番外編 幻の群馬B級ご当地グルメ「きんぴらうどん」を追う(デスク)


田村製麺所のきんぴらうどん(Two Pumpsさん提供)
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田村製麺所のきんぴらうどん(Two Pumpsさん提供)

 今回の群馬実食編、水曜日に出張を決めてその週末には現地に赴くという急なスケジュールだったため、事前の調査不足は否めませんでした。しかし、転んでもタダでは起きないのが「食べB」です。今回も得意のフィールドワークパワーを生かし、地元の人なら誰でもよく知っていて、食べていて、それでいて地元以外の人にはほぼ食べる場すらないという料理があることを発見しました。

 幻の群馬B級ご当地グルメ。それは「きんぴらうどん」です。

 上州名物のうどんにきんぷらごぼうをのせただけというきわめてシンプルな料理です。

関東であっても「そば・うどん」ではない
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関東であっても「そば・うどん」ではない

 きっかけは、桐生・前橋での案内役を買って出てくれたTwo Pumpsさんの何気ないひとことでした。「群馬県人はきんぴらうどんをよく食べるんです」。

「えっ、きんぴらうどん?」

 久留米出身の野瀬と船橋出身の僕は戸惑いました。2人とも「きんぴら+うどん」という発想がなかったからです。甘辛いきんぴらごぼうは基本的にご飯のおかずです。

 きんぴらうどんは、群馬では法事のような大勢の客を自宅に招く際には欠かせないメニューだそうです。

群馬の「並」は東京の「大盛り」級
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群馬の「並」は東京の「大盛り」級

 本編のPOCO@焼きまんじゅうさんのメールにも、群馬県ではうどんが通夜・葬式必須のメニューであると書かれていました。

 埼玉県北部から群馬にかけては関東の一大うどん地帯です。ざるにあげたうどんをつゆにつけて、たっぷりの出しに浸して、あるいは煮込みうどんにして…、様々な食べ方が発達しています。天ぷらやキノコなど具も多様です。

 しかし、きんぴらごぼうとうどんだけという取り合わせは、少なくとも僕は聞いたことがありませんでした。

つゆはボトルではなくビニール袋に(Two Pumpsさん提供)
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つゆはボトルではなくビニール袋に(Two Pumpsさん提供)

 最初の取材先、子供洋食の武正米店で聞いてみます。確かによく食べるとのこと。「きんぴらうどん」への興味がさらに膨らんできました。ぜひとも食べてみたい。しかし、お店の名前が出てきません。

「よく食べるんですけどね、お店にはねぇ…」

 うどん屋の店先に台があって、そこにそれぞれビニール袋に詰められたうどん、つゆ、きんぴらごぼうが置いてある。備え付けの缶に料金を入れて持ち帰り、それを自宅で器に移して食べる。そんな光景がまちのあちこちにあったそうです。しかし最近ではそれも少なくなり、桐生では見かけなくなったといいます。

水上温泉ではダムカレーも食べてみた
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水上温泉ではダムカレーも食べてみた

 前橋に着いてからも同じでした。「きんぴらうどんをご存知ですか」と聞けばいろいろ話が弾むのに、いざ「どこに行けば食べられますか」となると途端に「うーん…」と腕組みしてしまうのです。

 最後は地元の飲食店事情に詳しいという老舗カクテルバーのママさんにお願いし「店では出していないが、何かご存知のはず」と前橋の中心地にある老舗そば店を紹介され、初日の取材を終了しました。

 ホテルの部屋で「きんぴらうどん 前橋」でネット検索すると、田村製麺所というお店に行き当たりました。多数掲載されている写真は昼間の話そのままのビニール袋につゆが入ったものでした。しかし翌日はあいにく定休日。他にないものかと、前橋だけでなく伊勢崎、太田、高崎と範囲を広げるものの、食べられると確信を持てる店は見当たりませんでした。

パン屋でも焼きまんじゅうの土地柄
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パン屋でも焼きまんじゅうの土地柄

 翌朝10時、老舗そば店の開店と同時に話をうかがうものの、やはり「よく食べるし合うことはわかっているが、店で食べるものではない」とのこと。

 もう1店、うどん屋に行ってみましたが、お休みでした。最後の望みは田村製麺所です。

 郊外でもあり「きっとお店と住居が一緒」というTwo Pumpsさんの予想が見事に的中しました。失礼とは思いましたが店の前から電話し、お話だけはうかがうことができました。

たまたま天ぷらが切れたのがきっかけ(Two Pumpsさん提供)
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たまたま天ぷらが切れたのがきっかけ(Two Pumpsさん提供)

 天ぷらを添えてうどんを売っているが、たまたま天ぷらがなくなってしまい、代わりに作り置きしてあったきんぴらごぼうをのせたところ評判になったそうです。偶然ではありますが、うどんときんぴらごぼうが日ごろからよく食べられていたからこその組み合わせであり、食べるほうも食べなれた味だからこそ受け入れ、定番になった。

 とりあえずきんぴらうどんの存在は確認できました。あとは、実物を見てみたい、ひと口だけでも食べてみたい…。

 夜のうちにネットで調べておいたきんぴらうどんを提供していると思われる店をTwo Pumpsさんの車で探して回ります。前橋から東の伊勢崎へ。しかしメニューの「きんぴら」の文字はマジックで黒く塗りつぶされていました。

「やらせ」です
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「やらせ」です

 そして、再び西へ引き返して高崎へ。ここでも食べることはできませんでした。セットのご飯ものといっしょにきんぴらを出していたが、いまはうどんとご飯のセットをやめてしまったとのこと。

 結局、お店のきんぴらうどんには出合うことができませんでした。でもくやしいので、最後にみそパンを食べに行った沼田のスーパーで、うどんと惣菜のきんぴらごぼうを買い込み、自分できんぴらうどんを作ってみました。

 うどんの出しにぱっときんぴらごぼうの油が広がります。ご飯のおかずになるくらい味は濃厚ですから、きんぴらごぼうだけで一杯分のうどんをじゅうぶんに食べることができます。実際に完食しちゃいました、スーパーの店先で。

たったっ垂れる!
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たったっ垂れる!

 ちなみに、沼田のフリアンパン洋菓子店には行ってきましたよ。焼きたてのみそパンをTwo Pumpsさんおすすめの「みそバター」にしてもらって食べました。定番のみその上にべっちょりとマーガリンが塗られています。やきたてほかほかのパンなので、気を抜くとマーガリンがどろどろになって流れ出てきます。

 そうしているうちにもう帰りの時間です。

 沼田から高崎まで予約していた蒸気機関車D51が牽引する快速SLみなかみ号は乗り逃すわけにはいきません。きんぴらうどんに後ろ髪を引かれつつ、群馬の地を後にしたのでした。

快速SLみなかみ号
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快速SLみなかみ号

 そして2週間。

 きんぴらうどんへの思いは断ちがたく、再び自腹での群馬行きを決断しました。2週間調べに調べたところ、埼玉県北西部も含め何店かできんぴらうどんが食べられることを確認しました。田村製麺所の営業日、営業時間も確認したうえで家を出ました。

 まずは埼玉県北部でチェーン展開する北本の田舎っぺうどん。メニューにこそ「きんぴらうどん」はありませんでしたが、きんぴらごぼうをサイドメニューの目玉にすえていました。

なすうどん+きんぴらごぼう
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なすうどん+きんぴらごぼう

 看板メニューという「なすうどん」と「きんぴらごぼう」を注文。つけ汁式で手打ちのうどんがざるに山盛りになって出てきます。きんぴらごぼうも巨大です。僕の頭の中ではきんぴらごぼうといえば「ささがき」ですが、この店では「ぶつ切り」です。

 風呂にくべる薪のようなざっくりとしたごぼうとニンジンが甘辛く煮付けてあります。これをナスの入った汁にぶっこんでうどんをつけて食べます。

 確かによく合います。ちょっとしょっぱすぎるくらいの味の強さですが、しり込みするような量のうどんがするすると入っていってしまいます。

薪のようなごぼう
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薪のようなごぼう

 会計の時に確認したのですが、ここにもうどん、つゆ、具をそれぞれビニール袋に入れて先を縛ったテイクアウトが存在していました。

 そして次に向かったのは、前回店の前まで行って涙を呑んだ田村製麺所です。高速を飛ばして着いたのが昼ちょっとすぎの時間帯でした。

 前回来たときは気がつかなかったのですが、住宅街のすぐ裏手に大きな工場がありそこで働く人たちの昼ごはんとしての需要もあるようです。「先日は突然お邪魔をして済みませんでした」と頭を下げて、念願のテイクアウト版きんぴらうどんを手に入れることができました。

シンプルイズベスト(Two Pumpsさん提供)
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シンプルイズベスト(Two Pumpsさん提供)

 うどん、つゆ、きんぴらごぼう。あとは薬味だけです。

 お店は製麺所、厨房、販売所であり、飲食スペースではありません。店からちょっと離れた運動公園の駐車場で、持参のどんぶりに、この3要素を移しかえて食べてみました。

 実は誤りがひとつありました。地元では、どんぶりにうどんを入れつゆをはり、きんぴらごぼうをのせるのではなく、お椀につゆときんぴらごぼうを入れ、それにうどんをつけるのが正しい食べ方だそうです。千葉県人にはその感覚が分かりませんでした。

(デスク的)正調きんぴらうどん
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(デスク的)正調きんぴらうどん

 食べ方こそ間違えてしまいましたが、この「のり弁」のように簡素な、300円でおつりがくる安価なうどん弁当が…じつにうまいのです。特に麺。なんとも弾力に豊んだここちよい腰があって、そして見た目以上にしっかりしたつゆにとてもよくあうのです。

 鷹のつめがしっかり効いたきんぴらごぼうも歯ごたえを残した細切りになっていて、すべてが絶妙にマッチしているのです。もうこれで食べ歩きをやめてしまいたいくらい満足でした。納得でした。

 そうはいっても立ててしまった計画もあるので、駐車場のトイレでどんぶりを洗い、次なる目的地、苗場に向かう山道・三国街道の途中にある岡村うどん店をPoco@焼きまんじゅうさんと待ち合わせてたずねました。

きんぴらはごぼうのみ
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きんぴらはごぼうのみ

 ここのはニンジンが入っていないごぼうのみのきんぴらうどん。つゆとうどんが別れている正しいスタイルです。うどんの量も正統群馬流の大盛りです。

 お店にはたいへん申し訳ないのですが、やはり気持ちが田村製麺所で昇華してしまっていました。おいしいうどんなのですが、僕が探していた、地元の人が自宅に人を招いてふるまう素朴な味は、やはり田村製麺所のきんぴらうどんだったのではないか、そう感じてしまいました。

 僕はすでにゴールラインを切ってしまっていた。そんな気がしたのです。

シャンゴ風
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シャンゴ風

 2日目はすっかり達成感に浸ってしまい、Poco@焼きまんじゅうさんに誘われるまま、うどん屋ではなく、高崎の老舗パスタ店「シャンゴ」を訪れました。ここの名物は「シャンゴ風」。パスタの上にとんかつとミートソースがのったボリュームたっぷりのメニューです。

 高崎青年会議所では「パスタの街たかさき」を売り出そうと2009年から「キングオブパスタ」というイベントを開催しています。

 シャンゴは、この看板メニューで第1回大会に臨むものの予想外の敗退を喫し、新しいパスタの開発に取り組みました。そこで完成したのがうどん用の強力粉ダブルエイトを使った生パスタだったそうです。

うどん由来の生パスタ
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うどん由来の生パスタ

 昨年の大会では、この生パスタを使った「赤城鶏と県産野菜のミネストラ仕立て」で雪辱を果たしたそうです。

 やはり「群馬のカギを握るのはうどん」だったのです。何気なくおじゃましたシャンゴでしたが、ここで群馬=うどんを再認識しました。

 帰りがけにもう1軒、埼玉県内ではありますが秩父の定峰峠にある「鬼うどん」で「からみきんぴら鬼うどん」を食べてきました。うどんときんぴらごぼうの組み合わせには外れはありません。

からみきんぴら鬼うどん
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からみきんぴら鬼うどん

 なぜこのベストマッチをお店で出そうとしないのか、県外から来る観光客に食べさせようとしないのか。きんぴらうどんこそが群馬のB級ご当地グルメの本命なのではないのか…。実食編の出張、その後の自腹出張でさんざん熱く、暑っ苦しく語ってきました。

 老舗の食堂、そば屋さんからパスタ屋さん、さらにはカクテルバーまで。うわごとのように「きんぴらうどん、きんぴらうどん…」と問い続けた怪しいおっさんのことをぜひ忘れないでいてほしい。そしてもし、県外のお客さんが「きんぴらうどんを食べたい」と言ってきたら、ぜひ作って食べさせてあげてほしい。

 そんな思いで、群馬実食編の旅を終えたのでした。

2011年9月9日


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