おかわり 世界のすみっこで、だごを食べる(一芸)


不思議な味わいの「あんもちだご汁」
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不思議な味わいの「あんもちだご汁」

 熊本県編の第2回、第3回に登場した「だご汁(だんご汁)」は、九州地方で広く親しまれている郷土料理のひとつ。味噌味に醤油味、ぎゅっと手で握ったような「だご」もあれば平たい麺状の「だご」もある、といった具合にバリエーションが豊富なのも、各地域、各家庭で工夫がなされてきたからこそなのでしょう。

 だご汁について調べていると、実に興味をそそられる一品に出合いました。それは熊本県合志市に伝わる「あんもちだご汁」。何でも甘いあんを入れた「だご」を味噌汁に入れたものだとか。

 青森県八戸市の「あずきばっと(麺の上にゆであずきをかける)」以来、小麦とあんの組み合わせに敏感になっている自分としては、ぜひこの目と舌で確かめてみたい欲求を抑えきれず、野瀬・デスクの本隊とは別に単身熊本入りしたのであります。

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文字通り、総合施設の「すみっこ」にあるレストラン。打ち合わせにも適した大きめのテーブルも
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文字通り、総合施設の「すみっこ」にあるレストラン。打ち合わせにも適した大きめのテーブルも

 合志市役所に隣接し、体育館やホールを備えた総合施設「ヴィーブル」。その端の一角にレストラン「すみっこの台所」があります。市民の手で運営され、地元の食材を使ったランチを提供しています。

 ここの人気メニューのひとつが「あんもちだご汁」。基本的に夏場はお休みしているメニューなのですが、この日は視察の団体が来るということで特別に用意されていました。これ幸いと1杯注文します。

汁の中央で存在感を発揮する「だご」
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汁の中央で存在感を発揮する「だご」

 立派な一人用鍋のフタを開けると、もうもうと立ち上がる湯気と香りの奥に、うまそうな味噌汁が。そしてその中心で存在感を発揮している、餃子大の物体。これが「だご」でしょうか。他の地域で食べただご汁とは、だいぶ様相が異なります。

「だご」を小鉢に取り出し、まじまじと観察。おもむろに箸で切断してみると、出てきたのは小豆のあんではなく、芋のあん。サツマイモの味噌汁というものもあるし、これなら味噌汁ともミスマッチではないかも?

見るからに甘そうな芋あん
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見るからに甘そうな芋あん

 口に運んでみると、汁気を吸ってねっとりとしただごの食感と、芋あんの甘味が口の中に広がります。……思ったより甘い。芋の甘さだけではないのです。

 聞けば芋をつぶして、練って、黒蜜を加えたものだとか。思わず味噌汁をひと口含むと、芋あんの甘さと、味噌汁の塩辛さが絶妙のバランスでひとつに重なります。胃の中に流し込むと、後味はさっぱり。自然とふた口目へと箸が動きます。食べているだけで楽しくなってくるひと品です。

 「すみっこの台所」の代表・吉村明子さんによれば、「あんもちだご汁」がいつごろから食べられてきたかはあまり明確ではないとのこと。「高齢の方はみな『懐かしい』とおっしゃるので、戦後の、食料の乏しかった時期に食べていたのかな」

ラップに包んで売られていた「いきなりだんご」(西鉄久留米駅で購入)
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ラップに包んで売られていた「いきなりだんご」(西鉄久留米駅で購入)

 なぜこの地域で、芋あんの入った「だご」を味噌汁に入れるようになったかも定かではないそうです。小麦もサツマイモも熊本で多く収穫される作物なので、その組み合わせ自体は不自然ではありません。芋を包んだお菓子「いきなりだんご(いきなりだご)」も熊本産です。ボリュームがあって、素朴な味わいのいきなりだんごは福岡のターミナル駅などでもよく見かけます。

 しかし、いきなりだんごは芋をつぶしてあんにしたりはせず、生のまま輪切りにしてだんごに入れふかしたもの。それに比べると「あんもちだご汁」はひと手間もふた手間もかかっています。

 「もともとは芋あんを『だご』に入れたお菓子だったんじゃないでしょうか。時間が経って固くなったから、それを汁に入れたら案外おいしかった、とか(笑)」(吉村さん)。あまり広く伝播していないところを見ると、ごく限られた地域での流行が生んだメニューなのかもしれません。

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吉村明子さん(右)。農家の福島さん(左)も厨房を手伝う
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吉村明子さん(右)。農家の福島さん(左)も厨房を手伝う

 「すみっこの台所」には市内に住む女性たちが交代で勤め、料理を担当。中には農家の方もおり、米や小麦、野菜など地元の食材を供給しています。ですが、吉村さんは熊本の出身ではありません。神奈川県から、結婚後に熊本に移り住んできました。

 熊本市に隣接した合志市はベッドタウンとしても機能しており、人口も増加を続けています。しかし吉村さんが最初に感じたのは、彼女のように転入してきた人々と、もとからここに住み、農業などを営んでいた人々との間に溝がある、ということでした。

レストラン内のホワイトボードは掲示板として機能
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レストラン内のホワイトボードは掲示板として機能

 その橋渡しをしたい、と考えた吉村さんはさまざまな地域活動に参加するようになります。市民コンサート「ドレミの広場」のボランティアスタッフに始まり、1999年には「くまもと未来国体」に合わせて開設された臨時FM局に「住民ディレクター」として参加。住民ディレクター活動は、1996年から熊本県内で始まった地域活性化の取り組みのひとつです。

 地域に暮らす人々が自らカメラやマイクを持ち、番組を作って情報発信していくもので、現在は全国に広がっています。吉村さんはその取材や企画を通じてさまざまな地域団体と交流するようになり、2002年、合志市女性連絡協議会「まちねっと セラヴィ」の発足と同時に事務局長に就任しました。

 そして2006年、ヴィーヴルの一角にある食堂施設を任されることになります。大学で農業を学んではいたものの、飲食業は全くの素人。どうしたものかと思いながらも、人々が交流できるリアルな場づくりができるチャンスと考え「すみっこの台所」をオープンさせました。

地元の小麦を使ったパンも人気
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地元の小麦を使ったパンも人気

 「レストランというより、人と情報の集まる場所ですね」と吉村さん。ここを拠点に食と農のまちづくりを進めるコミュニティー「合志あぐっと!ねっと」が立ち上がるなど、「すみっこの台所」は合志の重要な情報基地となりつつあります。

 「それぞれの活動に参加しながら、その活動のためにどのような仕組みが必要か考え、整備していく。そういうプロデューサー的な役割が多くなりました。でも、そこに『思い』がなくてはだめ」と吉村さんは話します。

 昔から住んでいる人と、引っ越してきた人とで創る新たな地域社会。それはさながら、甘いあんと塩辛い味噌汁とが絶妙なバランスで奏でる「あんもちだご汁」の味わいにも似たものなのかもしれません。

2012年7月20日

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