おかわり 人で人呼ぶ街づくり・段ボール娘「やなな」の願い


 

柳ケ瀬商店街の非公式キャラクター「やなな」
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柳ケ瀬商店街の非公式キャラクター「やなな」

 中心市街地の活性化は多くの地域にとって重要課題です。今回訪れた岐阜市も例外ではありません。

 市中心部にある柳ケ瀬商店街は、昭和のヒット曲『柳ケ瀬ブルース』にも歌われた場所。東西に伸びたアーケードの下に多数の店舗が軒を連ねる大規模な商店街です。しかし近年は訪れる人も店舗数も減少し、厳しい状況に立たされています。

 その柳ケ瀬に再びにぎわいを取り戻そう、と奮闘しているユニークなキャラクターが「やなな」です。2008年7月に登場して以来、柳ケ瀬商店街の“非公式”キャラクターとして人気を呼んでいます。

 やななのどこがユニークなのか。まずはその見た目です。ご当地キャラといえば愛嬌あふれる着ぐるみ姿が定番ですが、やななは頭にアーケードを模した段ボール箱をかぶっただけ。着ぐるみの制作費は数十万円、時には100万円以上になるとも言われますが、やななの制作費は「約1万円」とのこと。

 そしてその奔放な行動も話題になっています。大きな身振り手振りで感情を表現するだけでなく、飛び跳ねたり、床に座り込んだり、寝転んだりと暴れまわるやなな。時には一緒にステージに立ったキャラクターの鼻の穴に指を突っ込もうとするなど、非常識な行動も。多くのご当地キャラがかもし出すほのぼのとした雰囲気とは明らかに異なるオーラを放っています。

やななのサイン会には老若男女が列を作る
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やななのサイン会には老若男女が列を作る

 この衝撃的なルックスと自由すぎる行動が受けて、その知名度は徐々に向上。「ゆるキャラグランプリ」などご当地キャラクターの人気投票でも上位に入るようになりました。この人気を地元が放って置くはずがありません。

 2011年には岐阜県より「ときどき商工労働部長(柳ケ瀬活性化担当)」に任命され、公職に就くことに。今年10月に行われるぎふ清流国体・ぎふ清流大会に向け市街地を活性化させていこうと、マスコットキャラクターの「ミナモ」と共演する機会も増えてきました。

 まさに順風満帆、次は何をするのだろうと注目を集めるやななでしたが、登場から4年が経過した今年の7月5日、突如やななは「引退」を宣言します。来年3月末で、やななはその姿を消すというのです。

 やななの人気の秘密、引退の真相、そしてやななプロジェクトの本当の狙いについて、やななをプロデュースしている街づくり団体「ひとひとの会」代表の佐藤徳昭さんに話を聞きました。

――やななのプロデュースを始めたきっかけは。

やななのプロデューサー、「ひとひとの会」代表の佐藤徳昭さん
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やななのプロデューサー、「ひとひとの会」代表の佐藤徳昭さん

 僕はもともと大型ショッピングモールで働いており、そこではイベントなどもひんぱんに行っていました。僕自身の持ち場は主に食品売り場でイベントの担当ではなかったんですが、参加したお客さんがとても満足して、その余韻で買い物も楽しんでいる様子を見ながら、自分もいつかは人を集める、人を笑顔にする、そして買い物もしてもらえるようなシーンを作りたいな、と感じていました。

 その後流通業からは離れましたが、趣味でアカペラグループを結成し、ステージに立つようになりました。すると、どうしたらもっとお客さんに来てもらえるだろう、喜んでもらえるだろう、ということを主体的に考えるようになったんですね。地元の催しに際して他のアカペラグループやバンドを紹介したりする機会も増えてきたので、売り場にいたころから何となく考えていた「イベントで顧客に満足してもらう」という仕事を本格的に始めました。

 お祭りや商店街のイベントにアーティストを紹介していると、地域の課題も数多く見えてきます。来てくれた人に満足してもらおう、という姿勢が欠けていたり、そもそも本音ではお祭りやイベントを必要としていなかったり。「集まってきた若者は満足するかもしれないが、地元にお金が落ちるわけでもないし、掃除などかえって面倒が増えるだけ」と言われたこともあります。

 イベント専門の会社だったら、じゃあやめよう、ということになるでしょう。でも僕はそういう意識を変えたかった。変えていけると思った。もちろん悪く言う人ばかりではなく、助けてくれる人もたくさんいたので、そうした人たちと組んで街を盛り上げていこう、とね。

アーケードのあちこちにやななの巨大なバナーがかかる
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アーケードのあちこちにやななの巨大なバナーがかかる

 並行してNPO法人の仕事もしていたんですが、そのNPOで自分がやりたい商業振興の案件が少なくなってきたので、どうしたものかと考えていたところ「じゃあ柳ケ瀬商店街の盛り上げを手伝ってくれ」と当事の理事長が声をかけてくれました。2007年秋のことです。その冬からここに事務所を構えて活動を始めました。そうして誕生したのがまちおこし団体の「ひとひとの会」です。人で人を呼ぶ、という意味を込めそう名付けました。

――その翌年、「やなな」が登場する。

 やななは、ファンづくりのモデルとして企画しました。僕は、今の商店街に足りないものはファンづくりだと考えているんです。

――柳ケ瀬のファン、ということですか?

 いえ、違います。お店のファンです。今、多くの店は顧客、とくに馴染み客づくりをしていないように思います。商店街にある店というのは、本来それが出来る、そこに強みを持っているはずです。一大商圏である名古屋に勝とうと思ったら、人で勝負するしかない。建物とか、品物の数では勝てないですから。商店街のお店では、同じ人が同じ場所でずっと商売をしている。そこに魅力的な人がいて、その人のファンになったら、その店に来てくれるわけです。

 商店街の中にそういう魅力的な人を作ったり、このお店にはこういう魅力的な人がいる、という情報を発信していけば、岐阜に人を集められる。設備で人を呼ぶのではなく、人で人を呼ぶ。それを「やなな」というモデルで証明したかった。

――やななのどういう部分が店のファンづくりのモデルになり得るんですか?

ご当地キャラクターのカリスマ、ひこにゃんとの共演も果たす
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ご当地キャラクターのカリスマ、ひこにゃんとの共演も果たす

 やななと商店主に共通していること。やななにできて、他のキャラクターにはできないこと。何だと思いますか?それは「記憶」です。お客さんの顔と名前を覚える、ということです。

 やななは1人しかいません。だからファンになってくれた人の顔と名前を覚えています。数カ月ぶりにやななに会いに来た子に「○○ちゃん」と筆談で呼びかけてびっくりさせることもあります。

 馴染み客の体の状態や家族のことまで、全て把握しているのが昔からの商店主にとっては当たり前のことじゃないですか。そこがどんどん希薄になっていったら、大型のショッピングモールに勝てるわけがない。なのに、人をたくさん集めているという、うわべの部分だけを見て、それを真似しようとしたりする。

 もっと商店街はドロドロしてていい。ガンコ親父はガンコ親父でいい。ガンコだけど、お客さんのことをちゃんと見てて、知っている。そういう人が集まっているのが商店街です。

ひこにゃんに対し、踏み込んだ質問をするやなな
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ひこにゃんに対し、踏み込んだ質問をするやなな

 やななは、そういう当たり前だった商店主のコミュニケーションを身をもって実践している。それだけのことなんですよ。だから、実は他のキャラクターのように地域をPRしているのではない、とも言えます。

 やななは他の地域にも積極的に出かけていきますが、そこでファンになった人は第三土曜日に柳ケ瀬商店街に来てくれればやななに確実に会える。「先月埼玉で会ったけど……」と話しかければ、やななが「覚えとるよ。転んどったね」と筆談で返す。これがやななというキャラクターなんです。

――ところで、どうしてやななは段ボールなんですか?

乳幼児にも積極的に話しかけるやなな。思わぬ反撃に遭うことも
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乳幼児にも積極的に話しかけるやなな。思わぬ反撃に遭うことも

 僕は見た目には全くこだわりがなかったんですよ。どんな姿であっても、やることはファンづくり、と決めていましたから。PR、という発想から考えてしまうと、じゃあ体はエダマメの形にして一目でエダマメのキャラだと分かるようにしようとか、そういうことになると思います。

 PRはPRでも、本当の意味でパブリックなリレーションを作ることに興味があります。やななや僕が情報発信することはPRではなくて、それを受けて、いろんな人がうわさや会話をすることがPRだと思うんです。そのためには、姿形を分かりやすくすることよりも、むしろ分からんことを用意することが大事になってきます。「非公式」というポジションや、段ボールという外見、「年齢は8歳」「8cmの人魚の像が、20倍に巨大化したもの」といった設定に「何で?」と思うところから会話が生まれる。

 そもそも、やななは自分自身によって何か具体的なものをPRする、ということができません。名所旧跡や特産品のキャラクターではなく、商店街のキャラクターですから。単に商店街に来てね、と言ったところで、そこに何か特別なものがあるわけではない。だからやなな自身がある意味でアイドル化して、ファンを作って、やななに会いに来てもらう。これを商店主が見て、ファンづくりの重要性を思い出してくれれば、駐車場が高いから柳ケ瀬に行きたくない、なんて人は減っていくはずなんです。

――やななは、いつも「マネージャー」「秘書」といった若者たちと一緒にいますが、これはどういう意図があるのですか。

やななと共に「マネージャー」「秘書」などの肩書きを持つ若者がステージを盛り上げる
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やななと共に「マネージャー」「秘書」などの肩書きを持つ若者がステージを盛り上げる

 キャラの最大の弱点って、話ができないことじゃないですか。最近は少し様相が変わってきましたが、やななが登場したころは、多くの場合キャラクターと行政や観光の担当者が一緒に出てきて「うちのキャラクターは頭が特産物の○○になっていて……」と、こうやるわけです。正直、あまり面白くない。これで、見た人が話題にしてくれるんだろうか、と疑問でした。

 実は、やななも当初は僕が一緒に出ていたんですよ。僕みたいなオッサンがキャラクターのことをみんなの前で話していていいんだろうか、と感じつつも、取材の依頼はどんどん増えてくる。キャラクター登場の経緯とか、そういう裏側の話をするのは僕でいいけれど、表側の情報発信の部分を僕が担うのは違うんだろうな、という思いは募りました。しかもそうしているうちに、僕が地元のプチ有名人になってしまった(笑)。「テレビ見ましたよ」なんて声をかけられて。これはさすがにいかん、と。

 イベントの仕事をするようになって、地元にはアーティストになりたい、アイドルになりたい、声優になりたい、といった夢を持つ若い人、特に女性たちがたくさんいることを知りました。彼女らはそのために学校に通ったり、レッスンを受けたり、オーディションに応募したり、と頑張っている。でもそう簡単に活動の機会は得られません。一方で、やななには多くの取材が来ている。そこで、この機会を夢に向かっている彼女たちに提供すればいいんじゃないか、と考えました。やななにとっても、可愛い女子やイケメンの男子、あるいはしゃべりのうまい人とセットになって出ればプラスになるし、話ができないという弱点もフォローしてもらえます。それでやななと一緒にステージに上がるマネージャーたちが誕生したわけです。僕は「鬼マネージャー」(笑)として裏方に専念できるようになりました。

――やななはどうして引退を?

7月の引退会見はネットで生中継された

7月の引退会見はネットで生中継された

 「やなな」のプロジェクトはあくまで街づくり。街を変えるためには、まず街の人が変わらなければいけない。そのためにファンづくりのモデルをやななで示そう、という試みです。これは、えんえんと続けるようなものではない。いつまでに、ここまで達成する、というゴールを決めて実施し、達成できないのであれば手段を変えなければいけません。だから期限をきちんと決めよう、と登場から1年後、今から3年前に考えました。

 このことを話したとき、一番びっくりしたのはやなな本人でした(笑)。やななに問いかけたんですよ。「やななは20年先もいると思う?」って。すると「いるわけない」。「じゃあ10年先は?」「よく分からない」「5年先は?」「……(ポリポリ)」「つまりいつかはいなくなる、ということだよね。じゃあどういう形でいなくなるのがいい?」。

 その会話の中で、だんだん人気がなくなり、人から忘れられていってしまうようなことにはしたくない、という結論に達しました。僕たちはそれでもいいけど、非公式とはいえ商店街の看板を背負って活動してますから、商店街そのものに飽きられてしまったようなイメージを与えてはいけないんです。

 期限を決めておけば、ピークの状態でゴールできる。だから一度に多くのメディアから出演のオファーをいただいても、一定の本数以上を無理して受けることはしませんでした。マラソンでも、途中全速力で走ってしまったら息切れしてしまうでしょう。

 ピークでゴールすれば、商店街にとって最もいい形になるはずです。やなながいなくなった後も、みなさんの記憶には強烈に残りますから。恋愛だって、好きでたまらなかった相手が急に引越していなくなったりすると、何十年たってもその子のことが好きで、その子との思い出の場所にはずっといい感情を持ち続ける。それと同じですよ。きっとやななとの思い出の場所である柳ケ瀬商店街も好きでいてくれるんじゃないか。そういう期待があります。

――「ポストやなな」の考えはありますか?

卒業していくマネージャーたちはやななの顔にメッセージを書き込んでいた
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卒業していくマネージャーたちはやななの顔にメッセージを書き込んでいた

 3年前にやななのゴールを決めたとき、もうひとつ決めたことがあるんですよ。ゴールしてからのことは、ゴールの直前に考えよう、と。街づくりの仕掛けは、1年も2年も前に考えても意味がない。街もどんどん変わっていくし、マーケティングの潮流も変化する。将来、商店街のどういう部分がみなさんにアピールするのか、どういう手法が受けるのかは誰にも分かりません。今だったらご当地アイドルとか武将隊かもしれないけど、半年後、1年後は分からない。

 不安もめちゃくちゃありますよ。だから3年後の自分を信じよう、って自分に言い聞かせながらやってきました。「きっとそのとき、いい企画を思いつくから」ってね(笑)。でも確かに言えるのは、柳ケ瀬を離れるわけでない、ということ。僕たちはここで、街づくりを続けますよ。

一芸

2012年9月7日

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