論点ポイント
総論
私はアメリカの9.11以後の政策に日本も盲目的に従うべきだとか、あくまでも反対すべきだとかという極端な議論のどちらにも組する気持ちはない。今小泉首相はアメリカの反テロ軍事行動を支持し、自衛隊の後方支援活動を展開し、国民もこれを支持している。しかし、日本がどこまでアメリカ軍の反テロ軍事活動の広がりを支持するか、これについては日本人の変化しつつある共同体意識という観点に留意する必要がある。すなわち、小泉首相も彼個人の信念もさることながら、政治家である以上、それに加えて国民感情を考慮していかなければならない。今の日本の国民意識は1990年代の湾岸危機以後の失われた10年を経て大きく変化しつつある。それは冷戦時代の日米安全保障共同体をいわば聖域視する考え方から、G8先進工業国共同体、アセアンプラススリー、アセアン二オセアニア諸国を加えたアジア大洋州共同体、中国、韓国、日本の北東アジア共同体といった複数の共同体に同時並行的に属しているという多重的共同体(マルティプレックスコミュニティ)意識を持つようになってきており、これらの共同体すべてに共通する普遍的な価値基準に従って行動すべきだという考え方をもつようになってきている。この普遍的理念の中で特に人間の安全保障、すなわち貧困からの自由、暴力や恐怖からの自由などが保障されなければならないという理念を高く評価したい。
今回の反テロ活動についても、民間航空機とか、化学薬品を悪用し、一般人の生活の破壊を目的とするテロ組織が、大量殺戮を行ったことに対してはそれが非国家組織であろうと、国家の名前をかたる不法国家であろうと、国際社会のメンバーである主権国家が力をあわせてその撲滅に協力すべきだという信念は共有する。しかし、これらテロ組織の活動の明白な証拠がないまま、単に悪の枢軸と名づけた国際社会のメンバーに対し、協力せよといわれても、はっきりとした証拠がない以上このような申し出でに協力するわけには行かない。さらに、中東紛争のように長年にわたって争いを続けてきた問題について今更、急に一方がテロ組織であるといまさら決め付けるやり方にも賛成できない。
言い換えればこれからの活況を超えて広がるマイナスのグローバリゼーションの動きに対して、世界国家が存在しない以上、主権国家はある程度国際と国内問題の壁を乗り越えて協力しなければならないが、そのためには、誰にもわかる普遍的な理念とそれを裏付ける証拠がない限り、行動に移るべきではない。
9月11日以降、アジア太平洋地域の安全保障環境は変わったか。
1.東南アジアでのイスラム過激はテロリストとの戦いをめぐってアメリカ主導型の国際協力が強化されたことは事実である。そしてこのことは短期的に、関係諸国政府の国内治安のためにとって要る武力を伴う抑圧作戦に対して国際的な圧力が減退したことを意味する。その限りにおいて、関係諸国国内情勢の表面的安定には貢献したということは言える。
しかしこのような抑圧的手段による表面的な安定は必ずしも長期的な国内対話の増進には役立たない。むしろ、被圧力勢力の地下浸透を促進し、過激化を進める面もある。
基本的にはこのような反政府運動が起こる基本的な要因、すなわち、貧富の格差の是正、政府部内における汚職、癒着、身内者保護などが是正され、グッドガバナンスが実施に移されることが肝要である。
その意味でこれから日本から供与される支援策の中には単なる貧困対策を目的とするもののみならず、法の支配を徹底させるための技術協力、さらには国内治安維持のための警察分野での協力などが重視されるべきであろう。
2.中国の経済的繁栄、あるいは東南アジア地域に対する経済的進出をこの地域の安全保障、あるいは日本の権益に対する脅威と見るのは誤りであろう。
確かに日本経済の相対的な衰退は事実であり、その回復の見通しもいまだに透明化していない。しかし、1980年代の日米関係に見られるとおり、アメリカ経済が相対的に衰退していた時期に日本経済が活力を維持していたことは、たとえば日本の自動車産業との競争はアメリカの自動車産業の活性化に明らかに寄与したし、日本からの対米投資はアメリカに最終的には利益をもたらした。
同様に中国経済が繁栄している結果、日本の対中資本財輸出、あるいは日本における消費関係商品をはじめとする各種物品のコスト引き下げに寄与する面もある。
ただし、今まで東南アジア諸国に向けられていた投資が中国に振り返られた結果として、日本と東南アジア諸国との経済関係に悪影響が出てきているのは事実である。
ただし、中国から東南アジア諸国にも投資が出始めており、同時に東南アジアは将来、中国にとっても重要な市場となることが予想される。
その意味では、東アジア諸国の間でこの地域全体がバランスをとった形で発展を遂げるために関係諸国、特に北東アジア諸国がいかなる方策を採るべきかについてもっと活発な対話が進められるべきであろう。
中国は開放経済、バランスの取れた経済発展を目指す政策を維持しているものの、その内部には多くの矛盾と問題を抱えている。現在中国当局はこれらの問題に真剣に取り組み、同時にWTO加盟後さらに激化することが予想される失業その他の問題解決に取り組もうとしている。これは高く評価されるべきであろう。事態の進展いかんによっては近隣諸国に大量の人的資源の流出が起こり、その中には社会的問題を起こすようなものも含まれうるからである。
このような矛盾の解決に当たって直面する困難を対外強硬政策に訴えるという選択は多くの国々によってとられてきたが、。国際社会は中国がこのような選択を取ることの無いよう、この地域における平和と安定の維持のために中国と協力を進めていかなくてはならない。
3.中東からのシーレーンの安全の確保は北東アジア諸国すべてにとって死活の重要性を持つ問題である。そして海賊対策の重要性は近年特に高まっている。この問題について関係国の間で協力を進めることはもちろんであるが、太平洋地域の平和と安定に関心を持ち、ずば抜けた軍事力を有するアメリカ軍との協力を進めることも一案であろう。
しかし、最も重要なことは当事国による取締りの努力、さらにはこのような海賊活動が起こる真の原因の除去を図る側面での協力が進められることである。これは海上保安庁当局間における協力と、地方の不安要因を除去するための警察面での協力を含む一般的な協力を強化することが第一であろう。
中国の内政
2000年2月に江沢民主席は共産党とは3つの代表である先進的生産力、先進的科学技術、広範な人民を代表するとの定義を発表した。
すなわち、先進的な企業家、先端部門で働く科学者などを共産党員に積極的に迎え入れるイデオロギー的な素地を作ったといえる。
これは従来の共産党の性格を変えるほどの問題提起であると称する学者もいる。共産党を大きな枠組みに作り変えることにより、さまざまな利益集団をその中に取り込みそれらの利害対立や矛盾を党内問題として調整し、方向付け、混乱を回避し、安定的な体制維持を狙ったものだといえる。このような努力が成功し、ほかの近隣諸国におけるような政治的混乱が起こらないことを強く願ってやまない
いずれにしても中国は経済発展に伴い、市民意識の広がり、教育の充実、国際社会との間の開かれた交流の推進の過程において、今まで以上の試練にさらされていく。このような試練が平和裏に克服されていくことを願うのみである。