第89回 山口実食編(後編) ばりそばは「ばり」「ずる」「つる」の三重奏

特別編集委員 野瀬泰申


関門橋、右側が九州
<写真を拡大>

関門橋、右側が九州

 翌朝、ホテルで和食とも洋食ともつかない茫洋とした朝ご飯を済まして、在来線で下関に移動した。

 ここには何度か来ているが、いずれも駆け足旅行だったために街歩きをしていない。デスクとの合流時間は夕方ということになっている。時間はたっぷりある。

 私の好きな海がすぐそばにある。本日も快晴で気持ちがいい。目指すは唐戸である。

 関門海峡は近くでみると海というより川である。向こう側に門司の街並みがくっきりと見える。そこは九州の地。

寿司を売る店が並ぶ唐戸市場
<写真を拡大>

寿司を売る店が並ぶ唐戸市場

 その川のような海峡を大小さまざまな船が行き来する。船の流れを縫うように下関と門司を結ぶ渡し船が頻繁に往来している。

 大きな建物にぶつかった。市立水族館の「海響館」だった。連休前半とあって水族館の中から親子連れの歓声が聞こえてくる。イルカのショーでもやっているらしい。

 そこを過ぎると桟橋があって、そばに商業施設「カモンワーフ」がある。

 桟橋からは門司への渡し船が出る。巌流島に向かう観光船も出る。巌流島の決闘が史実であるかは知らないが、ともかく今年が「決闘400周年」に当たるのだという。何だかめでたい。

 商業施設はトイレを借りただけで失礼して、唐戸市場に急いだ。

お寿司の1個売り
<写真を拡大>

お寿司の1個売り

 ここは普通の魚市場であるとともに市内有数の観光施設でもある。中でも目玉は寿司。写真のように市場の建物の中に寿司を売る店がずらりと並んでいる。海鮮丼は当たり前だが、楽しいのはにぎり寿司の1個売りである。

 店の人から発砲スチロールの皿と竹製のトングを渡される。箱に並ぶ色々な寿司を好きなだけ取ってお勘定。近くの長テーブルで食べるのである。

 かつての捕鯨基地、下関ではいまでも盛んにクジラを食べる。寿司ネタにもクジラベーコン、クジラのさえずり(舌)、刺身がある。いまではどれも高級品だが、驚くほど安い。

くじら3兄弟
<写真を拡大>

くじら3兄弟

 さえずりは大阪で「関東煮(かんとだき)」に入る。しかし寿司ネタで出ているのは初めて見た。

 私は「タイムサービスですよー」という女性の声のする方に歩いて行った。いまからお寿司が何でも1個100円なのだという。いまどき回転寿司でも1個100円は安い部類。それが高級ネタでも100円というのである。

 普段は寿司をあまり食べない私だが、このときばかりは「食べてみようか」という気になった。

 そして選んだのが赤貝、中トロ2個、蒸しエビ、ヒラメ、イカ。これで600円であった。うらやましい?

天ぷらうどん
<写真を拡大>

天ぷらうどん

 腹八分目で唐戸を後に駅方向に向かって歩いた。来た道とは別のルートである。下関駅に近い一角で「天ぷらうどん 並うどん ぜんざい ミルクセーキ」と書いた看板を見つけた。こんなものを見ては入らない訳にいかないであろう。

 店は懐かしい大衆食堂の趣であった。メニューは各種うどんのオンパレード。私はまず天ぷらうどんを注文した。

 出てきたのは想像通りのものであった。天ぷらはほぼ全部が衣。真ん中に赤く着色した乾燥エビがいる。それ以外は芸術的なまでに大きく平たい衣である。

たぬきうどんに大変身
<写真を拡大>

たぬきうどんに大変身

 おつゆは金色。うどんはべろべろ。心高鳴る。

 天ぷらの衣がおつゆを吸ってほどけると、どう見ても天かす散らしである。いつの間にか天ぷらうどんがたぬきうどんに大変身。感動するなあ。

デスク ちなみに「天ぷら二枚入り」は感動で涙が出ます。

 それを食べ終わってミルクセーキを頼んだ。すると厨房の奥でアラセブン(70歳前後)の女性が泡立て器とステンレスのボウルを手に移動するのが見え、やがてシャカシャカという音が聞こえてきた。

食べるミルクセーキ、スプーン付き
<写真を拡大>

食べるミルクセーキ、スプーン付き

 大変なことである。注文ごとにミルクセーキ完全手作りなのである。登場したミルクセーキは思った通りの「食べるミルクセーキ」であった。スプーンで口に運ぶと、甘さが抑えられ、それでいて卵の味がちゃんとする実に立派で、これまた懐かしい味であった。

 本日の私はかなりラッキーである。

 ホテルで一休みしていたらデスクから電話があった。何かの事情があって道を間違え、ひと電車遅れたらしい。ともかく合流である。

 ここでデスク。ばりそばのことを。

デスク はい、山口のばりそば、スゴかったですよ。

 まずはその量。目の前に出された皿は、皿と言うより「お盆」といっていい大きさでした。

うわぁ!
<写真を拡大>

うわぁ!

 うわぁ!

 久々に食べ物を目にして声を上げてしまいました。それくらいでかい。

 そしてもうひとつ、これってあんかけ? それとも汁そば?

 見た目あんかけやきそば風なのですが、実はほんのちょっと粘りがあるだけ。ほとんどスープなのです。

 ばりそばの元祖店と言われるばりそば本舗・春来軒でお話を伺ったのですが、ばりそばは約60年前に台湾料理をアレンジしてできた料理で、長崎の皿うどんに似せたり参考にした料理ではないそうです。

「麺焼き」がポイント
<写真を拡大>

「麺焼き」がポイント

 麺焼き(少なめの油で揚げるのを「焼く」と呼ぶ)に最も神経を使い、麺も油もばりそば専用だそうです。また、普通の中華麺を揚げても輪ゴムのかたまりのようになってしまうので、ぱりっとしていてのびない麺を特注しているのだとか。

 時間がたってものびないので、あんというかスープにつけておくことで食感の変化を楽しめるのです。はじめはまさに「バリっ」、それがスープを吸い始めると「ずるずる」、さらにスープを吸うと「つるつる」になります。

 そして圧倒的な野菜の量。ただでさえ量が多いのに、具の大半が野菜ですから、1食でかなりの量の野菜を摂取することができます。

釜山門
<写真を拡大>

釜山門

 スープの味付けは鶏ガラに豚骨を加えた醤油ベース。で、これに酢がよく合うんですよ。確かに揚げ麺なのにくどくないし、量こそ「格闘」の域ですが、味に関しては抵抗なくするする入って行く感じです。


 駅でデスクと会い、私は先に立って歩き出した。下関は戦前から海路で釜山と結ばれてきた。当然のことながら半島の文化が根を下ろしている。駅前に立つ「釜山門」がその証だ。

とんちゃん鍋
<写真を拡大>

とんちゃん鍋

 門の下からコリアンタウンの「グリーンモール」が始まっている。私は昼間の街歩きでここを探訪していた。大阪のコリアンタウンほどの濃度はない。しかし食材店などがぽつぽつあって、それらしい雰囲気は漂っている。

 私たちが向かったのは1軒の焼き肉店であった。下関には「下関コリアンフード協会」があって、焼き肉や韓国料理を出す店のマップを作っている。店はそのうちの1軒である。

 ただ焼き肉を食べようというのではなく「とんちゃん鍋」が狙いであった。対馬にも同じ名前の鍋があるけれど、そちらは豚肉。こちらは豚のホルモンである。

ともかくメチャ美味
<写真を拡大>

ともかくメチャ美味

 ホルモンの値段に100円足せば鍋になるというシステムがありがたい。私たちは上ホルモンのとんちゃん鍋を食べることにした。

 ステンレスの平たい鍋の下にたれに浸かったホルモン。上に山盛りのモヤシやキャベツ、ニラがのっている。火が通るとホルモンが煮え、キャベツやモヤシやニラが柔らかくなっていく。

 たれは何でできているか全く想像できない。醤油の味がするようでニンニクも使っているようで、しかしどの味が勝っているという印象ではない。簡単に言うと「よくわからないが、何だかメチャ美味」というところか。ともかくお酒がどんどんススム君であることは間違いない。

チャンポン麺を前に目がマヂ
<写真を拡大>

チャンポン麺を前に目がマヂ

 食べ終わると鍋に少したれが残っている。野菜から出た水分も混じっていることであろう。そこにチャンポン麺を入れて、膨れるくらいまで味を染み込ませる。これが本日の締めである。うらやましい?

 すき焼き方式の博多もつ鍋と全く同じものであった。博多でよく行った店では石鍋を使っていたが、鍋がステンレスに変わっただけで食べ方は完全一致であった。これはたまらん。歯が丈夫だったらお代わりしたかった。

 こうして山口県の旅は終わった。本編に登場したものもあれば、出てこなかった物件もある。

 日本海側に行く時間がなかったのは残念であった。今度は個人的に訪ねてみたいと思っている。

 皆さんも機会があれば、おいでませー、山口へ。

*映像はflashビデオです。一部機種では再生できないことがあります。ご容赦ください。


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2012年5月18日

【PR】

【PR】

【PR】

大人のレストランガイド

大人のレストランガイド

NIKKEI×ぐるなびが提供する、大人のためのグルメガイド。接待や会食、ビジネスシーンなどにおすすめのお店情報をご紹介。

ぐるなびWoman

ぐるなびWOMAN

女性のための女子会・デートのグルメ情報サイト。おすすめのレストランや居酒屋をこだわりやシーンに合わせて検索できます。

ぐるなびWedding

貸切パーティコレクション

企業向け貸切、OB会etc… 少人数〜大人数でも貸切OKのレストラン

結納・顔合わせ

特別な日を過ごすための完全個室のお店情報や、マナー・段取りまで

このサイトについて

日本経済新聞社について