第49回 静岡県実食編(前編) 「昔話『はなさんか!じじい』」は名作である

特別編集委員 野瀬泰申  このエントリーをはてなブックマークに追加


 今回は静岡県実食編の前編です。実食編までの道のりは、静岡県編その1その2その3最終回)でご覧ください。番外編、デスクの「久しぶりに鯨に、馬になりました 」と一芸クンの「もつカレさま!で広がる地域の輪」もご一緒に。読むだけで満腹になること間違いなし!
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三島で乗り換え、沼津へ。静岡県実食編は沼津からスタート!
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三島で乗り換え、沼津へ。静岡県実食編は沼津からスタート!

 2011年4月11日。静岡県実食編取材のスタート地点は沼津である。事前にアミー隊員からもらった行程表には、何時何分の電車に乗れば正午に沼津駅に着くと書いてある。

 その時間に合わせて東京駅に向かう私鉄の中で行程表を読み直すと「?」が浮かんだ。乗るべき電車には「こだま」という表記がない。ということは東海道線の普通電車だろうが、東京駅から乗車時間50分余りで沼津に着くことになっている。


「そりゃ無理だろ」

 東京駅の新幹線乗り場で時刻表を見たが、指定された時間に出る列車はない。

「いかん。ともかく新幹線に乗らなくちゃ、正午までに沼津に行けない」

沼津駅前を通り過ぎ、あんかけスパを目指す
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沼津駅前を通り過ぎ、あんかけスパを目指す

 実食編はとかくハプニングがつきまとうものではあるけれど、今回はいきなりである。

 券売機で三島までの自由席キップを買って、ちょうど発車待ちしていた「こだま」に滑り込んだ。小田原を過ぎた辺りで携帯が鳴った。アミー隊員からだった。


「いまどこですか?」

「小田原から熱海に向かう途中。ちょっと遅れるかも」

沼津名物の文字とメニューには「うなぎ」
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沼津名物の文字とメニューには「うなぎ」

「わかりました」

 この時点で行程表の乗車時間書き間違い疑惑について全く触れない私だった。大人の態度に自分でも満足する。


 三島で東海道線普通電車に乗り換えて、8分遅刻で沼津駅に降り立った。待っていたアミー隊員、一芸クンと合流する。

「行程表の電車の時間なんだけどさあ……」

「ああ、間違えていましたね。直すの忘れてました。アハ」

 アミー隊員は明るい。


「はい。では出発します。最初はあんかけスパです」

「ミラネーゼ」(上)、「ボルカノ」
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「ミラネーゼ」(上)、「ボルカノ」

 アミー隊員が地図を手に歩き出す。私と一芸クンがそれに続いた。一芸クンのシャツは今日も……いや、はみ出していない。残念である。


 駅から海に向かって真っすぐのびる広い道をスタスタと歩き、途中で右に曲がったところに「スパゲティの店 ボルカノ」はあった。入り口の前にサンプルケースがある。写真を撮りながら観察する。スパとライスが合体したでんぷんダブルの各種「ランチ」メニューがある。

 店内に入ると意外と奥行きがある。テーブル席がずらっと並んでいるが、空席はひとつだけ。そこに私たちが座ったので満員になった。平日の昼時とはいえ、相当の人気店とわかる。

 私は「ミラネーゼ」を注文した。名古屋のあんかけスパにも同名のメニューがある。「(イタリアの)ミラノの」という意味だろうが、あんかけスパがミラノにあるとは思えない。

「バラエティーランチ」(上)、店頭の見本にはA、B、Cランチに
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「バラエティーランチ」(上)、店頭の見本にはA、B、Cランチに

 具はウインナ、ハム、タマネギ、ピーマン、シイタケである。ミラノなのにシイタケが入るところが良い。

 アミー隊員は店と同じ名の「ボルカノ」を注文。一芸クンは「バラエティーランチ」を頼んだ。ボルカノはシンプルな内容であったが、一芸クンの眼前に現れたのは、あんかけスパにハンバーグにピザ、それにライスまで。一瞬カロリー計算をしてしまった。

 ここの「あん」は名古屋や津で食べたものに比べると甘みも酸味も抑え気味。いわゆるあっさり系である。粘りはコーンスターチによるものか。

 特注の太い麺は、恐らくゆで置きしたものだろうが、しっかりとした歯応えがある。

真剣に写真を撮る野瀬特編
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真剣に写真を撮る野瀬特編

 店は忙しい。注文を取り、料理を運び、代金のやり取りをし、と休む暇はない。従って話を聞くスキもない。黙々と食べる。

 勘定を済ましながらわずかに聞いたところによると、この店の開店は昭和44年(と聞こえた)。名古屋とは関係がない。

 しかしながら沼津駅周辺のあんかけスパを出す店が、偶然名古屋と無関係に出現したとは考えにくい。というのも「ミラネーゼ」とか「カントリー」とかのメニュー名が、名古屋と同じだからである。

 名古屋のあんかけスパは1960年代生まれということになっている。つまり昭和35年以降であって、時代的にも先行している。詳しくはわからないが、名古屋のあんかけスパの影響を受けたものであろうと思う。


桃屋、下は桃屋のたれサンド
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桃屋、下は桃屋のたれサンド

 てなことを考えながらアミー隊員の後をくっついて行ったら、文字通り街角の総菜屋さんの前に出た。赤いテントがかかった店で、その上に「桃屋」と書いてある。はいはい、甘いたれのパンがある店ね。

 ここは揚げ物中心の総菜屋さんであるけれど、揚げたてのカツやメンチカツをパンに挟んで売っている。「カツサンド」も「メンチカツサンド」も「サンド」といいながらホットドッグスタイル。それぞれソースと甘いたれの2種類がある。予定通り甘いたれの方を買う。

 そこからアーケード商店街を駅の方に向かい「バンデリ」で「のっぽパン」をゲットした。のっぽパンの種類は多く、柔らかいのもあればフランスパンのように硬いものもある。中には「富士宮やきそばのっぽ」も。しかしこれは賞味期限が短いので断念。念願ののっぽパン専用細長袋に入れてもらった。

商店街を歩いていくと「のっぽパン」の幟。専用袋に入れてもらう。野瀬特編の顔よりも長い
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商店街を歩いていくと「のっぽパン」の幟。専用袋に入れてもらう。野瀬特編の顔よりも長い

 パンの類を試食すべく駅前のモニュメントのところで広げようとした途端、私は襲撃を受けた。


 ハトであった。ハトはどうしてパンを食べようとしているのがわかったのだろう。誰か教えたのだろうか。ともかく無数のというか、何10羽かのハトがバタバタと羽音を立てて私の周りを飛び交ったのである。

 私は「あれー」という叫びとともに飛び上がり、一目散にその場を逃れたのだった。一芸クンは助けようともせず、にやにやしながらデジタルビデオカメラを回しているではないか。助けろよ。

「番外編 デスクの静岡県実食編(前編) 久しぶりに鯨に、馬になりました」はこちらからどうぞ
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「番外編 デスクの静岡県実食編(前編) 久しぶりに鯨に、馬になりました」はこちらからどうぞ

 そこで場所をかえて撮影に臨んだのだが、どうして駅前の人前でパンを食べなければいけないのであろうか、と思いつつ食べたのである。

 ここで一芸クンは1人で清水方面に向かった。私とアミー隊員は焼津へ向かう。焼津で前日から別行動で鯨飲馬食していたデスクと合流することになっている。アミー隊員が立てた作戦は大変複雑であった。

 ではデスク、昨日からどこで何を食べていたの?

デスク 「番外編 デスクの静岡県実食編(前編) 久しぶりに鯨に、馬になりました」に詳しく書いています。こちらからどうぞ


「笑刻家」岩崎祐司さんを訪ねる(左上が店頭)。これが「猪木の洗濯」ですよと岩崎さん(右上)に教えてもらい激写(右下)、「昔話『はなさんか!じじい』」を手に満面の笑顔の野瀬特編(左下)
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「笑刻家」岩崎祐司さんを訪ねる(左上が店頭)。これが「猪木の洗濯」ですよと岩崎さん(右上)に教えてもらい激写(右下)、「昔話『はなさんか!じじい』」を手に満面の笑顔の野瀬特編(左下)

 焼津では何も食べない。ではなぜ焼津なのか。焼津にはあの日本でただ1人の「笑刻家」岩崎祐司さんがいる。日本経済新聞の文化面に載った岩崎さんの文章と作品が面白すぎて、何としても現場に行きたいと思い、アミー隊員に頼んで日程に加えてもらっていた。

 焼津の港に近い自転車店「マリンサイクル」の一角が「笑刻ギャラリー くすくす」になっている。岩崎さんが手彫りした作品が所狭しと並んでいて、笑いのうちに時間を忘れる。

 私が最も気に入っているのは「昔話『はなさんか!じじい』」である。ワンコとおじいさんの表情が何とも言えない。


代表作「リョーマの休日」
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代表作「リョーマの休日」

「ふうせんの友・シビン」も、スルメを噛むようなしみじみとしたおかしみがある。

「飛んで火に入る夏の武士」とか「映画・七リンの侍」、それに「あしでマトイ」などには、ほとほと感心する。

 いずれもダジャレであるから、あるいはほかの人も思いつくものかもしれない。しかしながら岩崎さんの凄いところは、言葉の面白さを造形化したことである。それによって言葉の面白さが一段と昇華され、芸術一歩手前のところにまで達している。人によっては「すでに芸術だ」と言うかもしれない。


左から「昔話『はなさんか!じじい』」「ふうせんの友・シビン」「飛んで火に入る夏の武士」「映画・七リンの侍」「あしでマトイ」


 アントニオ猪木シリーズもある。

「ベンキですかー」

「猪木の洗濯」

「アントキノ猪木 1976年」

「ゲンキンですかー」

 である。


左から「ベンキですかー」「猪木の洗濯」「アントキノ猪木 1976年」「ゲンキンですかー」


 これは難しかったろうと思ったのが「壁に耳あり障子にメアリー」。壁に耳を彫り、金髪のメアリーが障子から顔をのぞかせている。

「この間、前の公園で赤い靴をはいてた女の子を見たのがヒントになりました」と言って岩崎さんが手元に取ったのがこれ。

 アミー隊員は掲載に慎重な態度であったが、まあいいじゃないかということで掲載する。その代わり「月とすっぽんぽん」は止めるけんね。


左から「壁に耳あり障子にメアリー」「赤い靴はいてた女の子」「一生ビン」「平目あやまり」


 ギャラリーの中で、いくつかの作品を売っている。最近はぽつぽつ売れるようになったのだそうである。

「お陰で金には困っていませんけど、生活には困っているんですよ」と岩崎さんは言った。

 おもろいおっさんやねー。


一芸クンのもつカレーレポート「もつカレさま!で広がる地域の輪」はこちらからどうぞ
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一芸クンのもつカレーレポート「もつカレさま!で広がる地域の輪」はこちらからどうぞ

 後ろ髪を引かれる思いで藤枝へと向かう。今夜は藤枝泊。ホテルにチェックインして駅前で集合する。

 清水で「もつカレー」を取材してきた一芸クンも合流して、私、デスク、アミー隊員というフルメンバーになる。豪勢というか暑苦しいというか。

「こんばんわー」


 そこに現れたのが「藤枝朝ラー軒究会」の世話人、江崎晴城さん。近くの居酒屋に行って、明日の朝ラー修行の打ち合わせをする。目の前には元祖もつカレーがある。それをつまみながら飲みながらの打ち合わせである。


藤枝着、駅前「NIKU」の前で待ち合わせ。駅前に「藤枝朝ラーメン」の文字
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藤枝着、駅前「NIKU」の前で待ち合わせ。駅前に「藤枝朝ラーメン」の文字

一芸クン 野瀬特編に元祖もつカレーを食べていただきたく、これを購入するや、わき目もふらずに運んできました。詳しくは「もつカレさま!で広がる地域の輪」でご報告します。


 江崎さんはいくつかのコースを考えてくれていた。異なったスープの店3軒を回るのである。1人で朝から3軒? 誰が行くの?

 私は最も遅く開店する、といっても午前8時半なのだが、そこ1軒で勘弁してもらうことにした。ほかの3人は6時から頑張るという。本当に6時からラーメンをはしごする気なのであろうか。そんなことをしたら命に関わるのでなかろうか。

 デスクは「やります」と決死の顔つきで言う。一芸クンもニタニタしながら「仕事ですから」と言う。アミー隊員も「せっかく来たんですから」と笑顔である。

 大丈夫かねえ、みんな。そんな心配をする余裕もなくベッドに倒れ込んで、気がついたら朝になっていた。時計を見ると、ほかの3人は朝ラーと格闘している時間である。私は身支度を済ませて、江崎さんが迎えに来てくれるのを待った(つづく)。

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静岡県実食編<映像リポート・前編>




 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2011年5月13日


■静岡B級グルメ
・その1 セリそばと朝ラー食べてスマシ顔パンを振り返る
・その2 今日もお仕事、もつカレさま!豪雪を乗り越えた鳥取の「きずな」
・その3 うなぎはメスでも「ぼく」と言う「長崎県 食べるぞ! B級グルメ」VOTE結果
・最終回 「月見氷」の冷たい幸せサクラとカノジョとイカメンチ


■入門編:「食べBって何?」という方はこちらからご覧下さい
■実食編:<映像リポート>はこちら
食べB修行記、今週のリポート一覧
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