第74回 新潟実食編 佐渡のお味を、さーどうぞ

特別編集委員 野瀬泰申


 山口県ご当地グルメはいったんお休み。今週は新潟県実食編です。毎週大量のメールをいただきおおいに盛り上がった新潟県語当地グルメですが、実食編では本編にほとんど出てこなかった佐渡に焦点を当てました。

 果たして佐渡にはどんなご当地グルメが待っているのか…。姫路B−1直後の筆者とデスクが海を渡りました。

 番外編では佐渡以外にある新潟県のB級ご当地グルメをデスクが食べ歩き、リポートします。合わせてご覧ください。

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(「食べB」へ初めて訪れた方は「食べB入門編」をご覧下さい食についてのメール投稿先はこちら

B−1閉会式の会場で
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B−1閉会式の会場で

 11月12、13日に開かれた姫路B−1のため現地に3泊して東京に戻り、休む間もなく17、18日の2泊で新潟県実食編の取材になだれ込んだ。いや倒れ込んだと言った方がいい。

 なぜこのような厳しい日程になったかというと、デスクが新潟に行かなければいけないことを忘れていて、年内のスケジュールをにらむとこの時期しかないことが判明したからである。

 しかもデスクは本編に登場した食べ物を丁寧にフォローしたい衝動に駆られがち。その結果、東西に長い県内をくまなく回ることになり、どうしても駆け足になる。途中、何かあれば行程そのものが崩れてしまう。

表彰式後の取材風景、疲れないはずがない
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表彰式後の取材風景、疲れないはずがない

 そこで一点突破に方針を改め、ゆるーい予定を組んだのであるが、心配なことがあった。

 デスクの体調である。仕事、自腹の両面で東京を離れることが多かったデスクは、たまったルーチンの仕事に追われ、ろくろく寝ない毎日を過ごしていた。

 新潟に行く前日、汚れた座布団みたいに顔色が悪いデスクに言った。

「体調悪そうだね。新潟はやめた方がいいんじゃないか。何だったら私ひとりで行ってくるよ」

姫路のお土産
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姫路のお土産

「いや、大丈夫です。行きます、仕事ですから」

「じゃあ、こうしよう。夜の取材は極力入れないようにして、ゆっくり眠ってくれ。なんなら永眠してもいいから」

 こうしてデスクの体調の危機という爆弾を抱えて新潟行きの新幹線に乗ったのだった。

 今回は佐渡に行く。基本的に佐渡だけで完結する。うろうろしない。風呂にゆっくり入ってよく眠り、健康を回復する。つまり半分はデスクの保養が目的の旅である。

 新潟駅のホームで別の車両に乗っていたデスクと合流する。車中で睡眠を取ったらしいデスクは少し汚れた座布団程度には顔色を取り戻している。

高速道路並み
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高速道路並み

 新潟駅からタクシーで新潟港へ。佐渡汽船の窓口に行き、ネットで予約していたジェットホイルのチケットを受けとる。

 出発までの時間を使ってビル内の店をのぞいた。「たれカツ丼」のオンパレードである。中には卵とじ、ソース、たれのカツ丼3種を並べる店もあった。

 ジェットホイルは新潟港と佐渡の両津港を1時間ほどで結ぶ。時速80キロ。高速道路を車で飛ばすようなものである。事実、船が巡航速度に達すると波が恐ろしいスピードで後方に遠ざかって行く。乗っているとわからないけれど、水中翼によって船底は海面から浮き上がっている。

航路は国道だった
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航路は国道だった

 船内のアナウンスが流れている。

「以前、鯨と衝突したことがあるので、思わぬ事故を招かないよう乗船中はシートベルトをしとってくれ」

 私は忠実にシートベルトを締め、デスクは聞こえなかったふりをしてデジカメとビデオカメラを手にうろうろしている。

 そうこうするうちに両津港に着いた。そこで初めて知ったのだが、航路は国道だったのである。信号や横断歩道でもあれば航行中にそうとわかったのだろうが、そういうものはなかったのである。ガードレールもなかったのである。

両津港ターミナル
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両津港ターミナル

 両津港のビルには両脇にお土産屋さんがずらりと並ぶ一角があり、いかにも観光地の風情。しかし冬を間近に控えて観光シーズンは終わっていた。私たちが泊まるホテルも冬の閉鎖期間に入る直前で、ぎりぎりセーフだったのだとデスクから聞いた。

 私たちは港から近い観光協会を訪ねた。そこでいくつかの情報を仕入れて取材開始である。

 観光協会にあったパンフを見て「佐渡乳業」という会社があり、牛乳やチーズをつくっていることを知った。

福が来る?
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福が来る?

「佐渡乳業か」

 牛乳好きの私はそうつぶやいたらしい。

 ここで昼ご飯の時間になった。両津の中心街を歩いていたら1軒の店にぶつかった。

「福来軒」という暖簾を出す「中華そば」の店。老舗らしい。

 店に入るとメニューは中華そば並と大のみ。すっきりしている。空腹だったので2人とも大を注文した。老婦人が孫娘の相手をしながら切り盛りする店。風情である。

丼を麺が埋め尽くしている
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丼を麺が埋め尽くしている

 ところが出てきた中華そば大は風情というよりボリューム主義。丼を麺が埋め尽くしている。渾身の力を振り絞ったものの完食ならず。残してしまった。

 では出発。iPadで何かを検索したデスクが先導する。

 黙ってついていくとある建物の前に来た。

 会社である。看板に「佐渡乳業」とある。

「この会社になにしにきたの? 売店があるわけじゃないみたいだし、普通の会社だし」

佐渡乳業本社
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佐渡乳業本社

「野瀬さんが『佐渡乳業』ってつぶやいたので、ともかく来てみたんですが」

「いや、会社は見なくていいの」

 再びiPadで検索したデスクが動き出す。

「今度はどこ? また会社?」

「僕の同僚が佐渡に行くならぜひ買ってきてほしいというものがあって、買いにいこうかと」

「ふーん」

へんじんもっこの看板
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へんじんもっこの看板

 連れてこられたのはまたしても会社であった。

「へんじんもっこ」という小さな看板はあるが、売り場はない。窓ガラスから中をのぞくと、カウンターと仕事机が見えるばかり。

「へんじんもっこって何?」

「手づくりのソーセージだそうです」

 ともかく中に入らなければ始まらない。

「あのー、ここで買えるんでしょうか」

へんじんもっこの貴腐サラミ
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へんじんもっこの貴腐サラミ

「買えますよ」

 女性が黙ってパンフレットを渡した。これを見て注文を受けてから冷蔵庫に品物を取りに行く仕組みであった。

 私は一押しらしい「貴腐サラミ」を買った。乳酸菌で発酵させた表面が白いサラミである。確かに珍しい。どうもテレビで紹介されて有名になったらしいが、普段テレビを見ない私は知らなかった。

 経営者兼職人らしい男性に聞いた。

一度食べたらやみつき?
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一度食べたらやみつき?

「へんじんもっこってどういう意味ですか」

「もっこは頑固者、変わり者みたいな意味です。九州弁の『もっこす』からきているらしいです。佐渡の金山には全国から人が集まったので、九州の言葉が伝わったのでしょう。その頑固者に『へんじん』をつけることでマイナスかけるマイナスでプラスになります」

 会話の中に出てきた「もっこす」は熊本弁で「頑固者」のこと。「肥後もっこす」などと言う。

 それはいいが、私は佐渡に来るまでデスクがこのようなものを買うつもりであったことを知らされていなかった。

カキの養殖いかだが浮かぶ加茂湖
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カキの養殖いかだが浮かぶ加茂湖

 こういう行き当たりばったりな旅がいいのである。

 緩やかな山並みと静かな平地が広がる景色を見ながら宿に向かった。かつては団体客でにぎわったらしい観光地型のホテルである。加茂湖に面して広い庭とプールがある。加茂湖ではカキの養殖をしており、養殖いかだが夕方の弱い光の中に浮かんでいる。

 温泉に浸かり、一休みして外に出た。昼間、観光協会で聞いて興味をかき立てられたのが「イカのとんび」であった。イカのくちばしを干して酒の肴にするが「佐渡ではあれを串に刺して焼いて食べるんです。焼き鳥の店で食べられますよ」。

イカのとんびのバター炒め
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イカのとんびのバター炒め

 ではということで焼き鳥の看板を掲げる店に入った。しかしながら満員である。おかみさんが「すみません」という感じで頭を下げた。

 隣の店はカウンターが空いていた。不本意ながらデスクと並んで座る。メニューにイカのとんびはあった。しかし串焼きではなく、バター炒めだという。それで結構。イカのトンビのバター炒めは初体験である。

 美味かった。美味かったが中にくちばしが入っている。力を入れて噛むとこれがガリッとくる。危険である。何個か食べて危機回避のためにデスクに押しつけた。

鯖の味噌漬け焼き
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鯖の味噌漬け焼き

 合わせて注文したのが鯖の味噌漬け焼き。佐渡に限らず、新潟県は魚を味噌漬けにして保存し、焼いて食べることが多い。新潟ゆかりの人から味噌漬けの詰め合わせをいただいたことがあるが、鯖だけではなく、鮭も味噌漬けであった。

 デスクは「鯖は塩焼きか煮付けと思っていたので、珍しいです」と言う。珍しいだけではなく、確実に美味い。

 少し飲んで、少し食べて店を出た。ここで沈没するのはもったいない。もう1軒くらい行こう。

〆のスパゲティミートソース
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〆のスパゲティミートソース

 歩くとすぐに古そうな洋食の店があった。古い港町の古い洋食の店。歌謡曲にでも出てきそうな組み合わせではないか。

 酒も置いてあったのでイカの一夜干しや漬物をつまみながら少々飲んで、今夜の〆に「スパゲティミートソース」を食べることにした。

 ゆでおきのパスタは学生時代に通った喫茶店の味を思い出させた。しかし上にかかったソースは喫茶店の素人味ではなく、じっくりと煮込まれた本格派であった。満足である。

デスクが10時間眠った寝台車並みの小型布団
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デスクが10時間眠った寝台車並みの小型布団

 時計を見るとまだ宵の口。しかしデスクを寝かせなければならない。早々に引き揚げて床にもぐり込むことにした。

 ところが敷き布団は幅90センチほどしかない。寝台車の普通車並みである。つまりこれは団体客が中心であった時代に、限られたスペースにたくさんの客を寝かせるため特別につくられた小型布団の生き残りと思われた。

「気をつけ」をしてはみ出さないようにしながら眠った。

 翌朝、ロビーでデスクに会った。

ナガモ入りの味噌汁
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ナガモ入りの味噌汁

「眠れた?」

「はい、10時間ほど。途中で目も覚めませんでした」

 よかった。デスクは無事に徹夜で寝ることに成功したようである。

 朝ご飯は大広間で。往時は夜ごと大宴会が開かれていた部屋らしくステージがある。しかし畳ははがされてカーペットになり、テーブル席が並ぶ。

 朝食は温泉旅館のそれであった。味噌汁にはナガモが入っている。これはいいものである。

追越し違反 9000円 佐渡するめ 500円
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追越し違反 9000円 佐渡するめ 500円

 満腹になって本日の目的地、小木に向かった。小木は両津とともに佐渡を代表する港町。佐渡汽船で直江津と結ばれている。

 港の前に交番があって交通安全を訴える看板が立っていた。こちらの警察はユーモアを解するらしく「追越し違反 9000円 佐渡するめ 500円」である。いいなあ、この看板。

 少し歩くと古い家並みが道を挟んで続いている。軒下にはあんどん風の照明が下がっていて、そこには小粋な言葉や唄の一節が書いてある。読みながら歩くと楽しい。

まるかめや
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まるかめや

 さてと、そろそろいい時間である。かねて狙いの店に向かった。観光協会で「小木の方ではそばを独特の方法で食べるんです」と聞いていた。それを体験しようというのが本日の目的。

 店は住宅街の中にある「まるかめや」。

 のれんをくぐって中に入ったのだが、電気もついていないし人影もない。「すみませーん」と何度か声をかけると私と同年配の男性が出てきた。電気をつけて「いらっしゃい」。私たちが最初の客らしい。

丼入りのそば

丼入りのそば

 デスクが持っていたビデオカメラと三脚を見ながら「取材ですか?」と聞いてきた。

 そこでデスクが名刺を出して「これこれしかじか」。「ああそうですか、いいですよ」。ということでアポなしのまま取材に突入。といってもこちらは肩に力を入れるつもりはないから、雑談みたいなものである。

 要するに小木ではそばを注文すると、そばを丼に入れて出す。つゆは徳利で。普通はつゆをそば猪口に移して、そばをつゆに浸して食べるが、小木では反対。つゆを丼に注いで食べるのである。

地元ではつゆぶっかけが当たり前

地元ではつゆぶっかけが当たり前

 そば猪口もあるので、東京風の食べ方もできるが、地元の人はつゆぶっかけが当たり前なのであるという。

 つゆは定番の冷たいもののほか、特別に温かいものを出してもらった。

 そばは1:9、つゆはぜいたくにもあご(トビウオ)の出し。こちらでも、あごは高級になって気軽に使えなくなったが、この店では親戚の漁師さんから調達しているので、なんとかやっていけるのだという。

カマスの干物

カマスの干物

 丼の中のそばにつゆを注いで食べるとそばとの絡みがいい。つゆはごくごく飲めた。酒の後にこのそばが出てきたら、泣くかもしれない。

 まち中で「カマスの干物」を見た。地元でもだんだん少なくなっているらしい。戻して煮物にするのだと聞いた。冬場の保存の知恵である。

 両津に戻り、ジェットホイルで新潟に向かった。今夜は新潟泊まりである。古町に近いホテルに部屋を取り、夕食に出かけた。デスクが部屋で休んでいる間にロケハンに出た私は気になる店を見つけていた。

菊の花の甘酢
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菊の花の甘酢

「お座敷食堂」と看板にある。窓の隙間から中をうかがうと、座敷に上がった中年の男性がお銚子を傾けている。壁のメニューも手ごろな値段。

「今夜はここだ」

 デスクを案内して店に入る。お座敷食堂というだけにカウンターやテーブルはない。小上がりに座卓が3つ4つ。先客は2人で、その隣の席に腰を下ろした。

 隣の客にならって菊の花の甘酢や銀だらの味噌漬け焼きなどを注文して酒にした。新潟である。酒であろう。

銀だらの味噌漬け焼き
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銀だらの味噌漬け焼き

 店には佐渡の地酒「天領盃」がある。しかも一升瓶ではなく業務用のスーパーボトル。集乳瓶を小さくしたような形をしている。その中には生搾りの酒が冷えて詰まっている。しかもしかも、コップ1杯350円である。驚きだ値。

 ぐいっとやる。ぷはーっとなる。もう一口ぐい。ぷはー。

「今夜は酒は控えます」とかなんとか言っていたデスクもぐいのぷはー。

 いつしか隣の客と一緒になって新潟の食談議が始まっていた。

ぐいのぷはーのぷはーのぐい
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ぐいのぷはーのぷはーのぐい

「そうそう、新潟じゃあ、夏は枝豆とナスとキュウリがあれば何とかなります」

「子どものころ、友達の家に遊びに行くと、黙ってざるいっぱいの枝豆が出てきました。当たり前と思っていましたが、よそじゃそういう食べ方はしないんですよね」

 などと言いながら天領盃をぐいのぷはーのぷはーのぐい。

 せっかく新潟に来たので久しぶりに寿司でもつまみたい。そこで隣の客に聞いた。

地酒自慢、カメラに映ってませんでした(デスク)
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地酒自慢、カメラに映ってませんでした(デスク)

「どこか手ごろで美味い寿司屋があったら教えてくれませんか」

「いいですよ、行きましょう行きましょう」

 地元の会社に勤めているというその人にくっついて別の店に入った。ところがそこは寿司屋でもなんでもなく、普通の飲み屋。

「この店では新潟の地酒を少しずつ飲めるんです。取りあえず3種類ほどいってみますか」

日本酒に「飲まれる」体質です(デスク)
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日本酒に「飲まれる」体質です(デスク)

 と、新手の酒を注文した。

 酒もいいですが、いまは寿司を。という心の叫びもアルコールの壁に阻まれて届かないらしい。

「ね、この酒美味いでしょう。でもってこっちも試してください」

 新潟人は地酒自慢に夢中である。自慢しながらどんどん飲む。

 折から私の携帯にメールが入った。それを機にデスクを残して退散することにした。

佐渡名産の柿は二日酔いに効くのだとか
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佐渡名産の柿は二日酔いに効くのだとか

「デスク、後は頼んだぞ」

 酔眼もうろうとしたデスクが、力なくうなずく。

 こうして新潟の夜は勝手に更けていったのだった。

◇ ◇ ◇


 次回は山口県編その3。引き続きメールを待つ。

(特別編集委員 野瀬泰申)

★今週の番外編は新潟B級ご当地グルメ食べ歩き(デスク)です。お時間あれば、こちらもどうぞ。



 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2011年12月9日

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