番外編 食を守り、郷土をつくる女性たち――十日町ご当地グルメ(一芸)


 

十日町市街地を流れる晒川。狭い川幅に濁流がなだれこみ、ガードレールを破壊した。晒川はこの先で田川と合流し、信濃川へ通じる
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十日町市街地を流れる晒川。狭い川幅に濁流がなだれこみ、ガードレールを破壊した。晒川はこの先で田川と合流し、信濃川へ通じる

 今年は各地で大規模な水害が発生しています。7月末の新潟・福島豪雨で県内観測史上最多の1時間121ミリを記録したのが十日町市。自分が新潟を訪れたのは8月25日でしたが、1カ月ほど経ったこの時も、まだ市内にはその爪あとが残されていました。

 しかし、十日町のご当地グルメをたずね歩く中で出会った人々の元気さ、特に女性たちのあふれるバイタリティーは、地域の健在ぶりを強く感じさせてくれるものでした。

◇     ◇

 温浴施設「千手温泉 千年の湯」に隣接した農産物直売施設「じろばた」にお邪魔しました。ここでは新鮮な野菜に加え、十日町の郷土の味を楽しむことができます。

「じろばた」のあんぶ。左が「あん」、右が「かて」
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「じろばた」のあんぶ。左が「あん」、右が「かて」

 この店は、もともと温泉の近くで野菜を持ち寄りテント市で販売していた農家の女性たちが「自分たちのお店を作りたい」と、JA十日町の協力も得て2004年にオープンさせたものです。「じろばた」とは、「囲炉裏端」の意味。囲炉裏のまわりで会話や郷土の味を楽しんでもらうような店にしたい、という思いが込められています。

 人気の一品は「あんぶ」。「あんぶ」はうるちやもちの米粉を使ったおまんじゅうのような食べ物です。「あんぼ」と発音する場合もあり、店の女性たちの間でも「うちはあんぶね」「こっちはあんぼだよ」と統一見解が定まっていないとのこと。昔は商品にならない米を米粉にして作り、文字通り囲炉裏端で焼いて食べていたのだとか。お店の方は「そういう意味ではB級グルメだね」と笑います。

そばいなり。油揚げの中にふのりそばがぎっしりと詰まっている
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そばいなり。油揚げの中にふのりそばがぎっしりと詰まっている

 中身は「あん」と「かて」の2種類。「かて」?覚えがない言葉です。聞けば、大根の葉を細かく刻んで漬け込んだものとのこと。NHKのドラマ「おしん」で一躍有名になった大根飯のように、米に何かを混ぜたものを「かてめし」と言いますが、語源はそのあたりにありそうです。「かて」のあんぶを食べてみると、塩味の効いた大根の葉と、米粉の皮との組み合わせが絶妙でした。

 そしてもうひとつ、この店の人気商品が「そばいなり」。一見普通のいなり寿司ですが、中にはご飯のかわりにぎっしりとそばが入っています。このそばはもちろん「ふのり」でつないだもの。そば自体のおいしさを、寿司にすることでギュッと凝縮しているのが魅力です。

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「米土里夢」のあんぼ。大根の葉が鮮やかな色なのは、煮るときの道具に秘密がある
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「米土里夢」のあんぼ。大根の葉が鮮やかな色なのは、煮るときの道具に秘密がある

 次に訪れたのは市の南部、中里地域にある「米粉工房 米土里夢(まいどりーむ)」です。この店を立ち上げたのは、伝統的な郷土食を守ろうと活動している「なかさと夢ネット」に参加していた地元の主婦たち。「雪原カーニバル」などのイベントであんぼやちまきを販売したところ好評だったので、2009年の7月に店舗を構えました。現在は4人の女性が交代で調理や販売を担当しています。

 人気はやはり「あんぼ(店の表記に従います)」。中でもきんぴらを入れたあんぼがよく売れているそうです。前回の番外編でデスクが調べた「きんぴらうどん」の研究にも関係しそうなのでぜひいただきたいと思いましたが、人気がありすぎてこの日は売り切れ。そこでやはり「あんこ」と「大根菜」をいただきます。

(写真上)「米土里夢」の店内。斉藤トミ子さん(左)と樋口洋子さん
(写真下)5種類の味を食べ比べられる5色ちまき
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(写真上)「米土里夢」の店内。斉藤トミ子さん(左)と樋口洋子さん
(写真下)5種類の味を食べ比べられる5色ちまき

 米粉工房、と看板を掲げているだけあって、ここのあんぼはしこしことした歯ざわりのよさが自慢です。しかし「もともとは代用食だったから、年配の人は『あんぼ』というとあまりいいイメージがないかも」とお店の樋口洋子さんは話します。むしろ、そうした記憶のない若い世代の人がおいしい、と言ってくれるのだとも。

 以前、B−1グランプリの立役者、青森県の八戸せんべい汁研究所の木村聡さんが、年配の方に「せんべい汁なんて、お客さんに出したらいけないよ」とたしなめられた、と語っていたのを思い出しました。地域の日常生活の中で編み出された身近な食べものが、いま新たな「おもてなし」の手段として生まれ変わろうとしている。それが現在のB級ご当地グルメブームなのです。

 白米・玄米・黒米・あずき・きびと5つの味が楽しめる「5色ちまき」も人気を呼んでいます。

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 あんぼにちまき、と伝統の味が続いたところで、ニューフェースもご紹介しましょう。

 十日町市本町にある「越後妻有(つまり)のごちそう家 ごったく」。農村生活アドバイザーとして活動している農家の女性たちが集まり、十日町のおいしい食材を使った料理を食べてもらおう、と2010年に8月に開いたお店です。

「ごったく」のラードご飯。景気よく盛り付けられたラードを温かいご飯とかきまぜて食べる
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「ごったく」のラードご飯。景気よく盛り付けられたラードを温かいご飯とかきまぜて食べる

 「ごったく」とは冠婚葬祭に代表される、人々が集団で何かをする際の準備から片付けまでの一連のプロセスを指す言葉だといいます。結婚式を「嫁ごったく」、葬式を「死にごったく」などと言うこともあるそうで、「プロジェクト」のようなニュアンスでしょうか。

 うまい野菜が食べられる、と地元の人にも評判は上々。野菜だけでなく「妻有ポーク」が目当ての人も集まってきます。十日町市と津南町にまたがる「妻有地域」で10軒の畜産農家が生産している妻有ポークは、地元では知る人ぞ知る銘柄豚。これを使った豚の角煮は、寒い季節限定ですがこの店の人気メニューとなっています。

 そして、この角煮が思わぬ「副産物」を生みました。ある日ごったくの代表である福嶋恭子さんが、角煮を作ったスープの上で白く固まったラードを取り除いた後、何となくもったいないと考えて温かいご飯の上にのせ、醤油をかけて食べてみたら、これがなかなかおいしかった。冗談のつもりで写真に撮り、ツイッターに書き込んだところ多くのフォロワーが「食べたい!」と反応しました。じゃあお店で出してみよう、と「ラードご飯」として提供したところ、これがまた評判を呼ぶことに。

「ごったく」の店頭と代表の福嶋恭子さん
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「ごったく」の店頭と代表の福嶋恭子さん

 本来、角煮の季節にしかいただけないのですが、この日、お願いして特別に作っていただきました。地元のお米で炊いたご飯の上に、細かく切った妻有ポークと、地元産のネギ。海苔だけは十日町産ではありません。そしてたっぷりのラードが鎮座します。

 ここにやはり地元産の醤油をかけて、ご飯が冷める前に、スプーンでよくかき混ぜる。するとラードがほどよく溶けて、ご飯がキラキラと輝き始めます。そこをすかさず口に運ぶと、うまみたっぷりの米と豚肉が、ラードにやさしく包まれて食道から胃の中へとすべり落ちていきます。何という快感。オプションでスープを注ぐこともできます。

 「素材はみんなA級だけど、これは立派なB級グルメ」と笑う福嶋さん。やみつきになりそうなところも確かにB級グルメ的です。

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 総務省統計局の「日本の統計」によれば全国で離婚率が最も低いのが新潟県なのですが、十日町の3店で出会った女性たちを見ていると、何となく納得。みな働き者でしっかりしている。でも、自分ひとりで物事を進めていくのではなく、地域の人々と協力しながら事に当たる姿勢が印象的です。

 年間の平均積雪が2mを超える日本有数の豪雪地帯で、厳しい気象条件と共生しながら郷土をつくり上げてきた皆さんの姿には、今、多くの日本人が学ぶべきものが垣間見えるような気がします。

2011年9月16日


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