第21回 千葉県実食編 「勝タン」への長い道

一芸クンの食べB修行記・目指せ!肉食系男子編

 ある暑い日のこと。会社で千葉県実食編取材の計画をしていると、かつて「食べ物 新日本奇行」を担当していた先輩(現在も「机さん」としてたびたび登場)が私の席を通りかかりました。机さんは千葉県在住。どこか立ち寄るべきところはないか尋ねると「成田のジンギスカンはどうかな」との答えが。かつて御料牧場のあった成田は、ジンギスカン料理とのゆかりが深いそうです。面白そうなので、野瀬特別編集委員と回る日の前日、単身成田へ向かうことにしました。

 取材直前、机さんから1本のメールが届きました。「成田までは遠いので、小腹が空かないようにJR我孫子駅の駅そばを食べていくといい。唐揚げそば(2個入り)がおすすめ」とのこと。なんと有難いアドバイス。持つべきものは優しい先輩です。旅のはじまりに軽くそばなんて、オツなものではありませんか。

 当日はアドバイス通り、我孫子駅のホームにあるそば屋さんに入り唐揚げそばの食券を買います。時間的にはお昼近かったのですが、遅めの朝食に軽くそばを……。

唐揚げでそばが見えない
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唐揚げでそばが見えない

 軽くない。

 ぜんぜん軽くないのであります。受け取った丼には、唐揚げの姿しかありません。そばが隠れて見えないのです。どうしたものかと思いましたが、つゆを吸い込んでやわらかくなった衣がなかなかの美味でした。


手賀沼と「白樺派のカレー」
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手賀沼と「白樺派のカレー」

 いきなり満腹になってしまったので少し運動しようと、我孫子駅から徒歩約10分のところにある手賀沼のほとりを散策。我孫子では、かつてこの地に白樺派の文人たちが住んでいたことにちなみ「白樺派のカレー」を売り出しています。いくつかの店で食べられるほか、レトルトも販売中。以前の私なら「朝食後の軽いカレー」をいただくところですが、鳥取カレー奮闘編のあと、野瀬特編から「こういう不健康な行為は食べBの精神に反する。1日3食を超えることはまかりならん」と厳しいお達しが出ています。レトルトを買うにとどめました。


 お腹も落ち着いてきたのでJR成田線に乗って40分あまり、成田に到着です。まずは空港に近い三里塚記念公園へ。1969年まで、ここに「宮内庁下総御料牧場」がありました。クラッシックな建物の三里塚御料牧場記念館には、昭和初期、海外からの賓客にジンギスカン料理を振る舞った鉄板も展示されています。

 終戦後、ジンギスカン料理は三里塚名物として多くの店で提供されていたようです。その当時の雰囲気を残すのが、成田市小菅にある「緬羊(めんよう)会館」。歴史を感じさせる建物に入り、足元を見ると床はなく、土間になっています。そこに無造作にテーブルを置き、もくもくと煙を出しながらジンギスカンをいただくという、ワイルドなお店です。


三里塚御料牧場記念館
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三里塚御料牧場記念館


「緬羊会館」とジンギスカン料理
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「緬羊会館」とジンギスカン料理




 さぞや料理も西部劇に出てくるようなワイルドさかと思いきや、意外にも出てきた羊肉はクセのないすっきりした味わい。注文は2人前から、とのことでしたが1人で問題なく平らげました。長年通い続けるファンも多いそうです。


 成田を後にして、途中千葉駅で下車し、県庁所在地で千葉らしい食べ物探しとしゃれこむことに。以前から面識のある、西千葉地区で地域SNS(交流サイト)「あみっぴい」を運営している虎岩雅明さんに連絡を取り手がかりを求めます。「千葉らしい、と言えば『西千葉ーガー』というのがありますね」と虎岩さん。そのナイスなネーミングに興味と食欲をそそられます。

 西千葉駅から徒歩5分ほどのところに、「西千葉ーガー」を出すお店「PEPERMINT BOOGIE」がありました。アメリカンなムード一杯のダイニングバーで、西千葉ーガーが出て来るのをじっと待ちます。実はまだ体内の唐揚げとジンギスカンを消化しきれていなかったのですが、ハンバーガーならおやつ感覚でいただけるので大丈夫でしょう。

西千葉ーガー
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西千葉ーガー

 おやつじゃなかった。

 牛肉のうまみがしたたり落ちる厚いハンバーグとたっぷりの野菜を、絶妙のバランス感覚で挟み込んだ一品は、まさにディナーの風格です。「うわさを聞いて遠くから食べに来る人もいますよ」と店長。地元への愛情が隠し味となって、地道に経済効果も生んでいるようです。

 鶏、羊、そして牛と、肉三連食でこの日は終了。しかし千葉の肉は私を離してはくれませんでした。

◇     ◇

バーベキュー弁当
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バーベキュー弁当

 翌朝、木更津港で野瀬特編と合流。木更津、と言えば千葉県編第1回でA-changさんから投稿のあった「バーベキュー弁当」を食べないわけにはいきません。市内にいくつかの店舗を持つ「浜屋」の開店を待って買い求めたバーベキュー弁当を、港の景色を眺めつついただきます。野瀬特編の記事にもあるように、この地で長きにわたり愛されているソウル・フード。ちなみにこのバーベキューは豚肉です。


 バカの会取材を終え、遅めの昼食を南房総市千倉町の「大徳家」で。この店については、千葉県編最終回で牧場のアイスクリームの話題を投稿してくれたエンマさんから聞いていました。エンマさんは南房総市の地域SNS「房州わんだぁらんど」のメンバーです。

ツチクジラの味噌あえ
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ツチクジラの味噌あえ

 伝統的な「なめろう」「さんが焼き」に舌つづみを打つbayfmの斉藤りささんや野瀬特編。どれ私も、と手を伸ばそうとすると「君は肉しか食べないはずだろう」と遮られました。いつそんな設定になったんだよ、と不満を顔に出していると、大徳家五代目の栗原和之さんが「肉でしたら、ツチクジラの味噌和えがありますよ」と即座に用意してくれました。さすが明治2年創業の老舗、打てば響きます。特有の歯ごたえを残しつつもやわらかく煮込まれた肉に、味噌やさまざまな薬味が混じりあい、不思議な味わいをかもし出す一品です。どこか懐かしくもあります。

 南房総市の和田港は、ツチクジラ漁の捕鯨基地として知られます。ツチクジラは国際捕鯨委員会(IWC)の管理下にはありませんが、自主的な規制によって、現在和田に水揚げされるのは年間26頭となっています。今年の漁期は6月20日から8月31日ですが、26頭捕獲した時点で終了です。私がこの日いただいたのは24頭目とのこと。市内のスーパーにもツチクジラ肉のブロックが並んでいました。


天津神明宮で行われたバーベキュー
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天津神明宮で行われたバーベキュー

 勝浦タンタンメン取材のあと、私は鴨川市にある鎌倉時代から続く神社・天津神明宮を訪れました。地元の若手経営者や自治体関係者、研究者などを集めた合宿研修が開かれていると聞き、その懇親会にお邪魔したのです。企画したのは天津神明宮の禰宜(ねぎ)である岡野大和さん。岡野さんは大学時代にITベンチャーを起業し、ビジネスを軌道に乗せたあと生家である神社に戻って神職を務めるかたわら、鴨川市の地域ポータルサイト「かもがわナビ(かもナビ)」の企画・運営にも携わるという、まだ30代前半の若さながら様々な顔を持つ人です。

 神社で行われる会合なので、きっとヘルシーな料理をいただけるに違いない。やっと「肉」から開放される喜びを感じながら会場に着くと、なにやらモクモクと煙が上がっています。

 「ええっと、これは……」「バーベキューですよ」。

 1日のうちに2回も「バーベキュー」という名のつく料理を食べたのは生まれて初めてではないでしょうか。美味しかったですが。

 バーベキューを囲みながら、熱い意見の交換は夜遅くまで続きました。参加者の一人、食文化に詳しく鴨川市観光アドバイザーも務める日暮晃一東京大学大学院教授は「戦後の食生活改善は食文化の平準化も進めてしまった。地域独特の食文化が失われてきている」と話していました。日暮教授は、地域住民と一緒になって農地や海の保全に力を注ぐとともに、食文化を正しく理解してもらうため、観光客に農作業体験の機会を提供するなど実践的な研究を進めています。9月に始まる「ゆめ半島 千葉国体」では鴨川が会場となるボクシング競技の出場選手に郷土料理をふるまう予定だそうです。

◇     ◇

いのしし丼
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いのしし丼

 翌日は早朝に勝浦朝市を見学し、松戸に向かいます。途中、勝浦市の北西にある大多喜町の「道の駅 たけゆらの里おおたき」に立ち寄りました。コーヒーでも飲もう、とレストランに入ると目に飛び込んできたのが「いのしし丼」。コーヒーなど飲んでいる場合ではありません。いつのまにか肉食系男子になっていた自分は、ホテルで朝食バイキングを食べてきたことも忘れ食券を買い求めました。

 いのしし肉は甘辛く味付けがなされており、紅生姜など薬味の効果もあってか臭みもなく、やわらかい肉でした。

 松戸に到着して、江戸時代から続く提灯の「八嶋商店」で宿場町の歴史を学びます。この地には遊郭や大名屋敷があったために、和菓子や果物の店も多かったのだとか。そのあと旧水戸街道を少しだけ歩き、この日行われていた「献灯まつり」をながめつつ、嫌がる野瀬特編の口に鯛焼きとイワシのゴマ漬けと木の葉パンを押し込むと本編の取材は終了です。ですが自分は東京に戻る野瀬特編を見送り、松戸に残りました。

リング状のとんかつ「ラブマツリング」
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リング状のとんかつ「ラブマツリング」

 というのも、千葉県編最終回に登場したドーナツ型のトンカツ「ラブマツリング」が気になったからです。肉食ツアーの掉尾(とうび)を飾るにふさわしい一品ではありませんか。投稿してくれたのは松戸の地域SNS「アイラブジモト松戸(通称ラブマツ)」のメンバーである、ハンドルネーム“てるみちゃん”さん。これを食べられるお店は住宅地の中にあり、初めて行くときは迷いやすいとのことで、ラブマツ管理人である榊原直哉さんと“てるみちゃん”さんの助けを借りて松戸市北部にある「とん吉」へ。

 ラブマツリングは写真からイメージしていたよりもずっと大きく、ちょうどドーナツと同じぐらいの大きさ。いったいどうやって丸くするのかというと、薄くたたいて延ばした豚ひれ肉を丸めて棒状にし、その両端を合わせてリング状にするのです。何とも手の込んだ料理ですが、見た目が面白いだけでなく、実にやわらかく、新鮮な食感が味わえます。

 「ラブマツ」のメンバーが協力して作り上げたというメニュー、ラブマツリング3つを完食して、無事千葉肉食ツアーが終わりました。


◇ お ま け ◇

 今回の実食では、おびただしい肉料理の数々とともに、いくつかの地域SNS・地域ポータルといったIT活用事例に出合いました。その横顔をちょっとご紹介しましょう。


虎岩雅明さんとSNS「あみっぴぃ」(http://amippy.jp/)

虎岩雅明さんとSNS「あみっぴぃ」(http://amippy.jp/

 まず西千葉の「あみっぴぃ」。西千葉には千葉大学があり、多くの学生が暮らしています。そこで若者たちが地元の中高年の方々にパソコンの使い方を教える交流事業が始まりました。これが母体となって誕生したのがあみっぴぃです。

 運営している虎岩さんは、日ごろから「あみっぴぃは『出会い系』ではなく『出会った系』」と話します。リアルなコミュニティーがあってこそのネットコミュニティー。SNSを作れば地域が活性化するわけではない、というのが虎岩さんの持論です。



榊原直哉さんとSNS「ラブマツ」(http://matsudo.ilovej.jp/)

榊原直哉さんとSNS「ラブマツ」(http://matsudo.ilovej.jp/

 あみっぴぃは地域SNSの先進的成功事例として全国に知られるようになり、虎岩さんはこの分野のオピニオンリーダーとして活躍しています。松戸「ラブマツ」の榊原さんも、そこから多くを学んだ一人。

 あみっぴぃ同様リアルにこだわるラブマツでは、原則として実名・顔写真の掲載が必須です。「SNSはもともと地域にあった人のつながりを復活させる、いわば『再接続』の取り組みだ」と話す榊原さん。メンバーが実際に集まる「ピクニック」と呼ぶ会合を毎週開催しており、その数は2年余りで120回を超えました。



鈴木聡明さんとSNS「房州わんだぁらんど」(http://wandara.net/)

鈴木聡明さんとSNS「房州わんだぁらんど」(http://wandara.net/

 南房総の「房州わんだぁらんど」を運営しているのは 特定非営利活動法人(NPO法人)南房総IT推進協議会です。この団体はブロードバンドや無線LANといった通信インフラを地域に広めているほか、土地の文化や歴史、方言、観光情報をデータベース化するなど、民間主導で幅広い活動を展開しています。

 その中心的人物が副理事長の鈴木聡明さん(城西国際大学准教授)。鈴木さんは「地域の最大の資源は人。情報化は、人と人とを結びつけ、新しいソーシャルキャピタル(社会関係資本)づくりのきっかけになればいい」と主張します。「B級グルメによるまちおこしも、きっかけ、という点では同じかもしれない」とも。



岡野大和さんと地域ポータル「かもがわナビ」(http://www.kamonavi.jp/)

岡野大和さんと地域ポータル「かもがわナビ」(http://www.kamonavi.jp/

 「かもナビ」の岡野さんは「地域ポータルのようなメディアは自分たちを理解するのにも役立つ。地域活性化には不可欠だ」としつつも、それはネットに限らないと考えています。

 そこで「かもナビ」は昨年からフリーペーパー「かもがわMAGAZINE(かもジン)」を発行。さらに岡野さんはバーベキューの席で「究極のメディアは『人』ではないか」と話しました。今回の研修会のような取り組みも、人と人とをつなげることに大きな価値があるのだそうです。



 ITというと人間関係の希薄化を助長しているように思われがちですが、虎岩さん、榊原さん、鈴木さん、岡野さんと、千葉のIT化キーマンがそろって「人と人とのリアルなつながり」を強調しているのです。地域活性化はネットのみにしてならず。傷つくことを恐れず、積極的に人間関係を構築していく貪欲(どんよく)さ――さながら「肉食系」の姿勢が必要なのかもしれません。

 「食べB」も、及ばずながら地域の活性化に貢献できればと思います。そのために、自分は今後「肉食系」で行こう、と決心いたしました。

◇     ◇

 3日間の取材を終え、自宅に戻ってほっと一息。風呂上りに何気なく体重計に乗ると……!

 すみません、やっぱり草食系でお願いします。

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