第234回 福井県編(その4) 思い出したぞ! きな粉飯

特別編集委員 野瀬泰申


福井県

 いよいよ福井県編も最終回です。
 ソースカツ丼、浜焼き鯖(さば)にへしこ、鶏肉大好き、油揚げも大好き…、様々な「福井の食」が登場してきましたが、話題はまだまだ尽きません。最終回はいったいどんな食べ物が登場するのでしょうか。
 今週のおかわりは、食べB和歌山県編のスタートを前に、世界遺産・高野山を都心で気軽に体験できるイベントを、デスクが紹介します
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旅の途中にあった八連橋
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旅の途中にあった八連橋

 先週末、雑誌の取材で大分県に行ってきた。中津市から国道212号を走って日田に向かうルートである。この道はかつて山国道と呼ばれた。明治まで代官がいた天領日田は北部九州の中心地で、各地と日田を結ぶ「日田往還」が放射線状に伸びていた。山国道もその一つであった。道に沿って地元以外ではあまり知られていない名所旧跡が点在する。

 名所ではないが、清流の水を引き込んだ河川プールが各地にあって、終わろうとする夏休みを惜しむように、子どもたちが元気な声を響かせながら泳いでいた。

日田の夏は暑い
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日田の夏は暑い

 私も子どものころ、川で泳ぎを覚えた。夏には真っ黒になって泳いだものであった。しかし最後にプールだか海だかに入ったのはいつのことであったか。いまは水着も持っていない。

 リタイアしたら近所のスポーツクラブに入会して、プールで泳ごうかななどと考えている。

 では本編。

谷田部ネギ(松原さん提供)
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谷田部ネギ(松原さん提供)

MNo.24

 小浜の山間集落「谷田部(やたべ)」で地元住民により手間ひまかけて育てられている「谷田部ねぎ」は、根元が釣り針状にキュッと曲がっているのが特徴。とても甘味が強く、煮て良し、炊いて良し、焼いて良しの三拍子そろった食材です。
 地元でとれる鯖とも相性が良く、郷土料理「鯖とねぎのぬた」には、谷田部ねぎがなくてはならないと言われています。
 食の世界遺産とも言われる「味の箱舟」(イタリアに本部を置くスローフード協会によるプロジェクト)にも認定されており、市でもブランド認証品として谷田部ねぎ料理の伝承を最重点に位置づけるなど、地域を代表するブランド食材となっています(小浜市広報担当・松原さん)

 このねぎは相当美味いらしい。その相棒の鯖だが、次のような手の込んだ食べ方もある。

鯖のなれずし
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鯖のなれずし

MNo.25

 小浜市田烏では古くから鯖の漁が盛んで、巾着網漁業の発祥の地とされています。日本遺産の第1号にも認定された小浜市は多くの鯖の加工品があります。「鯖寿司」「鯖のへしこ」「浜焼き鯖」などのほかにどうしても付けたしておきたいものがあります。
 小浜市の東の海岸沿いの集落で作られている「鯖のへしこなれずし」です。これは、鯖を1年かけてへしこを作り、へしこのぬかを落とし、一昼夜塩出しして、さらに鯖の皮をむいた後、各家庭秘伝の酢にくぐらせ、ご飯と糀をたっぷりと詰め込んで、さらに2週間付け込み完成します。
 2度の発酵により、癖がなく糀の甘みとチーズのようなうま味がファンを作っています。

ぬかを落とし、塩出ししてご飯と糀で漬ける
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ぬかを落とし、塩出ししてご飯と糀で漬ける

 地元では普通、生のままで食しますが、焼くとさらに甘みがまし、日本酒とぴったりで、地元の正月には欠かせないものとなっています。今では販売目的で生産しているところは数軒しかなく、高齢化してきており、この伝統食を守ろうと田烏の有志で「なれずし工房」を立ち上げました。
 昨年は、東京、名古屋へ試食品をもって行きました。意外と食べやすいと評判でした。このおいしさをぜひたくさんの人に知ってほしいです(山下さん)

谷田部ねぎの鯖ぬた(松原さん提供)
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谷田部ねぎの鯖ぬた(松原さん提供)

 MNo.24に出てきた「味の箱舟」。福井県農林水産部のHPには「『味の箱舟』とは、10年前から始まった、イタリアのスローフード協会による伝統的な食品や食材を守るためのプロジェクト。 日本国内で選ばれているのは現在20品。県内では平成18年に『鯖のなれずし(小浜市)』が初めて認定され、谷田部ネギは2品目となります」とある。

 小浜、やるじゃん。

 福井市出身で劇団民芸の創設者の一人、宇野重吉が盛んにしゃべったり書いたりして宣伝に努めていたのが越前そば。私も彼が書いたものを読んで、その存在を知った。

 宇野重吉は俳優、寺尾聡のパパである。

越前坂井辛み蕎麦(あなたの蕎麦で辛み隊提供)
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越前坂井辛み蕎麦(あなたの蕎麦で辛み隊提供)

MNo.26

 福井といえば、おろしそば。年越しのときも、いたるところで冷たいおろしそばを食べる習慣があります。
 大根おろしと一緒に食べるおろしそばが福井に登場するのは、江戸時代。関が原の合戦後の慶長6(1601)年、府中(越前市)の城主となった本多富正が、金子権左衛門というそば師を伏見から同行させたのが始まりとされ、非常食としてそばの栽培を奨励。
 金子氏は麺状にする「そばきり」の技術を広めただけでなく、食べ方も工夫しました。栄養面を考慮し、保存食だった大根のおろし汁を出しに混ぜる食べ方を生み出したとされています。
 福井県坂井市は県内最大のそばの産地で本州では1位です。

B−1グランプリin郡山にて
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B−1グランプリin郡山にて

 伝統食文化である「越前おろしそば」の名前は昭和天皇に由来し、古くから地元の人に愛され続けています。その香り高いそばに大根おろしをかけて食べるのが主な食べ方で、地域によっては大根の辛さにこだわった食べ方もされています。
 大根おろしの汁とダシを合わせたものをそばにかけるという方法で食べるのが坂井市流の「越前坂井辛み蕎麦(そば)」。大根おろしの汁だけを使い「おろしそばなのにおろしがのっていない」というなんともぜいたくな組み合わせで、ファンも多いです(越前坂井辛み蕎麦であなたの蕎麦で辛み隊の海野さん)

谷口屋製「竹田の油揚げ」(越前坂井辛み蕎麦であなたの蕎麦で辛み隊提供)
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谷口屋製「竹田の油揚げ」(越前坂井辛み蕎麦であなたの蕎麦で辛み隊提供)

 私が初めて食べた越前そばは武生(現越前市)のものであった。大根おろしが出しの中に入っていた。そうとう辛かったが、カプサイシン系の辛さではないので大丈夫であった。

 それとは違って、大根おろしの汁だけを使ったのが坂井のおろしそば。B−1会場では辛み隊のものを食べているが、現地では未食。楽しみにしているのだ。

 海野さんからは「油揚げの消費量日本一の福井県(総務省「家計調査」)。消費量は全国平均のおよそ2倍。その中でも最も有名なのが坂井市丸岡町にある『竹田の油揚げ』です。伝統の技を受け継いできた熟練の『揚げ師』が、1枚の揚げにつき約1時間、100回以上手作業でひっくり返しじっくりと揚げていて、 機械製造や他では決してまねできない伝統の『谷口屋の油揚げ』です」とのメールもいただいている。

東京のアンテナショップでもトップ級の人気商品
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東京のアンテナショップでもトップ級の人気商品

 坂井市丸岡町竹田にある谷口屋は創業90年の老舗。日本で唯一の油揚げレストランを経営しており、かまぼこ定食の向こうを張ったような「1枚油あげ御膳」がある。要するに油揚げ定食である。

 福井にはいろいろな定食があるなあ。

 油揚げの親戚である豆腐も忘れてはならない。次に登場するのは少し違う豆腐ではあるけれど。


永平寺ごまどうふ(いけずな京女さん提供)
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永平寺ごまどうふ(いけずな京女さん提供)

MNo.27

 福井県の名刹、とくれば真っ先に思い浮かぶのは曹洞宗大本山永平寺。とくれば、忘れたらあかんのは「永平寺そば」と「永平寺ごまどうふ」ですよね。
 永平寺に伝わる精進料理が檀家に広がり、中でもこの2品は地元・永平寺町の特産品にもなりました。
「永平寺そば」は山芋をつなぎに打ち、大根おろしや山芋のとろろでいただくのがご当地流。
「永平寺ごまどうふ」=胡麻豆腐は非常にやわらかくて、とろけるような食感が特徴です。京都のお土産にも胡麻豆腐はありますけど、ぷるんと弾力のあるもんが多く、永平寺のとは風味も違います。
 同じ食材を同じような製法で作っても、風土色というものはつおく出るんやなあと、感心いたしました(いけずな京女さん)

とろけるような食感
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とろけるような食感

 永平寺の開祖、道元禅師は精進料理と仏道の関係を説いた「典座(てんぞ)教訓 赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)」を著したことでも知られる。

 この教えに従って調理された精進料理の写真集を見たことがあるが、どれも美しく見事であった。料理がきれいというのではなく、精神性が高くて美しいという意味である。永平寺そばも永平寺ごまどうふもその中の一つであろうか。

 仏門にあっても食べることへの希求はある。食べるのが数少ない楽しみかもしれない。

永平寺そば
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永平寺そば

 幼年から禅宗寺院に暮らした作家の水上勉が書いた「土を喰う日々」は、軽井沢の別荘での1年にわたる調理記録だが、随所に典座教訓につながる調理哲学が登場する。

 永平寺、行きたいなあ。

 次は「きな粉」。

温かいご飯にきな粉
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温かいご飯にきな粉

MNo.28

 温かいご飯に砂糖を入れたきな粉(時に塩を少々いれることもある)をかけ、食べる習慣があります。ヒヤリングをすると嶺南、丹南、嶺北出身の方も食べていたようです。京都の方でも食べていたとおっしゃっていました。
 年代的には、50代より上の方々は、食事の際のふりかけとして召し上げることが多く、20代、30代ぐらいになるとほとんどが、幼いころにおばあちゃんと一緒に「おやつ」として食べていたことが多いようです。
 そのとき、おばあちゃんは「はったいこ」、福井では「おちらし」と呼ぶこともあるオオムギを炒って挽いた粉、別名は麦焦がし(むぎこがし)を溶かして食べていたケースもあるようです。
 丹南の伝統食に「ほおば飯」があります。個人的な憶測ではありますが、簡易なほおば飯風として食べていたのではないでしょうか?(ふくい南青山291の佐藤さん)

朴葉にきな粉、炊きたてご飯(「野の花工房」フードコーディネーター佐々木京美さん提供)
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朴葉にきな粉、炊きたてご飯(「野の花工房」フードコーディネーター佐々木京美さん提供)

 このメールを読んで「おっ」と思った。私も子どものころ、砂糖を入れたはったい粉をご飯にかけて食べていたからである。そんなことはとうに忘れていたのだが、メールの文章が半世紀以上の時を飛び越えて、当時の我が家の食卓に引き戻してくれた。

 はったい粉をお湯で溶いたものも、おやつとして食べていた。焼いた餅につけることもあった。

「ほおば飯」はご飯にきな粉をまぶして朴葉で巻き、重しをしたもの。きな粉ご飯の保存性を高めたものである。多分、お弁当用。

ほおば飯の出来上がり(「野の花工房」フードコーディネーター佐々木京美さん提供)
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ほおば飯の出来上がり(「野の花工房」フードコーディネーター佐々木京美さん提供)

 ご飯ときな粉の関係を思い出させてくれるメールであった。

 きな粉のつながりでこのメール。


けんけら(大阪の原さん提供)
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けんけら(大阪の原さん提供)

MNo.29

 大野市で「けんけら」というお菓子に遭遇。きな粉を練って焼いたものでしたが「生けんけら」という新種も発生しています。
 生のきな粉団子は他の地域でも見かけますが、京都の生八つ橋同様に「長期保存技術の発達」「移動手段の高速化」「柔らかい食品への嗜好の変化」によるものと推定します。
 この種の半生菓子がお土産として流通するには保存手段+移動時間の短縮が必須。そこにモチベーションとして「しっとり柔らか目」への市場のニーズがマッチしてのこと。半生カステラなどと同じく、これからも増えるのでしょうか?
 とりあえず、きな粉は好きなのでパクパク。ああ、お茶がおいしい(大阪の原さん)

伝統の味(大阪の原さん提供)
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伝統の味(大阪の原さん提供)

 大豆の粉を水あめで固めて薄く切ったもの。ひねりが入っているのが特徴である。想像に過ぎないが、くず大豆を粉にしてきな粉飯、あるいはけんけらのようなお菓子にしたのではないか。けんけらは300年とも400年ともいう伝統があるとのこと。一粒たりとも無駄にしないための工夫であろう。

 最後に登場するのは三国の食の風物詩。

ぜんまい煮しめ(島アさん提供)
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ぜんまい煮しめ(島アさん提供)

MNo.30

 ぜんまい煮しめは、毎年5月19日〜21日に実施される三国祭のときにのみ作る食の風物詩です。刺身や焼魚などいろいろな料理が並ぶ中でも「ぜんまい煮しめ」は必須のメニューで、三国祭は別名「ぜんまい祭」ともいい伝えられているほど。
 必ず大野産のぜんまいを使います。親戚が集まって祭を祝うので、家庭料理として出すもののひとつです。「ぜんまいと厚揚げを一緒に煮たもの」が基本的で、他にいろいろな具材が入ります。
 調理した奥様の話では「ぜんまいは3回、しっかり水で戻したものを使う。油揚げ(厚揚げ)と一緒に、三国産のたけのこと煮る。たけのこの量が少ない年は、一緒に里芋を煮たりすることも多い。若者はたけのこのえぐ味を嫌がるので、里芋を入れると喜んで芋を食べるし、年寄もたけのこだと固いので、里芋は喜ばれる」のだそうです(福井県観光営業部ブランド営業課食の國福井グループ島アさん)

福井県=油揚げ
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福井県=油揚げ

 ここにも油揚げ(厚揚げ)が顔を出す。福井県=油揚げ。覚えておこう。

 ということで福井県編はおしまい。知らないことだらけであった。いやもっと知りたいことだらけである。

 実食の旅は秋も深まってということになろうが、時期をずらしてカニのころを狙うかも。

 次回から和歌山県編。県としては最後である。

 食べB終了、私のリタイアが日程に上ってきた。

高野山カフェ、きょうから丸の内で
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高野山カフェ、きょうから丸の内で

 青春、朱夏、白秋、玄冬という人生のステージのうち、最後の玄冬の入り口に立っている。いやな気はしないが。

 では和歌山県関係の皆さん、そろそろキーボードの前に座ってください。


(特別編集委員 野瀬泰申)



★今週のおかわりは「高野山の旅を東京・丸の内で」です。ぜひお読みください。

福井県編(その1) 「かまぼこ定食」あります

福井県編(その2) 「油揚げ定食」もあります

福井県編(その3) 「山うに」をご飯の上にちょっとのせ

実食編 とりあえず、焼き鳥110本!


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2015年8月28日

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