おかわり つけけんちんそばで地域に自信 常陸太田市地域おこし協力隊



表紙にピンクのハートが踊る「soba book」
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表紙にピンクのハートが踊る「soba book」

 茨城県編で情報の寄せられた「つけけんちんそば」。冷たいそばを、野菜たっぷりのけんちん汁につけながらいただくメニューです。

 これを地域おこしにつなげようとする活動が県北の常陸太田市ではじまっていると聞き、調べてみると、つけけんちんそばの情報を集めた「soba book」という小冊子にたどり着きました。

 表紙にはピンクのハートマークが並んでいて、とても「そば」や「けんちん」に関する情報が掲載されているとは思えません。アバンギャルドなデザインに強く興味を引かれた自分は、制作した人たちに会うべく常陸太田市の金砂郷(かなさごう)地区に向かいました。

太いそばに遭遇

 迎えてくれたのは、常陸太田市地域おこし協力隊「Relier(ルリエ)」で金砂郷地区を担当する白石百合乃さんと野嵜(のざき)真衣さん。soba bookを作ったのは、この20代のお二人でした。

金砂郷の登喜和家。「常陸秋そば」ののぼりも見える
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金砂郷の登喜和家。「常陸秋そば」ののぼりも見える

 まずは食べてみよう、と、地元で長く愛されている「登喜和家(ときわや)」さんへ。メニューにある「つけけんちん」を注文します。すると太麺・細麺が選べるというので、太いそばは珍しい、と太麺をお願いすることに。

 茨城出身の自分にとって、「そば」と「けんちん」の組み合わせはごく自然なもの。水戸市内の店でも、けんちんそば・うどんは一般的なメニューです。もっとも、その場合はつゆの中に麺が入った、かけそばのスタイルになりますが。

 出てきた「つけけんちん」。この姿を見て思いだしました。そうだ、昔、祖父が打ってくれたそばを家でいただく時などは、このスタイルだった。そしてその麺も、こういう太い麺だった――。

 懐かしさを覚えながら太い麺を箸でつまみ、大根、ニンジン、ゴボウ、サトイモなどがどっさり入ったけんちんにくぐらせます。細かく切った芋ガラが入っているのは、この地区の特徴だとか。

つけけんちんそば(太麺)
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つけけんちんそば(太麺)

 太くても、ぐっと腰のあるそばは食べ応え十分。そこに野菜の甘みが加わって、一口ごとに満足感をもたらしてくれます。

 2人によれば、味噌けんちんを出している店もあるそうです。「醤油が高価だったころ、自宅で作れる味噌を使っていた名残でしょうか」とのこと。

衝撃の出合い

 白石さんと野嵜さんが、地域おこし協力隊員としてこの地に住むようになったのは2012年の春。それまで首都圏で生活していた2人にとって、あらゆるものが驚きの連続だったようですが、中でもこの「つけけんちんそば」が出てきたときは衝撃だったそうです。

「けんちんには野菜がぎっしり入っていたので、そこにそばをつけるとは想像もできませんでした。そばつゆは別に出てくるのかな、なんて思っていたら周りの人が普通にそばをけんちんに入れ始めて(笑)」。

つけけんちんそば(細麺)
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つけけんちんそば(細麺)

 しかしその驚きこそ、他にはない、その地域のユニークな資源を発見した瞬間です。このメニューには地元の野菜だけでなく、地域の歴史や文化が詰まっている――そう感じた2人は、つけけんちんそばを地域おこしにつなげよう、と考えるようになりました。

 金砂郷は、ブランドとして定着しつつある「常陸秋そば」が生まれた県内有数のそば処。その土地で、そばそのものではなく、けんちんとセットにしたメニューを資源ととらえたのは、いわゆる「よそ者」ならではの視点でした。

 そして「soba book」が完成するわけですが、彼女たちの大きな功績は「つけけんちんそば」という名称を固定させたことではないでしょうか。

 実は、地元では呼称が定まっておらず、このメニューのことを単に「けんちん」あるいは「そば」と言っているそうです。しかし、それでは他の地域にこの食文化を「情報」として伝えることができません。「つけけんちんそば」という名称はやや長いですが、どんなものか容易に想像できます。次第に「つけけんちんそば」について知りたい、取材したい、という連絡が寄せられるようになりました。

熱々のけんちんにそばをくぐらせて
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熱々のけんちんにそばをくぐらせて

 他の地域だけではありません。金砂郷では「そばはこうして食べるのが当たり前」と思っている人もいまだに多いとか。そういう人たちにあえて「つけけんちんそば」という名称を伝えれば、これが全国的には決して「当たり前」でないことに気付いてもらえます。

まずは地域内の交流を

 soba bookは2013年の2月に3000部を発行。情報が掲載された店舗や、小学校を改修した自然体験・交流施設「かなさ笑学校」で配布しているほか、東京・渋谷のフリーペーパー設置スペースも利用しました。

 ウェブサイトでも閲覧できるようにし、さらにそこに掲載しきれなかった情報や最新のニュースを発信するためにfacebookページも開設しています。

 こうした活動を通じ、多くの人が金砂郷に来るようになるのが目標なのか、と聞くと、少し意外な答えが返ってきました。

芋ガラが入っているのがこの地域の特徴
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芋ガラが入っているのがこの地域の特徴

「いずれはそうなって欲しいと思いますが、まずは地域の人たちに、この食文化が素晴らしい資源なのだと自信を持ってもらえれば。そして『つけけんちんそば』を通じて地域内の交流を促していきたいですね」。

 昨年12月には「金砂山のけんちん村まつり」を地元の住民が主体となって運営し、700人以上の人を集めました。イベントの成功よりも、その過程で世代を超えた交流が生まれたことが何よりの成果、と2人は話します。

 当初は、他のまちおこしの事例でもよく聞かれるように「けんちんはありあわせの素材で作るもの。それを積極的にアピールするなんて……」という反応もあったようですが、ムードは変わってきました。

 「けんちん村まつり」では、主婦のグループがけんちんを作り、大人気に。そして茨城県編に投稿のあった常陸太田市の料理コンテスト「汁ONEカップ」では、目新しさよりも、古くから親しまれている地元の味で勝負しよう、という傾向が出てきているのだとか。

 こうした変化は、単に料理に対する考え方ではなく、地域に向き合う姿勢の変化に他なりません。つけけんちんそばに自信を持って、というRelierメンバーの思いは、地域への自信を呼び覚ましているのです。

それぞれのネクストステージ

いばらきイメージアップ大賞の表彰式で、知事から副賞を受け取るRelierのメンバー(2月5日、東京)
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いばらきイメージアップ大賞の表彰式で、知事から副賞を受け取るRelierのメンバー(2月5日、東京)

 最後に、地域おこし協力隊について少し聞いてみました。これは総務省の呼びかけで2009年から全国の各市町村が実施しているものですが、常陸太田市では2011年4月に最初の3人を迎えました。3人とも、以前からフィールドワークの受け入れなどで交流のあった清泉女子大学(東京都品川区)の卒業生です。この3人で結成したのが「Relier」。フランス語で「つなぐ」という意味を表します。

 同じ大学を卒業した白石さん、野嵜さんも翌年春に加入。さらに、2013年秋には清泉OGではない、男性のメンバーも1人加わりました。

 最初のメンバー3人は市北部の里美地区を中心に活動しており、家庭料理のノウハウを結集した「里美御膳」の提供など、地域の魅力を住民とともに発掘、発信しています。こうしたRelierの活動は県内でも広く知られるようになり、2月5日に表彰式が行われた「いばらきイメージアップ大賞」で奨励賞を受賞しました。

 もっとも、地域おこし協力隊員はいつか「卒業」の日を迎えることになります。金砂郷地区の2人は、今後どのような活動を考えているのでしょう。

 白石さんは、あと1年活動を続けるとのこと。「ほかにもお世話になった地域があり、いつかは常陸太田市をはじめ各地に恩返しができるような仕事を始められたら。以前から教育にも関心があるので、その視点から考えてみたいですね」と次のステップへの構想が固まりつつあるようです。

野嵜真衣さん(左)と白石百合乃さん
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野嵜真衣さん(左)と白石百合乃さん

 そして野嵜さんはといえば、昨年試験に合格し、今年の春から常陸太田市の職員として勤務することが決まりました。さらに、地元の男性と来月結婚し、これからも市内で暮らすことに。「自分の体には東京よりもここのほうが合っている、と感じました」と話す野嵜さん。新たな立場で、地域を支える仕事を続けます。

 イメージアップ大賞の表彰式で常陸太田市の大久保太一市長は、地域おこし協力隊は今後も続けていけるよう検討したい、と発言しました。Relierのメンバーも、そして地元も、継続的な活動へ向けて動き出しているのです。

 地域おこしで重要なのは、そばと同じように細くても長く続いていくこと。温かいけんちんに包まれて、おいしい成果が生まれそうな予感がします。

(一芸)

2014年2月14日

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