おかわり 若い力、地域とともに――三重県尾鷲市元気プロジェクト


 

地元の人々の案内でフィールドワークに臨む学生たち(提供:三重県尾鷲市元気プロジェクト。以下、現地写真はすべて同プロジェクト提供によるもの)

地元の人々の案内でフィールドワークに臨む学生たち(提供:三重県尾鷲市元気プロジェクト。以下、現地写真はすべて同プロジェクト提供によるもの)

 「よそ者・若者・ばか者」。以前から、地域活性化に必要と言われてきた3つの人材です。客観的に地域の課題をとらえる「よそ者」、活動の担い手となる「若者」、そして周りから見れば異常とも思えるほどの熱意で取り組む「ばか者」。しかし、こうした人材はそう都合よく集まるものではありません。

 近年、地域活性化の突破口として大学と連携する動きが広がっています。地域内の学校に限らず、例えば首都圏の大学に通う学生が過疎地域に行き、地元の人と共に課題解決に取り組むケースも増えてきました。昨年末には総務省の協力で「地域実践活動に関する大学教員ネットワーク」も発足しており、この動きは今後加速していく可能性があります。

 学生の多くは「よそ者」であり「若者」。社会経験は少なくても情熱だけは人一倍、という意味では「ばか者」に通じる部分もあるかもしれません。一時的にせよ、地域に「3つの人材」がそろうことになるのです。

 三重県でも、高齢化・過疎化が進む県南部を舞台に学生のパワーを生かす取り組みを進めています。その一環として今年スタートしたのが「三重県尾鷲(おわせ)市元気プロジェクト」。林業と漁業で知られる尾鷲市は1954年に「昭和の大合併」で誕生した歴史ある市ですが、2010年に過疎地域自立促進特別措置法に基づく過疎地域指定を受けました。

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合宿開始にあたり、市長を表敬訪問

合宿開始にあたり、市長を表敬訪問

 9月5日、尾鷲市に集まった40名の学生。慶應義塾大の学生35人と、三重大学・名城大学(愛知)の学生たちです。このプロジェクトの責任者である慶應大総合政策学部の飯盛(いさがい)義徳准教授は「実は、マス(大人数)で行くことにも効果がある」と指摘します。子供が生まれたことが大きな話題になるほど高齢化・過疎化が進む地域に、突然若者たちが大勢で現れることは、それだけで地域に大きなインパクトを与えます。

夕食には地元の食材が並ぶ。この地域でも刺身を酢味噌で食べているという

夕食には地元の食材が並ぶ。この地域でも刺身を酢味噌で食べているという

 インパクトを受けたのは学生も同じ。参加したメンバーの一人は「この地域に関する情報は、ネットではほとんど得られなかった」と話します。小さいころからパソコンやネットを使いこなしてきた世代にとって、ネットに情報のない地域はもはや未知の世界。さらに「この地区の人口は聞いていたが、現地を歩くともっと少なく感じた。話を聞くと、人口の何割かは年に何回か帰る程度で、実質的にはもう流出していたんです」など、予想より深刻な現実がそこにはありました。

 もっとも厳しさばかりではありません。美しい自然、おいしい食べ物、そして何よりも温かく迎え入れてくれた地元の人々が学生たちの心をつかみました。天然の良港で水揚げされる新鮮な魚介類や「アジの姿寿司」などのご当地グルメ、豊富な雨量にはぐくまれたヒノキなど、地域活性化の起爆剤も数多くあるように思われました。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 西田みづ恵特任助教

慶應義塾大学政策・メディア研究科 西田みづ恵特任助教

 しかし、飯盛准教授とともにこのプロジェクトに参加している慶應大の西田みづ恵・特任助教は「実は、どの地域でも活性化につながるようなリソース(資源)を見出すのは、そう難しいことではない」と話します。問題は、そのリソースを誰が生かすのか、ということ。そこに学生たちの目が向くかどうかがこのプロジェクトの成否を分けることになるのです。

尾鷲市 人づくり支援係 芝山有朋係長

尾鷲市 人づくり支援係 芝山有朋係長

 尾鷲市役所の人づくり支援係長、芝山有朋さんは「最終的には高齢化対策、定住促進につながる活性化プランが出てきて欲しかったが、自由に発想してもらおう、とあまり口を挟まなかった」と振り返ります。果たしてその思いは伝わったのでしょうか。

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地元の人々との意見交換会

地元の人々との意見交換会

 まず取り組んだのは地元の人たちと意見を交わすワークショップ。そこで学生たちは、過疎が進むことへの不安と同時に、たとえ高齢でも自分たちが何とかしなくては、という地域の人々の熱い思いを感じたそうです。そして、各班・各地区に分かれて街の隅々まで歩くフィールドワーク。廃校になった小学校や産業の拠点、観光スポットなどを回るとともに、人々の日常の暮らしにも目を向けます。「自動販売機の周りで、ビール片手に集まって話し込む大人たちがいた」「お墓で人々が集まって、会話に花を咲かせていた」など、何気ない光景も見逃さず、地域の特性や可能性を見出そうとします。夜はおいしい海の幸、山の幸に舌つづみを打ちながらも深夜まで議論。中には漁師たちの船に乗り込んで漁業体験をした班もありました。

船に乗り込み漁業体験も

船に乗り込み漁業体験も

 3日目の9月7日には、各班がそれぞれに企画した活性化プランを提言しました。会場には入りきれないほどの人が詰めかけ「がんばれ」と声援も飛ぶほど。芝山さんは「子供というより、孫のような世代ですからね。応援したかったんでしょう」と笑いますが、学生たちが地元の人たちと確かな絆を結んだことの証明でもあります。その絆を通じてまとめられた提案は、いずれも「この地に一人でも多くの人が住んでもらうには」という視点に重きを置いていました。

 「○○○について、ネットやソーシャルメディアで発信すればOK」といった安易なものはひとつもありません。芝山さん、そして地域の人たちが抱いていた思いは、共に過ごした濃密な時間によって、確実に学生たちの心に届いていたようです。

提案発表に向け、入念な準備が進む

提案発表に向け、入念な準備が進む

 漁業の振興には「水産学科の学生にターゲットを絞った漁業体験と地元漁師との交流促進」といった即戦力の確保から「子供たちを漁師の家に民泊させ、いい思い出を作ることで将来の訪問や定住への布石とする」といった長期的な方策までが並びました。尾鷲の三木浦地区はダイビングスポットとしても人気で、漁業関係者とも良好な関係を築いていることから「漁船にダイバーを乗せるなど、一歩踏み込んだ協力態勢を作ることで地域への愛着を沸かせてはどうか」という提案もありました。

発表会には大勢の地元住民が足を運んだ

発表会には大勢の地元住民が足を運んだ

 林業の資産をどう生かすかという観点から、ある班は「ヒノキを使ったカヌー作り体験」を企画。なぜカヌーかといえば、1回の訪問では完成できないから。何度も訪れてもらうきっかけを作ると共に、受け入れる地域の側も人々がやってくるタイミングに合わせてイベントを開催するなど、まちおこし活動にメリハリをつけることが可能になる、という効果を狙っています。

岩田昭人市長による、市長賞の贈呈。市長をキャラクター化し、トップセールスを支援するという提案もあった

岩田昭人市長による、市長賞の贈呈。市長をキャラクター化し、トップセールスを支援するという提案もあった

 そしてこの地に住む人々の「何とかこのまちを残したい」という強い気持ちを生かすために「かわら版」の発行も提案されました。かわら版とは、A4サイズの用紙裏表に、手書きで情報を掲載したもの。これを地域内の全戸に配布し、問題意識の共有に役立てよう、というのです。

 もちろん地域外への情報発信にも活用しますが、まずは地域内の行動力を高めることが重要。手書き、紙媒体での配布には、作る側にも読む側にもなるべくハードルを低くして、確実に実現できるようにする、という意図があります。

 「尾鷲を知らない人にいきなりファンになってくれ、というのも無理な話。まずはこの地域の出身者や、ゆかりのある人を通じて、少しずつファンを増やしていくべき」と極めて現実的な意見も出されました。

プロジェクトに継続参加する学生たち。中央が慶應義塾大学総合政策学部の飯盛義徳准教授

プロジェクトに継続参加する学生たち。中央が慶應義塾大学総合政策学部の飯盛義徳准教授

 発表会は大いに盛り上がり、地元の人も学生たちも充実感を持って3日間の日程は終了しました。しかし、それだけでは終わりません。

 このとき尾鷲を訪れた40人のうち、10人以上の学生がこのプロジェクトに継続的に参加することを希望。早速10月末に再び尾鷲を訪れ研究会を実施しました。地元の方との再会を抱き合って喜ぶ光景も見られたそうです。11月1日には、学生たちが提案した「かわら版」の第1号が完成。実現性を重視した効果が早速現れました。

完成した「かわら版」第1号
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完成した「かわら版」第1号

 尾鷲市の芝山さんは、学生たちの提案内容だけでなく、若者が地域の声に真剣に耳を傾けること自体にも大きな意義があると言います。「毎年お祭りの時期が来るたび、その担い手が減少、高齢化してくる現実を目の当たりにして『10年先はどうなってしまうんだろう』と語りあう。過疎の地域では、そうした漠然とした、でも強烈な不安を抱えながら日々暮らしているんです。若い世代が一緒に考え、行動してくれることは、それだけで大きな心の支えになる」

 「漁師になりたい」という大阪の若者がIターンで定住するなど、少しずつ実績もあがっている尾鷲市。今回のプロジェクトでさらに弾みがつくよう、市も、県南部の活性化に力を入れる県の関係者も期待を寄せています。

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 慶應の飯盛准教授の研究室では、この数年、同様のプロジェクトを長崎県新上五島町、福岡県八女市などで繰り広げてきました。これらの取り組みには他の地域の参考になるヒントも多く含まれているのですが、その詳細を知る機会は限られています。

 そうした情報に触れられるのが、11月22日・23日に東京・六本木の東京ミッドタウンで開催される「Open Research Forum 2012(ORF)」。慶應の湘南藤沢キャンパス(SFC)を拠点にしている各研究室が、日々の研究成果や進めているプロジェクトを広く公開するイベントです。

 展示やシンポジウム、トークセッションで構成されますが、他の大学や研究機関による発表とはひと味もふた味も違うのがORF。飯盛研のように地域でのイノベーションをテーマとした社会科学系の発表もあれば、先進の情報工学に関する発表もあります。IT農業など、その両者が融合したような研究もあり、「理系」「文系」といった従来のカテゴリー分けを超越した、混沌としながらも刺激ある知的空間が出現します。

 ORFの実行委員長も務める飯盛准教授は「SFCは社会の課題を発見し、解決するためにどうすればいいかを考え、そして実践する場。だから従来のカテゴリー分けはあまり意味がない」と話します。

 「SFCでは普段から様々な立場、考え方の人たちがコラボレーションし、イノベーションを生み出しています。その一端を各地に持っていくのが地域活性化プロジェクトだとも言えますが、ORFではSFCをまるごと持っていって皆さんに見ていただく。研究発表会というハレの舞台ではなく、普段の、ケのSFCをお見せしますよ」。飯盛研では上五島、八女のプロジェクトの成果を発表する予定です。

 「社会を元気にしたい人、あるいはビジネスや研究開発などでヒントを探している人は、ぜひORFに足を運んでいただきたいですね」と飯盛准教授。発表する側にとっても、来場した方々との出会いが新たな知見につながるこことも多く、とても楽しみなのだとか。日程2日目は3連休初日とも重なっており、深まる秋の休日に知的行楽へと出かけてみるのもいいかもしれません。

(一芸)

2012年11月16日

第17回 SFC Open Research Forum 2012

【テーマ】 『知のbazaar』

【日 時】 2012年11月22日(木)・23日(金・祝) 10:00−19:30

      ※23日のみホールは18:00閉場

【会 場】 東京ミッドタウン ホール&カンファレンス

【入場料】 無料(事前登録も不要です)

【主 催】 慶應義塾大学SFC研究所

【概 要】
各界の論客を招いてのパネルディス カッションなど、2日間で40を超えるセッションと、各団体による研究成果の展示・デモンストレーション
◇プレミアムセッション
「ライフクラウドの時代がやってくる〜個人の健康情報を利用する情報社会基盤〜」「全国自治体ICTサミット〜3.11後の自治体ネットワーキング」「ソーシャル×カルチャー×ロングテール」など
◇セッション
「日米インターネットエコノミー対話」「第6次産業の情報システム」「HTML5とは何か」「鹿児島県屋久島町口永良部島における離島活性化協働プロジェクト」など
◇展示・デモンストレーション
ユビキタス・インフラ・通信・技術−高信頼情報社会/身体知・ヘルスケア・ライフサイエンス−健康高齢社会/政策・文化・ガヴァナンス−国際戦略設計/社会・グローバル・地域・教育−社会イノベーション/デザイン・環境デザイン−環境共生

スケジュール・最新情報は公式ウェブサイトで

http://orf.sfc.keio.ac.jp/

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