「アジアの未来」
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アジアの未来
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カンボジア経済の立て直しと地域協力
フン・セン カンボジア首相
 ご列席の著名人のみなさま

 国際交流会議《アジアの未来:グローバリズムを超えて・新たな競争と協調の構図》で"東南アジアにおけるカンボジアの未来:アジア太平洋ネットワークの抱えている問題、潜在能力、そして今後の展望"についてお話しさせていただけることを大変名誉に、また嬉しく思っております。この場をお借りして、今回の会議の主催者である日本の日経新聞社に感謝を申し上げます。

 今日は、この会議が与えてくれた機会を利用して、ここにご列席の各界著名人の皆様に、東南アジアならびに東アジアにおいて地理政治学的に戦略上の重要な場所に位置しているカンボジアの復興と開発のために私たちが行っている取り組みに関しまして、私が考えていることをお話ししたいと思います。

 私たちが一つにまとまろうとしている今、世界経済ならびに地域経済は非常に大きな課題に直面しています。総体的に見て、1999年以降、世界経済はかなりの成果を収めています。その際、世界経済の根底を成している土台は広範囲にわたって力をつけ、従来以上に持続可能な成長パターンというものが創り出されてきました。またそれと同時に、東南アジア経済は、ほんの数年前までこの地域の多くの国々を壊滅的な状況に陥らせていた大変動からの急激な回復を続けています。しかし、2001年の世界の展望はむしろ好ましくない方向にあり、合衆国の予想外の経済低迷、ヨーロッパの低成長、そして日本経済における問題など、様々なことが起きています。さらに世界全体のIT部門の弱点がこの傾向を助長しています。アセアン経済の一部は、電子製品の製造と輸出に大きく依存しています。現在の状況は東南アジアの経済にいくつかの問題と困難を生じさせているのです。

 従って、私たちは過去の業績と経験をじっくりと検討し、私たちの未来への課題を思い描き、そういった課題を克服するための効果的な方策というものを皆で講じていくことができます。先に申し上げました要素は、東南アジアならびに東アジアの経済の今後の展望をさらに不確かなものにしています。

 今回のこの会議は、地域経済の回復を維持し、事業者と投資家の自信を築き上げ、地域経済に関してWTOに加盟した中国のインパクトを和らげる方法について話し合うという、非常に強く必要とされていた機会を東アジア諸国に与えてくれるものであると私は確信しています。また今回の会議は、こういった開発・発展を東アジア地域全体の開発と前進の双方にメリットとなるチャンスになるように転じさせていく方法について議論する場も提供してくれるでしょう。それぞれの国において、また地域全体において成長の勢いを保持し、それによって長期に渡って持続可能な開発にとって生命線ともいえる経済のより大きな安定性と地域の活性を確保していくことが、極めて重要であると私は確信しています。 そのような意味から、私たちは主に次のような事柄に焦点を据えるべきであると私は考えています:

(@)地域主義とグローバル化への対処;

(A)一般市民の貧困の緩和と撲滅、なかでも特にこの地域と世界の間の経済不均衡とディジタル・ディバイドの橋渡し;そして

(B)私たちの国が他国と比べて秀でている部分と相互利益を土台にした経済協力の強化。

 では、カンボジアにとってもっとも重要な問題について、それから私たちが地域ならびに世界の問題にどのように対処していくかという点に、話題を移したいと思います。

 まず国際問題については、カンボジアは国際関係の強化ならびにアセアンの一加盟国として開かれたマーケットと貿易への取り組みを深めていくことに、優先順位を置いてきました。カンボジアのアセアン加盟は、地政学的にも地理経済的に見ても、必要不可欠なものです。カンボジアにとってのアセアンの魅力には、次の4つがあります:

 1. 加盟国それぞれの国内問題には干渉しないという基本原則が、発足以来、アセアン存在の柱であること。

 2. アセアンの意思決定のプロセスにおける意見一致の原則。この基本原則はすべての国に、その国の大きさに関係なく平等な立場と同等の権利を与えています。

 3. これまでのところ、一部のアセアン加盟国が数年前の金融混乱も含め多くの経済上の問題に直面しているにもかかわらず、依然としてアセアンは、長期にわたって高い成長ができるだけの力を持った経済の中心であり続けています。地域問題と地域協力への参画を通じて、カンボジアはその潜在能力をうまく発揮し、アセアンのパートナーと双方にとってプラスの状況を分かち合うことができるでしょう。

 4. アセアンには対話のパートナーたちとの長い協力の歴史があり、従って、カンボジアにとってアセアンは世界との大きな窓口でありまた外交の場でもあり、他国との経済協力のチャンスならびに国際市場への開かれた道を提供してくれます。

 このような意味から、カンボジアは、開発の維持と人々の繁栄の土台となる安全保障、平和、そして安定をとりまく環境の確立と追求を目指したすべての地域的な取り組みに参加することを目指しています。民主主義の遂行、人権の尊重、平和と国民和解の保護、なかでも特に――カンボジアとこの地域の長期にわたる不安定性の原因になっている――クメール・ルージュの政治的・軍事的組織の解体、といったことは、アセアンならびに東アジアに対する非常に大きな貢献になります。

 経済の分野においては、カンボジア王国政府(RGC)は、経済成長を成し遂げ貧困を緩和させるためにこれまで相当な努力をしてきました。従って、最悪の被害をもたらした70年代の洪水の後でさえ、カンボジア王国政府(RGC)はGDPの目標成長率5.5%の達成に必要とされる手段を懸命に講じてきました。最新の推定によりますと、2000年の実際のGDPの成長率は予定されていた5.5%に対して5.4%でした。このことは、1999年に始まった成長気運がそのまま維持されているという事実の証左になっています。我が国の公式データによりますと、1997年と1998年がそれぞれ3.7%と1.5%という緩い成長であった後、1999年は予想成長率が4%であったのに対して実際には6.9%にまで達した、ということを思い起こす必要があります。政府の将来予測によれば、2001年と2002年の実際のGDP成長率は6.1%になるであろうということです。インフレは低い水準に抑えられ、為替レートは全体的に安定するでしょう。

 地域問題に関しては、カンボジアは積極的にアセアンの問題・協力プロジェクト、たとえばアセアン自由貿易エリアASEAN Free Trade Area(AFTA)、アセアン産業協力計画ASEAN Industrial Cooperation Scheme(AICO)、アセアン投資エリアASEAN Investment Area(AIA)などに参加しています。この協力は経済と貿易それぞれにおける関係を強化する助けとなり、また国境を超えた投資の推進にも一役かっています。

 2点目として、アセアン・プラススリーの枠組みの中での北東アジア諸国(日本、中国、韓国)との関係の強化は、カンボジアにとって最重要事項になっています。最近シンガポールで開催された第4回アセアン非公式サミットで、アセアン・プラススリーのリーダーたちはアセアン・プラススリーとアセアン・プラスワンの代わりに東アジア・サミットを開催する可能性を挙げました。実際、ここ3年以上続いている金融の混乱は、東アジア諸国の未来が否応なく一つに連動しているものであり、"東アジア自由貿易エリア"あるいは"東アジア・コミュニティ"といったテーマに関する議論がもはやタブーではなくなっていることを示しています。アセアンスワップ協定ASEAN Swap Arrangement(ASA)のアセアン加盟全10か国への拡大、二国間スワップ協定Bilateral Swap Arrangements(BSA)の確立、そしてアセアン加盟諸国とプラススリー諸国(日本、中国、南朝鮮)間のレポ取引Repurchase Agreement(Repo)などを通じたチェンマイ・イニシアチブChiang Mai Initiative(CMI)は、金融協力の強化において相当な進展を成し遂げる力になっています。また東アジア経済の統合に関しても、金融面での柱になっています。この自助メカニズムは、今後の経済・金融危機を回避・解決する際の効果的な手段になるものと期待されています。このようなイニシアチブは、東アジアが、既存の世界金融構造を補完し完全なものにするための地域の金融構造の構築に向けて精力的に努力を続けていることの証です。カンボジアは、政治協力や安全保障での協力も含め、あらゆる分野において東アジアの協力を強化させていこうとする取り組みとイニシアチブを全面的に支持しています。

 3点目として、私たちはメコン川委員会Mekong River Commission(MRC)と大メコン準地域Greater Mekong Sub−region(GMS)プロジェクトの枠組みのなかで私たちが行っている協力的参加についても今後、強化させていこうと考えています。これら2つの開発は、東南アジアで台頭しつつある経済に大きな影響を及ぼすでしょう。メコン川は各国ならびに準地域全体における農業、内陸漁業、そして河川による輸送交通の生命線を握っているものであるだけに、この種の協力は同準地域内にある国々にとって極めて重要かつ不可避なものです。上流地域でのすべての開発は、下流に位置する国家にかなりの環境、経済上の影響を及ぼす可能性があります。さらに、大メコン準地域(GMS)は、経済成長と開発に関して秘めている潜在性を考えれば、アセアンにとって非常に大きな力を持ったものであると言えます。地理経済という視点から言えば、このGMSは東南アジアと東アジアの政治経済大国である中国を結び付ける重要な"経済の出入り口"です。さらにそれ以上に重要なこととして、GMS諸国は主にアセアンの新規加盟国で構成されており、これらの国々は開発が進んでいる旧来からのアセアン加盟国に比べて経済開発のレベルが低い状態にあります。この大きな経済不均衡が、地域経済統合が呼ばれる主な理由であり、また障害にもなっています。従って、GMSにおける開発の促進に全面的に取り組むことこそは、アセアン諸国内の経済格差の問題に対処し、新しい加盟国の力をつけていくうえで唯一、効果的な解決策であると言えます。これによって地域経済統合の障害は取り除かれるでしょう。この精神に立って、私は準地域における協力体制強化のためのイニシアチブをいくつか提案しておりまして、なかでも特にアセアン加盟諸国、韓国、中国、日本、ADB(アジア開発銀行)、アジア太平洋経済社会委員会Economic and Social Commission for Asia and the Pacific(ESCAP)、その他寄付団体から構成される共同ワーキング・グループを設置し、既存のイニシアチブ、研究、プロジェクトのすべてを評価査定し、20年から25年にわたってのGMSの協力と開発に向けた包括的で現実に則したマスタープランを描き出すことを強く提案してきました。こういった取り組みにおいては、まず最初に、地域の諸国をつなぐ物理的なインフラストラクチャーのネットワークの開発に方向を定め、その後でこの方向性を農業、産業、貿易、投資それぞれの分野へと転じさせていくべきであると私は考えています。カンボジアはいつでも、GMSを貧困に苦しむ地域から21世紀の繁栄の中心へ転換させることを目標としたこういった取り組みに全面参加できる状態にあります。GMSはそれを現実にすることが可能な、まさにふさわしいものだと私は確信しています。

 4点目として、カンボジアは世界貿易機構World Trade Organization(WTO)、アジア太平洋経済協力Asia-Pacific Economic Cooperation(APEC)、アジア・ヨーロッパ会議Asia-Europe Meeting(ASEM)などとのつながりを通じて、国際的なシステムとの関わりも強化していく考えです。APECは大きな成長を遂げ、非常に将来を期待される地域機関になりました。この機関は欧州連合、WTO、あるいは北米自由貿易エリアNorth American Free Trade Area(NAFTA)などとは違った型による経済グループです。APECは上記すべての機関の要素を備えながら、しかもなお独自の特徴と個性を持っています。しばしばAPECは《開かれた経済連合》や《開かれた地域主義》というふうに言われます。APECが開かれているのは、非加盟国を差別しようとしないからです。APECが経済的なのは、扱う問題が基本的に経済成長、貿易、そして投資だからです。最近シンガポールで行われたアセアン非公式サミットでは、カンボジアその他のAPEC非加盟のアセアン諸国がAPEC人的資源開発に関するワーキンググループ会議APEC Working Group Meeting on Human Resource Development に参加することを支持するという声明を出しました。カンボジアはこのイニシアチブを心から歓迎します。アジア・ヨーロッパ会議(ASEM)もまた、私たちの次なるアジェンダの一つです。ASEMは諮問のためのものであり、協力のための公式なメカニズムではありませんが、にもかかわらず、アセアン諸国と欧州連合の関係を発展させていく重要な場になっています。またASEMは二国間協定、多国間協定にも付加価値を与えています。カンボジアは今後、国際的な機関への参加を拡大させ続ける考えであり、それは単に貿易、海外投資、国際金融機構といった事柄に関する議論やルールが、地域協力や世界規模の協力に活発に関わっていく力を強化させようとしているカンボジアの取り組みに様々なかたちで関係してくるから、という理由だけによるものではありません。国際的な機関への参加を拡大させることによってカンボジアは、現在の地域主義とグローバリセーションの波の中で双方にとってプラスの状況をしっかりと共有することも可能となるのです。さらに、国際的なシステムへの参画は、カンボジアが交渉能力の欠如あるいは交渉に参加できないがためにそういった国際的な交渉事や協力の枠の外に置かれるというようなことが決してないようにするための、重要な鍵にもなっているのです。

 5点目として、人的資源の開発は、東アジアの協力に向けた戦略の実施に当たって重要な役割を担うであろうことは間違いありません。このことは特に、アセアン内部の統合において重要です。シンガポール・サミットでアセアンのリーダーたちは、4つの新規アセアン加盟国の経済をアセアンに統合していく問題について、特に入念な話合いをしました。この点に関して、彼らの関心は"隣人の繁栄"という基本原則に基づいた人的資源の開発に置かれました。カンボジアはこの分野で提案されているイニシアチブのすべてを熱烈に歓迎します。

 6点目として、情報テクノロジーとテレコミュニケーション革命は、新しい発展のパラダイムを創出しており、それによって経済はデジタル化され、知識を土台にしたものに変わりました。情報能力は21世紀の重要な生産要素となっています。そういう意味で、高い資質と専門技能を備えた人的資源は、新たに構築された世界経済の競争のなかで優位に立つための重要な要素です。従って私たちは、情報コミュニケーション・テクノロジー(ICT)の開発を最優先させ、研究やリサーチ、トレーニングにインターネットを用い、英語の使用を推進してカンボジア国民がグローバリゼーションと地域主義から利益を得られるようにすることを、求められているのです。地域の枠組みのなかで、関心はそういった事項に向けられています。先日のアセアン非公式サミットで、10のアセアン加盟国ならびに政府の代表者がEアセアン・フレームワーク協定E-ASEAN Framework Agreementに署名しており、私たちはこの協定を、この地域のデジタル・ディバイドの橋渡しをする際の代表的な手段として利用しようと考えています。さらにアセアンは、2000年7月のG8サミットで日本のイニシアチブによって発表された、情報テクノロジーとテレコミュニケーションの分野で開発途上にある国々への支援として5年間に150億米ドルを提供するというチャンスを十分に活用すべきであると私は考えています。特にカンボジアにとっては、政府介入で最優先されているのが、英語習得の推進とインターネットの利用です。カンボジアは、この地域内諸国のデジタル・ディバイドの緩和という視点からのIT開発に関するアセアン・プラススリー・ワーキング・グループの作業に精力的に加わる準備ができています。またカンボジアは、東アジア各国のコミュニケーションリンクを確立させ、最終的には東アジアとヨーロッパ、アメリカを繋げる、というイニシアチブも歓迎します。人的資源の開発とIT推進は、カンボジアが貧困を緩和し、国民の生活水準を改善し、地域問題と世界の問題に対するこの国の取り組み能力を強化させ、それと同時にグローバリゼーションの流れのなかでカンボジアの競争力を高めていくに当たっての大きな力になると私は確信しています。

 私はここまで、地域問題や世界情勢におけるカンボジアのポジションを決定づけるような政府のビジョン、戦略、政策に関連した重要事項のいくつかについて、お話ししてきました。今会議中の議論が、アジアの協力推進と明るい未来の創出に貢献するものになることを期待しています。そういう意味で、この会議の成功をお祈り申し上げます。

 最後に、ここにお集まりの皆様のご健康と、各々の方が与えられた使命を無事成し遂げられることと、そして皆さんの幸福を、お祈り申し上げます。

ご静聴、誠にありがとうございました。

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