第37回 富山県実食編 富山で、もうエッチュウほど食べた

富山の冬の風物詩。店頭に並ぶ新巻鮭
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富山の冬の風物詩。店頭に並ぶ新巻鮭

 2010年12月3日の北陸の空は低気圧の影響で不安定だった。というより冬の北陸は「弁当忘れても傘は忘れるな」の言葉通り天候常ならず、晴れていたと思うと雨になることなど珍しくない。

 そんな中を、私と愛Bリーグ代表の渡辺英彦さんは空港から市内のホテルまでタクシーで向かった。一休みしてロビーでアミー隊員、一芸クンと合流し、小雨を突いて取材に出かけた。(「食べBって何?」という方は「食べB入門編」をご覧下さい。食についてのメール投稿先はこちら


 最初の目的地は「南京千両」(蛯町店)である。昭和12年、福岡県久留米市の屋台「南京千両」でとんこつラーメンが誕生したのだが、同名の店が富山市内にあるというのは驚きだった。読者からは「この店のラーメンが久留米のものと同じか確認してほしい」というメールをいただいている。確認しなければならない。

南京千両のラーメンとチャーシュー
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南京千両のラーメンとチャーシュー

 4人で店の前に立つ。私は入り口にかかる暖簾をみて「ああ」と小さく叫んだ。この文様をあしらったド派手なデザインは九州北部共通の「中華の店」の記号である。それを本格的な冬を控えた北陸の富山で見ようとは。

 引き戸を開けてまた小さく叫んだ。店内に充満するとんこつスープを煮出す匂い。久留米そのものではないか。

 「おお、これだ。この匂いだ」

 私は声に出して言った。

 4人ともラーメンを注文、出来上がるまでのわずかな時間、話を聞く。

 「私、久留米の出身なんですけど、あの南京千両とはどんな関係なんですか?」

南京千両の店頭(上)とメニュー
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南京千両の店頭(上)とメニュー

 私とほぼ同年代と思われるご主人が答える。

 「父親と南京千両の経営者が久留米で屋台仲間だったんです。それで父が昭和32年に故郷の富山に帰るときに、名前をもらったんです」

 「屋台仲間」ということは、南京千両とは違うラーメンを出していた屋台の味を継承しているということだろうか。

 いやいや何の問題もないのだが、それではどんなラーメンなのか。とゆっくり考える間もなくラーメンが登場した。

 スープは白濁しており、一見して久留米の南京千両のそれとは違う。久留米の本家は白濁していないのである。

 しかしながら見た目はまさに久留米、匂いも正しく久留米。

ラーメン丼に「南京千両」の文字。お持ち帰りラーメンもある
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ラーメン丼に「南京千両」の文字。お持ち帰りラーメンもある

 「少し富山風にアレンジしています。麺も普通のラーメンの麺です」と、ご主人が言葉を添えてくれた。

 食べてみると、それ以上の説明はいらないのであった。とんこつスープはソフトな仕上がり。塩分も控えめで「久留米ドとんこつ」が少しだけ富山訛りになっている。

 「富山でとんこつラーメンは、すんなりと受け入れられたんですか?」

 「やっぱり最初は苦労したらしいです」

 そうであろう。いまと違って、とんこつ文化が九州から外には全く広がっていなかった時代である。それを定着させるまで時間がかかったとしても不思議はない。

南京千両のラーメン
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南京千両のラーメン

 しかしながら兄弟で市内に2店を構え、開店から半世紀以上も暖簾を守っているということは、多くのファンを獲得した証に違いない。

 余談ながら、この店のご主人と久留米の某有名ラーメン店の社長がいとこ同士であるという。久留米の某店も元は先代の屋台店が原点。つまり戦後間もなくの久留米でラーメン屋台を引いていた人々は親しく交わり、店名を譲ったり縁組したりと濃密な関係を結んでいたことがわかるのである。

 結論。富山の南京千両は麺など一部を除いて、久留米ラーメンを正しく北陸の地に伝えている。大変嬉しいことである。


あんばやし、すす竹、とろろ昆布
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あんばやし、すす竹、とろろ昆布

 それで、これからどこに行くの? ナビゲーター役のアミー隊員に従ってタクシーで向かったのは「まるたかや」(牛島本店)であった。

 「ここであんばやしと、かに面を食べます」

 カウンターに並んで座った私たちは、アミー隊員の号令でそれぞれおでんを注文する。本来はラーメン主体の店ながら、いましがたラーメンを食べたばかりなので、ラーメンは無理。店の人には申し訳ないと思いつつ、おでんオンリーであった。

かに面
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かに面

 あんばやし、すす竹、それにトッピングのとろろ昆布を注文した。あんばやしはコンニャクを小さく切って三角に折りたたみ、それを何個も串に刺したもの。ショウガ味噌がかかっている。2本で80円。すす竹は細いタケノコで2本100円。別注のとろろ昆布は50円で、てんこ盛りであった。

 やはり、あんばやしがいい。ただのコンニャクなのだが、小さく切ってあって子どもにも食べやすい。ショウガ味噌が加わって、ちょっとしたおやつ。

 縁日で子どもが1本でも多くのあんばやしをもらおうと、目を凝らしてルーレットを回す姿が思い浮かぶ。

 そして、かに面が登場した。最高価格の600円である。

移動途中で撮影。富山の薬のネーミングとパッケージに心奪われる
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移動途中で撮影。富山の薬のネーミングとパッケージに心奪われる

 ご覧のようにズワイガニのメスの脚の身が丹念に取り出され、甲羅に並んでいる。このようなものが目の前にあるのだから、お茶や水を飲んでいる場合ではない。幸い冬の夕暮れは早く、外は暗くなりかけている。

 「ビールください」

 と叫んだが、神さまも許してくださるであろう。


 休む間もなく、次の目的地に向かう。JR富山駅に近い「親爺」という店である。地元では安くて美味い店として有名らしく、カウンターにぎゅうぎゅう詰めで座った。

白えびの刺身(上)、刺し身の盛り合わせ
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白えびの刺身(上)、刺し身の盛り合わせ

 まずは刺し身の盛り合わせ。ブリ、サバ、白えびなどとともに、ヒラメとサス(カジキマグロ)の昆布締めが加わっている。いかにも富山らしく美しい景観である。

 ゲンゲは天ぷらと汁物でいただく。天ぷらにするとゲンゲの表面を覆うヌルヌルは失われるが、それに代わってほっこりとした白身のうま味が引き立つ。ソースをかけようかと一瞬思ったが、店の感情を傷つけるといけないので何もつけずに口に運んだ。

 衣がさくっと割れて、その後で身がほぐれていく。きゃしゃな骨も歯に障らずにかめる。この柔らかさが嬉しい。

 そのときアミー隊員が注文していたコウバコガニが登場した。甲羅に内子を残し、各部位の身がそれぞれに外されて並んでいる。私はこの店に入るなり地酒をコップでやっていたのだが、カニの身や卵が並ぶ皿を見た途端に、酒のお代わりを頼んでいた。

ゲンゲ汁(上)、ゲンゲの天ぷら
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ゲンゲ汁(上)、ゲンゲの天ぷら

 続いてゲンゲ汁である。昆布とカツオの出し汁にゲンゲが浮かび、白ネギの刻んだものが香りと彩りを添えている。ゲンゲを箸でつかむと、体表を覆うヌルヌルが箸を通して伝わってくる。

 ゲンゲを食べる。ヌルヌルの層は想像より厚い。しかしそれも舌先の小さな喜びで、追いかけて白身の甘さがやってくる。骨もかむ。汁を飲む。ネギをつまむ。ふーっとため息をついて、冷たい地酒を流し込む。

 店は家族で切り盛りしているらしい。いまは若い2代目がカウンターと向き合った板場で包丁を握っている。満員なので忙しいのだろうが、店主も2代目もときどき客と軽口をたたいて空気を温めている。いい店である。

 カウンターの前でおでんが煮えている。そこにかに面があることに気づいて注文すると、すぐに運ばれてきた。

コウバコガニ。かに面(左下)とすす竹
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コウバコガニ。かに面(左下)とすす竹

 「みっしり」という表現がふさわしい。コウバコガニの身や卵を一緒くたにして、甲羅に詰め込めるだけ詰め込んでいる。真ん中が盛り上るほどの量である。

 「まるたかや」のかに面が(並)とするなら、こちらは(上)。しかも1000円であるから、お得感はいやが上にも増す。

 またまた地酒をお代わりするのである。

 皆さんには大変申し訳ないことながら、このようにして富山の夜は更けていったのだった。


 翌日、富山国際会議場でフォーラム。といってもその前にやることがある。講師控え室で、ますの寿司を暴れ食いしなければならない。

ますの寿司6種類

ますの寿司6種類

ますの寿司の味付けはもちろん、包装や焼き印、付属するナイフも様々

ますの寿司の味付けはもちろん、包装や焼き印、付属するナイフも様々

 アミー隊員が事前に買いそろえていた6種類のますの寿司の包装を解いていく。店によって木の蓋の焼き印が異なっていて面白い。古式にのっとりササの上からナイフを入れて寿司を切る。ますの身が厚いもの薄いもの、寿司飯の甘み酸味も微妙に違う。中には上下をますで挟んだものもある。

講師用の弁当に「べっこう」(左上)。下は地元百貨店の大和で購入した「べっこう」。いずれも甘さはあまり感じず。スーパーで購入した「べっこう」(右上)はほんのり甘かったが、製造元が金沢市の会社
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講師用の弁当に「べっこう」(左上)。下は地元百貨店の大和で購入した「べっこう」。いずれも甘さはあまり感じず。スーパーで購入した「べっこう」(右上)はほんのり甘かったが、製造元が金沢市の会社

 食べ比べての感想は「どれもそれぞれに美味い」という無難なところに落ち着くのであった。

 ふと見ると、講師用の弁当もある。金沢時代に頻繁に目にした店の名が包み紙に印刷されていた。蓋を開けると、あら豪華。私の好物を知っているかのような品ぞろえである。

 おかずが礼儀正しく並ぶ中に「べっこう」もあった。甘さを極端に抑えたもので、寿司飯と戦わないどころか、そっと支えて見守っているような味わいであった。

 食べ終わると廊下を隔てた会議室でフォーラム開始。詳細は一芸クンがリポートにまとめているものが既に掲載されているので、そちらをご覧いただきたい(富山で「B級ご当地グルメでまちおこしセミナー」レポートはこちらからご覧ください)。

「B級ご当地グルメでまちおこしセミナー」レポートはこちらからご覧ください

「B級ご当地グルメでまちおこしセミナー」レポートはこちらからご覧ください


 3時間に及ぶフォーラムが終了しても休むわけにはいかない。タクシーに飛び乗って富山ブラックラーメンの「大喜」に入る。店は不思議な構造をしていて、左右の壁にカウンターがしつらえられ、客は背中合わせに座ることになる。

大喜本店へ。「美味しい召し上がり方」に「三位一体まず混ぜよ」の文字
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大喜本店へ。「美味しい召し上がり方」に「三位一体まず混ぜよ」の文字

 ともかくも水が入ったコップを持ってラーメンの登場を待つ。この店のラーメンに関する印刷物などを読んでいるうちに真っ黒なものが現れた。スープが真っ黒、チャーシューが真っ黒。念入りにブラックペッパーまでかかっている。

 取り扱い説明書に従って全体をよく混ぜる。それから箸を突っ込んで引っかかってくるものを手当たり次第に口に運ぶ。チャーシューが塩辛い。メンマもコショウが絡んで辛い。麺もスープを吸って塩辛い。私の脳裏に生醤油ラーメンという言葉が浮かんだ。なるほどご飯のおかず用に開発されたラーメンである。

 私は麺だけを食べきり、チャーシューは半分残して試合終了。アミー隊員は道半ばで撤退。渡辺さんは黙々と食べ黙々と残す。しかし一芸クンだけは完食し「僕的にはありですね」と余裕の感想を述べる。


昆布締め、ホタルイカの黒作り。富山県実食編終了
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昆布締め、ホタルイカの黒作り。富山県実食編終了

 さてこれで公式行事は終わった。普段の3日分にも匹敵する塩分をたった1食で摂取した体が水分も求めて苦しんでいる。泡とかアルコールとかが入った水分を取らなければ命に関わりそうである。

 というわけで盛り場を彷徨した末に、美女2人がやっている店のテーブル席に場所を移した私たちは、ホタルイカの黒作りなどを肴に水分を急速補給し、一命を取り留めたのであった。

 来週からは静岡県編である。

 P.S. 長崎編に登場した「夕月」のカレーについてこんな「追伸」が届いた。私も安心して食べられそうである。以下メールの内容。

追伸

  どうも説明不足のせいで、野瀬さんに誤解を与えてしまいました。あの赤いカレーには唐辛子は全く使われておりません。よって、赤い殺意は全くの濡れ衣です。それどころか、辛みはほとんどありません。どちらかというと微妙な甘みです。なので、幼児でも食べられる優しい味です。それにしても、あの赤色や、香りや、うま味が何から来るのか全くわからないのです。夕月の名誉のための追伸でした(仙台在住の九州男児というか長崎人さん)

 おおそうじゃった。ぐるなびの「たべたび(食べたB)」が更新された。こちらは「つぼ汁のツボ(甲府市)」。

(特別編集委員 野瀬泰申)


>> ★今週のリポート「富山県実食編への道 VOTE結果とコメントも(アミー隊員)」はこちらからどうぞご覧下さい。



富山県実食編<映像リポート>



 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2011年1月7日


■富山B級グルメ
・その1 おでんの鍋から「あんばやし」「とやまスイーツ研究会」レポート
・その2 高岡の「チャンポン」は力技だ!駅の立ち食いそば・うどんについて振り返る
・その3 「べっこう」は「ゆべし」で「えびす」「青森ご当地グルメ屋台村」へ行く
・最終回 鱒寿司はこうして危機を逃れマスたいざ長崎!トルコライス行進曲でいこう
・実食編 富山で、もうエッチュウほど食べた富山県実食編への道


■入門編:「食べBって何?」という方はこちらからご覧下さい
■実食編:<映像リポート>はこちら
料理・素材名から探す(インデックス)ページはこちら


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