第174回 山梨県ご当地グルメ(その3) 馬が鳥もつ2つの県

特別編集委員 野瀬泰申


 先週、山梨県の赤飯には小豆の代わりに甘納豆が入る場合もあって甘いことが判明しました。甘納豆の赤飯は、北海道など北日本の食文化として、前身のサイト「食べ物 新日本奇行」以来何度かご紹介してきました。
 山梨県の甘い赤飯はどのような背景で登場したのか? そして、北日本との関連性は? その謎をひもときます。
 今週のおかわりは、デスクが全国各地で食べた様々なカツ丼をご紹介します
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アドニスの富士つけナポリタン
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アドニスの富士つけナポリタン

 先週末、富士宮市に行った。完全に私的な旅で、ただ飲んだだけ。富士山は曇り空に隠れてまったく拝めなかった。

 帰路、東海道線の吉原で降り、岳南電車に乗って旧吉原宿へ。日曜のせいか、それともいつものことなのか富士つけナポリタン発祥の店「アドニス」はまだ午前11時だというのに、若いグループやカップル、家族連れでにぎわっていた。

 全員が紙製のエプロンを胸につけて臨戦態勢でつけナポリタンの到着を待つ様は迫力に満ちていた。

岳南電車の「硬券」
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岳南電車の「硬券」

 ただし私と連れのおじさんは、別のところで別のものを食べる予定があったため、コーヒーだけを注文した。コーヒーショップなのに、コーヒーだけの客は珍しいらしい。

 写真は岳南電車の切符。硬券である。別に鉄分は高くないけれど、こういうものを手にすると懐かしかったり、うれしかったりするのである。

 では、山梨県編のスタート。

よちよちヤマメの唐揚げ(木下さん提供)
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よちよちヤマメの唐揚げ(木下さん提供)

MNo.16

 山梨県北都留郡小菅村では「よちよちヤマメの唐揚げ」というグルメを開発し村おこしに取り組んでおります。一昨年、昨年の大多摩B級グルメ大会では、いずれも入賞しており、品質には自信をもっております(小菅村役場源流振興課の木下さん)

子鮎の天ぷら
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子鮎の天ぷら

 ヤマメの稚魚を揚げたものである。琵琶湖の子鮎の天ぷらを思い出した。小菅村では以前からヤマメ、イワナの養殖が盛んだとか。

 その小菅村はどこにあるのかと探したら、東京の奥多摩湖のすぐ西であった。鉄道は通っておらず、車で行くしかない。大菩薩峠がある所と言えばわかりやすいか。

 でもって木下さんが所属するのは源流振興課。源流とは多摩川と相模川の源流を意味する。首都圏を流れる2つの川はこの辺りに源を発するのであった。

北上川の源流に行ったことがあります(デスク)
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北上川の源流に行ったことがあります(デスク)

 そして村には「東京都水源林」がある。110年以上も前の1901(明治34)年、東京市がきれいな水道水を維持するため多摩川源流の山を買収し、管理してきた。その結果、いまでも開発とは無縁の自然が手つかずで残されている。

 明治の人は偉かった。

 前回も登場した吉田のうどん。隣県にもファンが多い。

富士吉田市庁舎(宮サン提供)
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富士吉田市庁舎(宮サン提供)

MNo.17

 富士山が世界文化遺産に登録された山梨と静岡の両県ですが、これはスゴイです。富士吉田市庁舎の壁をペイントしただけですが、少ない予算(失礼)で市民や観光客へのアピール度は抜群です。
 富士吉田市といえば吉田のうどん。私は10年以上食べに通ってますが、最近よく寄るのが「あかり亭」さん。どう見ても普通の民家です。
 地元の方は「温かいのと冷たいの」を注文する人が多く、私たちのようなよそ者(観光客)とは違うのですぐに見分けがつきます。天ぷらや肉のアイテムよりも本当にうどんをお腹いっぱい食べるようです。

丼より大きい天ぷら(宮サン提供)
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丼より大きい天ぷら(宮サン提供)

 玄関を入るとすぐに靴を脱いで台所前で注文をしてから2階の座敷へ。肉天うどんを注文しました。
 せんべいのようにパリッとした天ぷらで軽い味でした。でも麺は食べ応え充分。天ぷらの下には肉とキャベツもお出迎え。基本は守りつつ新しいかも。
 富士山周辺は麺文化が発達しているようで、富士宮やきそば、吉田のうどん、みくりやそば(御殿場市)などが有名です。
 富士宮市では行商が盛んだったため日持ちのする蒸し麺が、富士吉田市は米がとれずうどんが発達したとも言われています。これも富士山特有の地形と気候によるもので、富士山が面(麺)食いのせいでしょうか(富士宮やきそば学会IT推進担当、宮サン)

天ぷらの下には馬肉(宮サン提供)
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天ぷらの下には馬肉(宮サン提供)

 地元の人は温冷両方のうどんを注文するとあるが、藤枝の朝ラーと同じである。藤枝でも温冷2杯のラーメンが基本と聞いたし、実際に食べてもみた。

 しかし朝から2杯のうどんあるいはラーメンというのは、体に悪くないのであろうか。

 店のたたずまいや、台所前で注文するシステムなどは、どこかさぬきうどんの「駅から徒歩5時間」の店みたいでもある。

4杯ならOK?
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4杯ならOK?

 デスクにいまから言っておこう。実食の旅で朝から吉田のうどん2杯は禁止だよ。

デスク 4杯ならOK?

桃源郷のような風景(YKヒルビリーさん提供)
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桃源郷のような風景(YKヒルビリーさん提供)

MNo.18

 甲州市に桜と桃とスモモの花を見に行ってきました。塩山駅前甘草屋敷併設の売店では甘酒、みそおでんなどが売られていました。
 桜で有名な寺の脇にも農家の人が休憩所を出しており「甘酒」を出しているところもありました。もちろん、桃ジュース、桃ジャムも。
 駅前には馬刺しと看板に書いてある店が多かったです。桃とスモモの花、ハウス栽培のサクランボの花もきれいでした(YKヒルビリーさん)

きれいきれい(YKヒルビリーさん提供)
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きれいきれい(YKヒルビリーさん提供)

 きれいきれい。桃源郷のような風景である。春の果樹園は本当にいい。

 さて、この辺りからお馬さんに活躍してもらおうか。

馬もつ定食(中林20系さん提供)
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馬もつ定食(中林20系さん提供)

MNo.19

 登り坂の好きな東京在住のサイクリストにとって山梨は、坂も多くて(=さすが“山成し県”です)輪行で手軽にアクセスできるところでもあります。
 個人的に好きになってしまった杣口(そまぐち)林道や琴川ダムと乙女湖など、それらを含むクリスタルラインに初めて挑戦したときのこと。アクセス路入り口の角に肉屋さんがあったのですが、そこの店頭を飾る短冊に馬関係のものが多いことに気づき、思わず知らずブレーキをかけてしまっていました。しかも生もつまであるとは。馬スキヤキ肉というのにも惹かれます。
 その後、坂を走り回って疲れ果てて、スタートした塩山駅前に戻っての昼食。馬肉料理を当たり前のように出している食堂があったので、そこで「馬もつ定食」をいただきました。これが美味しかったんですよ。豚とも牛とも違う味でし…当たり前か。
 あと、おみやげコーナーなどで馬肉の燻製なんてのもよく見かけますね。馬肉好きにはうれしい土地です(中林20系さん)

馬肉天国・山梨(中林20系さん提供)
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馬肉天国・山梨(中林20系さん提供)

 中央本線の小淵沢駅の駅そばで出す肉うどんは馬肉うどんであった。吉田のうどんの肉も馬肉である。そのことからも山梨県が馬肉地帯であることは想像できるのであるが、塩山駅(いまは甲府市)前の肉屋さんの品ぞろえを見ると、馬度が相当高いことがわかる。

 いまからデスクに言っておこう。私は馬肉はあんまり食べないので、お馬さん関係は任せる。

デスク いまから申し上げておきましょう。合点承知のすけ!

 中林20系さん、銭湯情報感謝です。

甲府のイベントで食べた馬もつ煮
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甲府のイベントで食べた馬もつ煮

MNo.20

 私からご報告したいのは「馬のもつ煮」と「そばがきの食べ方」「おいしい桃の定義」の3つです。
 鳥もつ煮の知名度が全国的に高まってとても嬉しく思っています。ただ、山梨に住む私の親戚の男性陣にとっては、鳥もつよりも馬のもつ煮の方が人気が高いです。
 醤油と砂糖とで甘辛く照り煮する鳥もつ煮とは異なり、馬のもつ煮は甘さを抑えて塩味をきりっと効かせ、刻みネギ(白ネギです)をのせて食べる、お酒のアテにもなる逸品だったと記憶しています。
 2つ目は「そばがきの食べ方」です。そばで有名な長野県に隣接していることもあり、山梨の祖母もそばがきをおやつにしていました。お椀にそば粉を入れ熱湯を注ぎ、椀がきで作ることがほとんどで、鍋で作ってはいないようでした。

そばがき
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そばがき

 そばがきは一般的に麺つゆや醤油などの塩味で食べられているようですが、祖母の家ではもっぱら砂糖と醤油を混ぜた「あまじょっぱい」砂糖醤油を付けて食べていました。焼いた餅も砂糖醤油で食べます。
 最後の「おいしい桃の定義」ですが、山梨には固い桃が美味しいと言い張ってきかない方が少なからず存在しています。私の従姉妹も「桃は収穫して時間が経つほどおいしくなくなる」と言ってききません。
 もちろん熟してやわやわの、蜜がしたたる桃を美味しいと言う人もいるのですが、しゃきしゃきした固い実にかぶりつくのが何よりの美味だという強い主張もあるようです。
 そして、ぶどうは皮をむかず、種も飲み込むのが正しい食べ方と信じて疑ってこなかったのですが、これは一般的な食べ方ではないのでしょうか……?(お赤飯には甘い小豆さん)

おみやげにも馬もつの煮込み
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おみやげにも馬もつの煮込み

 前回登場した「国中」と「郡内」による文化の違いを思い出そう。甲府鳥もつ煮は国中のものなので、郡内には普及していないという話であった。同じ「もつ煮」でも馬を好む地域が広がっているということであろう。

 そしてそばがきは砂糖醤油で食べる地域もある。甘さが貴重だった時代の名残かも。

 桃は実が固いうちに食べるべし。同じことを福島で聞いた。かりかりという音がするくらいの固さが一番美味いのだと、桃の一大産地では言うのである。

硬いうちに食べるべし
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硬いうちに食べるべし

 私は固い桃を食べたことがない。スーパーで売っている桃はすでにやわやわ。

 前回予告したように、甲州の甘い赤飯に関する考察を紹介する。今週のハイライトである。

甲州風赤飯(山本さん提供)
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甲州風赤飯(山本さん提供)

MNo.21

 「甘い赤飯」って好きですか? 山梨では「甲州風赤飯」というおにぎりをコンビニで売っています。
 実は山梨県の赤飯にはしばしば甘納豆が入っているんです。子どものころは赤飯を口に入れた瞬間、甘い味が付いていないとがっかりしたものです。これが山梨独特のものだとは大人になるまで知りませんでした。
 どうやら甘い赤飯のルーツは山梨の郷土食「ほうとう」にあるようです。その昔、ほうとうは貴重な米の代用食という面がありましたが、めでたいときやおもてなしには小豆と砂糖を入れた「あずきほうとう」がふるまわれたそうです。それがやがて米が手に入りや すくなり、甘納豆を入れた赤飯になったのではと考えられています。

八戸のえんぶりもルーツは甲斐国
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八戸のえんぶりもルーツは甲斐国

 ちなみに小豆は米と一緒に炊くと胴割れ(皮が破れること)しやすく切腹を連想させて縁起が悪いとされ、避けられていました。
 ただ、本当に山梨だけなのかなぁと、少し気になったので調べてみたところ、ほかにも北海道、青森、岩手で甘い赤飯が好んで食べられているようだということが分かりました。
 でもどうして山梨と遠く離れた東北と北海道なんでしょう。
 今から800年ほど前に、甲斐源氏の武将、南部光行が従軍した、源頼朝の奥州合戦の際、青森、岩手の一部を統治したのが「南部地方」。これが廃藩置県まで続く南部氏のはじまり。そのときに山梨の食が持ち込まれたのではと言われています。

南部藩の総鎮守・櫛引八幡宮も山梨由来
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南部藩の総鎮守・櫛引八幡宮も山梨由来

 山梨のハレの食文化「あずきほうとう」も伝播したようで、青森・岩手では「あずきばっと」と呼ばれているそうです。
 また、山梨には「南部の火祭り」や南部氏発祥の町として知られる南部町(旧甲斐国南部牧)があり、青森には南部藩発祥の地として同じく南部町があります。
 そして北海道では、昭和28年に放送していた「奥様手帳」で南部あき子先生が甘納豆赤飯を紹介したのがきっかけで広まったとのこと。
 ここでも南部さん!?
 残念ながら南部光行と南部あき子先生の関連性は分かりませんでしたが、ちょっと興味深い偶然の一致でした。
 山梨の甘い赤飯のルーツや伝播の過程については推測の域を出ませんが、何かロマンがありますよね。甲府鳥もつ煮のように、隠れた地域独自の食文化を発見した喜びを感じました。
 さぁさ、苦手な歴史の勉強をしたらお腹が空いてきたのでデイリーで「甲州風赤飯」を買ってきま〜す!(とりもつ隊の山本さん)

山梨の特産品、水晶でできた鳥もつ煮
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山梨の特産品、水晶でできた鳥もつ煮

 力作である。

 あずきほうとうと、あずきばっとの関連についてはよく指摘されるが、南部藩の発祥と絡めた説は説得力があり、新鮮である。

 北海道、青森、秋田の甘い赤飯については「食べ物 新日本奇行」で調べ、その後、新潮文庫「天ぷらにソースをかけますか?」で展開したので、ご存じの方も多かろう。

 しかしその源流が山梨にあったとすると、ちょっと興奮。

香川県関係者の皆さん、よろしく!
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香川県関係者の皆さん、よろしく!

 そうそう、青森県南部地方も馬肉食地帯。山梨とのつながりは深いぞ。

 今週はこれまで。メールの残りが少なくなって、次回成立するか微妙なところ。ご関係の皆さんの奮闘を期待する。

 来週はゴールデンウイークまっただなかのため休載。

 それから次のターゲットは香川県。香川県関係者は準備体操をよろしく。

(特別編集委員 野瀬泰申)

★今週のおかわりは乱入デスクの全国カツ丼行脚です。ぜひお読みください。

山梨県編(その1) 「ぶうちゅう」で乾杯!

山梨県編(その2) 赤飯が甘くてなぜ悪い

山梨県編(その4) 富士山はジャガとヒジキで山開き

山梨県実食編 この緑、ほぼぶどう


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2014年4月25日

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