特別編 あの日から今日まで

特別編集委員 野瀬泰申  このエントリーをはてなブックマークに追加


 「列島あちこち 食べるぞ! B級グルメ(食べB)」は読者からメールで寄せられた情報をもとに、日本全国の知られざる食文化を都道府県別に紹介してきました。今回は特別編です。
(「食べB」へ初めて訪れた方は「食べB入門編」をご覧下さい。食についてのメール投稿先はこちら

 

 私はいま、大阪本社でこれを書いている。出張でこちらにやって来て、その足で小倉に向かう予定である。なぜ小倉なのかは後に述べるが、いまは言葉もなく被災地に向かって深く頭を垂れるばかりである。



石巻焼きそば(2010年9月に厚木で開催されたB-1グランプリでの写真)
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石巻焼きそば(2010年9月に厚木で開催されたB-1グランプリでの写真)

 さきほど、私が顧問を務める愛Bリーグ(B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会・B-1グランプリを主催)のメーリングリストを開いたところ、石巻茶色い焼きそばアカデミー(宮城県石巻市)のメンバーからメールが届いていた。文面から電気も水もガスもない中で、家族や親戚友人、会社の同僚の姿を求めてもがく姿が生々しく浮かび上がる。誰が亡くなった、あの人もいなくなった…そのくだりを読んで涙をこらえることができなくなった。

 建物を取り巻く深さ1.5メートルの水に飛び込み、市役所にたどり着いて孤立した100人もの人々に救援物資を届けてくれるよう頼みに行ったり、徹夜で安否確認したりといった被災地の日々が綴られている。

 そしてそのメールには「真っ暗な部屋で一人寝ていると涙が止まらない」と書いてあった。「カメラを持っているが、この惨状を撮影する気にもならない」とも。

 何もできない自分がもどかしい。



 私はあのとき、日経ビルの26階にいた。突然、椅子が動き出したかと思うと、横滑りを始め、思わず椅子から立ち上がって腰を落とした。窓のブラインドが「ザザー、ザザー」と左右に大きく揺れ、その揺れは何分も続いた。

 フロアには数十人かがいたが、誰も声を出さない。悲鳴もあがらない。

 やがて余震におびえる私たちの目に飛び込んできたのが、津波の映像だった。今度は女性記者から泣き声とも悲鳴とも知れない声がもれた。目をそらす者もいた。



 その夕方、私は愛Bリーグ事務局に行った。部屋のテーブルは定位置から大きくずれてぶつかり合い、書類が散乱し、冷蔵庫の上にあった電子レンジが落ちて壊れていた。

 グループメールに東北の加盟団体メンバーの安否を気遣うメールが次々に送られてきた。電話もひっきりなしにかかってくる。だが被災地との連絡は途絶し、安否確認の方法はない。

 それから数日たって、ぽつりぽつりと現地から連絡が入るようになった。直接携帯にかかってくることもあれば、近隣の加盟団体メンバーが被災地に出向いて確認した状況を知らせてくれることもあった。

 結論から言うと、愛Bリーグメンバーはほぼ全員の無事が確認された。しかし多くが避難所にいるらしい。いったいどんな暮らしぶりなのだろうか。家族は無事だったのだろうか。



八戸せんべい汁(2010年10月に東京で開催されたイベント「とことん青森MAX in 原宿表参道」での写真)
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八戸せんべい汁(2010年10月に東京で開催されたイベント「とことん青森MAX in 原宿表参道」での写真)

 私たちは別の問題に直面した。今月26、27日に福岡県・小倉で予定している九州B-1グランプリinコクラを開くべきか。ほかのグルメイベントや各種興行は相次いで中止を決めている。被災地が日々の食べ物にも事欠くような状況の中でまちおこしが目的とはいえ、食のイベントを開いてもいいものだろうか。そんな思いがよぎったのだった。小倉の実行委員会も揺れているという。

 東京のメンバーで話し合った。結論はすぐに出た。「やるべし。地方を元気に、地方から日本を元気にを合言葉に活動してきた愛Bリーグだからこそ、開催すべきではないか。ほかのグルメイベントとは違うんだ」。だがそれは東京での結論であって、被災地の皆さんはどう思うだろうか。


胸元には「がんばれ!!東日本!」のシールを貼ってイベントに臨む
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胸元には「がんばれ!!東日本!」のシールを貼ってイベントに臨む

 そこに八戸せんべい汁研究所(青森県八戸市)のメンバーからメールが届いた。


 「やりましょう。やってください。こんなときだからこそ中止しないでください。僕たちも頑張って5月に予定している北海道・東北B-1を開くつもりです」


 「よしやろう」。この声で実行委員会の気持ちも固まった。


 こうして予定通り、小倉城を望む勝山公園で開催されることになった。イベントの目的は被災地支援。

 もともと利益が出る構造にはなっていないが、もし多少でも余剰金が出たら義援金として寄付する。

 各ブースに募金箱を置く。予定していた投票は行わず順位も決めない。

 ただゲスト出展するはずだった八戸せんべい汁研究所、横手やきそば暖簾会、甲府みなさまの縁をとりもつ隊は出展を見合わせる。しかし富士宮やきそば学会とひるぜん焼そば好いとん会、厚木シロコロ・ホルモン探検隊はやってくる。

九州B-1グランプリinコクラ:http://www.kb1-kokura.com/
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九州B-1グランプリinコクラ:http://www.kb1-kokura.com/

 私はこれから小倉に行って「地方を元気に、地方から日本を元気に」というテーマを再確認するイベント、九州B-1の模様を取材する。

 小倉に入った先遣隊の元に八戸せんべい汁研究所からビデオメッセージが届いた。それは九州B-1グランプリ出展者へのメッセージだった。トリオ★ザ★ポンチョスの美華ちゃんを真中にメンバー8人が並ぶ。津波でやられた旧知のせんべい屋さんの手伝いに行った帰りだという。

 美華ちゃんが両手を振りながら言う。「九州の皆さんが頑張れば、東北が元気になりまーす」「私たちは大丈夫ー、大丈夫ー」。

 しかし、冒頭に八戸の被災の有様がわかる映像が流れる。そんな中で最後にもれる8人の笑顔。むしろこちらが励まされているようだ。


 そんなわけで、次回は小倉からのリポートを掲載する。その後、事情が許せばもとの連載スタイルに戻るつもりである。兵庫県編が途中になっている。静岡実食編の取材もやらなければならない。



 最後に、改めて被災地の皆様に心からのお見舞いを申し上げる。


 では、そろそろ小倉に向かおう。


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●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2011年3月24日


■実食編:<映像リポート>はこちら
食べB修行記、今週のリポート一覧
料理・素材名から探す(インデックス)ページはこちら
県別に見る(インデックス)ページはこちら
■入門編:「食べBって何?」という方はこちらからご覧下さい

 

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