第220回 神奈川県ご当地グルメ(その4) 試食に食指が伸びました

特別編集委員 野瀬泰申


神奈川県

 横浜界隈の中華料理や湘南の海の幸は予想できたものの「のりだんだん」や「花こんにゃく」など、意外なご当地グルメも次々と登場した神奈川県編。いよいよ最終回です。
 今週も、海から山から、神奈川県ならではの味が続々と登場します。
 今週のおかわりでは、来月、秋田県横手市で開催されるまちづくりイベントの情報をデスクが紹介します
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デスクは笠間、行田の「ひまつり」をハシゴ
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デスクは笠間、行田の「ひまつり」をハシゴ

 休載と愛知県実食編で本編は3週間振りである。その間、大型連休があったが、皆さんはどんな過ごし方をなさったのだろうか。

 私は取材旅行に次ぐ取材旅行で、息つく暇もなかった。取材をすればそれを原稿にしなければならない。行っては書く、行っては書くの繰り返し。数日は家にいたけれども、休んだような休まなかったような。

 では早速本編に入ろう。今回は神奈川県編の最終回である。またまた楽しいメールをたくさんいただいている。

湘南ゴールド(JIROMALいずみさん提供)
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湘南ゴールド(JIROMALいずみさん提供)

MNo.28

 湘南ゴールド。ゴルフボール大の、とても小さなみかん。
 小田原は柑橘類の生産も盛んで、やたら柑橘を使った食べ物が目につきます。レモン羊羹もレモンとうふも和菓子なのですが、レモンと何の違和感もなし。
 大山あたりは豆腐が名物。豆腐料理を食べさせる店ばかり。塩田が近いためにがりには不自由しないのか、とってもにがりのきいた豆腐です。
 カマボコにも新しい波が続々と。こちらは「地魚づくり」という、日替わり魚でカマボコを作る素敵な試み。全種類制覇したいものです。「大漁万歳」。このキャンディーのようなかわいいものも、中身はカマボコ。

曽我の干し梅(JIROMALいずみさん提供)
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曽我の干し梅(JIROMALいずみさん提供)

 お城のような建物は、ういろう屋の本店なのですが、なんと店の半分は薬屋でもあるという驚き。ちなみに駅前店もちゃんとういろう&薬屋であります。
 仇討ちで有名な曽我兄弟は、小田原は曽我地区の人たち。こちらは梅栽培が盛んで、梅干しを使った製品には「曽我」の名前がついたものが多いです。
 干し梅。ずっと昔から箱根越えの旅人はこれを懐にしのばせてたんでしょうね。
 梅ジャーキー。このかたちは新しい。
 ジャムをよく食べる県である証拠。キウイ、カリン、そして梅ジャム。湘南ゴールドのマーマレードは本当に多く見ました。
 そして棚を埋め尽くす、梅、梅、梅。本当に梅干しだらけ。

名物つながり(JIROMALいずみさん提供)
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名物つながり(JIROMALいずみさん提供)

 塩と柑橘という名物が結びついた、レモンソルトにオレンジソルト。もちろん湘南ゴールドソルトも。
 足柄茶のうまいこと! ペットボトルや缶の日本茶の中で、いちばん好きかもしれません。
 名物だらけ。レモンにみかん、梅に湘南ゴールドのサイダー。レトロな瓶がかわいい(JIROMALいずみさん)

カマボコです(JIROMALいずみさん提供)
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カマボコです(JIROMALいずみさん提供)

 小田原名物のオンパレードである。こうして並べてみると、小田原は美味しいものの宝庫。しかも地元の1次産品を加工したものに強みがある。

 いつものことながらJIROMALいずみさんの力作に感謝。

 ところで小田原の老舗ういろう店の半分は薬局になっている。なぜであろうか。

 前回最後のメールは小田原のういろうに関するものであった。そこで本山荻舟著「飲食事典」と岡田哲著「たべもの起源事典」で「ういろう」を引いてみた。

ういろう屋(JIROMALいずみさん提供)
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ういろう屋(JIROMALいずみさん提供)

 すると2つの事典で異同がある。要するにはっきりしたことがわからないらしい。それでも外郎(ういろう)というのは中国の唐や元の時代の官職名であったこと、鎌倉初期に外郎の官職にあった人が日本に来て薬を作ったこと。それが「透頂香(とうちんこう)」という名前であったこと。いつの時代にか創薬者の子孫が小田原に住むようになり、この薬が小田原名物になったこと。以上のような記述は共通している。

 歌舞伎十八番の「外郎売り」はこの薬の方の外郎である。

しろくろ抹茶…愛知のういろう
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しろくろ抹茶…愛知のういろう

 つまりまず薬の外郎が先にあった。そして黒砂糖をつかった蒸し菓子が外郎に似ていたことから外郎餅と呼ばれるようになったらしい。外郎餅は周防山口の秋津治郎作の創作という説がある。それは定かではないものの、黒砂糖を白砂糖に変えて各地に広まった。名古屋で定着して発展する。

 薬の方の外郎「透頂香」は小田原名物であり、それに似ていた故に「外郎餅」と呼ばれた蒸し菓子も並べて売られるようになった。そう考える以外に説明のしようがないのである。

 小田原が続く。

「守谷の甘食」(みなみ@神奈川さん提供)
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「守谷の甘食」(みなみ@神奈川さん提供)

MNo.29

 はるか昔、新卒で就職して最初に配属されたのが横浜の事業所でした。その事業所は私が配属される数ヶ月前に小田原から移転してきたもので、先輩社員の大多数が小田原周辺から来ていました。
 彼らはことあるごとに「守谷の甘食」と言います。守谷とは、小田原駅の近くにあるパン屋さんです。彼らにとってはそこの甘食がソウルフードのようでした。
 その甘食をもらって食べてみましたが、バターではなくマーガリンとかショートニングとかを連想させるような素朴系の風味でした。突出した派手さはないものの、常食するにはOKなタイプです。
 今日は自転車のツーリングということで、御殿場から箱根を越えて小田原まで走り、十分にお腹を空かせた状態で守谷に行きました。
 お昼が近かったせいか千客万来で、今もこの地に根付いていることを感じさせます。その中で、物凄く久しぶりに食べた甘食は、昔と変わらない味でした(みなみ@神奈川さん)

守谷のパン(みなみ@神奈川さん提供)
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守谷のパン(みなみ@神奈川さん提供)

 甘食は久留米の専売特許かと思っていたら、小田原にもあった。一見、全国型メロンパンに似ているのだが、クッキー生地はないし、パンというよりお菓子に食感が近い。子どものころ随分お世話になった。小さいころからお世話になると大人になっても忘れられないものである。みなみさんの先輩諸氏もそのような人々であったろう。いい人が多いような気がする。

試食です(ぎずもさん提供)
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試食です(ぎずもさん提供)

MNo.30

 小田原ひものの老舗「山安」は、一口サイズ干物の七厘焼き試食を提供しています。鶴岡八幡に近い山安鎌倉店では、休日ともなると店の入口に黒山の人だかり。もちろん私も参戦しましたが、ちゃんと製品もお土産に買って帰りました(ぎずもさん)

大人気(ぎずもさん提供)
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大人気(ぎずもさん提供)

 このように試食できる店にはついつい行ってしまうのが人間の悪くていいところなのである。試食も中途半端は良くない。盛大にやると売り上げに結びつく。

 近所のスーパーでもしょっちゅう試食販売しているが、子どもが試食品を刺した爪楊枝を何本取っても嫌な顔をしない販売員がいい成績をあげているように見える。親が申し訳ないような顔をして買っていくからである。

 山へ行こう。

大山の豆腐(太ったオオカミさん提供)
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大山の豆腐(太ったオオカミさん提供)

MNo.31

 海岸部のシラスや干物など海の幸は有名ですが、山間部の山の幸も興味深いことがわかりました。山の肉(イノシシ、シカ)の消費が、盛んなように感じられます。
 七沢温泉のボタン鍋は有名ですが、残念ながらいただいたことがありませんので、何回か参拝している伊勢原の大山、独楽参道の報告をさせていただきます。
 大山と言えば、落語の大山詣で分かるように江戸時代から庶民の信仰を集めています。また、近くの日向薬師も古くからの信仰を集めている名刹です。
 そんな大山の名物と言うと、先ずは豆腐とコンニャクです。霊場の食事としては、ある意味当然とも言えます。

ボタン鍋(太ったオオカミさん提供)
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ボタン鍋(太ったオオカミさん提供)

 それと並んで、独楽参道の両脇に続く御師宿や、食堂ではボタン鍋と鹿刺しがメニューに記されています。神社で鹿を食べるといえば、諏訪神社の鹿食免(かじきめん)が有名ですが、大山ではイノシシもOKです。これほど多くの山の肉が参道に並ぶところは、他に知りません。
 大山詣の復路は、羽目を外しがちだったのは落語の通りだそうです。ひょっとして、山の肉で精力が付きすぎたのでしょうか?(太ったオオカミさん)

鹿刺し(太ったオオカミさん提供)
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鹿刺し(太ったオオカミさん提供)

 大山阿夫利(あふり)神社。江戸時代に「講」を組んだ人々が江戸から相模のこの神社に大勢で参詣した。つまり非日常の世界である。豆腐やコンニャクは江戸でも毎日食べられる。せっかく来たのだから、ふだん食べられないものが食べたい。羽目を外したい。

 というようなことが山肉につながったのか。それとも海から遠いから魚が出せずに手近な山肉を売り物にするようになったのか。両方かな?

 神奈川には幻の豚もいる。

高座豚の加工品と精肉(中林20系さん提供)
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高座豚の加工品と精肉(中林20系さん提供)

MNo.32

 明治期に高座郡で飼育されていた豚です。現在は寒川町のみの高座郡ですが、かつては海沿いの藤沢から内陸の相模原市の一部までもが高座郡だったそうです。
 そんな高座郡は養豚にも適した土地で戦後に最盛期を迎えるのですが、その後の高度成長期以降は小柄で病害に弱く成長に時間のかかるところが敬遠され、1970年代半ばにはほぼ絶滅したそうです。
 近年、有志による品種改良で新たに復活させたそれがあります。飼育頭数が少ないので直売店での加工品が主なものですが、湘南での仕事帰りに直売店「高座豚手造りハム」へ伺ってみれば、何と精肉も充実していました。
 どれにしたもんだか悩むくらいの品数の中からラインバイザーとミートローフ、そして切り落とし肉を買って帰りましたが、どれも美味しかったですよ。ブランド肉だからと身構えての訪問でしたが、切り落としは100グラムが150円からとお求め安い価格で、直売店周辺にお住まいのかたがたをうらやましく思いました。
 ウィンナーなどの加工品はネットショッピングで買えますが、精肉はこれからも広く流通することはないのかもしれません。でも、そういう名物があってもよいですよね。機会があればまた仕事帰りに寄って…次は何を買ったもんだかという嬉しい悩みが増えました(中林20系さん)

高座豚の小龍包
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高座豚の小龍包

 小菅桂子著「近代日本食文化年表」が明治5(1872)年の項で「このころ養豚が盛んになり、京摂に向けて横浜から豚を乗せた駕籠(かご)が東海道を道中した」という新聞記事を紹介している。同21年には東京郊外や千葉県、茨城県に養豚会社ができ、ハムやベーコンを試作した。

 同36年の「家庭之友」が粉付け豚、醤油豚、豚そぼろ、豚かまぼこなどの豚を使った家庭料理を紹介する。

 当時の豚は外国から輸入した品種だったので、相当高価だったらしい。高座豚もこのころ生まれたのだろうが、案外明治の豚の味がするのかもしれない。

 最後は海。それも再び三浦市の三崎である。

まぐろソースかつ丼(みんみん(♂)さん提供)
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まぐろソースかつ丼(みんみん(♂)さん提供)

MNo.33

 前回、三崎のまぐろラーメンの話が出ていましたが、三浦半島三崎港には、先輩格とも言える町おこしメニュー「まぐろソースかつ丼」があることを忘れてはなりません。
 その名のとおり、まぐろのカツをご飯にのせ、ソースをかけた丼なのですが、特色のひとつがまぐろの尾の身を使うこと。
 まぐろは、競りの前に尾びれを切り落とし、その断面で肉質を判断するのですが、落とされた尾びれの付け根にも身がついています。筋が多く、刺身には向かないとのことで地元だけで安く流通していました。ところがこの筋は加熱すると融けてしまうためカツにするにはぴったりだったのです。

チリソース味も(みんみん(♂)さん提供)
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チリソース味も(みんみん(♂)さん提供)

 そこで新たな名物づくりを模索していた三崎の飲食店が集まり(1)まぐろの尾の身を130グラム以上使うこと(2)できるだけ 地元・三浦産のキャベツを使うこと、などの“掟”を作った上で地域共通メニューとして誕生させたのです。
 ときに2003年。三崎まぐろラーメンの場合は、一度途絶えていたものを“復活”させたのが2007年ですから、まぐろソースかつ丼は4年も先輩になります。
 当初参加した9店のなかには魚料理の専門店のほか、料理自慢の喫茶店や中国料理店もありました。中国料理店のものはチリソース味というユニークなもので、けっこうおいしかったのですが、残念なことに今はやっていないとのことです。

まぐろギョーザ(みんみん(♂)さん提供)
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まぐろギョーザ(みんみん(♂)さん提供)

 そこで先日、あらためて三崎に行き「エンゼル」という喫茶店で、まぐろソースかつ丼と久々の対面をしました。ふわっと柔らかく揚げられたカツにドレッシング風のソースが合い、さっぱりした味わいでおいしいです。
 この店は業態こそ喫茶店を名乗っていますが、店の壁じゅうに貼られたメニューはマグロ料理のオンパレード。いただいたのは「まぐろギョーザ」に「まぐろシューマイ」に「まぐろカルボナーラ」。
 いったいどんなものが出てくるんだろうと思っていましたがどれも正統派でおいしく、まぐろの特徴が良く生かされていました(みんみん(♂)さん)

マグロの尾の身(みんみん(♂)さん提供)
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マグロの尾の身(みんみん(♂)さん提供)

 まぐろは生でも煮ても焼いても揚げてもいい。三崎に行ったとき、ソースカツ丼ではなかったが、マグロのカツを何回かメニューで見つけた。小ぶりのカツにソースをかけて箸でつまみながらウーロンハイ。ありである。

本まぐろ味噌漬(三崎「羽床総本店」提供)
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本まぐろ味噌漬(三崎「羽床総本店」提供)

MNo.34

 三崎に行ったとき、関東の他の港町では見かけなかったもの、そしてまぐろという文字の次くらいに見かけたもの、それはみそ漬けの看板でした。
 まぐろのみそ漬けと書いてあったり、かじきのだよと話してくださるまぐろ屋さんがあったりと。私には詳しいことはわかりませんが、魚の切り身をみそ漬けにして焼いたりすることが多い地域みたい、干物よりも、と思ったのでした。
 神奈川県では他に、とん漬けも有名ですよね。何かみそに漬けて焼くのがお好きな地域なのかしら?(千葉県出身ななさん)

美味しくないわけがない(三崎「羽床総本店」提供)
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美味しくないわけがない(三崎「羽床総本店」提供)

 言われてみれば、確かに三崎にはいろいろな「何とかのみそ漬け」があった。みそ付けにすると長持ちするし、味が深まる。美味しくないわけがないが、東京のスーパーでは少数派。今度、三崎に出かける用事があったら買って来よう。

 魚介類を漬けたものでは新潟の粕漬けがある。あれもいい。特に日本酒との相性がいい。

 ということで神奈川県編はこれでおしまい。東京から近いのに、驚くほど多様な食の文化がはぐくまれていることがわかった。個人的には「のりだんだん」が気に入った。最近はやりの「おにぎらず」の元祖みたいなものである。

のりだんだん(のりだんだん協議会提供)
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のりだんだん(のりだんだん協議会提供)

 我が家でも中途半端にご飯が余ると「結果的のりだんだん」が登場するので、親近感がある。

 この回がアップされるころ、私は岩手県実食の旅に出ているはずである。昨年のテレビ特番の全国ロケのために実食の旅が大幅に遅れている。デスクが「行け行け」とせっつくのである。

 準備もままならない状態で出発することになろう。しかし予定調和的な旅より、行き当たりばったりの旅の方が好き。

岩手町の「看板」キャラクター「キャベツマン」
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岩手町の「看板」キャラクター「キャベツマン」

 と言うことで、次回は岩手県実食編。

 その次は京都府編。京都府は日本海側にお宝が眠っていそうではあるが、あまりよく知らない。ご関係の皆さんにいろいろと教えていただくのを楽しみにしている。

(特別編集委員 野瀬泰申)


★今週のおかわりは「横手市の魅力、一堂に〜まちづくりイベント開催」です。ぜひお読みください。

神奈川県編(その1) サンマがのらないサンマー麺

神奈川県編(その2) 横須賀は「のりだんだん」のお弁当

神奈川県編(その3) 初めて聞いたぞ花こんにゃく

神奈川県実食編 そんなに食べなくてもよかったと思う


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2015年5月15日

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