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東アジア経済統合の可能性とその望ましい形態
劉常夫(ユ・サンブ) 浦項製鉄会長、全国経済人連合会副会長(韓国)
1.東アジア経済統合の必要性

●新地域主義への対応

 WTO(世界貿易機構)の発足にもかかわらず、世界経済はEU(欧州連合)、NAFTA(北米自由貿易協定)、MERCOSUR(南米経済共同体)などの経済統合を通じて地域化現象が深まっております。

 99年末まで合計214の地域貿易協定がWTOに通報されており、この内90は、95年以後結成されたものです。

 そして、最近の地域化は、NAFTAが南米と結合を図り、また、EUなどが結合を図る動きを見せるなど、地域主義がより広域化されている傾向があります。

 先進国が主導している最近の地域主義である「新地域主義」は、以前の地域主義とは異なり、政治的理念よりも経済的実利を追求しています。

 すなわち、集団的保護主義は、地域全体の新しい比較優位の創出を図り、WTOの多者間協定に集団的に対応することで交渉力を高めるという目的を持っています。 対外依存度が高い東アジアの国々は、これらの経済統合により、投資および貿易転換、対外交渉力の弱体化という不利益に直面することもあり得ます。

 従って、自己防御的な次元から東アジアの経済統合を考慮する必要があると見ております。

●地域協力の強化

 更には、地域次元の経済協力と環境問題など、地域懸案を共同で解決することにおいても経済統合が有効的な役割を果せると思います。

 周知の通り、97年のタイ、インドネシア、韓国の通貨危機は隣接国家に波及され東アジア全体の地域経済の危機を招いたことがあります。

 これは、92年ヨーロッパの通貨危機、94〜95年のメキシコ通貨危機が、加盟国間の緊密な協力により、隣接国に衝撃を与えずに解決できたという事実とは対照的であります。

 また、北東アジア地域は毎年春に発生している黄砂現象の様な共通の問題を抱えていますが、これらの問題は地域単位の協力を通じて、より効率的な解決が可能です。

 NAFTAとEUは「環境強力に関する北米協定(NAAEC)」、「欧州共同体(EC)指針」を通じて共同体次元からこのような問題を解決しています。

2.東アジア統合のシナリオ

 東アジア地域では、現在ASEAN(東南アジア国家連合)10カ国が自由貿易協定(AFTA)を推進させ、経済統合体としての容貌を整えつつあります。

 しかし、北東アジア地域の国々は、未だ、どの経済統合体にも加入していない為、東アジアの全体を包括する経済統合体は存在してないと見るべきだと思います。

 現在の状態で、東アジア全体を包括する経済統合体の構成においては、次のような方法が考えられます。

 第一に、既存のASEAN 10カ国に韓国、中国、日本が個別的に加入する方法であります。しかし、この方法は、新規加盟国が個別的にASEAN加入することに関して協定をしなければならない為、国家間の意見調整が難しいという欠点を持っています。

 第二の方法としては、現在のASEANを発展的に解体させて、EAEG(東アジア経済グループ)のように東アジア全体を対象とする新しい統合体を結成する方法であります。

 しかしながら、この方法は、ASEAN自由貿易地帯が発足して間もない状況で、解体しなければならないという現実的な難しさがあります。

 また、加盟国数の増加、広範囲な協定分野など、国家間の意見調整などに相当な難問が出ると予想されます。

 第三の方法としては、先ず、どの経済統合体にも加入してない韓国、中国、日本が小規模の経済共同体を形成して、更には、長期的にこれをASEANと連携または再統合を推進する方法であります。

 以上の中では、第三の方法が最も現実的で理想的な統合方式だと思います。

 この方法は、NAFTAと南米を統合し、米州自由貿易地帯(FTAA)を形成させること、また、EUとEFTA(欧州自由貿易連合)間の統合を通じてヨーロッパ経済地域(EEA)を形成させることと類似するもので、対象国家の数を減らすことにより、先ず、協定にかかる時間を大幅に短縮できるという利点があります。

3.北東アジア統合のシナリオ

●北東アジア統合の促進及び阻害要因

 韓国、中国、日本の3国間では、中国の開放を契機に経済的相互依存性が強まっており、経済構造が補完的性格を持っている為、統合による期待効果が大きいと予想されます。

 また、地理的隣接性と文化的共通性は、統合による逆効果を減少させるなど、韓国、中国、日本の3国間では、統合を促進させる要因が成熟しつつあります。

 しかし、統合の障害要因が残存していることも事実であります。

 中国は開放化を推進していますが、社会主義体制を保持しております。

 さらに、地域覇権の葛藤と歴史的な反感も消えないままであります。

 また、発展水準の格差により、経済的従属と統合の利益が日本へと収集されかねないという憂慮もあります。

 従って、全産業を対象とする全面的統合には限界があるように見えます。

●北東アジア統合に対する既存論議

 今まで北東アジア地域の統合に関しては、環東海経済圏(環日本海経済圏)、環黄海経済圏など色々な形態の方法が提示されたことがあります。

 しかし、これらの方法は、大半が地理的領域だけを中心に提示されており、産業面では、全産業を対象に入れております。

 従って、垂直的な分業構造の固定化、韓国と中国の対日依存が深まるなど、根本的な統合の障害要因を解決できないままでおります。

 このような点から、EUが石炭及び鉄鋼産業を対象としたECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)をNAFTAが自動車産業を対象にした、米国とカナダ間の特定企業に関する自動車関税免除制度(Auto Pact)を母体として発展したという事実に注目する必要があります。

●北東アジア鉄工業の統合の可能性

 韓国、中国、日本の3国間でも、先ず、特定産業を対象に統合を始めて、その成果を土台とし、次第に対象範囲を拡大して行く方法が望ましいと見ています。

 経済統合は、加盟国間の結束力を高め、規模の経済のような経済的効率性をもたらすため、一旦、発足すれば持続的に発展する可能性が高いです。

 従って、可能性が高い産業を中心に先に実施することが重要であります。

 このようなパイロットケースとして適切な産業は、

 第一に、交易、投資などの側面から、域内国家間の相互依存度が高く、参与国家間の発展格差が少ない産業

 第二に、外部効果が大きく、経済的補完関係を拡大し、工業発展、資源開発およびインフラ開発に寄与できる産業

 最後に、環境問題などの地域問題を同時に解決できる産業でなければなりません。

 このような条件を考慮すると、鉄鋼産業は韓国、中国、日本3カ国の産業統合の為の重要なパイロットケースができると思われます。

 韓中日3国の鉄鋼産業は、すでに交易と投資ならびに技術など、あらゆる側面から相当な水準の統合化が進展しつつあります。

 鉄鋼交易側面での北東アジア3カ国は、99年基準に地域化係数が1.96としてEUの1.98と類似水準を見せております。

 つまり、域外国家より3国間では、より活発に交易が行われていることになります。

 海外投資においても、90年以後韓国は、22件中、対中国投資が8件、日本は、28件中、12件であり、域内へと集中化される現象を見せています。

 そして、最近3国間の鉄鋼技術及び戦略的提携と中国政府の持続的な技術開発努力は、域内技術格差を大きく縮小させており、統合による経済従属の可能性も低下しております。

 現在3国鉄鋼産業の与件を考慮した時、韓、中、日鉄鋼統合での貿易自由化は、関税よりも非関税障壁の緩和に焦点を置いて推進される必要があります。

 それは、国家別流通構造及び工業標準の相違や、通関手続などの非関税障壁が、大きな貿易障壁として作用しているためです。

 また、域内鉄鋼産業の共同発展の為には、投資自由化と知的財産権の保護を通じて、域内企業間の相互進出を活性化させる必要があります。

 そして、北東アジアの環境問題を考慮し、共同環境政策も考慮する必要があります。

●北東アジア鉄工業統合の期待効果

 このような方法で、韓国、中国、日本3カ国の鉄鋼産業が実質的な統合を成し遂げれば、域内交易は大きく拡大する可能性が高くなります。

 それは、域内企業が競争力は持っていても、貿易障壁によって交易することができなかった製品が、新しい交易対象として浮上するからです。

 一方、今まで貿易転換に対する憂慮から、東アジアの統合を反対してきた、米国やEUなど、先進国との交易は、大きな影響を受けないと思います。

 既に、韓国と日本が鉄鋼製品に限っては、最高の競争力を保有しており、先進国からの輸入には大きく依存しないからであります。

 韓国、中国、日本3国間での鉄鋼業統合は、EUやNAFTAに比較して、発展段階がかなり低い特定産業を対象とした統合である為、域外国家との交易に対する影響を最小化すると同時に、域内交易を増大させる役割になることが予想されます。

 3国間鉄鋼統合の成功経験と、これを通じての相互信頼構築は、全産業を対象とした全面的な統合へと発展させる礎石となれると思います。

 そして、長期的にはASEANとの連携および再統合を推進させて行ける基盤となり、従って、東アジア地域も汎欧州経済圏、汎米州経済圏などのように外延的拡大を図ることができると思います。

4.結論

 WTO発足と新自由主義の拡散により、各国経済は、ひとつの市場経済圏へと統合されるグローバリゼーションの過程を歩んでおります。

 これと同時に、経済統合はグローバリゼーションの手段としてだけではなく、グローバリゼーションの防御手段としても活用されております。

 東アジアにおける経済統合は、国家間の発展水準の格差、そして、体制の相違などを考慮する時、グローバリゼーションの手段として作用する可能性があります。

 経済統合を通じて市場経済の運用経験、そして、先進経営のノウハウのような公共財の移転および拡散が促進されるからであります。

 従って、東アジアの国々も、より積極的に地域主義または、経済統合を認識する必要があります。

 現在ヨーロッパでは、地域統合の経験を基盤に企業水準の統合にまで発展しております。

 ヨーロッパ鉄鋼業統合から見ると、地域統合に基盤を置いた企業統合は、共同体次元から新しい比較優位を創出し、世界市場の支配力を強化するという目的があるという解釈が出来ます。

 これは、今まで戦略的提携または、相互持分共有といった、消極的な形態の協力に留まっている東アジア企業に対し、大きな脅威として作用する可能性が高いです。

 従って、域内企業などは地域統合に対し、より積極的な認識を持つ必要があります。

 東アジア地域が90年代初めのように、世界経済成長のエンジンとなる為には、持続的な資本誘致と活性化、そして、先進技術の導入が必要です。

 東アジアの経済統合は、NAFTAと南米、東ヨーロッパへと転換している世界投資と交易を再び東アジアへ移転させる役割ができると思います。

 東アジアの国家や企業は、このような積極的な次元から地域経済統合を展望しながら、その方法を摸索する必要があります。<終り>

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