第119回 栃木県ご当地グルメ(その1) にらはあなたのそばがいい

特別編集委員 野瀬泰申


 あけましておめでとうございます。「食べB」もこれで3回目のお正月を迎えることができました。これも皆さんのご愛顧のおかげと感謝しております。全国47都道府県のうち、前回の三重県までにすでに22県を巡り、今年の食べBはいよいよ「折り返し点」を通過することになります。
 2013年、最初のテーマは栃木県です。県南部は東京から日帰り圏内ですが、北部は東北・福島県に接し、今は寒さも厳しい時期です。はたしてどんな食文化が登場するのか…。どうぞ、お楽しみに。
 今週のおかわりは、本格的な雪のシーズンを前に各地で開催される、かまくら関連のイベントをデスクが紹介します
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(「食べB」へ初めて訪れた方は「食べB入門編」をご覧下さい食についてのメール投稿先はこちら

茨城・笠間稲荷も抜けるような青空
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茨城・笠間稲荷も抜けるような青空

 あけこまして おめでたりませ

 と書かれた年賀状をもらったのは何年前のことであったろう。今年は不穏な文言の年賀状はなく、日本海側の皆さんには申し訳ないことながら、東京は抜けるような青空の下で正月を迎えた。

 我が家のお節は久留米由来のがめ煮(いわゆる筑前煮)が主役の一部を担っているのだが、今年はニューフェースが加わった。

 宮城県編に登場した「青ばた豆(青大豆)と数の子の和え物」である。青ばた豆自体が東北の物であるので、九州出身者はその存在すら知らなかったし、数の子を合わせる食べ方など想像もしていなかった。

青ばた豆(青大豆)と数の子の和え物
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青ばた豆(青大豆)と数の子の和え物

 ところが宮城県編で正月料理の一つであると知って年末に試作したところ、これが家族全員に大好評だったのである。

 そこで年が明けてスーパーで材料を買い求め、お節の追加の一品として食卓にのぼらせたのだが、再びあっという間になくなってしまった次第。ということで我が家の正月を黒豆と青ばた豆の2色の豆が彩ったのだった。

 本編のスタートは栃木のお正月料理から。

野村屋の耳うどん(ぎずもさん提供)
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野村屋の耳うどん(ぎずもさん提供)

MNo.1

 佐野市仙波(旧葛生町仙波)に伝わるのが、正月に食べる「耳うどん」です。うどん生地を薄く伸ばして長方形に切り(板ガムより少し大きい)、ひょいとつまんで耳の形にします。食感はうどんというより、厚手のワンタンか、すいとんに近いと思います。
 これを「悪魔の耳」に見立て、悪魔の耳を食べてしまう=家の悪いことを聞かれない=家内安全の厄除けの願いを込めたものです。
 佐野市の野村屋本店で通年食べることができますが、巨大なお節碗みたいな塗り碗に、かまぼこ・だて巻きなどの具材入りで、おめでたい「ごちそう風」に出てきます。
 ほかに、初午市などの地元模擬店で提供されるほか、土産品が道の駅にも並んでいます(地元模擬店は野菜汁風)。農村の郷土料理ですが、今では佐野のご当地グルメの一つとしてPRされています(ぎずもさん)

 栃木県在住のぎずもさんからたくさんのメールをいただいているので、追々紹介していくが、まずは佐野の耳うどん。

耳うどん(ぎずもさん提供)
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耳うどん(ぎずもさん提供)

 後で出てくるが、栃木県はうどん地帯とそば地帯に分かれている。おおまかに言って平野部はうどん、山間部がそばである。他県と事情はそれほど変わらない。

 そして平野部にある佐野はうどん地帯である。

 違うな。あそこはラーメン地帯であった。さらにいもフライ地帯であった。

 ともかく耳うどんはかつて栃木県一帯で食べられていたが、今日では佐野市仙波地区の郷土料理として残っている。

 どうも両毛線沿線では幅広いうどんが好まれるらしい。群馬県桐生市の「ひもかわうどん」を思い出した。

にらそば(太ったオオカミさん提供)
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にらそば(太ったオオカミさん提供)

MNo.2

 両毛線沿線は小麦粉を使った焼きそばやうどんが盛んですが、東武日光線沿線は俄然そばが優位になります。
 論より証拠ということで、亡き母の故郷である鹿沼に1月4日行ってきました。鹿沼市では、そばをまちおこしのテーマの一つにかかげています。
 鹿沼市の観光課公式サイト内にも「鹿沼そば」のページが作成されています。にらそばの提供店情報なども載っています。
 にらそばには、盛りそばににらのおひたしをのっけた物と、そばをゆで上げる時ににらを混ぜ込む2タイプがあることは、事前調査でわかっていました。
 ウェブサイトや、雑誌の写真などで見ても、辛いのはその量でしょう。のっけタイプを2店いただいた時点で、お腹が一杯になってしまいました。
 かてうどんと同じように、そばは小腹を満たすための物ではなく、1回の食事で満足のいく物として供されているのですね。
 一部のそばマニアには、邪道と呼ばれそうなにらそばですが、精力野菜のにらと穀物としてのそばを一緒にいただくのは、労働の糧としては、実に合理的と言えます(太ったオオカミさん)

 ぎずもさんからも同様のメールが届いている。

大根そば(ぎずもさん提供)
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大根そば(ぎずもさん提供)

 栃木県で独特なそばの食べ方というと、佐野の大根そば、鹿沼にらそば、ちたけそばでしょうか。大根そばというと、普通の方は辛み大根おろしを想像するでしょう。にらそばといっても、にらを練り込んだ緑のものではありません。
 佐野の大根そばは、刺身のツマよりちょっと太く大根を切り、もりそばの上にのせたもの。シャキシャキした食感が加わります。
 鹿沼は地元名産のにらをゆでて同じくそばにのせたもので、にらの甘みとそばを同時に楽しむもの(上部に盛るほか、同時ゆでのミックスタイプ盛りつけもあります)。
 佐野の山間部は山じゃりや石灰採取が今も続く岩山ですし、鹿沼はかつて材木基地だった林業と木工のまち。米づくりができない地形から生まれた知恵でしょう。客のもてなし料理説、かさ増し説がありますが、起源は不明です。
 この佐野と鹿沼は、東北自動車道では栃木ICをはさんで隣同士。しかし中間の栃木市出流(いずる)町もそばの里として有名ですが、出流ではにらも大根もいれません。両方とも局地的な食べ方だったのです。

冷たいそばの上ににらがのる(ぎずもさん提供)
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冷たいそばの上ににらがのる(ぎずもさん提供)

 ということで冷たいそばの上に大根の千切りやゆでたにらがのるのである。各地のそばどころに住む皆さんには「え、えー」という食べ方かもわからないが、「ところ変われば…」なのである。

 そういえば静岡県富士宮市には春先にゆでたセリをのせたそばが登場する。ざるの上のそばに唐辛子を振って食べるのはどこだっけ。山形だったかな?

 私は過去3度ほど鹿沼市の山奥に行っている。宴会の締めは無論そばであった。以前にも書いたと思うが、ゆでたにらこそのっていなかったものの、そのときそば猪口に入っていたつゆを見て驚いた。出しが鶏肉とキノコだったからである。キノコは栃木県人が局地的に好むチタケであったかもしれない。

栃木県はにらの大産地(ぎずもさん提供)
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栃木県はにらの大産地(ぎずもさん提供)

 そばが出てきた直後には驚いたが、考えてみると鹿沼は海から遠い。昆布もかつお節も煮干しも容易に手に入らない。そこで入手可能な鶏とキノコで出しを取ったのであろう。

 そしてそれが実に美味かったのを覚えている。

 栃木県はにらの大産地である。私が知っている日光市の人はにらを大量に刻み、昆布醤油と酢を半分ずつ加えた液体に漬けて、三度のご飯のおかずにしている。

「食べ物 新日本奇行」の「味噌汁にニラを入れますか?」の項で、栃木県は断トツの「入れる」地帯であった。

かんぴょう(いけずな京女さん提供)
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かんぴょう(いけずな京女さん提供)

MNo.3

 栃木が誇るNo.1農産物!それは「かんぴょう」です。なんと全国のかんぴょう生産量のうち実に98%が栃木産! 独占市場ですね。
 かんぴょうを漢字で書くと「干瓢」、このうち「干」の字が数字の「一」と「十」でできていることから、栃木では1月10日を「かんぴょうの日」と定め、1月の第4土曜日には宇都宮市で「栃木のかんぴょう祭り」が盛大に催されるそうです。
 当然、栃木ではかんぴょうは重要な食料のひとつで、郷土料理にもかんぴょうが登場します。私が栃木出身の人に教わったのは「かんぴょうの卵とじ」。
 塩もみしてゆでたかんぴょうを出し汁で煮込み、卵でとじるだけの素朴な料理ですが、これが実にしみじみと美味しいのですよ。
 地味な食材ですけど、カルシウムや鉄分、食物繊維が豊富で低カロリーですから、現代人、特に子どもたちや若い方々にもっと食べていただきたいですね。
 西日本では生産されていないものですから、私も大人になるまでは「太巻き寿司の具」か「餅巾着の結びひも」くらいしか知らんかったわけですが、学生時代に東京に行って、初めて「かんぴょう巻」を見たときにはぶったまげました。
 ところがかんぴょう生産は関西が発祥で、20世紀以前は摂津から近江にかけてがかんぴょうの主産地であったとか。摂津の木津というところで「かんぴょう巻」が誕生したので、大阪では「木津巻」と呼んでいるとか…京都人は知らんのですが。
 江戸時代、近江国水口藩から下野国壬生藩に(現在の栃木県下都賀郡壬生町)国替えになったお殿様が、かんぴょうの栽培を奨励したことが「栃木のかんぴょう」の始まりであったそうです(いけずな京女さん)

かんぴょうの卵とじ(いけずな京女さん提供)
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かんぴょうの卵とじ(いけずな京女さん提供)

 かんぴょうはユウガオ(夕顔)の果肉を薄くむいて干したもの。かんぴょう専用の品種に「しもつけあお」「しもつけしろ」などがある。どちらにも下野(しもつけ)という栃木県の旧国名が添えられている。

 昨年は、かんぴょうが栃木県に伝わって300年の節目だったそうな。

「かんぴょう かんぴょう かんぴょう ほしてる あのそら このそら」

「かんぴょう」という歌の出だしである。誰の作詞か知っていますか?

 なんと北原白秋。

 お二人から同じ物件に関するメールが届いた。

「釜彦」のスープ入り焼きそば(中林20系さん提供)
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「釜彦」のスープ入り焼きそば(中林20系さん提供)

MNo.4

 栃木県で最初に思い出すのは塩原の「スープ入り焼きそば」でしょうか。市内の「釜彦」や「こばや」が有名ですが、通りがかりに見た所では他にも提供している店があるようです。
「釜彦」は最初小さな店だったのですが、数年前に移転し大きなファミリーレストラン風の店になりました。メニューは焼きそば、スープ焼きそば、カツ丼、チャーハンで、後はライスがある程度と割りきってます。カツ丼はソースカツ丼ですし、チャーハンもなんとソース味。小学生のころ、夏休みの昼食に母が作ったチャーハンの味がします。
 もう1軒の有名店「こばや」の方はラーメンや定食などもあります。肝心の味の方ですが、普通のソース焼きそばがラーメンのスープにどっぷり浸かった物です。他に表現のしようがありません。が、アリかナシかと言えば、アリと言うのが友人達も含めての感想でした(こばりんさん)

 塩原のスープ入り焼きそばは食べ損ねている。塩原の街中で店を見つけたのだが、そのときは別件の取材があったため素通りした。

 といって残念でもなかった。特別に食べたかったわけではないし。

 ただ、どうしてラーメンスープに焼きそばが入ったのかには興味があった。

テイクアウト用も
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テイクアウト用も

MNo.5

 個店のメニューなんですが、ツーリング界では有名なメニュー(『ツーリングマップル関東甲信越』にも掲載)に、塩原の食堂「釜彦」の名物「スープ入りやきそば」があります。ソース焼きそばが醤油ラーメンのスープに浸かってるようなメニューです。
 焼きそばなのかラーメンなのか…どっちだよ!と言いたくなるようなメニューですが、どちらでもあり、どちらでもないとしか言いようがありません。
 でも美味しいんですよ…っていうか面白いんですよ。結構スパイシーだし。
 同様のメニューとして黒石のつゆやきそばがありますが、成り立ちは違います。

黒石つゆやきそばはこんな感じ
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黒石つゆやきそばはこんな感じ

 こちらの場合、ラップのない時代(ラップの技術が今ほど良くなかった時代)に「焼きそばだけでは足りないのでスープも持ってきてほしい」という出前の注文があったものの、ラップがダメだと汁物のスープは運ぶうちにこぼれてしまう訳ですね。
 で、麺が一緒ならこぼれないし…と考えて試行錯誤の末に生まれたのがこの「スープ入りやきそば」である、と。こちらは出前から生まれたメニューなんですね。
 いやはや、名物に歴史あり…だけでなく、名物に誕生秘話ありといったところでしょうか。
 温泉郷だけに近隣の宿泊客かな? 初老の夫婦(=メイビー)とかがお昼時にやってきて食べてたりして、昭和的大衆食堂風の雰囲気のよい空間でいただく名物でした。
 現在は移転して広い駐車場もあるようなので伺いやすいかと思います(中林20系さん)

焼きそばより温泉?
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焼きそばより温泉?

 塩原は新幹線の那須塩原駅から遠い。車がなければバスで行くしかない。私は取材で訪れた折、バスで塩原まで行って、そこからまたバスで野岩鉄道の何とかという駅に向かい、鬼怒川に出た。

 野岩鉄道の駅は無人駅だとばかり思っていたら、電車の時間が近づくとどこからか平服の女性がやって来て切符を売り始めた。近所の人に業務が委託されているらしい。

 実食編ではスープ入り焼きそばをデスクか一芸クンに任せて、塩原周辺の温泉がどのようになっているかを取材したいものである。

またぎ料理(フジオカエリさん提供)
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またぎ料理(フジオカエリさん提供)

MNo.6

 日光の旧栗山村に行ってきました。山深いところで、県内にお住まいでもなかなか行けないという方も多いのではないでしょうか。
 ここには食、文化ともに、独特の伝統がまだまだ暮らしの中に残されています。私がお伝えしたかったのは、まさしくそんな栗山の魅力です。
 昔から地元で親しまれてきた「またぎ料理」。熊はちょっとハードな歯ごたえ。猪はジューシーで、きじは淡白でした。そして、写真右奥にちらりと見えるのは、そう、サンショウウオ。
 姿焼きです。丸ごと頭からいっちゃいました。うぁしゃ うぁしゃ…という食感で、インパクトにノックアウトされて、味がよく分かりませんでした。すみません。甘辛いタレが本当に上手に仕込まれていました。
 栗山から帰宅する直前に気づいたのですが、少しの疲れはあるけど、疲れきってはいないみたい。ふと、お店の大将のことばがよみがえったのでした。
「子どものころから精がつくって、よく口の中に放りこまれてたなァ〜」。
 そっか、サンショウウオが効いてるんだ!! 強力〜〜!(とちぎテレビ「とちぎ発!旅好き!」でリポーターをしていたフリーアナウンサーのフジオカエリさん)

メニューにも「山椒魚」の文字が(フジオカエリさん提供)
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メニューにも「山椒魚」の文字が(フジオカエリさん提供)

 日光のジビエの数々。

「またぎ」というと秋田内陸縦貫鉄道阿仁マタギ駅というのがあって、あの辺りに多かったようであるが、日光周辺の山間の地も冬場は雪に閉ざされ、大型獣も多いから「またぎ」がいたとしても不思議はない。

 私が初めて熊を食べたのは金沢勤務時代。白山麓の旧尾口村の村長さんから「熊が捕れた。食べにおいで」という電話をもらい、豪雪の中を車で向かった。

 熊肉にくるみ味噌を塗って焼いたもので、味噌が肉を柔らかくするのか、難なく食べられた。

次回は「しもつかれ」の話(ぎずもさん提供)

次回は「しもつかれ」の話(ぎずもさん提供)

 サンショウウオは未食。今後も食べる予定はない。

 だが体にはいいらしい。江戸時代の料理書にも登場するという。奥日光では戦前からサンショウウオの黒焼きを産したという記事を読んだことがある。

 皆さん、お気づきかもしれないが栃木県の食の文化は、どことなく地味である。それは恐らく海のものが登場しないからであろう。

 次回はド派手に「しもつかれ」の話でもしましょうか。

(特別編集委員 野瀬泰申)

★今週のおかわりは「本場の「かまくら」を東京で、西日本で(デスク)」です。ぜひお読みください。



栃木県編(その2) 栃木の正月、水ようかん

栃木県編(その3) カレーコロッケしかない町です

栃木県編(その4) 宇都宮餃子の定義を述べよ


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2013年1月11日

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