第16回 鳥取県実食編 スタートは山陰チャンポン

読者投票1位の「モサエビ」
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読者投票1位の「モサエビ」

 今日は鳥取に行くというので少し早起きをし、朝食も早めに済ませた。我が家から羽田空港は遠い。歩いて私鉄駅に行き、私鉄の終点からJRで東京駅、そこで山手線に乗り換え浜松町、モノレールで羽田へという行程である。

 余裕をもって2時間半前に家を出た。駅前のコーヒーショップで軽くコーヒーを飲む余裕があった。私鉄駅に着いたら電車が出たばかり。普段ならがっかりするところだが、本日は余裕を持って次の電車を待つ。

 浜松町では飛行機の中で読む本を買う余裕もあった。羽田空港に着いてもコンビニで飲み物を求める余裕さえあった。保安検査場を抜けて時計を見ると出発の20分前。トイレに行く余裕もあろう。

 鳥取行きの搭乗口に向かう。手元のチケットには搭乗口番号が書いてある。掲示板で探すと右方向とあるので、右に歩き出す。

 歩く。まだかなり先である。

 歩く。まだまだである。

 歩く。ひょっとして一番奥? 腕時計を見る。やば。

 速足で歩く。ええー。まだなの?

 ほとんど走る。まだかよー。

 走る。あの角を曲がったところ?

モノレール羽田空港駅の自動改札機を利用した「鳥取すいか」キャンペーン。Suica導入を機に開始したという
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モノレール羽田空港駅の自動改札機を利用した「鳥取すいか」キャンペーン。Suica導入を機に開始したという

 その角のところで航空会社の女性が私の名前を呼んでいる。

 「私でーす」

 「急いでください」

 という声を背に、懸案になりかかっているトイレ問題を無視して、飛行機に乗り込んだのだった。

 顔から吹き出た汗をぬぐいながら通路を奥に進んでいくと、心配顔をほどいたような一芸クンの姿があった。

 後から知ったのだが、私がくぐった保安検査場から鳥取行きの搭乗口まで徒歩12分と書いてあったそうな。家から駅までと変わらない距離である。自転車を置いてくれていたらなあ、と思ったのだった。


 ともかく置き去りにされることなく鳥取空港に降り立った。

 最初に向かったのは市内の食堂である。小上がりに私、一芸クン、鳥取県食のみやこ推進課の鈴木さん、それに鳥取情報文化研究所というか鳥取とうふちくわ総研の植田所長が顔をそろえた。

山陰チャンポン。よくかきまぜて、あんを麺に絡めて食べる
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山陰チャンポン。よくかきまぜて、あんを麺に絡めて食べる

 ここで全員が注文したのは「チャンポン」である。鳥取でチャンポン?と思われるだろう。私も以前はそう思っていた。しかしながら鳥取県編を始めるにあたって調べたところ「山陰チャンポン」と呼ぶべきご当地麺が鳥取から島根にかけて広く存在することを知り、ぜひ食べてみたいと思っていたのである。事前に植田さんと相談したところ、この店と決まった。


 植田さんの説明。

 「山陰チャンポンはあんかけです。食べるまえに麺とあんをよく混ぜるという儀式があります。混ざった麺を持ち上げると重さで箸が曲がります」

 さて、山陰チャンポンはこのような面相である。上から見るとあんが茶色にてかっている。見えるのはわずかなモヤシ、キャベツなど。ほかの具や麺はその下に埋もれている。

 レンゲはついていない。あんは飲むものではなく麺に絡めるものだからである。植田さんにならって割りばしで丼の中のものをぐちゃぐちゃにする。豚肉が現れた。ニンジンも出現した。ぐいと箸を突っ込んであんまみれの麺を持ち上げると、なるほど箸がたわむほど重い。

鳥取県 食のみやこ推進課の鈴木仁さん(左)と鳥取情報文化研究所 所長の植田英樹さん
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鳥取県 食のみやこ推進課の鈴木仁さん(左)と鳥取情報文化研究所 所長の植田英樹さん

 そのまま口に入れる。

 あちあちあち。あんになっているせいでとても熱い。恐らくはラーメンスープにとろみをつけたあんは、醤油の味がたっていて、少し甘い。

 ずるずると食べ進むうちに麺がなくなり、飲みごろに冷めたあんが丼の底に残った。丼を両手で持って、あんを喉に流し込む。ごちそうさま。

 九州のチャンポンではないご当地チャンポンに遭遇したのは、これで何度目であろうか。最初は滋賀の彦根チャンポンであった。あれは和風野菜ラーメンと呼ぶべきものである。

 ついで愛媛の八幡浜と宇和島で伊予チャンポンを食べた。どちらも彦根とよく似ていた。

 大阪でも店によって定義が違う様々なチャンポンを経験している。そのうちあんかけ野菜ラーメンを「大阪チャンポン」と言っている店があったが、あれが山陰チャンポンに近い。兵庫県尼崎市にもとろみのついた「尼崎チャンポン(尼チャン)」がある。

(上段)賀露港と、モサエビを出してくれた「食事処 若林」(下段)「かろいち」で珍しい食材を探す
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(上段)賀露港と、モサエビを出してくれた「食事処 若林」(下段)「かろいち」で珍しい食材を探す

 東京駅前中華のチャンポンはタンメンにとろみを付けたものが多い。

 このように各地各様のチャンポンがあるのであれば、もはや九州のチャンポンの定義を持ち出しても仕方がなかろう。全国にご当地ラーメンがあるように、ご当地チャンポンがあると考えればいいのである。

 いっそのこと、どこかで「全国ご当地チャンポンサミット」でもやって、長崎チャンポン発祥の店「四海楼」のご主人を呼んだら面白いではないかと考えたのだった。


 食べ終わった腹を抱えて賀露港に行く。「野瀬に食べさせたいもの」VOTEで1位になったモサエビを食べるためである。モサエビの漁期は5月に終わっているため、鈴木さんが冷凍ものを出してくれる店を探してくれていた。

 立派な料理屋の和室で待っていると解凍して焼いたモサエビが出てきた。

(上)解凍したモサエビ(下)塩焼きにしたモサエビ
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(上)解凍したモサエビ(下)塩焼きにしたモサエビ

 殻は薄く、簡単に取れる。身だけにしたものを噛んでみると、図体は小さいくせにうまみ甘みが半端ではない。大量のかっぱえびせんを1度に食べている感覚である。飲み下しても味が口から全然消えない。消えないどころかいつまでも舌に残っている。

 そんなことを話しているところへ、今度は刺身が登場した。この刺身、正確には殻付きの生のモサエビも、見かけから想像もつかない濃厚さで、甘エビを10匹いっぺんに食べたような味わいなのであった。

 冷凍ものでなく、旬に獲れたてを食べたらどんなことになるのであろうか。どれだけ酒を飲んでしまうのであろうか。


 近くの生鮮市場「かろいち」をのぞく。下の写真のように東京では信じられない安さで魚介が並んでいる。松葉ガニのシーズンは大変なにぎわいになるらしい。

 夕刻が近づいてきたので街中に戻って「丸福珈琲店」に入る。大阪の老舗珈琲店と同名である。というか系列店である。大阪で丸福珈琲店を始めた人が鳥取の出身なので、鳥取にも店を出したのだという。


「かろいち」で売られている海産物の数々
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「かろいち」で売られている海産物の数々


丸福珈琲店へ
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丸福珈琲店へ




 昭和の匂いを色濃く残した店であるが、夕方6時ごろに閉店する。閉めるのが早いようにも思われるが、逆に朝が早い。店は午前7時半の開店と同時にモーニングサービス目当ての客で混雑するのだという。

とうふるーとの妙技(とうふるーと大使 イワミノフ・アナミール・アゾースキーさん)。演奏の模様はページ下の映像リポートで
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とうふるーとの妙技(とうふるーと大使 イワミノフ・アナミール・アゾースキーさん)。演奏の模様はページ下の映像リポートで

 植田さんは「朝はですね、客は黙って席に座るだけです。注文しなくても人数分のモーニングが出てきます」と言う。観光客が目にすることのない、地元ならではの情景である。

 そこから晩飯を食べに出る。アワビやサザエの刺身は歯が立たず、見るだけで済ます。箸をつけた中で鳥取らしかったのは「アゴの子」であった。トビウオの卵である。今回は煮付けたものをいただいた。魚卵を煮たものは様々あるが、トビウオは初体験。卵の粒が非常に細かくて、噛むまでもなく口の中で溶けるようであった。

 貝や魚で飲み、とうふちくわに穴を開けて吹く「とうふるーと」の演奏まで聴いたので、そろそろ寝る時間になっていたが、今夜はまだ行くところがある。

 食堂を名のっているものの、営業時間が夕方から深夜までという店に行ってVOTE3位の「ホルソバ」を食べた。鉄板に牛のホルモンを広げて「へら」で適当な大きさに切る。上にキャベツ、モヤシをのせ、ついで麺を置く。火が通ったら特製の味噌だれを絡めて焼く。


ホルソバ
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ホルソバ


ホルソバのできるまでと、とっとりホルソバカスタマーセンター長・田中玄洋さん
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ホルソバのできるまでと、とっとりホルソバカスタマーセンター長・田中玄洋さん




 手元の小皿に味噌だれが入っている。ひときわ茶色いのは醤油とニンニクをミキサーでひいてペースト状にしたもの。ホルモンをこのたれにつけて食べ、ついで麺や野菜をほおばるのである。

 酒とともに味わう1品らしく、輪郭が実にはっきりとした味である。味噌ー。ニンニクー。塩ー。という具合にグイグイ押してくる。

 ホルソバは鳥取県東部の各店で、それぞれの味付けらしいが、私たちが行った店の味はそのようなものであった。

 見渡すと酒を飲まない一芸クンを除いて、店内全員が酔っぱらっている。寝るべえー。


昔ながらの製法でしょうがせんべいを作っている宝月堂の佐々木稔郎さん
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昔ながらの製法でしょうがせんべいを作っている宝月堂の佐々木稔郎さん


防空壕跡を利用して生姜を栽培。壕の中は年間を通じて気温13℃程度、湿度95〜98%に保たれている
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防空壕跡を利用して生姜を栽培。壕の中は年間を通じて気温13℃程度、湿度95〜98%に保たれている





 翌日は中部から西部を目指すことになっている。まず市内の「しょうがせんべい」の老舗で製作工程を拝見する。機械らしきもの使ってはいるが、まずは手仕事である。

 その店のせんべいに塗る生姜は生産農家が防空壕跡で栽培、保存しているというので、防空壕跡を見に行った。右上写真のようなものであった。

イベント会場で「あごカツ」をいただく
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イベント会場で「あごカツ」をいただく

 そこから海沿いの琴浦町に向かう。山陰自動車道が近く全線供用されるようになると、いまの幹線である国道9号沿いの地域がさびれるのではないかと心配する地元の人々が、食のイベントをやっていた。9号沿いに食のにぎわいをつくりだし、人を呼ぼうというのである。

 そんな中から生まれたのが「あごカツ」である。トビウオの骨と身をミンチにして揚げたもので、カレーに添えた「あごカツカレー」を置く店が何軒か現れた。私たちがイベント会場に行くと、あごカツバーガーを売っている。中身のあごカツを食べてみたら、当たり前ながらどこにもない味わいのものであった。食べやすさからすると細く切ってあごカツドッグにした方がいいかもしれない。

 道を挟んで老舗のかまぼこ屋さんがあった。そこには実に様々なかまぼこや、すり身を揚げた天ぷらが置いてあった。大山おこわを入れた揚げかまぼこには驚いた。

揚げたて熱々の「魚のコロッケ」(あぶい蒲鉾)
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揚げたて熱々の「魚のコロッケ」(あぶい蒲鉾)

 店に入った目的はVOTEで4位だった「魚のコロッケ」を食べること。当然のように売っており、揚げたてをいただく。味について説明の必要はないであろう。ソースがいるかなと思っていたが、そのままで十分いけた。


 それから近くの食堂へ急ぐ。私たちをVOTE2位の牛骨ラーメンが待っているはずである。

 牛骨ラーメンは山口県の光や下松にもあるが、鳥取県中部から西部にかけての場合は、その存在範囲の広さが特徴である。発祥も昭和20年と古い。

 牛骨ラーメンは外観では塩ラーメンや醤油ラーメンと見分けがつかない。だがスープを飲んだ瞬間に初心者は「おや」と思うだろう。日本人の多くは基本的に牛骨のスープを口にしたことがない。正確に言うと、牛骨とわかってそのスープを味わっている日本人は少ない。

牛骨ラーメン
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牛骨ラーメン

 だから、この味を表現するのは実に難しい。強いて言えば「まろやかなとんこつスープ」であろうか。共通しているのは核酸のうま味であるが、その差はわずかである。ただチャーシューが牛肉であるので、その点の違いは明確である。

 店には鳥取牛骨ラーメン応麺団の米田団長が来てくださった。食とは無縁の仕事をしている米田さんだが、地域にかける思いは強い。牛骨ラーメンについて様々なお話を伺ったが、その中で印象に残っているのは「BSE騒動のときでも、鳥取では牛骨ラーメンが全く問題にならなかったんです。なぜならみんな牛骨ラーメンを食べているという認識がなかったからです。店はただラーメンとしかメニューに書いていなかったし、県民もよそと違うラーメンを食べているとは思っていませんでした」という話であった。

 そんな当たり前の地元の食を発掘してまちおこしを始めようというところに、応麺団の面目がある。


牛骨ラーメンを提供している「香味徳」と鳥取牛骨ラーメン応麺団長の米田良順さん
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牛骨ラーメンを提供している「香味徳」と鳥取牛骨ラーメン応麺団長の米田良順さん


まぐろの目玉を数える単位は「一目玉、二目玉」であるらしい
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まぐろの目玉を数える単位は「一目玉、二目玉」であるらしい





 旅はさらに続く。これから米子に向かうのである。途中、生鮮品を扱う市場があった。このように安い。とても安い。

お菓子の城でプチ暴れ食い
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お菓子の城でプチ暴れ食い

 お城があった。しかしそれは城の形をした地元のお菓子メーカーの工場兼販売所兼飲食店であった。

 販売スペースでは塩乾物から和洋菓子、乳製品まで売っており、ほとんどが試食できる。私は勧められるままいろいろなものを試食した。ケーキの売り場で試食用の皿を持ってきてくれた女性に「試食が主食」と言ったら、彼女は見事に苦笑したのであった。

 雨の米子を散策、そして晩飯。この晩飯については特に書くことはない。

 それと鳥取の醤油は甘かった。某メーカーの「たまり」の成分表示を見たら、各種甘味料のほかに「水あめ」も含まれていた。


パン売り場に「サンライズ」
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パン売り場に「サンライズ」

 翌早朝、一芸クンは独り鳥取市内に戻った。私は市内散策でパン売り場に「サンライズ」などを発見しつつ米子空港へ。弓ケ浜半島は美しい。今度ゆっくり来てみたいと思った。

 米子空港では本当に余裕があったので、ヒマだった。

 東京に戻って、一芸クンが鳥取市内でしたきたことを本人から聞いて驚いた。よく警察が黙っていたものである。いくら仕事熱心といってもそこまでやるとは。


 では一芸クンの鳥取カレーの旅。どうぞ読んでやってください。(一芸クンの食べB修行記はこちらからご覧ください)


 次回のテーマは高知県。メールを待っちゅうき。(メール投稿先はこちら)


(特別編集委員 野瀬泰申)


鳥取県実食編<映像リポート>


アミー隊員 最後にお知らせです。先日お知らせした食べBに登場した料理や素材をまとめたインデックスページに鳥取県を追加しました。<こちら>からご覧下さい。(ご意見・ご感想はこちら)



 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2010年7月16日


■鳥取県編
準備体操編 まずは、あのパンについて語ろう
その1 白バラ牛乳とサンライズ
その2 「牛骨ラーメン」参上!
その3 祝発足! ホルソバCC
最終回 中部の「コロッケ」の正体は?
実食編 スタートは山陰チャンポン一芸クンの食べB修行記動画で見る実食

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