第137回 島根県ご当地グルメ(その4) へかやき、うず煮、うずめ飯

特別編集委員 野瀬泰申


 バラパン、ソフトめん、カツライスと、山陰の豊かな海の幸・山の幸を想像していた事前予想とは大きく異なり、生活の中に深く溶け込んでいる「日常食」が数多く登場した島根県編もいよいよ最終回です。最後を飾るにふさわしく、今回は地元の伝統的な味が数多く登場します。
 海が、山が育んだ、島根ならではの味を心行くまでご堪能ください。
 今週のおかわりは、甘党の一芸君が、島根の甘いものをこれでもかと食べ尽くします
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名古屋名物、手羽先揚げ
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名古屋名物、手羽先揚げ

 最近、どういうわけか手羽先に凝っている。これまで鶏肉にはあまり手が出なかったのだが、家族不在の一夕にスーパーの総菜売り場で何気なく買った手羽先揚げが美味くて、それから居酒屋に行ったとき(毎晩ですが)、よく手羽先を注文するようになった。

 揚げたのだけではなく焼いたのも食べる。手でむしるところが「食べている」という実感があって良い。身が少ないのでカロリーもあまり気にしなくていいところも良い。

 少し多めに買っておくと、遅く戻った娘たちが残りを片付ける。2人とも好きらしい。安上がりでいいや。

串焼きでも美味しい
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串焼きでも美味しい

 実は昨夜も孤食だった。手羽先2本に野菜主体のおかず数品。これを紙パックの日本酒で片付け、最後は高菜ご飯を少しだけ食べた。

 老後の練習であった。

 この回が更新される7日、私とデスクは鹿児島実食編の旅に向かう。チェックすべき物件の一覧表も作ったし、温泉付きのホテルも予約したし、あとは晴天を祈るだけである。

 さて島根県編も最終回を迎えた。

 先週書いたように郷土料理系のメールが届いている。

とんばら漬け(大阪の原さん提供)
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とんばら漬け(大阪の原さん提供)

MNo.24

 島根と言えば出雲そば、シジミ、ドジョウといろいろ思い浮かぶのですが、伊丹の島根物産アンテナショップでお茶漬けと漬け物を入手してきました。お茶漬けは山陰名物アゴ出し。漬け物は福神漬けの一種らしいのですが「とんばら漬け」と呼称されています。無着色で甘み抑えめ醤油漬け。カレーの友よりはお茶漬けの友に近い感じ。これも固有種?(大阪の原さん)

「ふくじん漬け」と書いてある
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「ふくじん漬け」と書いてある

 漬物は土地によってバラエティーに富んでいるので面白い。山形で「漬物バー」に行ったことを思い出す。

「とんばら漬け」はラベルに「ふくじん漬」と書いてある。

 先日、大阪のテレビ局の女性ディレクターと会った。聞いてみると奈良出身の彼女は「ふくしんづけ」と濁らず発音した。

「ふくじんづけでしょ」

「ええー、ふくしんづけじゃないんですかあー?」

横手やきそばに福神漬は不可欠
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横手やきそばに福神漬は不可欠

「八坂神社はしんじゃではなくてじんじゃと言うでしょ?」

「まあそうですが」

 と盛りあがったのであった。関西方面では「ふくしんづけ」派が多い。

へかやき(郷原さん提供)
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へかやき(郷原さん提供)

MNo.25

 甘辛い醤油で味付けられた魚のすき焼き。それが「へかやき」です。
 特製の鉄鍋と醤油ベースの割り下で四季折々の魚と野菜を豪快かつヘルシーに食べます。
「へかやき」の「へか」とは農機具の犂(すき)の先の金属部分のことで、これを鍋の代わりに使ったことから「へかやき」と名がついたと言われています。
 現在では専用の鉄鍋を使用しますが、通常のすき焼き用の鍋でも調理可能です。漁師町ならではの一品、是非ご賞味ください(大田市産業企画課の郷原さん)

へかやきは魚のすき焼き(郷原さん提供)
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へかやきは魚のすき焼き(郷原さん提供)

 魚のすき焼きも沿岸部に様々な形態で存在する。これもその一つである。

「すき焼き」の語源は諸説あるが、農具の「すき」で焼いたからという説のほかに「魚のすき身を焼いたから」というのもある。

 どちらにせよ、魚が豊富に取れる地方では、肉より魚を多く食べたろうから「魚のすき身」説は説得力がある。

 石見の郷土料理である「へかやき」には専用の「へか鍋」があるというから、日常よく食べる現役の郷土料理と言える。

 食べたいな、これ。

寒シマメ丼(椿さん提供)
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寒シマメ丼(椿さん提供)

MNo.26

 去年、東急百貨店東横店の島根物産展で食べた隠岐島の「寒シマメ丼」が美味しすぎて忘れられません。「シマメ」はスルメイカのこと。肝醤油漬けにしたものをご飯の上にのっけて食べる漁師飯です。
 CAS凍結という、細胞組織を壊さず瞬間冷凍する技術を使っていて、獲れたてのスルメイカの香りや食感などが再現されやすくなっているという話でした(椿さん)

 これも漁師飯。

イカの活け造り、身がすけすけ
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イカの活け造り、身がすけすけ

 私はずっと生魚が食べられなかった。金沢と博多勤務時代に一生分の生魚を食べた気がして、食傷気味であった。しかし最近は努めて口にするようにしている。

 あと何年生きて、あと何回食べられるかわからないので、できるだけいろいろな物を食べようと思っているからである。

 さしあたり回転寿司で練習中。白身の魚はまだダメだが、それ以外は徐々に克服しつつある。

 中でもイカは以前から大丈夫なネタである。寒シマメ丼ならOKである。

わさびのしょうゆ漬(いけずな京女さん提供)
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わさびのしょうゆ漬(いけずな京女さん提供)

MNo.27

 辛いと言うたら唐辛子の辛さ意外にワサビの辛さもありますね。野瀬さんはワサビも苦手でいらっしゃいますか? 私は大好きです。
 で、ワサビと言うたら島根県は全国第3位の生産量を誇るワサビの産地です。中でも津和野町日原(にちはら)地区は清流と気候風土に恵まれ、品質・風味の良いワサビに定評があります。
 そしてワサビ農家ではワサビを収穫したあとの茎や葉も無駄にせず、醤油漬にして珍味として食してきました。それが今や津和野の特産品となり、このようにお土産としても人気です。
 私はこの「わさびのしょうゆ漬」を熱々ご飯に埋め込んで食べるのが大好きです。津和野のワサビだけあって、風味はツワモノですよ。
 鼻からツ〜ンと抜ける辛さを「効くう〜」と楽しむのですが、もちろん、常識の範囲(←ここ大事)です(いけずな京女さん)

豊川いなり寿司の茎ワサビの佃煮
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豊川いなり寿司の茎ワサビの佃煮

 赤い殺意、緑の刺客はともに唐辛子。黄色い乱暴者と併せて私の「3人の敵」である。

 しかしながらワサビの辛さは平気である。いや平気ではなくて涙が出るが、味蕾を直撃する外科的な痛さは感じない。

 従って回転寿司でも「サビ抜いてください」とは言わないのである。大人だし。

 このメールにある醤油漬けは美味いと思う。

「豊川いなり寿司」で豊川市をもりあげ隊が提供しているいなり寿司の定番が茎ワサビの佃煮をトッピングしたもの。ありそでうっふん、なさそでうっふんないなり寿司である。

レトルトのうず煮(田邊さん提供)
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レトルトのうず煮(田邊さん提供)

MNo.28

「うず煮」は、寒さ厳しい旧暦の元旦、福縁を授ける出雲大社の「福神祭」で、祭りに関わる人たちに振る舞われる料理で、出雲大社の出雲国造家に代々伝わるおもてなしの味です。
 そして、写真はこの度の出雲大社大遷宮に合わせて「福乃和」よりふっくらしたふぐに、香り高いふぐのだし汁を使用し、食材と共にとろりとしたあんに仕上げたレトルトです(出雲ぜんざい学会の田邊さん)

かき交ぜて食べる(田邊さん提供)
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かき交ぜて食べる(田邊さん提供)

 フグの出し汁に葛を加えてとろみをつける。そこにご飯を入れ、ワサビ、セリ、岩ノリをのせ、かき交ぜて食べる。

 奈良時代に編さんされた「出雲国風土記」に登場しているというから、いったいいつごろから食べられていたのか想像もつかない。

 最近は出雲大社周辺の店でも食べられるようになったと聞く。レトルトはその延長線上にある。

 いずれにせよ「うず煮」は郷土料理でも珍品中の珍品であろう。なぜなら漢字では「珍煮」と書くから。

 津和野に似た名前の料理があった。

この下に具が埋まっている(島根県提供)
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この下に具が埋まっている(島根県提供)

MNo.29

 私は島根県津和野町の出身です。ここは山陰の小京都などと言われる観光地で和菓子がたくさんあります。その中でも「源氏巻」が一番有名です。
 薄い生地の中にあんこが巻いてある和菓子です。シンプルですが食べ飽きず、丸々1本食べてしまいます。
 また津和野のご当地料理で「うずめ飯」と言う物があります。見た目は普通の白飯にお茶がかかった具なし茶漬けのようですが、混ぜると下の方に埋まっていた具がたくさん出てくるのです。津和野町の高津川は日本一の清流と言われ、鮎が取れます。日原の「みかどや」という店で様々な鮎料理をいただくことができます(ういさん)

混ぜると下から出てくる(島根県提供)
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混ぜると下から出てくる(島根県提供)

うずめ飯」については津和野町観光協会のホームページに詳しい説明とレシピが載っている。

 詳しくはそちらに譲るとして、見過ごせないのは必須の材料がワサビとセリであるということ。「うず煮」と同じである。

 いけずな京女さんのメールで「島根県はワサビの生産量全国3位」とあった。統計によっては4位の年もあるようだが、いずれにせよ、このような形で郷土料理にふんだんに使われている。

 セリもおでんに入るくらい島根では重要な野菜である。

 覚えておこう。

 次のメールは郷土料理ではないけれど、郷土の味を大切にしている。

ごきげんべんとう(あかさくらさん提供)
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ごきげんべんとう(あかさくらさん提供)

MNo.30

 2006年9月のこと、同業組合の研修旅行で長崎県中部からバスに乗って津和野を目指しました。津和野で昼食と観光をして、またバスに揺られて、その晩は玉造温泉に泊まり、翌日は出雲大社を見て、出雲大社前駅から貸切のデハニ52で、麦ジュース発酵タイプと配られた弁当を食べながら、秋晴れの出雲路の旅を心ゆくまで楽しみました。
 でもって、そのときに食べたのが、全国的にも珍しい日本酒2本入りの「ごきげんべんとう」です。松江の駅弁業者が予約注文で作っているモノで、幹事の権限を思う存分発揮して、今まで個人旅行で手に入れたことがなかった駅弁を手に入れたわけです。
 当然のこと、肴は地元宍道湖七珍を中心とした、お酒に合うモノが少しずつ多種類入っていて、甘口と辛口の2本の地酒と合うように作られていました。
 長崎から貸切バスで来たので、仕事上酒が飲めないドライバーとガイドのお2人には「松江の味おべんとう」いう宍道湖七珍が入った幕の内弁当をオーダーしました。

やぎアイス(あかさくらさん提供)
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やぎアイス(あかさくらさん提供)

 続いては2010年2月、いつもの鉄仲間が集まって恒例の餘部カニ合宿に参加する途中、今はなき周遊きっぷの山陰ゾーン券で出雲をウロウロし、友人と出雲市で夜の小宴をしたときのことです。
 普通の居酒屋だったのですが、さすが出雲の居酒屋、〆に頼んだそばがなかなかの美味しさでしたので、その友人に聞いたところ、出雲の居酒屋のそばメニューは、どこでも一定水準以上だとのことでした。
 宴を終えての帰り道、駅前のコンビニに立ち寄るとヤギのアイスクリームがありました。とりあえず捕獲しホテルに帰って食べてみましたが、独特の癖はほとんどなく、美味しい一品でした。でもそこに並んでいた牛乳が鳥取の白バラ牛乳だったのは秘密です(あかさくらさん)

 酒飲みなら「ごきげんべんとう」を食べればご機嫌になること間違いなし。甘口、辛口の日本酒それぞれにプラスチックのミニグラスがついていて芸が細かい。

あご野焼きが入った「松江の味おべんとう」(あかさくらさん提供)
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あご野焼きが入った「松江の味おべんとう」(あかさくらさん提供)

 ご飯が少なめなところも良い。

 この弁当が予約限定でなければ買って食べるのだがと言いたいが、最近は昼酒をしないんだな。トシだからな。飲むと寝ちゃうんだな。

「松江の味おべんとう」もいい。あご野焼きが入っている。ミカンのそばにあるのは赤貝(サルボウ)だろうか。

 島根県編最後のメールはこれ。

 こんな切り口もあったのか。

青紙鍛造(Poco@焼きまんじゅうさん提供)
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青紙鍛造(Poco@焼きまんじゅうさん提供)

MNo.31

 食べ物、料理とは切っても切れない道具が包丁ですが、その原材料となる鋼の中でも名品の産地が島根県安来市だそうです。
 その特殊鋼のメーカーである日立金属のホームページによると「島根県は古代より良質な砂鉄を原料にした『たたら』と呼ばれる製法による製鉄が盛んなところだった。その和鋼の伝統をひきついだのが、島根県安来市にある日立金属の安来工場。そこでつくられている高級特殊鋼が『YSSヤスキハガネ』」だそうです。
 日立金属の刃物鋼は「白紙」「青紙」「黄紙」などのシリーズがありまして、そのなかでも切れ味や耐久性に優れた「青紙」のそば包丁なんかほしくてたまらないのですが、タブン家族会議を開いても買わせてもらえません、高価で。
 でも普段使いの包丁は最近「青紙鍛造」に新調しました。白ネギや人参でさえも、チーズケーキを切る程度の力で、恐ろしいほど鮮やかな切り口に仕上がります。某通販CMのトマトを切るデモンストレーションなんか笑っちゃいますよ。
 写真はその普段使いの青紙と、(安来鋼ではないかもしれない)そば包丁です(地元のそば粉でちょくちょく打ってます)。そば包丁の袋は「社団法人 日本蕎麦協会 全国蕎麦大使」である元シブがき隊の布川敏和氏(ふっくん)のサイン入りでーす!(Poco@焼きまんじゅうさん)

ふっくんのサイン入りそば包丁(Poco@焼きまんじゅうさん提供)
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ふっくんのサイン入りそば包丁(Poco@焼きまんじゅうさん提供)

 包丁の話なのに「切っても切れない」というフレーズから入っているところがシャープ。

 昭和50年に入社して配属された大阪社会部時代、どっかの刀匠が古代の技法で作刀に成功みたいな記事を書いた記憶がある。

「たたら」「砂鉄」「玉鋼(たまはがね)」という単語を覚えている。

 ひょっとして舞台は島根県だったかも。

 ときどき台所に立つ私だが、包丁に関する知識は皆無である。そういうわけなのでこのメールの内容はすべて初耳。「白紙」「青紙」「黄紙」などのシリーズがあることなど全然知らなかった。

いざ、鹿児島へ
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いざ、鹿児島へ

 ただ包丁が切れなくなると自分で研ぎながら「もうちょっと切れる包丁がほしい」とは常々思っていることではある。

 むちゃくちゃ切れる包丁を買ってみるかな。

 こうして皆さんのお力添えで、無事に島根県編を終了することができた。

 最初に書いたように、週末から鹿児島県実食の旅に行くので、その模様を次回リポートする。旅には熊本と愛媛から同人が参加される予定である。

 次々回から北海道編に取り組む。ご関係の皆さんは準備体操をよろしく。

(特別編集委員 野瀬泰申)

★今週のおかわりは「ぜんざいを持たない たまにつくると、それがお汁粉の都市」です。ぜひお読みください。


島根県編(その1) はい、ストかまです

島根県編(その2) ゆで・ソフト・スパゲッティ式・めん

島根県編(その3) 市民がアイス安来のキャンデー


 


●筆者(特別編集委員 野瀬泰申)へのお気軽メールはこちら(tabeb@nex.nikkei.co.jp

2013年6月7日

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