おかわり この冬、欲しいものリストに干しいもを



干しいものおいしい季節になりました
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干しいものおいしい季節になりました

 三重編第2回に登場した干しいもの「きんこ」。写真がないので、デスクが茨城の干しいも写真を掲載しました。茨城出身の自分が昔食べていたものとは異なる様子なので「こんな干しいもあるんですか」と聞くと、デスクはまるで無知なのび太を見下すスネ夫のような表情で「これは『丸干し』といって、高級品なんだぜ。茨城出身のくせに知らないとは笑わせるじゃないか」。

 ううむ、上京して二十余年、自分はすっかりシティーボーイになってしまったのでしょうか。そういえば故郷にはもうほとんど帰っていません。せいぜい月に3、4回程度。先月など電車でうっかり寝過して帰郷してしまいました。

左がスライスせずにそのまま干した「丸干し」
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左がスライスせずにそのまま干した「丸干し」

 確かに子供のころ、冬のおやつの定番といえば干しいもでした。でも、それは固くて、見た目が地味で、心躍るものではありません。店で買うというよりは、どこかで誰かが作ったものが、いつの間にか大量に家にある。それを毎日のように食べるのですから、飽きもします。そして、当時「干しいも」ではなく「乾燥いも」と呼んでいました。あの乾燥いもを有り難がって食べる人の気がしれない、とまでは言いませんが、他県の人に自慢できる食べ物でもなかったのです。しかしデスクの話を聞いていると、どうも近ごろの「干しいも」は自分の知っている「乾燥いも」とは別もののように思えてきました。

◇   ◇

 というわけで干しいもの聖地、ひたちなか市に足を運んでみることに。茨城が干しいも生産で9割以上とも言われる圧倒的全国シェアを誇ることはよく知られていますが、その大部分が県央部のひたちなか市・那珂市・東海村のエリアで生産されていることは県内でもあまり知られていません。

 ちなみに干しいものシェアに関しては参照する統計資料によって表現が変わるのですが、2012年5月公表の農林水産省「生産農業所得統計」によれば、全国の干しいも(かんしょ切り干し)の農産物算出額は57億円。そして茨城県に限った数字も57億円。つまり他の県での生産が少なく、統計に現れないのです。このため他県の状況が分かりにくいのですが、さかのぼっていくつか資料を当たってみると、他の生産地としてはやはり三重、そして静岡といった県名が登場するようです。

干しいもづくりの過程その1。左上から時計周りに原料となるサツマイモ、洗浄しながら大きさを振り分ける機械、蒸し器、皮むき作業
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干しいもづくりの過程その1。左上から時計周りに原料となるサツマイモ、洗浄しながら大きさを振り分ける機械、蒸し器、皮むき作業

 さて、この日訪れたのは干しいものブランド化に取り組み、水戸駅ビルにも直営店を構える「幸田商店」の工場です。見学者用の白衣・帽子をお借りしていざその内部へ。

 まず、いもを洗浄する作業。同時に、均一にふかすためいもの大きさでいくつかのグループに振り分けます。それを巨大な蒸し器でふかしてから皮むき。驚くべきスピードで皮を向いていきます。次は裁断。ぴんと張ったピアノ線にやわらかくなったいもをくぐらせるという、これも一瞬の早業です。切られたいもの断片をていねいにひとつひとつ取り分けて並べていき、冷風乾燥室で乾かした後、天日で干して仕上げます。

 このように、大規模な工場を持つ幸田商店のような企業ですら、製造過程のほとんどは手作業によっているのです。

干しいもづくりの過程その2。左上から時計周りに、スライス作業、ひとつひとつ並べる作業、冷風乾燥室、透明シートに覆われた屋上の乾燥スペース(この日は曇天のため使われていませんでした)
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干しいもづくりの過程その2。左上から時計周りに、スライス作業、ひとつひとつ並べる作業、冷風乾燥室、透明シートに覆われた屋上の乾燥スペース(この日は曇天のため使われていませんでした)

「干しいもは加工品ですが、味も形も1枚1枚すべて違います。土と風と太陽、そして人が創るのが干しいもなんです」と語るのは、幸田商店の鬼澤宏幸社長。干しいもの歴史を教えてくれました。「干しいもの発祥は1820年代、現在の静岡県で栗林庄蔵という人が始めたそうです」。

 なんと、発祥は茨城ではなかったのか。統計資料に静岡の名前が出てきたのもそういう背景があったのですね。

「茨城で本格的に干しいもづくりに取り組んだのは、せんべい屋をしていた湯浅藤七さんが最初と言われています。1908年のことです。そして明治末期から大正にかけ、前渡(まわたり)村の村長だった大和田熊太郎氏らの熱心な活動があって干しいもづくりが定着しました。今のように拡大してきたのは昭和30年代、タマユタカという品種が登場してから。もともとはでんぷんを取るための品種だったのですが、これを干しいもにすると実においしかった。今は干しいもの大部分がこの品種で作られています」。

 でも、どうしてこの地域でこれほどまでに作られるようになったのでしょうか。

茨城県の地図を使って説明する幸田商店の鬼澤宏幸社長

茨城県の地図を使って説明する幸田商店の鬼澤宏幸社長

「自然条件がぴったり重なったんですね。この一帯は黒土に覆われていてサツマイモづくりに好適でしたし、干しいもづくりの季節である11月後半から3月上旬にかけて、冷たい北東の風が吹き続けます。そして冬場は晴天も多い。だから土と風と太陽の産物、ということになるわけです。そこに湯浅藤七、大和田熊太郎から今も手作業でサツマイモを加工している人に至るまで、多くの『人』の思いが加わって干しいもができています」。

 自然食品で無添加、食物繊維たっぷりとあって、近年は女性にも大人気とのこと。原発事故の影響で大きな打撃を受けましたが「今までは売り手市場に甘えていた部分があったかもしれません。落ち込んで初めてそれに気付き、直販で新たなセット商品を企画したり、他の企業とのコラボレーション、販路開拓などこれまで以上の工夫を重ねるようになりました」と前向きにとらえる鬼澤さん。中国でも干しいもを生産し、ドラッグストアやコンビニでも買える安価な商品を生み出す一方、国内ではタマユタカではなく「泉(泉13号)」という品種を使い、甘みが強く色も鮮やかな「べっ甲ほしいも」を売り出すなど、数々の布石を打っています。「健康食ブームは海外でも広がっています。今後はアジアや欧米など、海外市場も狙っていきたい」と攻めの姿勢を忘れません。

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大丸屋の恐竜オブジェ
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大丸屋の恐竜オブジェ

 もう一社、代表的な干しいも企業を訪ねてみましょう。「大丸屋」の店舗です。「被災地を行く 500キロの旅」でも訪れた「那珂湊おさかな市場」の近くにあり、鮮魚と干しいもを買って帰るのが定番のコースになっているとか。

 まず迎えてくれるのが、恐竜が干しいもを食べているというアバンギャルドなアート作品。近くの平磯海岸で翼竜「ヒタチナカリュウ」の化石が発見されたことにちなんだ、鋼鉄製の迫力あるオブジェです。それとは対照的に、静かでシュールなたたずまいをしているのが、石造りの干しいもモニュメント。

「地元の人に、これ何?って言われたときはガッカリしましたね」と笑うのは、大丸屋の大曽根一毅専務。広い店内には60〜70種類の干しいもや関連商品が並んでおり、干しいもファンなら一気にテンションが上がることうけあいです。

大丸屋の干しいもモニュメント
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大丸屋の干しいもモニュメント

 この新店舗をオープンさせたのは3年前ですから、開業間もないときに震災に遭遇したことになります。建物の被害は少なかったのですが、「500キロの旅」で話を聞いたように、この一帯は1週間以上断水が続くなど、インフラの回復が遅れた地域。大曽根さんも避難所で暮らしながら、干しいもを近所の人に配るなどして不安な毎日を過ごしました。営業再開には1カ月以上の時間がかかりましたが、オープンしても来客はまばら。でも、店を開けていることが「大丈夫だよ」というメッセージになるから、と営業を続けました。

 大曽根さんによれば、近年干しいもの需要は大きく変わりつつあるそうです。「昔は保存食としての機能が優先されましたから、どうしても固いものにならざるを得ませんでした。でも最近は女性を中心に健康食、お菓子として親しまれているので、やわらかいものが求められています」。なるほど、それで自分が持っていた「乾燥いも」とのイメージとは雰囲気が違っていたのか。

大丸屋の大曽根一毅専務

大丸屋の大曽根一毅専務

「しかし、やわらかくすれば日持ちはしなくなる。流通に不向きなところもあるので、当社ではこの店での直売に力を入れているんです。昔ながらの固い干しいもが好き、という方もいらっしゃいますし、みなさん干しいもについて抱いているイメージが違いますから、見て、試食して、買ってもらえれば」。

 干しいもの専門店という珍しさ、インパクトあるアート作品などによって、ネットでも多くの人がこの店を紹介していますが、大曽根さんとしても干しいもの情報発信に貢献していきたいとの思いがあるそうです。

「ここでは、干しいもを天日干ししている様子が見学できるようになっていますし、不定期で干しいもづくり体験なども行っています。生産プロセスを公開することで、干しいもがきちんと品質管理されていることもPRしていきたいんです。地域が誇りを持って干しいもについて情報発信していくためには、それも必要なことではないでしょうか」。

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茨城ほしいも対策協議会のウェブサイト(http://www.hoshiimo.org/)

茨城ほしいも対策協議会のウェブサイト(http://www.hoshiimo.org/

 情報発信、という話が出たので、行政の関係者にも話を聞いてみました。ひたちなか市、那珂市、東海村のほしいも生産農家や関係機関で構成している「茨城ほしいも対策協議会」は、干しいも産業の振興において中心的な役割を果たしています。

 そして茨城県としても、地域活性化の起爆剤になることを期待し、干しいもをさかんにPRしています。また民間でも、干しいもの研究を通じ、地域の絆を深めていこうとするプロジェクト「ほしいも学校」が発足しました。

「以前は、民間、市町村、県の取り組みがばらばらという側面もありました。しかし、原発事故以来厳しい状況に立たされて、もっと連携して事に当たろうという機運が高まったんです」と関係者は話します。

 その大きな成果といえるのが、来年1月の「第1回 ほしいも祭り」の開催決定です。これは、以前から実施していた生産農家による干しいも品評会を、一般の方も招き入れて一大イベントにしよう、という企画。来年1月19日・20日の2日間、ひたちなか市内のショッピングモール「ファッションクルーズ」で開催します。

 メインとなる品評会には大手も参加しますが、多くは個人レベルの生産農家。当然生産量は限られており、近所の人に配ったり、昔からのつきあいのある人に販売するだけで終わってしまうため、普段は市場に流通しない干しいもを食べられる貴重な機会となります。

「一般投票の結果がどうなるかは全く予想できません。無名の農家が一躍大ブレイクするようなドラマがあるかもしれない」と関係者は期待を寄せます。「もともと干しいもは、農家が作物を収穫して、加工して、販売するという、いわば元祖『6次産業』モデル。生産農家の意識や、取り巻く環境が変わっていくきっかけになれば」。

水戸ご当地アイドル(仮)(2012年8月撮影)
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水戸ご当地アイドル(仮)(2012年8月撮影)

 さらにブランド化の面でも、こうしたイベントは重要です。「今は圧倒的なシェアですが、他の地域でも干しいも生産に乗り出しているし、長期的には気候変動の影響もあって、シェアは下がっていくかもしれない。でもそれまでにブランドを確立しておけば、付加価値によって補っていくこともできます」。今回はひたちなか・那珂・東海近郊の農家のみの出品となりますが「将来的には他の市、他の県からも参加してもらえるようになったら面白いですね。干しいも全体の市場を広げるという意味でも。もちろん、負けない自信がありますよ」。

 品評会にはほしいも学校のプロジェクトリーダーを務めるグラフィックデザイナーの佐藤卓氏、振付師のラッキィ池田氏ら特別審査員も参加。今年誕生したばかりの「水戸ご当地アイドル(仮)」のステージショーも予定されています。最新情報はほしいも対策協議会のウェブサイトをご覧ください。

毎年1月にひたちなか市で行われる勝田全国マラソンでは、参加者に「完走いも」が配られる
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毎年1月にひたちなか市で行われる勝田全国マラソンでは、参加者に「完走いも」が配られる

 そうそう、呼称について確認しておきましょう。私にとっては干しいもではなく「乾燥いも」なんですが、呼び方は変わってきているんですか?

「うーん、確かに昔は乾燥いもだったし、今でも県内では乾燥いも、という人が多いんじゃないかな」とのこと。しかし出荷する製品についてはほぼ干しいもという言葉が使われており、「茨城ほしいも対策協議会」「ほしいも学校」など、ひらがな4文字で表記するの主流になりつつあるようです。

◇   ◇

 ところで干しいもの食べ方といえば、そのまま食べるか、あぶって食べるかの2つしかないようにも思えます。他に食べ方はないものでしょうか。ネットで調べてみると、ちらほらと干しいもを使ったレシピも出てきます。

ニフティ デイリーポータルZ

ニフティ デイリーポータルZ

 その中に、かなり踏み込んで干しいもを料理に活用している人を見つけました。ニフティの人気サイト、素朴な興味関心を大人が全力で追求する「デイリーポータルZ」のライター、古賀及子さんです。

 古賀さんが執筆した記事「鍋に干し芋がおいしいという噂」では、鍋料理に干しいもを入れたり、カレーに干しいもを入れたり、と勇気あふれる行動が刻銘に記録されています。さっそくインタビューしてみようとニフティ本社へ。先進のIT企業に来て「干しいもについて話を聞きたい」という珍妙な申し出にも困惑することなく、話を聞かせてくれました。

 鍋に干しいもを入れたら、どうなったんでしょうか?

「いもになりました」

 あー、そうか。干してあるいもだから、煮たらいもになりますわな。

「でも、色がとても鮮やかになったのが驚きでしたね。それにおいしかったです。『鍋に入れると豚肉みたいになる』という話も聞いたのですが、豚肉にはなりませんでした。いもはいもです」。

鍋で煮ることで、干しいもがいもになった(提供:デイリーポータルZ)

鍋で煮ることで、干しいもがいもになった(提供:デイリーポータルZ)

 古賀さんは他にも、「いろんな芋で干し芋をつくる」など、干しいもに関する記事を書いています。どうしてそんなにも干しいもに興味があるのでしょう。

「むしろ、なぜ皆さんが干しいもに興味がないのか理解できません。おいしいし、健康的だし、適度に固さがあるから歯も丈夫になります」。

 干しいもを料理に入れた場合、おかずの中に甘いものが入っている状態を嫌う人もいるのでは、と聞くと「問題ありません。酢豚にパイナップルが入っているようなものです」という明確な答えが返ってきました。古賀さんは「むしろ酢豚のパインを食べよう」という記事も書いています。

「10年ぐらい前、若い女性の間で干しいもがひそかなブームになったと記憶しています。おしゃれな雑誌で特集されたり。今でも女性には人気がありますね。普通の干しいもは苦手でも、『丸干し』なら好き、という人もいますよ」。

 でも昔ながらの固い干しいもも捨てがたい、と古賀さんは話します。「子供が小さいとき、どうしても食べ過ぎてしまうので、干しいもなら固くてずっとしゃぶっているから食べ過ぎを防げる、と思い与えたことがあります。でも、買ってきた干しいもがやわらかすぎて、ぱくぱく食べてしまい逆効果でした」。やわらかさを追求した代償は、保存性だけではなかったようです。

◇   ◇

2010年の「コみケッとスペシャル5in水戸」で誕生した、幸田商店の「ほしいも 泉ちゃん」は現在も販売されている
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2010年の「コみケッとスペシャル5in水戸」で誕生した、幸田商店の「ほしいも 泉ちゃん」は現在も販売されている

 干しいもについて多くの話を聞き、正直なところネガティブな印象のあった乾燥いも、いや干しいもについての私の認識は大きく変わりました。思えば、B級ご当地グルメによるまちおこしも、その地域ではちょっと恥ずかしい料理だったりするものが、他の地域の人にはとても珍しく、興味を持たれることからスタートします。そういう意味では、干しいもも地域活性化の起爆剤となりうる可能性は十分にあるのかもしれません。

 そうそう、ひとつ豆知識。デスクが高級品として愛している「丸干し」ですが、もとはサイズが小さくて、干しいもに加工できなかったものを仕方なくそのまま干したのがはじまり、という説があるそうです。売り物にできなかったものが、いつの間にか高級品に。こういうエピソードもご当地グルメの楽しさですね。

(一芸)

2012年12月7日

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