第97回 滋賀県ご当地グルメ(その3) 老眼なのにきんし丼

特別編集委員 野瀬泰申


 日本列島のほぼ中心に位置する滋賀県。交通の面でも東海道と中山道が琵琶湖の東で結ばれ、西では北陸からの鯖街道が通じています。ヒトモノカネだけでなく、食文化もここで交わっているようなのです。今回はそんな滋賀ならでは食文化の特異性が明らかになります。
 今週のおかわりは、一芸クンが、東京・銀座にある高知県のアンテナショップ「まるごと高知」のPR大使として10カ月ぶりに東京に現れた「カツオ人間」をリポートします。あわせてご覧ください。
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東京は暑い
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東京は暑い

 東京は暑い。私にとって梅雨明けを待たずに真夏である。

 朝、家を出る。川の向こう側が桜並木になっており、その下の日陰を歩く。そこまではいいが、問題は木陰が切れた先である。

 今朝もかんかん照り。上からの太陽と下からのコンクリートの照り返しで、少し歩いただけで汗が出る。坂を登って左折するとスーパーがある。飛び込んで冷凍食品の売り場に行く。ここで冷却。

 また少し歩いてコンビニに入る。再び冷却。それでも汗だらだらである。

 若いころは暑さなど問題ではなかった。へっちゃらだった。

銭湯態勢は万全
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銭湯態勢は万全

 しかしいまは違う。暑さは命にかかわるのである。

 やっと駅が見えたところでリュックからタオルを取り出して、汗をぬぐう。

 私のリュックにはいつでも銭湯に入れるようにタオル2枚とボディーソープが入っている。銭湯態勢は整っているのである。

 時計を見ると、少し時間に余裕があったので駅前のカフェに寄った。急いで読む必要がある資料に目を通そうと思ったのである。

 アイスコーヒーをカウンターで受け取り、近くのかごに並んだガムシロップを手にして資料を広げた。ガムシロをコーヒーに注ぐ。飲む。

レモンをコーヒーに入れてしまった
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レモンをコーヒーに入れてしまった

 あれ?

 あれれー?

 酸っぱいのである。アイスコーヒーが酸っぱいって、どういうことだ?

 ガムシロの丸くて小さくて蓋がめくれた容器を見ると、それはガムシロではなくてレモンであった。

 とても不味かった。

 皆さんもやけになったときとか特別な場合を除いて、アイスコーヒーにレモンを入れるのはやめましょう。

 さて本編。

メニューの写真(大阪の原さん提供)
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メニューの写真(大阪の原さん提供)

MNo.14

 滋賀といえば鮒ずしですが、蓼(タデ)ずしという物もあります。あの辛い緑色の「食う虫も好きずき」のあれです。
 野洲の祭りのとき以外ではあまり見かけないのですが、駅の近所に提供する喫茶店があります。でも平日のみ。土日はありませんでした。がっくり。メニューの写真のみ得ました。
 一方で蓼を練り込んだうどんが何軒かで扱われています。色は緑色で辛さは抑えめです。食べ終わったころにちょっと感じるかなといった程度です。これなら辛いのが苦手な人でもOK。
 でも私は物足りなかったので、店の前に植えられた蓼の苗から葉を千切って食べてみると……うむむ。これを食べる虫は勇者だ!(大阪の原さん)

タデ(大阪の原さん提供)
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タデ(大阪の原さん提供)

 山形県編で見た米沢のウコギ。普段は生け垣だが、ときに食用になる。

 滋賀県野洲市辺りでは蓼がウコギのような位置にあるのか。

 と考えて本山荻舟著「飲食事典」の「タデ」の項を参照する。「香辛料として食味の補助に用いられ、料理用には多く栽培されるが」云々とある。暑い盛りに紅タデを煎じて飲み、あるいは浴用すれば暑気あたりを予防する、ともある。

「料理のツマに用いられるのは多く青タデで、殊に鮎の料理になくてはならないもの」という記述で膝を打った。

タデうどん(大阪の原さん提供)
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タデうどん(大阪の原さん提供)

 鮎の塩焼きに添えられている緑色の液体を思い浮かべてみよう。青タデをすりつぶして酢で伸ばし、裏ごししたもの。すなわち「タデ酢」である。

 鮎は琵琶湖の湖漁の代表格である。昔も今も鮎は盛んに食べられている。ということはタデもまた身近な食材であり続けているであろう。

 ただタデがご飯に混ぜられ、うどんに練り込まれて食べられているという事実は、今回初めて知った。

 とても勉強になっタデ。

節電の夏、冷たい湧水がない都心では…
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節電の夏、冷たい湧水がない都心では…

MNo.15

 かなり前なのですが、滋賀県は米原市の醒ヶ井というところに梅花藻(バイカモ)の花を見に行ったことがあります。
 あくまで「見に」行ったのですが、その梅花藻をパウダーにしたものを用いた梅花藻マフィンというのを地元の婦人会の方が売っておられました。
 抹茶を使ったものと比べると明るい緑色で、爽やかな香り。おいしくいただきました。
 他にも梅花藻パウダーを練り込んだお餅、うどんやそばなどがありました。
 今でもシフォンケーキや麺類は「醒井水の宿駅」で売っているようです。
 ちょうど7〜8月は梅花藻の花の季節なので思い出した次第です。冷たい湧水が流れる川べりは夏でもひんやり涼しく、節電の夏におすすめの場所です(おねいさん)

タデの葉(大阪の原さん提供)
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タデの葉(大阪の原さん提供)

 梅花藻は水温の低い清流にしか生えない。私は熊本市の水前寺公園の池で姫梅花藻(ヒメバイカモ)の可憐な姿を見たことがある。

 メールにある醒ケ井は中山道の宿場があったところ。地蔵川の梅花藻は昔から有名で、大阪勤務時代によくテレビのニュースで見た。

 ともかく創作系の食べ物であろうが、梅花藻のパウダーを練り込んだうどんやそばというものも世の中にはあるんだ。

 タデと梅花藻。意外なものが活躍している。

湯葉
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湯葉

MNo.16

 滋賀に日本で初めて伝わったものが3つあるそうです。
 1つはお茶、もう1つは湯葉、そしてそばだそうです。
 お茶と湯葉は比叡山の延暦寺に伝わったそうで、大津に「比叡ゆば」さんという超有名な湯葉屋さんがあります。
 そばは伊吹という滋賀と岐阜の県境の山に伝わったそうです。
 比叡ゆばさんの湯葉、超美味しいですよ。柔らかいとろ湯葉が特におすすめです(近江神宮前さん)

そば
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そば

 再び「飲食事典」。「日本におけるソバの発祥は近江の伊吹山下と伝えられ」と、メールの内容を裏付けている。そして薬味に用いられる辛味大根も「もとは伊吹山下に発したのが信濃に移って普及したのだと言われる」。

 お茶はどうか。

 日本の茶祖と呼ばれるのは鎌倉初期の禅僧、栄西(ようさい)。その栄西が中国から持ち帰った茶は「まず筑前の背振山に植えた」という。

 湯葉は?

食べました
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食べました

「飲食事典」はその由来、伝播について何も書いていない。

 それにしても、そば伝来の地が伊吹山とは。

 いま午後2時。お腹すいたので、弁当を食べる。休憩。

 弁当はこれ。650円也。

 食べました。

丁字麩(いけずな京女さん提供)
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丁字麩(いけずな京女さん提供)

MNo.17

 丁字麩がまだ出ていませんね。四角い棒状の外観が特徴ですが、そもそも近江八幡を開いた豊臣秀次が「形の丸い麩は持ち運びに不便」と町並みを模して四角くしたのがはじまりだとか。
 すき焼きの具として最高です。もっちりとした食感と近江牛の旨みを体一杯に吸い込んで存分に力を発揮します。
 また、からし和えもポピュラーな料理で、夏場の仏事には欠かせない一品です。ぜひ実食してみてください(つりがね太郎さん)

丁字麩のからし和え(いけずな京女さん提供)
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丁字麩のからし和え(いけずな京女さん提供)

 丁字麩は東京のスーパーでも見かけることがある。

「丁字」は正月の屠蘇(とそ)に入っている漢方薬「丁子(クローブ)」と関連があるのかと思っていたが、全然違う説もある。

 すなわち秀次が町並みを模して作ったときに、表面に町を走る道を表わす線を入れた。そして区画を示す「丁」「字」をつなげて「丁字」になったという。

本当かなあ。

和風ちゃんぽん(大阪の原さん提供)
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和風ちゃんぽん(大阪の原さん提供)

MNo.18

 社内からです。この春まで3年余り、滋賀県におりました。
 ちゃんぽん亭総本家のちゃんぽんは取材していましたし、長浜に行った時には「鳥喜多」の親子丼やのっぺい汁、高島に遊びにった時にはとんちゃん焼きを食べていました。
 大津では支局近くの料理店がうなぎのしゃぶしゃぶを看板メニューにしていて、お客さんが来るときなど時々食べていただきました。
 逢坂の関跡の近くにある「かねよ」のきんし丼も変わっていました。うなぎというより出し巻きがメーン? 私はやっぱり普通のうな丼のほうが好きです。
 近江の郷土料理や食材もたくさん食べましたが、実は在任中に一番気に入った郷土の味は「へしこ」と「蒸し寿司」です。

鯖のへしこ
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鯖のへしこ

 もともと関東人で偏食傾向がある妻もこの2つは気に入っていました。でもへしこは若狭だし、蒸し寿司は京都。両者とも近江の味ではないですね。
 とはいうものの湖北のほうでは土産店などでへしこを地元名産風に並べているし、蒸し寿司は大津の長等商店街などでも普通の商店が売っていましたから、地元の味といえないこともないでしょう(京都と大津はJRで2駅ですし)。
 食材で忘れていけないのは「ビワマス」です。ちょうどこの時期がおいしいです。天然物はなかなか手に入りにくいですが、なにせ鮎を餌にして育ったものだけに味は絶品。
 北海道のケイジは食べたことがありませんが、普通のトロサーモンなどは軽くしのぐ美味でした。
 養殖技術も進んで、県や雄琴温泉が今年から目玉として売り込むとのこと。価格面でどんどんB級から遠ざかっていくようです(猫じゃら師さん)

鯖街道の起点は若狭小浜
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鯖街道の起点は若狭小浜

 先週から社内便が続いている。歓迎である。

 さてこのメール、内輪褒めと思われたくはないのだが、ある重要な示唆を含んでいる。

 湖東には東海道と中山道が通っていた。草津は両街道が出合う宿場で、そこから北に向かう中山道は、梅花藻で知られる米原の醒ケ井宿などを経て関ケ原から飛騨の国へ。

 東海道は南に向かって京と大坂に通じていた。

 若狭と京を結ぶ鯖街道は湖西を通った。

出し巻きとうなぎできんし丼(デスク)
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出し巻きとうなぎできんし丼(デスク)

 琵琶湖の水運も盛んだった。

 これまであまり語られてこなかったが、滋賀県は東西南北を結ぶ交通と物流の十字路なのであった。

 だから日本海側の食べ物である「へしこ」(魚のぬか漬け)があり、上方の「蒸し寿司」がある。

「きんし丼」あるいは「錦糸丼」は、この「かねよ」が発祥の店と言われるが、いまは京都市内にも広がっていて、グルメ雑誌の中には京都のご当地グルメとして紹介しているものもある。

発見!(大阪の原さん提供)
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発見!(大阪の原さん提供)

 要は、滋賀県(近江)の地政学的な位置を考えてこのメールを読むと、食文化の重層性が浮かび上がり、そこに琵琶湖の幸を中心とした独自の食文化を重ねたら、どうしても滋賀県に行ってみたくなるわけさ。

 そんでもって「ビワマス」。デスク、実食編のとき探そうよ。

デスク 原さんの写真に荷札がチラ写りしているので、これをヒントに探しましょう。

 今週末の連休を利用して、熊本実食編の旅に向かう。ホテルを予約していて、ショックなような嬉しいようなことがあった。

熊本実食編での課題のひとつ
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熊本実食編での課題のひとつ

 某ホテルには60歳以上の人向けの特別料金が設定されていたのである。とても安いのである。さっそく予約した。

デスク 50肩の人向けの特別料金はないんですか?

 近所の映画館にはシルバー料金で入れるらしい。

 皆さんも、前期高齢者見習いになった私を大いにいたわっていただきたいものである。

 そうそう、滋賀県の次は岡山県


(特別編集委員 野瀬泰申)

★今週のおかわりはカツオ人間の逆襲・銀座で県産品、観光地をPR(一芸)です。合わせてご覧ください。

実食編 琵琶湖周食の歌

滋賀県編(その1) たくあんは、いかにしてサラダになりしか

滋賀県編(その2) 名前は「トン」でも鶏肉よ

滋賀県編(その4) 人間は葦を食う生き物である。アシからず


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2012年7月13日

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