第226回 宮崎県ご当地グルメ(その1) 「チキン南蛮」はなぜ「南蛮」?

特別編集委員 野瀬泰申


宮崎県

 九州山地から豊富な水がいくつもの川となって日向灘に流れ込む宮崎県。北に祖母山、南に霧島連山、南北のリアス式にはさまれた日南海岸など、山にも海にも恵まれた土地柄。そして太平洋の黒潮がもたらす温暖な気候…。
 豊かな自然は、宮崎県にどんな食を育んでいるのでしょうか。みなさんからのメールをもとにひもといていきます。
 今週のおかわりは、恒例のアンテナショップ紹介。JR新宿駅前にある「新宿みやざき館KONNE」にデスクが行ってきました
 食べBのFacebookページ(http://www.facebook.com/tabebforum)では、食べBの更新情報や裏話などをゆるやかに発信していますのでどうぞご利用ください

(「食べB」へ初めて訪れた方は「食べB入門編」をご覧下さい記事の県別一覧はこちら

甲府スタイル
<写真を拡大>

甲府スタイル

 先週の日曜日は「父の日」だった。子どもたちはみんな独立して、いまさら「父の日」でもないのだが、末娘が「おてまみ」(お手紙)をくれた。

 前半はまあそれなりの内容であったが、後半を要約すると「テレビに安物のヘンな服を着て出ないように」と書いてあった。

 なに、ヘンな服? 安物?

 安物は認める。しかしヘンな服か?

浪江スタイル
<写真を拡大>

浪江スタイル

 私がレギュラーで出演している番組は、BSジャパンの「あの年この歌」。真ん中に座るジ・アルフィーの高見沢俊彦さん、坂崎幸之助さん、それに司会の佐々木明子さんにはスタイリストが付いている。

 スタイリストが付くと、毎回衣装を用意してくれるのを黙って着ればいい。いわば貸衣装であって、料金はテレビ局または所属事務所が払ってくれる。

 しかし私にはスタイリストは付いていないので、全部自腹である。

横手スタイル
<写真を拡大>

横手スタイル

 自腹であるから高い服をしょっちゅう買っていては財布がもたない。しかし同じ服を続けて着ると、視聴者のスルドイ指摘を受けかねないから、財布の許す範囲で買うしかないのである。

 それでも自分にはファッションセンスがないという自覚があるため、店の人と相談しつつ、着回しが可能なように、なるべく記憶に残らないデザインの服を選んでいる。

 その結果がヘンな服ならば、

「どげんかせんといかん」

十和田スタイル
<写真を拡大>

十和田スタイル

 という懐かしいフレーズが出たことでもあるので、今回から宮崎県編である。

 暦の上では「夏至」を過ぎた。そこで、まずは冷たい郷土料理から。

冷や汁(ちりとてちんさん)
<写真を拡大>

冷や汁(ちりとてちんさん)

MNo.1

 宮崎は、高校の修学旅行で訪れました。青島神社でも恋愛成就を祈願しましたが、結果は、ペケ。泊まったホテルで何を食べたのか思い出せず、高校の卒業アルバムをめくりましたが……女子高生が写っているだけでした。私にも、そういう時代があったのさ。
 そして時は残酷に流れ、チューネンになった今は、新宿のみやざき館で冷や汁定食やしらす丼、チキン南蛮などの写真を撮っては、投稿するようになりました。
 冷や汁、美味しゅうございました。確か、お漬け物が食べ放題だったかな(ちりとてちんさん)

感謝!(ミルフォードさん)
<写真を拡大>

感謝!(ミルフォードさん)

MNo.2

 我が家の誰もが大好きな「冷や汁」。市販の冷や汁の素を常備し、夏冬問わず食べています。
 キュウリ、ミョウガ、しそ、豆腐に、ごまを振り掛けることも。このメニューを考え出した人に感謝!(ミルフォードさん)

八戸名物マ「汁゛(じる)」ガーZ
<写真を拡大>

八戸名物マ「汁゛(じる)」ガーZ

 もう20年以上前、宮崎の経済人と話をしていて「こちらのひやじるは美味しいですね」と言ったら「ひやじるではありません。ひやしるです」としかられた。

 この原稿を書くにあたって宮崎市観光協会に確認したところ「各家庭、地域、年代によって『しる』と言ったり『じる』と言ったり様々です」とのこと。電話に出ていただいた方は「じる」派であった。

 しかられて損した。

 その観光協会のHPにこんな文章がある。

宮崎県の代表的な郷土料理(ちりとてちんさん提供)
<写真を拡大>

宮崎県の代表的な郷土料理(ちりとてちんさん提供)

 冷や汁の由来。
 宮崎県の代表的な郷土料理。料理の分類上は汁かけ飯。その起源は鎌倉時代で「武家にては飯に汁かけ参らせ候(そろ)、僧侶にては冷や汁をかけ参らせ候」と鎌倉管領家記録に著されています。僧侶によって全国に流布したのがほとんどすたれ、気候風土に適していたと思われる所にのみ残ったとされています。
 時代の推移とともにいろいろと形が変化していますが、原形に違いないと思われるのは宮崎県のみです。交通が不便だったため、他の影響を受けずに現在に伝えられたとされています。
 小鯵を煮干にしたものの頭と内臓を取り除き、一度空煎りして煎りゴマ、焼き味噌と一緒に良くすり合わせ、だし汁でのばして用います。青じそ、キュウリ、豆腐をそれぞれ細かく切って飯にのせ、その上から冷たい汁をかけます。飯は本来麦飯を用います。そこにもこれが昔日のまま伝えられたものと言える要素があります。本県の夏の風物詩ともいえます。

埼玉・川島のすったてうどん
<写真を拡大>

埼玉・川島のすったてうどん

 埼玉県にも似たものがある。場所によっては「すったて」と呼ばれる。私はうどんの付け汁にした「すったてうどん」を食べたことがある。

 我が家もミルフォード家ほどではないけれど、夏には市販の「素」をつかった冷や汁をよく食べる。本当は魚を焼いてほぐしてとやらなければならないのだろうが、時間と技術がないのである。

 宮崎市に行ったときに思ったのは「釜揚げうどんの店が多いのではないか」ということであった。地元の人に尋ねたら「海の向こうは四国。その影響では」とのこと。香川県とは直接接してはいないけれど、人の行き来からそうなったのかもしれない。

「織田薪」の「釜揚げうどん」(宮崎の吉瀬さん提供)
<写真を拡大>

「織田薪」の「釜揚げうどん」(宮崎の吉瀬さん提供)

MNo.3

 平成23年、24年に福岡に転勤になったのですが、その時に「あ〜!宮崎の〇〇が食べたい!」と思ったものをご紹介させていただきます。
・「織田薪」の「釜揚げうどん」
 宮崎の夜の〆の定番。
・「おくのうどん」の「うどん」
 宮崎独特のコシのないゆるいうどんの代表店。早朝から営業し朝食としても重宝されています。
・「ふくや」の「豚ホルモン焼」
 豚ホルモンをカウンターに埋め込まれた七輪で焼くお店が多い宮崎市内。その中でも一番人気。
・「堀切峠のホットドッグ」の「ホットドッグ」
 宮崎の景勝地「堀切峠」に長年移動販売車で販売されたホットドック。ウインナーではなく、縁の赤いプレスハムがはさまれています(宮崎の吉瀬さん)

久留米のホットドッグ
<写真を拡大>

久留米のホットドッグ

 実は20項目が挙げられていたのだが、その中から気になった4項目を拾った。

 上から2項目は宮崎市内のうどんの店。やはり釜揚げうどんの店が人気のようである。

 豚ホルモンは、内容より「カウンターに埋め込まれた七輪で焼く」という形態が珍しい。以前、東京で「回転鍋」がはやったことがあるが、そのときの「形態」がカウンターに埋め込まれた七輪で焼く、であった。

 実食編の折に、この目で見てみよう。いや、歯が丈夫なデスクに確認してもらおう。

 堀切峠のホットドッグはソーセージではなくプレスハムを挟むという点で、久留米のそれと全く同じである。どこかで関連があると思う。

 次は延岡のチキン南蛮成立史。

タルタルソースタイプ(ちりとてちんさん提供)
<写真を拡大>

タルタルソースタイプ(ちりとてちんさん提供)

MNo.4

 鶏のから揚げを味付けしたチキン南蛮。県民でも宮崎市生まれと思っている人が多いくらいですが、実は県北・延岡発祥です。
 タルタルソースをかけた一般的なチキン南蛮と甘酢ダレだけで味わうシンプルなチキン南蛮の2系統あるのが、延岡チキン南蛮の特徴です。
 ルーツは、昭和30〜40年代に延岡市祇園町にあった洋食屋「ロンドン」。人気店、栄町の「直ちゃん」の先代・後藤直さんが「ロンドン」での修行時代に、店のまかない料理をヒントに試行錯誤を重ねて生み出したのが、甘酢ダレだけで味わうチキン南蛮でした。

甘酢ダレタイプ
<写真を拡大>

甘酢ダレタイプ

 一方、タルタルソースをかけるチキン南蛮を全国に広めた「おぐら」チェーンの創始者・甲斐義光さんも延岡出身です。宮崎市内で食堂を開いたものの軌道に乗らず、活路を求めて延岡にいた兄・照幸さんを通じて、洋食に欠かせないデミグラスソースの作り方を学んだのが「ロンドン」だったそうです。
 義光さんは「ロンドン」直伝のデミグラスソースを武器に、ハンバーグ、ステーキなどを出す洋食店「おぐら」を創業、人気店になっていきました。
 チキン南蛮にタルタルソースをかけたのは照幸さんのアイデア。照幸さんは直ちゃんの後藤直さんとも親交があったそうです。どちらが元祖かは別として、チキン南蛮は紛れもなく延岡の土壌が育んだご当地グルメなのです(延岡の馬場さん)

なぜ「南蛮」?
<写真を拡大>

なぜ「南蛮」?

 タルタルソースのものは知っているが、甘酢をかけたものはまだ食べたことがない。現地に行ったら、かまなくていいように切り刻んでもらって食べ、じゃなくて飲んでみようかな。

 いずれにしても、ある洋食店をルーツとして生まれ、広がったチキン南蛮であるが、なぜ「南蛮」というのか、ずっと不思議に思っているのである。

 それと「延岡のスナックでは、ウイスキーのボトルキープよりブランデーのキープの方が多い」というのは本当ですか。

 京都府向日市の激辛商店街に続いて、宮崎にも危険なものが存在する。

辛麺(いけずな京女さん)
<写真を拡大>

辛麺(いけずな京女さん)

MNo.5

 御注進御注進!
 宮崎にも、キケンな「赤い食べ物」がありますよ。その名もズバリ「辛麺」。名前で、すでに野瀬さんは近寄らないとは思うのですが。
「辛麺」は、延岡市発祥のご当地グルメ。もともとは昭和60年代、居酒屋でお酒の〆として考案されたものだそうです。現在では専門店やチェーン店もでき、延岡市から宮崎県内に勢力を拡大しているとか。
 その特徴はまず、通称「こんにゃく」と呼ばれる麺です。小麦粉とそば粉で作った?まるで糸こんにゃくのような透明感とプルプル弾力感があり、ラーメンより軽くてお腹にたまりません。

溶き卵が入る(いけずな京女さん)
<写真を拡大>

溶き卵が入る(いけずな京女さん)

 そしてもちろん、ニンニクと唐辛子がたっぷりのパンチ力ある辛さ。ただし、そこに溶き卵が入るので最初はマイルドな味わいです。あとからじわじわ効いてきます。
 具ぅは合いびきミンチとニラ。うま味と風味もしっかりあって、ただの痛覚刺激系激辛とは違います……言うても野瀬さんは食べないですよね。
 最初に食べたときの印象は、韓国冷麺と名古屋の台湾ラーメンのええとこ取り? タイの?料理にも似てるかなあと。九州はやっぱし真性アジアですかね(いけずな京女さん)

名古屋の台湾ラーメン
<写真を拡大>

名古屋の台湾ラーメン

 食べるかどうかと問われれば、誰が食べるもんかい!

 私は常々思うのである。勝浦タンタンメンにしろ名古屋の台湾ラーメンにしろ、つくる人は全員、激辛党なのであろうかと。

 私のように辛いものを食べると死んでしまうような人も、作り手の中にいるのではないかと。いや、実際いると思うのである。自分では食べられないけど、食べたい、美味いという客がいるからつくっている人が、いると思うのである。

とろとろなんこつ(豊下製菓の豊下さん提供)
<写真を拡大>

とろとろなんこつ(豊下製菓の豊下さん提供)

MNo.6

「宮崎の美味しい」が何かと問われて思い浮かぶのは、マンゴーと宮崎牛に宮崎地鶏、そうだ延岡はチキン南蛮発祥の地やそうですね。かと言って宮崎まで出向く余裕はないので、近場で宮崎を味わえないかと、ネットサーフィンをして見つけたのが「辛麺屋桝元」の大阪店。
 聞いてみたら宮崎出身のご夫婦が、わざわざ地元食材を取り寄せて作っているらしい。
「よだきーなければチキン南蛮」と書いてあったので意味を尋ねたら「面倒くさくなければ」と言う意味だそう。で、頼んでみたら「今日は作りません」「そうでっか」
 仕方がないので、「とろとろなんこつ(豚)」と、地元店では一番人気だという「コンニャク麺」の辛麺中程16辛をチョイス。

コンニャク麺(豊下製菓の豊下さん提供)
<写真を拡大>

コンニャク麺(豊下製菓の豊下さん提供)

「コンニャク麺」というのは平壌冷麺の麺(そば粉麺)とのこと。ちなみに付き合ってくれた家内は中華麺の1辛。そして、辛麺をいただきながら、お店の方に「宮崎と大阪の食べ物の特徴的な違いってありますか?」などと水を向けてみる。
 返ってきた答えが「大阪の食べ物はおいしくない」「おいしいのはたこ焼きくらい」「宮崎から遊びに来た人に聞かれても大阪には勧められるような食べ物がないし、これと言った土産物もない」と、辛麺よりも辛口な答えが返ってきました。
 悔しいけれど、新鮮な農水畜産物があふれる宮崎と違って、地物が手に入りづらい大阪の食べ物と比べられたらほぼ図星です。

底に貯まった唐辛子(豊下製菓の豊下さん)
<写真を拡大>

底に貯まった唐辛子(豊下製菓の豊下さん)

 平静を装って「それは美味しい不味いの問題ではなく、口に合う合わないでしょうねぇ」と切り返す。
 そういう姿勢が大阪人の癇に障るのか、時分時なのに流行ってはいなかったが、飴屋的には宮崎編の期待をかき立てられる貴重な時間を過ごせました。
 で、辛麺ですが再訪確定、宮崎産の牛豚鶏が三位一体となったそぼろと、野菜と唐辛子のうま味と、九州タイプの甘い醤油ダレが渾然一体となった、とっても宮崎なご当地麺でした。もちろん、底に貯まった唐辛子も含め完食致しました。
 実食編ではデスクにいちばん辛いのを試していただきたいものです(豊下製菓の豊下さん)

お土産用の袋物
<写真を拡大>

お土産用の袋物

デスク お隣の大分県実食編の際に、みやげ物店で見つけた袋物を買ってきて食べて見ました。トウガラシの圧倒的な量に「ヒデキ、カンゲキ!!」

 この店の大阪評は激辛である。正直すぎるのではないか。そこまで言わんといてもええんやないの。大阪を第2の故郷と思っている私(個人情報)は、ムキになって弁護するのである。

 京橋、行ってみい。京橋の立ち飲み行ってみい。美味さと安さに腰抜かすで、ほんまに。

ヒデキ、カンゲキ!!
<写真を拡大>

ヒデキ、カンゲキ!!

 とは言え、豊下さんは再訪決定。辛口の物言いも含めて、店の味が気に入ったのかな?

 今週はこれまで。まだメールが少し残っているのだが、来週が心配なのでキープしておく。

 豊下さんから京都府編に登場した「川端道喜の粽は餅系ではありません。吉野葛を使った葛粽です」とご教示いただいた。ならば私の歯でも大丈夫。

 それから「釜石でB−1グランプリが開かれるという噂がある」とのことであるが、それは多分、8月末に予定されている「三陸ぐるっと食堂 in KAMAISHI × B-1グランプリ」のことであろう。7つの愛Bリーグ加盟団体が被災地応援の一環として、このイベントに協力し、出展する。地元紙の見出しがちょっと微妙であった。詳しくは釜石市のHPをどうぞ。

 ではまた来週。

(特別編集委員 野瀬泰申)



★今週のおかわりは「新宿みやざき館KONNEに行ってきました」です。ぜひお読みください。

宮崎県編(その2) ギョ! うどん?

宮崎県編(その3) かにまき汁にごんぐり煮

宮崎県編(その4) 白い皮、むいて食べるな日向夏

宮崎県実食編 「かにまき汁」で生き返る


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2015年6月26日

【PR】

【PR】

【PR】

大人のレストランガイド

大人のレストランガイド

NIKKEI×ぐるなびが提供する、大人のためのグルメガイド。接待や会食、ビジネスシーンなどにおすすめのお店情報をご紹介。

ぐるなびWoman

ぐるなびWOMAN

女性のための女子会・デートのグルメ情報サイト。おすすめのレストランや居酒屋をこだわりやシーンに合わせて検索できます。

ぐるなびWedding

貸切パーティコレクション

企業向け貸切、OB会etc… 少人数〜大人数でも貸切OKのレストラン

結納・顔合わせ

特別な日を過ごすための完全個室のお店情報や、マナー・段取りまで

このサイトについて

日本経済新聞社について