第11回 青森県実食編 「イカのすし」をシーサイドで

青森県のVOTE1位だった「イカのすし」
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青森県のVOTE1位だった「イカのすし」

 初夏と言っていいはずの5月28日、私は気温9度の青森空港に降り立った。着陸前のアナウンスで「現地の気温は9度との報告が入っています」と聞いて、アチャと思ったが後の祭り。

 気温20何度かの東京を出た私は、一応長袖のTシャツこそ着ていたが、パンツもジャケットも完全に夏仕様なのであった。

 青森県の観光カリスマ、斎藤さんが待つ県観光物産館「アスパム」に向かう途中、駅ビルに無印良品があったので寒さ対策になるものはないかと探してみたが、これからの夏場に向けた商品ばかりで防寒に役立ちそうなものは何もない。

 ちょっと前ならコップ酒の1杯も点滴して温まったかもしれない私ながら、今日では肝臓関係のことを考えてお天道様の下では飲まないことにしている。

「イカのすし」の断面
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「イカのすし」の断面

 「寒ぶっ」とつぶやきながらアスパムに向かうと、玄関を入ったところで斎藤さんの笑顔に迎えられた。

 斎藤さんは季節外れの「イカのすし」を下北半島のむつ市から冷蔵の状態で取り寄せ、用意してくれているという。在庫品倉庫のような部屋で下準備開始。

 斎藤さんが包丁を持ち慣れた手つきででスーッと切ると、ピンクのイカの胴体がスッパリと切れて断面が現れた。

 ゲソが放射線状に詰まっており、その周りに黄色くなったキャベツとショウガ。実に美しい。

 せっかく青森に来たというのに室内で食べるのはもったいない。ということで、かねて計画通り、アスパムの裏手に広がる青森湾を見ながら食べることにした。

アスパムの裏に広がる青森湾を前に「イカのすし」を食べる
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アスパムの裏に広がる青森湾を前に「イカのすし」を食べる

 しかしこの寒さは計画に入っていなかった。いまにも降りそうな空も計画外のことであった。えーいままよと外に出て、ベンチで食べた。寒ぶっ。

 イカの漬物を口にするのは初めてである。しかも米が入っていない「すし」もまた初めてである。

 一口噛み二口噛むうちに、うわっと酸味が広がった。酢の酸味というより発酵の酸味である。これは良い。大変良い。

キャベツの後にショウガのさわやかな味が広がって、それにイカのうま味が加わる。本州最北端の美味を楽しむ九州人の喜びをキミはわかるか。

アスパムの食堂で「中華ザル」「焼干しラーメン」(上段)、次のターゲットに向かう途中に車窓から(下段)
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アスパムの食堂で「中華ザル」「焼干しラーメン」(上段)、次のターゲットに向かう途中に車窓から(下段)

 いまは曇っているのでお天道様が隠れている。お天道様の下では飲まない私ではあるが、肝心のお天道様が見えないのだから飲んでもいいのではないか。

 と思ったが、水さえなかったのだった。

 斎藤さんや一芸クンも試食し、次のターゲットに向かう。

 そう「赤くて甘い赤飯」である。

 その前に、前回書いたように、ここで甘い赤飯について少し考える。「食べ物 新日本奇行」の「日本の甘味処」の地図で「赤飯が甘い」のは北海道、青森、秋田であり、飛び地の山梨を除くと「甘くない」に分類されている。そのことについて「ござ引き」さんからこのようなメールが届いた。


青森の「赤いいなり」
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青森の「赤いいなり」

ご意見

 我が家は岩手県中央部ですが、赤飯は甘いです。近所の赤飯も程度に差はありますが、甘いです。彼岸など、親戚やご近所の赤飯が仏壇に供えられることもあり、数軒の赤飯を味わっています。
 また母は餅文化が発達している岩手県南部の出身ですが、甘い赤飯にはなんら抵抗なく、おそらく幼いころから甘い赤飯に慣れ親しんだものと思われます。その証拠に赤飯を甘くする際の作業の名前を方言で言っています。
 うるかした(方言ですね)もち米を蒸して赤飯にするのですが、蒸している途中に、もち米を大きな器へあげて、粗目(ザラメ)を溶かした水(煮豆+煮汁?も入っています)を取り上げたもち米にかけて混ぜます。これで甘くかつ色をつけるのです。
 この作業、粗目などが入った水を混ぜる作業を方言で「すでぶづ」と言うそうです。言葉を考えると「すで」=砂糖、「ぶづ」=うつ/かけるといった感じかと思います。
 すでぶったもち米はさらに蒸して赤飯の完成となります。
 甘くする作業自体が方言化しているということは、長い間行われてきた証拠であり、赤飯が甘い県の仲間にしてもいいのではないでしょうか?


移動中にリンゴの木
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移動中にリンゴの木

 地図を見ると、岩手県の赤飯は「甘くない」が78%、「甘い」が22%であった。数字だけだと「甘い」は少数派だが、実際はもう少し大きな存在感を持っているのかもしれない。

 あるいは地域的に偏りがあるのかもしれない。この問題は実は根が深いような印象を持っている。

 というのも山梨が飛び地と書いたが、精査すると「甘くない」の43%に対し「甘い」が57%なのである。当時は両者拮抗していると判断したが「甘い」県に分類してもよかったのである。

 しかも、ござ引きさんはザラメを加える作り方を紹介しておられるが、ごく最近、話をした山梨県民によると山梨の場合は違う方法で甘くしているという。

 その内容をいま書くわけにはいかないけれども、私は山梨の赤飯の謎について、絶対に取材しようと決意したのであった。

左上から時計周りで巨大なタコ、トゲクリガニ、ホヤ、ガサエビ(シャコ)
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左上から時計周りで巨大なタコ、トゲクリガニ、ホヤ、ガサエビ(シャコ)

 ともかく赤飯を甘くして食べる地域は、意外な広がりを持っているようである。


 で青森の赤いいなりである。私たちは車で「いつも置いている」ことが確認されている蓬田村の売店に向かった。青森湾に沿って津軽半島を北上する形になる。車からは見えないが、海はすぐそこにある。

 売店に着くと魚を売っているブースがまず目に入った。大方売り切れたらしく、タコぐらいしか残っていない。だがそのタコのでかいこと。一抱えはありそうな大物であった。

 私たちは売店に入って売り場を見回したが、赤いいなりの姿は見えない。

 「売り切れです」ということであった。

「いがメンチ」をそばにのせて食べる
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「いがメンチ」をそばにのせて食べる

 そこで方向を転じ、合併でいまは青森市になった旧浪岡町の道の駅に急いだ。しかしながらここでも赤いいなりは売り切れ。

 その代わりに、もうひとつのターゲットである「いがメンチ」があった。それは売店の隣の飲食コーナーで揚げられていた。1個50円。

 イカのゲソを細かく刻んで、あるいは叩いてタマネギなどを加える。つなぎは溶いた小麦粉。それを素揚げすると表面が濃いきつね色になる。香ばしいったらありゃしない。

 元々イカ好きの私である。ソースなどをかけて食べるのもいいが、小腹も空いたことではあるし、かけそばを頼んでコロッケそばならぬ、いがメンチそばにした。東京の駅そばで食べるコロッケそばの14.7倍は美味しかった。

津軽弁を話す自販機(上)、夜の部のお店ではストーブ!
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津軽弁を話す自販機(上)、夜の部のお店ではストーブ!

 おっと赤いいなりであった。飲食コーナーで尋ねると近くのスーパーにあるのではないかという。そこで車を飛ばして現場に急行すると、みごと赤いいなりがあったのである。

 だがここでは食べずにリュックにしまう。夜、味噌カレー牛乳ラーメンを食べるときに取っておくのである。

 私たちは青森中心街に戻り、ホテルにチェックインした。その後、しかるべき時間に集合して夜の部へ。夜の部の詳細は省略するけれど、お天道様のいない世界はそれなりに良いのである。遠慮なく酒を飲んで時が過ぎていった。

 最後は味噌カレー牛乳ラーメン。雨の中を歩いて閉店間際の店に向かい、カウンターではなく上がり込んでいただいた。函館で食べている私は、カルチャーショックの余りに笑い出すこともなく、このために空けておいた腹の中にしまい込んだ。

味噌カレー牛乳ラーメン
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味噌カレー牛乳ラーメン

 味噌、カレー、牛乳が主張を抑え合い、そのバランスは絶妙。ほのかな唐辛子の辛さも絶妙。いやでも入ってくるバターをスープに沈めていると、じわじわとコク味が増してきて絶妙。

 同人諸兄姉に告ぐ。

 青森の味噌カレー牛乳ラーメンはとても良いぞ。

 で最後に赤いいなりを食べてみた。当スーパーのものはいなりこそ甘いものの、ご飯の方は甘さ控えめであった。紅ショウガは嫌いだが、この程度ならむしろさっぱり感を演出して好ましい。


青森市内を歩く……青森駅(上段左)、八甲田丸(同右)、イギリストースト(下段左)、朝5時から営業している市場(同右)
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青森市内を歩く……青森駅(上段左)、八甲田丸(同右)、イギリストースト(下段左)、朝5時から営業している市場(同右)

 私は翌日、青森市内を少し歩いてから空港に向かい、東京へと戻った。そんな私をよそに一芸クンは単身、十和田と八戸に急行したのであった。そのリポートをどうぞ(一芸クンの食べB修行記はこちらからご覧ください)


実食編映像リポートはこちら


 では次回から千葉県である。東京から見ているといろんな食べ物があるのか、ないのか判然としないところもある。しかしながら、ないはずがないではないか。房総だの東葛だの東京湾沿いだの、県内でも場所によって食文化が違っているかもしれない。皆さんからのメールで、その辺りを解明できると嬉しい。

 鳥取県に関するメールもいただいたが、それは近々実食ツアーに出かけるときに紹介することになるであろう。

 ではまた来週。

 おおそうじゃった、あっちも更新された

(特別編集委員 野瀬泰申)



 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2010年6月11日


■青森県編
その1 花見にバナナを持って行くカニ?
その2 赤くて甘い○○寿司
その3 十和田には「栄作堂」があった >
最終回 下北半島の「すし」はシャリ抜き >
実食編 「イカのすし」をシーサイドで 一芸クンの食べB修行記

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