おかわり ぜんざいを持たない たまにつくると、それがお汁粉の都市



ぜんざい
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ぜんざい

 一芸は茨城県の県庁がある水戸市で育った。そして彼の家でも、寒い季節には他のほとんどの家庭と同じように甘く、餅の入ったお汁粉を食べていた。

「それはぜんざいじゃないの?」とアミー隊員は尋ねた。

 一芸は小さく首を振った。「小豆のつぶつぶは見当たらなかったな。僕にとって、ぜんざいとお汁粉は全く違うものだからね」

「どうかしら」アミー隊員は眉の角度をほんの少し変えて、静かに言った。「『食べ物 新日本奇行』の『ぜんざい VS お汁粉』を読んでいないの? 東日本では確かに『お汁粉』という表現がメジャーだけど、お汁粉やぜんざいがそれぞれ何を意味するか、その定義はとても曖昧なものなの」

「それは読んでいなかったな。というか、まさかあのコラムを自分で担当することになるなんて、当時の僕が考えもしなかったことだよ」と言いながら、一芸は首筋の少し下のあたりに、例えようのないべとべとした――そう、まさに鍋の中で煮過ぎてしまった餅のような――ものが残っているのを感じていた。

図1 あなたが住む地域では「ぜんざい」が優勢ですか、「お汁粉」が優勢ですか?

図1 あなたが住む地域では「ぜんざい」が優勢ですか、「お汁粉」が優勢ですか?

 子どもの時間を過ごしていた一芸にとっては、お汁粉はハレの日に食べるごちそうだった。しかし会社に勤める大人になった今、小豆を使った料理(あるいは、菓子全般)を毎日のように食べている。

野瀬 ・・・それいつまで続けるつもりだ。

一芸  はい、もうやめます。

 アミー隊員が言うように、食べBの前身「食べ物 新日本奇行』に「ぜんざい VS お汁粉」の回がありました。そこで読者の皆さんに「あなたが住む地域では『ぜんざい』が優勢ですか、『お汁粉』が優勢ですか?」「『あんこ』と言えば『粒あん』ですか、『こしあん』ですか?」とお聞きした結果が図(1)(2)です。これらをもとに野瀬が出した結論はこうでした。

西日本はほぼ「粒あん汁あり」=「ぜんざい」一色。新潟―長野―静岡から一気に「お汁粉」文化圏に入るが「粒あん汁あり」=「お汁粉」の方が優勢で、所によっては「こしあん」=「お汁粉」と混在している。


図2 「あんこ」と言えば「粒あん」ですか、「こしあん」ですか?

図2 「あんこ」と言えば「粒あん」ですか、「こしあん」ですか?

 本編でも多くの情報が寄せられ、総論としてはおおむねこの結論につながるのですが、「東日本では、粒あんのものを田舎汁粉、こしあんのものを御前汁粉という」「東日本では、粒あんで汁気のないものもぜんざいというが、それは西日本では亀山という」などなど、多くの各論も出てきました。

 これらを読み直すと、西と東の非対称性がひとつ浮かび上がってきます。それは「西日本では『ぜんざい』『お汁粉』のイメージがかなり固定されているが、東日本では両方ともあいまい」という点です。

 西日本では「ぜんざい=粒あん」「お汁粉=こしあん」で両方とも汁物。しかし東日本では、基準となるべきお汁粉からして粒あんとこしあんが混在し、ぜんざいにいたっては汁物ではないものまで含まれてきます。

 この違いは何によるのか。やはりそれは歴史の違いでしょうか?島根編第1回で野瀬が「おしるこが生まれたのは江戸時代だが、ぜんざいの祖型は恐らく出雲古代国家時代に遡る」と言及しているように、ぜんざいは長い時間をかけて西日本を中心に定着しました。食べBがあと1200年ほど続いて、「48代目野瀬泰申」とかが執筆していたら、もう一度この企画をやってみましょう。そのときはまた違った結果が得られるかもしれません。

市販のレトルトぜんざい。餅が入らないタイプも多い
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市販のレトルトぜんざい。餅が入らないタイプも多い

ぜんざいに餅は入るか

 食奇行の「ぜんざい VS お汁粉」では、「粒あんかこしあんか」「汁気があるかないか」などが話題となりましたが、自分はあえて、ここにもうひとつ比較の軸を提案してみたいと思います。

 それは「餅が入っているかいないか」。

 上の図1で、全国的にも珍しい「純粋こしあん地帯」に色分けされている茨城県。確かに、自分も小さいころ「お汁粉」といえばこしあんでした。

デパ地下で購入した、カップ入りのぜんざい。練乳が添えられているが餅はない
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デパ地下で購入した、カップ入りのぜんざい。練乳が添えられているが餅はない

 では「ぜんざい」はというと、それは粒あんで、餅の入っていないもの、と認識していたのです。何も入っていないか、栗が入っている栗ぜんざいでした。念のため茨城の本家に確認してみると「餅が入ってたらお汁粉だっぺよ?」との回答。さらにフェイスブックで同郷の人たちに「ぜんざいって餅入ってなかったよな?」と聞くと「入ってても入ってなくてもぜんざいだな」と、そこに重要性を見出していない模様。

 しかし島根県編第1回に登場した出雲ぜんざい学会さんの説によれば、ぜんざいの語源は「神在(じんざい)餅」。餅の入っていないぜんざいなんて、コーヒーを入れないクリープみたいなものです。

 もっとも、スーパーや通販で購入できるレトルトのぜんざいには、餅が入っていないことが多い。水羊羹などと一緒に売られている、カップに入ったものも同様です。餅の入っていないぜんざいだって、存在しているじゃありませんか。

出雲ぜんざい(田邊さん提供)
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出雲ぜんざい(田邊さん提供)

 これをどう考えるか。出雲ぜんざい学会の田邊達也会長に聞いてみると、このようなコメントが。

 「まずご理解いただきたいのは、当学会で申し上げている『ぜんざい発祥の地は出雲』というのは『ぜんざい』という名称の起源であり、小豆と餅を使った料理はもっと古い時代から存在していたと考えられます。そして神在餅の餅も、弥生時代に日本に伝わったとされる小麦を使ったという説もあり、必ずしも米を使っていたとは限りません。

 いずれにしても、ぜんざいは古事記や日本書紀にも記された『五穀』に由来するものであり、神事のお供えにも使われた貴重な食べ物の組み合わせだったことが分かります」

粟ぜんざい
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粟ぜんざい

 なるほど。ということは、必ずしも餅米を使った餅でなくても、ぜんざいの趣旨にはさほど反しないということか。

「東京の老舗・浅草『梅園』さんの看板メニューに『粟(あわ)ぜんざい』がありますが、粟も五穀のひとつです。直接的には関係ないかもしれませんが、興味あるところですね」と田邊さん。汁気がないあんこ状のものが粟餅に添えられたそのぜんざいは、西日本の人が持つぜんざいのイメージからは遠いかもしれませんが、ぜんざいのルーツを考えれば王道に近いことになります。

 では、五穀に入っていない「栗(くり)」ぜんざいは?字が似ているからOK?そして何も入っていないぜんざいは?

 田邊さんはこう言います。「ぜんざいでまちおこしを始めたころ、同じような話をぜんざいを扱っている大手食品会社の方としたことがあります。地域によってはそういうぜんざいもあるし、消費者へのマーケティングリサーチを踏まえた開発の結果、とのことでしたね」。

図3 好きなあんこは粒あん?こしあん?

図3 好きなあんこは粒あん?こしあん?

 となると、消費者の考え方が変化してきたのかもしれません。食奇行2008年の「好きなあんこは粒あん?こしあん?」の勢力図(図3)では、全国的に粒あんが圧勝。「どちらが好きか」の問いには、東西を問わず多くの人が「粒あん」と答えているのです。粒あんが基本のぜんざいは、主食というよりも、好き嫌いで選ぶ嗜好品、おやつとして考えている可能性が高いのではないでしょうか。

 おやつであるなら、餅はなくてもいい。少なくともぜんざいの定義があいまいな東日本なら、抵抗なく受け入れられるでしょう。ただ西日本の人には抵抗があるかもしれません。先のフェイスブックのやりとりに乱入してきた姫路市の人は「ぜんざいに餅は当たり前。餅が入ってないのは『ぜんざいの餅抜き』」とがんとして譲りませんでした。

 田邊さんによれば、出雲のそば店ではそばがきを使ったぜんざいも出されているとか。そばも確かに穀類なので、親和性はありそうです。出雲ぜんざいの物語を添えて味わっていただくためにはやはり餅があったほうがいいのかもしれませんが、その懐の深さもぜんざいの魅力と言えそうです。

夏は冷やしで

東京の甘味処で冷やしぜんざいをいただく
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東京の甘味処で冷やしぜんざいをいただく

 これからの季節、よく冷えたぜんざいをいただくのもまたオツなもの。外出ついでに甘味処で白玉の入った冷たいぜんざいを食べていると、暑さも仕事も忘れそうです。

 デパ地下やスーパーはもちろん、最近はコンビニでも、白玉の入った冷やしたぜんざいをよく見かけるようになりました。東京の「にほんばし島根館」では、レトルト出雲ぜんざいの冷やしタイプが販売されていますが、田邊さんによれば出雲で冷やしぜんざいを出すようになったのはごく最近のことだそうです。

沖縄のぜんざい。下層部分には煮豆がぎっしり
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沖縄のぜんざい。下層部分には煮豆がぎっしり

 冷やしたぜんざい、と言えば思い出すのが沖縄ぜんざい。ご存知の方も多いと思いますが、これは粒あんかこしあんか、といった議論を超越した異次元のぜんざい。黒糖で甘く煮た金時豆の上に、かき氷を景気よく乗せた一品です。

 食べ応えのある金時豆がお腹にズシン、かき氷が頭にキーン、の全身で味わう体験型デザート。沖縄に行ったときはブルーシールのアイスクリームだけでなく、ぜひぜんざいもお試しいただきたいところです。

上が青森県八戸市でいただいた「あずきばっと」。下はうどんとぜんざいで作った「あずきばっともどき」
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上が青森県八戸市でいただいた「あずきばっと」。下はうどんとぜんざいで作った「あずきばっともどき」

 思えば、食べBでもずいぶん多くの小豆を使ったメニューに出合ったものです。三重県実食編では伊勢の赤福で朔日(ついたち)餅、尾鷲のランチバイキングでぜんざい、ホテルではあんサンドやぱんじゅう、と小豆づくしでした。

 そうそう青森県実食編でいただいた、平たい麺にゆであずきをかけた「あずきばっと」も忘れられません。あの味をなんとか再現できないものか、と近所の和風バイキングでデザートコーナーにあったぜんざいと、うどんコーナーにあった麺を組み合わせてみた経験もあります。見た目は似ていたのですが、似て非なるものとはまさにこのこと。次はきしめんで試してみます。

 これからも、辛党の野瀬やデスクが立ち入ることのできない領域に積極的に踏み込んで参ります。全国の甘い情報、お待ちしております。

(一芸)

2013年6月7日
 

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