそのもんと違うんじゃー。

 前回登場した会社勤めをしてない「金太郎」。

ごぼう巻き(青森の一麺さん提供)
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ごぼう巻き(青森の一麺さん提供)

MNo.12

 私は何度か山口県萩市に足を運んでいます。食べBに登場した萩特産の金太郎(ヒメジ)がフランス料理の高級食材ルージェの近縁種で、9月の函館バル街に山形県鶴岡市のアル・ケッチァーノ奥田シェフもピンチョとして提供していました。
 萩特産の焼き抜きかまぼこ屋さんで、かまぼこの副産品「ごぼう巻き」という商品を食べて驚きました。私が知っている「ごぼう巻き」とは違い、エソという魚の皮を原料とした商品でした。
 私がお邪魔したかまぼこ屋さんでは、かまぼこは午前中に販売されますが、ごぼう巻きは数量限定で午後販売されるとのことでした(青森の一麺さん)

焼き抜きかまぼこ(青森の一麺さん提供)
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焼き抜きかまぼこ(青森の一麺さん提供)

 ヒメジはフランス料理の高級食材であったのか。そのようなものを日常的に食べている萩の人々はなかなかおしゃれである。

 もっと宣伝したらいいのに。

「焼き抜きかまぼこ」は魚のすり身を板に盛って、蒸すのではなく板の方から焼いて仕上げる伝統製法。

 萩のホテルの朝食にこれが出た。表面がぱりっとして中はもちっであった。

 朝ではなく夜食べたい。醤油を少しだけ垂らして、ワサビなど添えて。ああ、日本酒の友よ、親友よ。

 魚ではないが海にいる生き物。

おばいけ(いけずな京女さん提供)
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おばいけ(いけずな京女さん提供)

MNo.13

 小倉から下関に移動して地元スーパーを見て回ったことがあります。そん時に驚いたのが、どちらも「くじら」が鮮魚売り場にごくふつーに並んでいたことです。それも大陳列で、品揃え良好。
 ただし、扱っている製品が微妙に違いました。小倉で目だっていたのは「塩くじら」(鯨の赤身肉を塩漬けにしたもの)や「塩皮くじら」(鯨の皮脂肪の塩漬け)。
 下関で人気があるらしいのは「おばいけ」と呼ばれる、くじらの尾びれのさらしくじら。実際、おばいけは「日本の郷土料理百選」で山口県の郷土料理に選ばれていました。
 ちなみに京都ではさらしくじらのことを「花くじら」と呼んでおり、一定年代以上に人気です。標準的な食べ方は、辛子酢味噌で。「このおばいけ、コリコリして、ぶちうまい」(下関弁)
 山口では節分におばいけの大きいものを食べると、1年を元気に過ごすことができると伝えられているそうです。恵方巻はいつの間にやらローカルルールから全国区になってしまいましたが、おばいけは…どうでしょうか(いけずな京女さん)

京都では「花くじら」(いけずな京女さん提供)
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京都では「花くじら」(いけずな京女さん提供)

 小倉と下関の光景はこの通りである。JR長崎駅にあるくじら加工品売り場も壮観であった。

 またしても長門市の話になるが、私は焼き鳥の取材で行って、そこが「長州捕鯨」の基地であったことを知った。市内には「くじら資料館」があるし、いまでも祝い歌として「鯨唄」が伝えられている。山口県はくじら県である。

「おばいけ」を京では「花くじら」と呼ぶそうであるが、大阪では「おばけ」と呼ぶ人が多かった。京で「おばけ」というと節分の祇園できれいどころが仮装する行事を指すのでややこしい。

 久留米では「おばやけ」だった、と思う。

南部せんべい、エミー隊員作
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南部せんべい、エミー隊員作

MNo.14

 美祢の父から情報きました。
「『けんちょう』という家庭料理知ってる? 律子バーちゃんが上手だった。豆腐とダイコンもしくは白菜が材料で油でいためて、味付けしたやつ。ここいら辺りでは結構たべてる家庭料理なんだけど」(エミー隊員)

岩国といえば錦帯橋(久留米の豆津橋さん提供)
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岩国といえば錦帯橋(久留米の豆津橋さん提供)

 山口けんちょうではなく山口県観光連盟のHPに記述があった。県全域の郷土料理なのだそうである。

「精進(しょうじん)料理としてよく作られますが、山口県の郷土料理として、どこの家庭でも親しまれています。料理方法は簡単で、大根と豆腐を油でいため、しょうゆで味付けするだけです。 人によっては、にんじん、油揚げ、さといも、こんにゃくなどを入れるようです。また、汁仕立てにして「けんちょう汁」というところもあります」

 この具材全部と豚肉で豚汁ができる。関係ないか。

 それにしてもエミー隊員のメールの素っ気なさよ。

 さて最後のメールは力作である。食の文化の伝播について立派な考察が施されている。

三津浜焼きの牛脂
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三津浜焼きの牛脂

MNo.15

 第67回の愛媛県編で、三津浜のお好み焼きが紹介されておりました。野瀬さんの仮説は、「三津浜のお好み焼きも広島との共通性がある。天ぷら中華も同様である。つまり瀬戸内の島伝いに人・モノ・カネ・情報が行き来する歴史の中で、中国地方と四国の沿岸部の文化が相互に伝播し合ったのではないだろうか」ということでしたね。今回私は、この仮説を支持する素材として岩国のお好み焼きをご紹介します。
 私の田舎の岩国は、三津浜と航路で昔から結ばれております。海路によるこの相互作用が、岩国と三津浜のお好み焼きの姿に影響しているのではないかと想像します。
 岩国のお好み焼きには牛脂は入れませんが、2つ折にすることがあります。今はどうかわかりませんが、私が子ども時代の約30年前ごろまでは、お好み焼き屋によって2つ折にして完成!の店と、広島焼きのように2つ折にはせずに平べったいままで完成!の店の2パターンがありました。

2つ折
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2つ折

 第67回の記事の中の2つ折のお好み焼きの「破壊的ボリューム」を見て、子どものころ、「それでなくてもすでに分厚いものをどうしてあのようにさらに無理に2つに折ることに何の意味があるのだろうか」と不思議に思っていたことを思い出しました。
 持ち帰り用のパックに入れやすいから2つに折るのではなく、店内で食べるときにもお皿や鉄板の上でも2つ折にするのですから。
 2つ折は三津浜の影響、平たいままのものは広島流、つまり岩国のお好み焼きは両者からの伝播が合流して2パターンが混在しているのではないかという仮説です(石川さん)

 岩国のお好み焼きは広島と同じ「重ね焼き」であろうか。なにしろ岩国は山口県の東端で、広島県に接している。

記憶ではなくカメラに記録されていた鯨飲の痕跡
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記憶ではなくカメラに記録されていた鯨飲の痕跡

 地図を見れば岩国は広島湾を隔てて広島市に向かい合い、瀬戸内海の向こうに松山市を臨む。松山を頂点として岩国、広島が見事な二等辺三角形をなしている。

 しかも松山と岩国が海路によって結ばれているのなら、石川さんの推論は推論の域を超えて説得力を持つのではないか。

 デスク、山口実食編のときのために覚えておいてね。

デスク 岩国のお好み焼き、楽しみですね。

アングルとピントに泥酔がうかがえる
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アングルとピントに泥酔がうかがえる

 ということで今週はおしまい。

 次回は新潟実食編を挟む。

 あのときのデスクの疲れた顔を思い出すなあ。飲まないし、食べないし。

 いや最後は私の知らないところで鯨飲したみたいだけど。

デスク カメラのメモリーには飲み食いした形跡が残ってるんですけど、脳みそのメモリーはクラッシュしたみたいで、データが断片的にしか残っていません。

 ではまた来週。引き続き山口県メールを待つ。

(特別編集委員 野瀬泰申)

★今週の番外編は週末は甲府でB級ご当地グルメ三昧(デスク)です。お時間あれば、こちらもどうぞ。



実食編(前編) 徳山の屋台で飲んで日が暮れて

実食編(後編) ばりそばは「ばり」「ずる」「つる」の三重奏

山口県編(その1) サラリーマンじゃない「金太郎」

山口県編(その3) 牛骨ラーメン、ウッシッシ

山口県編(その4) 俺んち゛のミカンは鍋になる


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2011年12月2日

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